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第五章「決意」

「久しいのぉ、アディリス。」
「お久しぶりです。ネフィリート様。」
「おばあ様・・・」

ネイルとアディリスが静かに対峙している時に、
急にネフィートが訪ねて来た。
2人の話がいいタイミングで終わるのを見計らったように。

「ラリイを・・・フェニキアの至宝を取り戻しに来たのかえ?」
「ええ。我が国では、いえ父や私にとっては、自分の命より
大事なものですので。」
「そうじゃろなぁ・・・じゃが、まず謝っておきたいんじゃが。」
「はい。」
「婚姻の試練の儀を孫に命じたのはわしじゃよ。
だから、孫だけを恨むようなことだけはせんで欲しい・・・この通りじゃ。」

ネフィリートは深々とアディリスに頭を下げた。
こんな姿のネフィリートを見たことがないネイルは驚いた。

「その件はもうお互い言い合うのはなしにしましょう。」

アディリスはそう静かに言い、ネフィリートの不安定な態勢を支える。

「すまんのぉ・・・」
「いえ、こちらこそ。女性にそのようなことをさせた、無礼をお許し下さい。」
「良い良い。ラリイと同じで、そなたら兄妹は本当に仲がいい、
礼儀正しい子らよのぉ。」
「はい。なので、返して貰えると嬉しいんですけどね。」

アディリスは穏やかに笑って、ネフィリートに言う。

「じゃが・・・いずれかは嫁がせるのであろう?」
「そうですね・・・いずれは・・・」
「なら、わしの孫では、駄目なのかえ?」
「ネイル王の言葉はしっかり聞かせて貰いました。
でも、言葉だけなら、いくらでも言える。
だから、私は覚悟を見せて貰いたいと思います。」
「そうかい・・・」

アディリスの言葉に、ネフィリートも納得したように頷いた。

「フェニキアの至宝を奪うのだ。なら、こっちも覚悟を
決めるしかないようだねぇ・・・ネイル?」
「はい。」

ネフィリート言われ、ネイルは力強く返事をする。
そして、決闘は今日の正午に決められた。
ラリイは、もう2人を見守るしかないと腹を括った。
どっちが勝っても、負けても、心苦しいのは変わらない。
ラリイはただ、ネイルだけには迷惑をかけたくなかった。
ネイルの身に何かあったら、ドラゴネスで良くしてくれた皆に、
どんな顔して謝ればいい?
何よりネイルに・・・
ラリイは静かに祈った。どうか、いい方向に向かうようにと。

決闘は、当事者の2人のネイルとアディリス。
見守り役に、ネフィリートとカミーラとベアード、アディリスの部下が2人で行われることになった。
ラリイは見ない方がいいだろうと言う事で、
いつもの客室にいることになった。
ラリイは、客室の窓を開け、決闘が行われてる方向に向かって、
歌を歌いだした。
歌が始まって、すぐに決闘も始まった。
2人の腕は互角の様に最初見えていたが、徐々にネイルが圧される形になる。
アディリスの方が年上だけあって、体力も技量もやはり上だった。

「クソ・・・負けるわけにはいかないのに。」

なんとかアディリスの斬撃を交わしている時に、ネイルはふっと
ラリイの歌声が聞こえた。
それはアディリスも同じだった。
だが、何の歌を歌っているか知ったアディリスはネイルと
戦っているにもかかわらず、悲しい顔をした。

「ラリイ・・・そこまで、この男の事が・・・大事なのか・・・」

ラリイが歌っている歌は「悲劇の乙女」と言う歌。
戦場に行った、恋人を想い、ずっと帰って来るのを歌いながら、待っていた乙女は、恋人が戦場で死んだのを知ると、自分も命を絶つという内容の歌だったのだ。
ラリイはこの歌で兄に訴えていたのだ。
ネイルに何かあれば、自分も死ぬと・・・
こんなにまで、はっきりとした意志を見せた、妹に、
アディリスはやや動揺していた。
そこへ、ネイルが隙を見つけたとばかりに、アディリスの剣を跳ね上げた。
自分の剣をなくした、アディリスは潔く降参した。
決闘は、どちらも大きな怪我をすることなく、無事に
ネイルの勝利で終わったのだ。

ネフィートの喜ぶ声もろくに聞かず、ネイルが急いで、ラリイの
いる部屋に向かう、
そして、無事に勝ったことを報告すると、ラリイは大声で
泣きながら、ネイルにしがみついて泣いた。
ネイルも愛しそうにラリイを抱き返す。
その光景が外からでも見えた、アディリスは思った。

「フェニキアの至宝は、もうすでに奪われていたんだな。」と。
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