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第1章「津雲百の陰謀」

「お前は実に良い時に来た。丁度、今時期に怨念を解放したいと思っていた呪物があったのだ。
その呪物も、お前の姪の様に、女同士の陰惨ないじめに遭い、この世を呪いながら死んだ者だ。
境遇が似てる上、必ずお前の憎いとする相手にとり憑き、何かしらの害を与えるであろう。
しかし、今一度警告するが、その怨念はお前にも害を成すかもしれぬ。
それでも構わぬのだな?」
「はい。百様。私はどうなろうとも構いません。私の可愛い姪が・・・
あの子が、少しでも報われてくれるのなら、私はそれだけで良いのです。」
「実に潔い。しかし、お前との家とは長年の付き合いだ。悪いようにはせぬ。
では、お前の姪に所縁がある物をわしに差し出せ。」
「はい。こちらです。」

祖父ちゃんは、そう言うと、その依頼主から携帯を受け取った。
その携帯は淡いピンク色の端末で、女性が好みそうな感じに飾り付けがされていた。

「では呪い(まじない)を行うぞ?準備は良いな?」
「大丈夫です。百様。」
「なら良い。いいか?わしが呪いをしている間は自分が憎んでいる相手への
恨みの念を決して絶やすな。」
「わかりました。」

祖父ちゃんは、最後に依頼主にそう声掛けをした後、身体の向きを直して、
焚火がされている部屋の正面側に向き直す。
そして、焚火の前にある古びた机の上に、依頼主から預かった携帯を置き、
何やら手を動かし、印のようなものを描く。
その古びた机の上には、木箱に入った女物の着物の切れ端もあった。

「まさか・・・あれが祖父ちゃんの言ってた呪物?」

俺は、その木箱に入った女物の着物の切れ端を見た瞬間に、物凄く寒気を感じた。
禍々しい気が、それから立ち上ってるようだった。
祖父ちゃんは低い声で、お経のような口調で、何やら語り出す。
俺には、ちゃんと言葉の意味を理解出来なかったが、それでも2人の女の名前と、
彼女らのどちらかを不幸にした相手側を呪うように言っているのだけはわかった。
時間にして、10分くらいだろうか。俺的にはもっと長く感じたが、
依頼主から預かった携帯が、古い机の上で、誰も触っていないのに勝手に
ガクガクと動き出したかと思うと、急にピタリと止まった。
その時には祖父ちゃんの呪いも終わった時だった。

「かの呪物は、お前の姪に同調し、力を貸すと約束した。
いずれは、お前の姪を不幸にした者共に害を成すであろう。」
「有難うございます。百様。」
「しかし、油断はするな。お前はこの札を常に身につけ、
わしが良いと言うまで、姪を思い、相手を呪い続けろ。良いな?」
「わかりました。絶対に、百様の指示に従います。」
「うむ。では、今夜はこれまでじゃ。」

祖父ちゃんは、今夜の仕事の終わりを依頼主に告げた。
依頼主は、席を立ち、祖父ちゃんに何度も頭を下げて、祖父ちゃんの仕事部屋から出て行った。
祖父ちゃんは、あの女物の着物の切れ端が入った木箱を大事そうにしまい、
新しい木箱に依頼主から預かった携帯もしまう。

「祓うだけは、どうにもならない呪いがある。人の感情が複雑であるからこそ、
正と負だけでは片付かないものなのよ。
九十九神家は、その両方に特化してきたからこそ、恐れられてきたのもある。
だから、わしの孫よ。自分に才能が無いなどと、決めるには、まだ早急ぞ?
な?一?」
「?!!」

部屋の隅にいた俺は、祖父ちゃんにそう言われながら、祖父ちゃんとはっきりと顔が合った。
祖父ちゃんは、やっぱり俺がこの部屋に居たのを知っていたようだ。
俺は、ハッとした瞬間には、自分の部屋に意識が戻っており、
腑抜けた顔になっていた。
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