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プロローグ

数時間の後、ラリイはカミーラに言われた通りに、主賓として
ドラゴネス国の晩餐会に招かれていた。
だが、やっぱり居心地の良いものではなかった。
各所から聞こえる、ひそひそ話や、ラリイを見る、貴族の竜人達の眼差しは、好奇な目もあれば、カミーラの様に軽蔑や、嫌悪と言ったものまで含まれている。
社交場にはラリイも慣れているつもりだったが、それにしても、
やはりドラゴネス国は大国なだけあり、その人数も、場所の広さも、
自分の国のものとは比べ物にならない。

「あれが竜王の今回の嫁候補の?」
「何で、わざわざ他国から?」
「どうせ、今回も破断だろ?」
「可愛い顔はしてると思うが、幼すぎないか?」
「フェニキア人なんて、久しぶりに見た」

などなど、こんな話ばかりが、聞こえてくる。

「主賓って言われてるけど、確実に場違いだよね・・・私。」

ラリイはそう思うと、ぐったりとしてしまいそうになる。
そこへ、カミーラがワイングラスを片手に、皆に目立つように
中央の高台に上り、ワイングラスを高く掲げて叫ぶ。

「皆様、静粛に。今宵は、我が国に久しぶりの他国のお客様が
お出でになっております。
あちらの席にお座りになっております、フェニキア国の王女、
ラリイ様でございます。歓迎を込めまして、どうか皆様、盛大に拍手を。」

カミーラがそう言うと、一気にラリイに視線が集まる。
そして、パチパチと拍手が鳴り響く中で、
間を見て、カミーラが話を続ける。

「では、我がドラゴネスとフェニキアの交流の発展を願って、乾杯!」
「乾杯!」

盛大に乾杯される。どっと人々が一気に会話を始める。
が、ラリイはそんな大勢の中にいるはずなのに、孤独を感じていた。
ラリイの近場にいる人は、社交辞令に挨拶はするものの、
それ以上は何も会話をして来ない。
どうせ、すぐに居なくなる人間と会話をして無駄と言う雰囲気が、
ラリイの周りには漂っていた。
ドラゴネスにとって、フェニキアとの交流は、正直なところ、
利益があるようには思われていなかったのである。

「食事は、凄く美味しそうなのに・・・」

自分の国とは比べ物にならない食事、華やかな飾り、賑わう人々の声に、音楽。
なのに、ラリイからすれば、ここは、どこよりも虚しい場所だった。

「ラリイ王女!飲まれてますか!?」

背後からいきなり、ベアードが声を掛けて来て、ラリイは飛び上がりそうになった。

「きゃあ!ベアード様?」
「あ、これは失礼しました!お食事とか、口に合いますか?」
「あ、はい。とても美味しく頂いております。」
「そうですか!それは結構、結構!」

元々、ベアードは陽気そうな人だったが、お酒が入ったのか、
ますます大声で元気な感じにラリイと会話を進める。

「竜人の貴族って言うのは、ちょっと堅苦しい奴らばかりで、
つまらないでしょうが・・・
ま、そんな奴らだけが、ドラゴネス国民じゃありませんから!
ラリイ王女も、どうかそう思って頂きたい。」

ベアードは何かを気遣うように、ラリイにそう告げる。

「はい。わかりました。」

ラリイも変に考えずに、ベアードの言葉に素直に頷いた。
苦痛だけに終わるかと思った晩餐会は、ベアードの気遣いで、
少しは楽しいものになっていた。

「ほら!お前ら!見ろ!これがあのラリイ王女様だぞ!」
「へぇー」
「ほうー」
「確かに噂通りの方だぁー」

ベアードは自分の部下達にラリイを紹介していた。
部下達は、さっきの貴族達と違い、好奇心旺盛にラリイ王女に関わって来る。

「やっぱり、フェニキアは魚が主食なんですか?」
「いや、木の実とか果物では?」
「おいおい、ラリイ王女様は王族なんだから、もっと色々食べられてるだろ?」

と、今の話題はラリイの食事についてらしい。
あれやこれやと、ベアードの部下達は議論を繰り広げて、
酒を楽しみ、はしゃいでいる。
ラリイはこの雰囲気に凄く好感が持てた。
同じ人種でも、ここまで違うのだと、改めて認識された。

「ラリイ王女、俺は馬車でも言いましたが、貴女の味方です。
今後も不愉快な思いはさせてしまうかもしれませんが、どうか、俺や、こいつらが貴女の味方であるってことだけは、忘れないで下さい。」
「はい、ありがとうございます。」

ラリイは泣きそうになるのを必死に堪えて、ベアードや、その部下達に心から微笑んで見せた。
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