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第七章「試練」

あの温泉での騒ぎから、明けて朝の事。
伝書を受け取ったカミーラが、あの見世物小屋を
取り締まる為に、正式な書類などを持ってきて、ネイル達のいる宿に
来たのだが、凄い結末を迎えた事を2人から聞いて、もう呆れるしかなかった。

「何ですか、それ?じゃ、私が急いで来たのは無意味だったと?」
「悪いがそうなる・・・」
「なんだか、ごめんなさい。」

カミーラに睨まれた2人は、素直に謝るしかなかった。
だが、悪気があってのことではない。
予測できるわけないではないか、まさか母親の竜が取り戻しにくるなんて。

「ま、変に国が関与しないで済むのなら良かったですが。
では、このまま皆で帰りましょうか。」
「そうだな。」
「はい。」

ネイルとラリイは、女将にお世話になったお礼をちゃんと言って、宿を出た。
それから、温泉の思い出に、お揃いの温泉街限定のウサちゃんシリーズのうさぎを買って、城に帰った。

「とうとう、婚姻の試練の儀が明日か・・・」

城に無事に着き、政務室でネイルは再確認するように自分に言う。
結局、気持ちも伝えることが出来ず、ラリイの気持ちも確認出来ないまま、
明日には婚姻の試練の儀が行われることになってしまった。
ネイルはもうここまで来てしまったのなら、開き直ることにした。
後は運命に任せようと思ったのだ。
ラリイがもし、国石を取ってくれそうなら・・・
その時は絶対に自分の気持ちを言おうと。
ラリイがもし・・・取らなかったら、その時は諦めようと。
ネフィリートの言う通り、ネイルもラリイと縁があるのかどうか、
賭けることにしたのだ。

「おおー良い良い!ラリイよ、それも似合っておる。可愛いぞえ。」
「ネフィート様、あ、ありがとうございます!」

ラリイの方は、ネフィートに呼ばれ、あれやこれと着せ替えさせられていた。
明日の婚姻の試練の儀に行くのにあたり、ラリイに最適な冒険用の服を
ネフィリートは密かにあれこれ用意していたらしい。

「すいません、ラリイ様。ネフィリート様は、ああなると、もう誰にも止められなくて。」

いつもの執事が、珍しく申し訳なさそうにラリイにひっそりと告げる。
あんなに楽しそうにしているネフィリートに、流石にラリイも
嫌だとは言えなかった。
なんだかんだと2時間くらい、付き合わされて、やっと解放された時は、
ラリイはもうフラフラだった。
色々な服を着たりするのは、ラリイも女の子だから嫌いではないが、
流石にネフィリートのあのハイテンションにはついていけなかった。

「あんなに期待して貰ってるのに・・・
婚姻の試練の儀をわざと失敗させようとしてるなんて知ったら・・・
きっと二度と口もきいて貰えない程に嫌われちゃうよね・・・」

ラリイはいつもの部屋に戻り、ベッドで寝そべり、考えた。
そうだ、この部屋とだって、もう少しでお別れなのだ。
今日、出来る限りの荷物も纏めておかなくてはいけないなと
ラリイは思った。
明日は何が何でも、国石に触らないようにしなきゃ!
ラリイはそう強く決心していた。ネイルに迷惑かけない為にも。
お互いの思惑はズレたままであった。
そして1日はアッと言う間に終わる。
その日の夜、ラリイは久しぶりに大好きなフェニの夢を見た。
それは、あるうさぎのぬいぐるみを貰った日の時の夢だった。

「ラリイ、これを貴女にあげる。大事にしてね。」
「いいの?!でも、これフェニおばちゃまが大事にしてたものだよ?」

幼いラリイは申し訳なさそうにして、貰うのを躊躇う。
でも、フェニは優しい笑顔でラリイの頭を撫でて、しっかり
ラリイにそのうさぎのぬいぐるみを抱っこさせる。

「いいの。ラリイだからあげるの。
それはね、私の大事な友人が私の為だけに作ってくれた、うさちゃんなの。
だから、もし、今後、私がラリイの側に居られなくても、それを私だと思ってね。」
「うん!絶対にラリイ大事にする!!」
「うふふ、いいお返事ね。ラリイ。」

フェニは嬉しそうにして、またラリイの頭を撫でる。
ラリイもそれが何より嬉しくて、気持ちよくて、この時間が、
永遠に続けばいいのにと思っていた。
母とはまた違った優しさに、ラリイは包まれていた。

「フェニ・・・おばちゃま・・・」

ラリイは泣きながら寝ていた。
そのぬいぐるみのことをラリイは今になって思い出していた。
あんなに大事にしてたはずなのに・・・今はどこに?
ラリイは夢の中で薄っすらとそう思っていた。
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