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第九章「不始末」

「ネイル・・・いい加減に機嫌直して下さい。
せっかくのラリイ王女のお茶が不味くなります。」
「むっ・・・」

少しだけ遅れた、いつもの2人のお茶会は、今日はカミーラも参加していた。
実はもう少しだけ話があったそうなので、ラリイが誘ったのだ。
しかし、ネイルからすれば、さっきは密会しているわ、
こうして2人きりになれる時間も邪魔されるわで、気分が良くない。
心の中では理解はしているものの、どうしても表面では嫉妬してしまう。

「もう・・・ネイルはすぐ嫉妬するんだから・・・
はい!ネイルの大好きなお茶!」
「う・・・うん。」

ラリイから手渡しで、自分の好きなお茶を出され、少しだけ機嫌を直す。

「はぁーこれじゃ先が思いやられますね。
今後だって、ラリイ王女が王妃になれば、仕事の話を含めても、
尚更話す機会が増えると言うのに・・・やれやれ・・・」

カミーラはそう言いながら、ラリイから貰ったお茶を啜る。
最初はあんなにもラリイを嫌っていた人とは、
もう思えない態度だった。

「はぁ・・・しかし、こうもお前に心情の変化があるなんてな。」
「ええ。その事で大事な話しがあったので、お茶会に
参加させて貰ったんですよ。」

カミーラは飲んでいたお茶を置き、2人の顔をしっかりと見る。
ラリイとネイルは、かなり大事な話なんだと思い、お互いに手を止める。

「実は私は大きな勘違いをしていたのです。あの事件に対して。」
「フェニキアの王族の女性が王の弟を唆して、
家督争いになったと噂される、あれか?」
「はい。あれは実は王側がついていた嘘だったのです。」
「え?」
「何だって?」

カミーラの報告に、ラリイとネイルが驚きの声を上げる。

「お2人がフェニキアに行ってる間に父に確認したのです。
姉からも聞いていた、私の祖父が殺されたと思われていた事件は
実は祖父の自殺であったと・・・」
「ああ、そんな出来事があったな・・・確かに。」
「そんな事が・・・」

カミーラの重い告白にネイルとラリイは沈んだ顔になる。
だが、カミーラは気にせずに、淡々と話を続ける。

「噂されていた、フェニ様はネルシオネ様とかなり深く愛されていた。
でも、お2人の結婚は、家督争いを生むかもれないと危惧され、
お2人はドラゴネスの平和が乱れるのを良しとせずに、
結婚を諦めていた。ですが、その時の王である、
ドラゴス様は弟の恋人と知りながら、フェニ様を自分の嫁にと欲しがった。
過去に何人もの妻や愛人が居たにも関わらず・・・
更なるドラゴネスの発展を願って・・・」
「本当はそんなことになっていたんだな・・・」

カミーラの話にラリイは黙って聞いてるしかなかった。
自分の大好きだったフェニが、そんな思いをしていたなど、
知る由もなかったのだ。

「そして、フェニ様を無理矢理に我が物にしようとしたそうです。それで、ネルシオネ様は命がけでフェニ様を守り、フェニ様を国に返した。
ですが、それが王の怒りを買い、弟を反逆者にして処刑し、フェニ様には、王妃の立場を狙った不届き者と言うレッテルを張ったのです。王の威厳と名誉を守る為。だた、それだけの為に。」
「ひ・・・酷い・・・」

ここまで話を聞いて、ラリイは泣かずにはいられなかった。
やはり、あの大好きなフェニが、そんなことするわけなかったのだ。
なのに、ドラゴネス国を思い、愛する人との結婚を諦めたフェニに
対して、この仕打ちはあまりではないか。
ラリイはもう悲しい気持ちで一杯だった。

「だが、そんなに王の弟は一方的にやられたのか?家督争いの心配があったくらいなら、王の弟側にも、それなりの味方が居たんだろ?」
「はい。かなり居たようです。お2人を裏で助けた者は大勢いると。
ただ、それがドラゴネス国の貴族の犠牲者を大勢出すことにもなったのです。」
「なるほどな。王側が裏切り者探しに躍起になったわけだな。」
「そうです。弟側についたと思われた貴族はかなり酷い処罰を
受けたそうで、中には家の取り潰しもあったとか・・・」
「曾祖父の噂は俺も知ってる。ドラゴネス国を大国にする為に、
自他国問わずに、かなり残虐なやり方をする王だったと。
その為にいつも命を狙われ、妻も何人も暗殺で殺されたとか。」
「そんなに怖い方だったの?」
「ああ。」

怖がるラリイにネイルは苦い顔で答えた。
これは一部の者だけが知る、王族の恥の部分だ。
本来なら、隠されておくべき話なのだが、カミーラがすると言う
ことは、ラリイに聞かせるべき話だと判断したからだろう。

「実は、私の祖父も本当はネルシオネ様の側の人間だったのです。
ただ、表面では、王を欺く為に王側の振りをしていたそうですが。
何より、私は小さい頃から父には、我が家は王側の人間と、
そう教わってましたから・・・」
「でも、実はそうじゃないと知ったんだろう?」
「はい。姉のおかげで・・・」
「メディーナが?」
「はい。本当は私が父から家督を継いだ際に聞くべき話だった
のですが・・・姉が父に迫り、先に聞いてしまったようで・・・」

カミーラは苦い顔をしつつ、いつも破天荒な姉を
思い出し、困った顔をする。
ネイルは、ただ静かに、カミーラに同情していた。

「で、祖父はある時期に、フェニ様の居る場所が自分の口から
漏れるのを避ける為に、殺されたことにして、自殺した
らしいのです。家族を守る為にも。」
「カミーラ様のおじい様が、フェニおばちゃまを守る為に・・・」

ラリイはこの話を聞いて、カミーラの家族に深く感謝したい気持ちでいっぱいなった。
大好きなフェニを守ってくれて有難うと。

「いつか、カミーラ様のご家族の皆様にもご挨拶させて下さい。」

ラリイは涙目になりながらも、カミーラに言った。
出来るのなら、カミーラの祖父の墓にも行き、お礼を言いたい程だった。

「はい。お2人の結婚が済んで、落ち着いた辺りに。」

カミーラは快くラリイの願いを承諾してくれた。
ネイルもこの話を聞いて、ようやくカミーラの
心情の変化の理由がわかったのだった。
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