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第三章「確執」

「カミーラ、状況は?」

政務室に入り、ネイルはカミーラに今の状況を確認する。

「最悪と言うのが現状ですね。
こうも早く、ドートレス伯爵が、王家に牙を剥いて来るとは
思いませんでした。」
「前々から、俺に不満があるのは知ってたがな。」

若い王を蹴落として、自分が王になろうとする輩がいるのは、
この大国ドラゴネスにおいて、珍しい事ではなかった。
ただ、表面化していないのは、裏でそれだけ上手く、ネイルが
カミーラとベアードの力を借りて、隠してきたからだ。
過去のあの出来事のこともあるし、大国だからこそ、
他国に弱みを握られるわけにも、いかなかったのだ。

「どうやら、二日後くらいには、アンデットを中心とした軍隊を
率いて、城を取り囲んで、陥落させるつもりらしい。」

ベアードが部下の報告を聞いて、ネイルとカミーラにも報告する。

「アンデットですか、また、それは、質の悪いものを・・・」

カミーラが悔しそうな顔をする。
もし、他の国なら、すぐに大教会に応援要請をして、聖騎士団に
来て貰えれば、そう大した問題でもなかったかもしれない。
だが、ドラゴネス国は大教会との関係を避けていたのだ。
そんな国の応援要請に、快く答えてくれるわけがない。
それを知っているから、反乱にアンデットを使おうと考えたのだろう。

「悪知恵だけは働くみたいだな。
それとも、他にも裏で働きかけしてる奴が数人には居そうだな。」
「ええ、そうでしょうね。
あの伯爵にあれだけの規模のアンデット軍が用意出来るとは思いません。」
「暗黒魔法に詳しい人間もいるみたいだしな。」

ベアードとカミーラが会話を続ける。

「悩んでいても仕方がない、俺はおばあ様のとこに相談に行く。
ベアードとカミーラは引き続き、防衛の相談をしていてくれ。」
「わかった。」
「わかりました。」

二人の返事を聞いて、ネイルは急ぎ足で、祖母が居る塔に向かった。
魔力が高い祖母なら、何か良い知恵を貰えるかもしれない。
ネイルはそうであってくれと、心から願った。

その頃、ラリイは、またネフィリートの使いの執事に、面会の要望がある言われて、ネイルより大分前に、
ネフィリートに呼び出されていた。

「すまんのぉ、ラリイ、わざわざ来て貰って。」
「いえ、私もネフィリート様にお会いしたかったので、嬉しゅうございます。」
「ほっほっほ、何とも可愛い返事をする。さて、ラリイ。
唐突なんじゃが、この老婆のお願い聞いてくれるかえ?」

ネフィリートは改まって、ラリイに言う。
どんな願いかわからないのにも関わらず、ラリイは元気よく、
はい!と答えた。

「良い返事じゃ、ほんに、ラリイはいい子じゃのぉ。」
「そんな、私なんかでお役に立てるのなら、ぜひ!」
「そうか、そうか、ちと厳しい願いではあるが、聞いておくれ。」
「はい。」

ネフィリートの真剣な眼差しに、ラリイも気を引き締める。

「明後日の夜に、ここは戦場になる。」
「え?!」

ネフィリートの話に、ラリイは驚く。
驚いてるラリイに更にネフィリートは静かに話を続ける。

「悲しいかな、ネイルを快く思ってない者が一族におるのじゃ。
まぁー王族などと言うものは、いつの時代も、権力争いがあるものじゃが、
何せネイルはあの通りの若輩ものじゃ。
余計に王位を狙おうとする者が多くてのぉ。」
「そんな・・・」

ネフィリートの話を聞いて、ラリイは悲しい気持ちになった。
身内が争うなんて。と。

「で、なんじゃが、今回の謀反はちと、ネイル達だけでは対処が厳しい。
そこでラリイ。お前の力を貸して欲しいのじゃ。」
「私の力ですか?」
「そうじゃ、お前のフェニキアの歌姫としての力じゃ。」
「私の歌姫としての力?」

戦場に自分の歌の力が役に立つのだろうか?
ラリイにはさっぱり理解が出来ない。

「ラリイ、お前は、あの大鎮魂歌を歌えるね?」
「みな、主の元へ、安らかに眠り給えですか?」
「そうじゃ、あれをラリイに歌って貰いたい。」
「戦場で?どうしてですか?」
「今回の敵はアンデットだからじゃよ。」
「?!」

ネフィリートに敵がアンデットと言われ、ラリイはようやく理解が出来た。
確かに歌であるとは言え、大鎮魂歌はアンデット達に聞くかもしれない。
だが、ラリイがいくら歌姫と言われようとも、軍団として襲ってくる、
アンデット達にどこまで効果があるかどうかはわからない。
不安そうにする、ラリイにネフィリートは更に話を続ける。

「ラリイの歌に、わしの魔法と、町のものに協力して貰えば、
この謀反で大きな犠牲は出ることはなかろう。
ただ、ラリイ、お前の負担は大きいものになるだろう。
あの大鎮魂歌を1時間・・・
いや30分は歌い続けて貰わなければならぬでな・・・」
「30分以上ですね・・・」

ラリイはぎゅっと両手を組む。
大鎮魂歌は、歌い手にも魔力と体力を必要とする。
相手を浄化させる為には、精神統一もかなり大事だ。
それ故に、歌い手も少なく、長時間歌ったと言う前例も聞いたことがない。
まして、今回はそれを戦場の最中で行うのだ。

「どうだじゃ、ラリイ?お前、出来るかえ?」

ネフィリートに再度確認され、ラリイは力強く頷いた。
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