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第八章「結婚準備」

宴の最中で、ネイルはラリイが席にいないことに気が付いた。
辺りを見回しても、どこにもいない。
何処に行ったんだ?と思っていると、フェルオリアが、
肩をがっしりと組んできて、ネイルに聞こえるようにだけ、
小さい声で、言う。

「ところでネイル殿。男女の仲を聞くのは、野暮だとは思うが。
娘の事は抱かれたのですかな?」
「え?」

フェルオリアの言葉に、ネイルは一瞬ドキっとする。
その声は、さっきまであんなに陽気だった男の声とは
思えぬほどの威圧感があった。

「いえ。ラリイ・・・王女とは、初夜を迎えるまでは、そうした事はしたくないと、言われるので、私もそれに賛同し、手は出しておりません。」
「ほう。これはまた・・・本当でしょうな?」
「はい。本人に確認して貰っても、全然構いませんよ?義父上?」

疚しい事がないネイルにとっては、後ろめたいことなど何もない。
なので、ネイルは堂々とフェルオリアに返した。

「そうですか。いや、何。ラリイがネイル殿にあまりにも簡単に
心を許しすぎてる気がしましてな。
つい勘ぐってしまったのです。男女の関係に無理矢理にでも、
なっていたなら、娘が貴方の言う事を素直に聞くなんて
造作もないことだと思いましてな。」

フェルオリアは、何かを探るようにネイルの顔を見る。
結婚は認めたと言ってはいるものの、やはり内心では、どうやら
まだ素直に認めてはいないようだ。
現に、ラリイを無理矢理、手籠めにして、自分の良い様に
操ってると思われているらしい。
ネイルは、どうしたものかと困ってしまった。
そこまで、ドラゴネスとフェニキアの関係は悪いようだ。

「義父上。私は最初にも言いましたが、妻になるラリイ王女の事は、
何よりも誰よりも、大事に思っています。
だから、私を信じて欲しい。その為には何でもしましょう。」
「ほう、何でもですか?」
「はい。」
「なら、この宴が終わった後で、ラリイを連れて、私の部屋に
来て貰えますかな?」
「義父上の部屋にですか?」
「そうです。娘は多分、自分の部屋で寝ているはずですから。」
「・・・わかりました。」

ネイルはこのやりとりですぐに何かに気づいた。
これは何か試されているのだと。
だから、さっきからラリイの姿がなかったのだ。
よく見れば、兄のアディリスの姿もなかった。

「ネイル殿の言う通りなら、何も問題なく、娘を連れてくるのは簡単でしょう。」
「もし、そうでなかったら、どうなるのですか?」

ネイルはフェルオリアに尋ねる。
フェルオリアは組んでいた肩を外し、真顔でネイルに告げる。

「そうでない場合は、娘は貴方が知ってる娘ではないでしょう。
そうしたら、悪いですが、結婚式は延期ですな。ネイル殿。」
「フェルオリア王・・・」

ネイルは嫌な胸騒ぎがした。まさか、自分の事を試す為だけに、
ラリイに何かをしたのだろう。
そこまで、フェルオリアが考える男だと思わずにいたネイルは、
自分が油断しきっていたことに後悔した。
流石に命の危険まではないと思うが、それでも、2人の関係を
壊してしまえるようなことをされたかもしれないのだ。
ネイルは居ても立っても居られず、宴が終わってもいないのに、
ラリイの部屋に急いだ。

「ラリイ・・・何にもないでくれ・・・頼む・・・」

ネイルは自分の未熟さに後悔していた。
ラリイの国なのだから、ラリイには何にもないだろうと。
あったら、自分に害があるだろうと。
だが、それは自分の甘い考えだった。
フェニキア国の何か恐ろしさをネイルは実感していた。
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