第3章「私は、未練ある者です」
「ちょっと!冬秋!来てー!!」
俺は、ある幽霊の女の子に叫ばれて、毎度の事に「はいはい」と、
気怠そうに返事をした。
そんな俺の態度に、あの幽霊の女の子は更に怒る。
亡くなった存在とは言え、彼女は元気なものだ。
元気で可愛いのはいいのに、怒りやすい性格だけは、勿体無いなと
俺はいつも思う。
「何?どうしたの?」
「これ、どうにかして!」
彼女は俺にいつものお願い事をする。そこには、俺がいつも使っていたパソコンがあった。
そして、ある動画見ている最中に、どっかの広告サイトに飛ばされてしまったようだ。
いい加減、こんなことくらいで俺を呼ばないで、自分で対処して欲しいんだが・・・
俺は、そう思いながらも、カチカチと簡単に操作して、彼女が満足する状態に戻す。
彼女は、全く面倒ねぇーって顔をパソコンに向けながら、
大人しく俺が操作し終わるのを待っていた。
俺としては、そんな彼女の態度も、可愛いと思ってしまうことが
あるから困ってしまう。
彼女は幽霊なのだから、そこは割り切らなければ、ならないのに。
「冬秋、ありがとうね♪」
「いいよ、こんくらい。」
俺は笑顔を向けてくる彼女に、素っ気なく返事する。
こんな幽霊の彼女と出会ったのは、1か月前くらいだった。
夕方の人気があまりない公園で、俺が買い物帰りに近道で寄った時に、
俺は彼女を見つけた。
別にただの浮遊霊だったから、無視して、さっさと帰れば良かったんだが、
何故だか、俺は彼女の存在が無視出来ずに、声を掛けていた。
彼女は何か未練があって成仏出来ない霊ではあるが、悪い霊ではない。今のところは。
この世に未練はあっても、誰かに対する憎悪や怨念が無いので、
外見も禍々しいものにならず、普通の女の子の姿だ。
俺から見て、20代前後かな?ちょっと時代を感じさせる恰好をしてはいるが、
今時の子の恰好になれるのなら、確実にモテると思う。
俺は、自分でも戸惑う程に彼女と言う存在に興味が出てしまい、
彼女が無事に成仏出来るように手伝うと、彼女に申し出てしまった。
そんで、打ち上げ花火を見に行ったりもしたのだが、彼女は成仏することはなく、
俺の家の寺に、難なく現在、暮らしている。
俺のじいさんは、この寺の住職で、一部の人達には、心霊関係に
強い存在として、有名らしい。
が、当人は、それを否定し、マスコミとか何かには絶対に出ない。
信用ある人にだけ、怪談のネタに使われることは許しているようだ。
けど、それ以外は家族に迷惑を掛けたくないと、自分の情報の流出には厳しくしていた。
家族の俺が言うと、胡散臭く感じてしまうかもしれないが、俺のじいさんは、
霊感はあると思う。しかも、かなり強く。
その霊感を俺にも多少あるので、俺もじいさんが見えている霊を、
見ることくらいは出来る。
しかし、俺はじいさんのように、祓うことは出来ない。
だから、幽霊の彼女の事を相談したのだが、悪い霊でも、何でもないなら、
自然に消えるのを待てばいいと言われて、それで終わってしまった。
生きてる人間の都合で、無理矢理に成仏させるのも、
良くないのだとか、じいさんは言っていた。
俺はじいさんの言葉に従い、彼女のしたいままにさせている。
彼女は、最近はすっかりネットにハマり、動画なんかを見ているのが好きなようだ。
「今の時代って、本当に便利ねー!見るだけなら、大体、どんなものでも見れるもの♪」
「そうだね。見るだけなら、どんな画像でも、動画でもあるからね。」
「うん♪あ、この前は、あの怪談で有名なおじさんの動画見たわ!
あの人、今も人気なのね。」
「君は自分が幽霊なのに、怪談の動画見てるの?」
「何よ?何か文句でもあるの?」
「いや・・・ないけどさ・・・」
俺は彼女の言葉に、呆れてしまった。幽霊自身が、怪談の動画を見て楽しむって・・・
そりゃ、怖い話をすると幽霊が寄ってくるって言うのは、有名な話だけど、
幽霊自身が、直接楽しむって言うのも、それは面白いな。
誰かに話せる話ではないけど。
「あ、そうだ。動画見てるのは、いいんだけど、自分の名前くらいは思い出せたの?」
「あ・・・」
「まだ、思い出せないの?」
「えーっとね、薄っすらとなんだけど、私の苗字はね。」
「うん。」
「桜の木って書いて、桜木(おうき)って呼ばれてた気がする。」
「へぇー桜木さんか。良い苗字じゃん。じゃあ、今度から、
俺は君の事を桜木さんって呼ぶね?」
「ええ、いいわよ。」
「後、下の名前は、どうなの?思い出せないの?」
「今はまだ無理みたい・・・ごめんね。」
「いや、謝らなくていいよ。俺は何も困るわけじゃないんだから。」
俺は、少し悲しそうに謝る桜木さんを、気の毒に思い、少しだけ優しく返事した。
成仏出来ずに、彷徨っている霊の中には、自分の事をすっかりと忘れてしまう霊もいる。
桜木さんも、そんな霊の中の1人で、自分がどうして死んだのかさえも、覚えていないらしい。
けれども、それが一概に悪いと言う訳でもないと、俺のじいさんは言っていた。
怨念などに支配され、生者に害を与えようとする霊よりは、断然マシだと。
その意見には俺も賛成だ。ただ「生きている」と言うだけで、
恨んでくる怖い霊も、場所によっては存在するからな。
桜木さんは、今のとこは、そんな怖い霊にはならなそうだから、
俺は安心したいとこだが、
しかし油断しすぎることもしてはいけない。
桜木さんの過去次第では、悪い霊になってしまう可能性も無くはないからだ。
だからこそ、俺は、そんな悪い桜木さんになってしまう前に、早く成仏して貰わないとな。
過去を思い出したからと言って、絶対に悪い霊になるとも言えないんだが。
「ねぇ?冬秋はさ。」
「うん。」
「霊が見える自分を恨んだりしないの?」
「え?別に、俺はじいさんもいるし、恨むことはないかな?」
「冬秋はそうなのね・・・」
桜木さんは、俺の顔をまじまじと見て、それから、また見ていた動画を見始めた。
霊感がある俺に、何か言いたい事でもあったのか?
俺は、少しに気になりはしたが、深く聞くこともせず、
自分のパソコンは使えないので、スマホでゲームを始めた。
もう少しだけ、俺は桜木さんと共同生活?かな。
俺は、ある幽霊の女の子に叫ばれて、毎度の事に「はいはい」と、
気怠そうに返事をした。
そんな俺の態度に、あの幽霊の女の子は更に怒る。
亡くなった存在とは言え、彼女は元気なものだ。
元気で可愛いのはいいのに、怒りやすい性格だけは、勿体無いなと
俺はいつも思う。
「何?どうしたの?」
「これ、どうにかして!」
彼女は俺にいつものお願い事をする。そこには、俺がいつも使っていたパソコンがあった。
そして、ある動画見ている最中に、どっかの広告サイトに飛ばされてしまったようだ。
いい加減、こんなことくらいで俺を呼ばないで、自分で対処して欲しいんだが・・・
俺は、そう思いながらも、カチカチと簡単に操作して、彼女が満足する状態に戻す。
彼女は、全く面倒ねぇーって顔をパソコンに向けながら、
大人しく俺が操作し終わるのを待っていた。
俺としては、そんな彼女の態度も、可愛いと思ってしまうことが
あるから困ってしまう。
彼女は幽霊なのだから、そこは割り切らなければ、ならないのに。
「冬秋、ありがとうね♪」
「いいよ、こんくらい。」
俺は笑顔を向けてくる彼女に、素っ気なく返事する。
こんな幽霊の彼女と出会ったのは、1か月前くらいだった。
夕方の人気があまりない公園で、俺が買い物帰りに近道で寄った時に、
俺は彼女を見つけた。
別にただの浮遊霊だったから、無視して、さっさと帰れば良かったんだが、
何故だか、俺は彼女の存在が無視出来ずに、声を掛けていた。
彼女は何か未練があって成仏出来ない霊ではあるが、悪い霊ではない。今のところは。
この世に未練はあっても、誰かに対する憎悪や怨念が無いので、
外見も禍々しいものにならず、普通の女の子の姿だ。
俺から見て、20代前後かな?ちょっと時代を感じさせる恰好をしてはいるが、
今時の子の恰好になれるのなら、確実にモテると思う。
俺は、自分でも戸惑う程に彼女と言う存在に興味が出てしまい、
彼女が無事に成仏出来るように手伝うと、彼女に申し出てしまった。
そんで、打ち上げ花火を見に行ったりもしたのだが、彼女は成仏することはなく、
俺の家の寺に、難なく現在、暮らしている。
俺のじいさんは、この寺の住職で、一部の人達には、心霊関係に
強い存在として、有名らしい。
が、当人は、それを否定し、マスコミとか何かには絶対に出ない。
信用ある人にだけ、怪談のネタに使われることは許しているようだ。
けど、それ以外は家族に迷惑を掛けたくないと、自分の情報の流出には厳しくしていた。
家族の俺が言うと、胡散臭く感じてしまうかもしれないが、俺のじいさんは、
霊感はあると思う。しかも、かなり強く。
その霊感を俺にも多少あるので、俺もじいさんが見えている霊を、
見ることくらいは出来る。
しかし、俺はじいさんのように、祓うことは出来ない。
だから、幽霊の彼女の事を相談したのだが、悪い霊でも、何でもないなら、
自然に消えるのを待てばいいと言われて、それで終わってしまった。
生きてる人間の都合で、無理矢理に成仏させるのも、
良くないのだとか、じいさんは言っていた。
俺はじいさんの言葉に従い、彼女のしたいままにさせている。
彼女は、最近はすっかりネットにハマり、動画なんかを見ているのが好きなようだ。
「今の時代って、本当に便利ねー!見るだけなら、大体、どんなものでも見れるもの♪」
「そうだね。見るだけなら、どんな画像でも、動画でもあるからね。」
「うん♪あ、この前は、あの怪談で有名なおじさんの動画見たわ!
あの人、今も人気なのね。」
「君は自分が幽霊なのに、怪談の動画見てるの?」
「何よ?何か文句でもあるの?」
「いや・・・ないけどさ・・・」
俺は彼女の言葉に、呆れてしまった。幽霊自身が、怪談の動画を見て楽しむって・・・
そりゃ、怖い話をすると幽霊が寄ってくるって言うのは、有名な話だけど、
幽霊自身が、直接楽しむって言うのも、それは面白いな。
誰かに話せる話ではないけど。
「あ、そうだ。動画見てるのは、いいんだけど、自分の名前くらいは思い出せたの?」
「あ・・・」
「まだ、思い出せないの?」
「えーっとね、薄っすらとなんだけど、私の苗字はね。」
「うん。」
「桜の木って書いて、桜木(おうき)って呼ばれてた気がする。」
「へぇー桜木さんか。良い苗字じゃん。じゃあ、今度から、
俺は君の事を桜木さんって呼ぶね?」
「ええ、いいわよ。」
「後、下の名前は、どうなの?思い出せないの?」
「今はまだ無理みたい・・・ごめんね。」
「いや、謝らなくていいよ。俺は何も困るわけじゃないんだから。」
俺は、少し悲しそうに謝る桜木さんを、気の毒に思い、少しだけ優しく返事した。
成仏出来ずに、彷徨っている霊の中には、自分の事をすっかりと忘れてしまう霊もいる。
桜木さんも、そんな霊の中の1人で、自分がどうして死んだのかさえも、覚えていないらしい。
けれども、それが一概に悪いと言う訳でもないと、俺のじいさんは言っていた。
怨念などに支配され、生者に害を与えようとする霊よりは、断然マシだと。
その意見には俺も賛成だ。ただ「生きている」と言うだけで、
恨んでくる怖い霊も、場所によっては存在するからな。
桜木さんは、今のとこは、そんな怖い霊にはならなそうだから、
俺は安心したいとこだが、
しかし油断しすぎることもしてはいけない。
桜木さんの過去次第では、悪い霊になってしまう可能性も無くはないからだ。
だからこそ、俺は、そんな悪い桜木さんになってしまう前に、早く成仏して貰わないとな。
過去を思い出したからと言って、絶対に悪い霊になるとも言えないんだが。
「ねぇ?冬秋はさ。」
「うん。」
「霊が見える自分を恨んだりしないの?」
「え?別に、俺はじいさんもいるし、恨むことはないかな?」
「冬秋はそうなのね・・・」
桜木さんは、俺の顔をまじまじと見て、それから、また見ていた動画を見始めた。
霊感がある俺に、何か言いたい事でもあったのか?
俺は、少しに気になりはしたが、深く聞くこともせず、
自分のパソコンは使えないので、スマホでゲームを始めた。
もう少しだけ、俺は桜木さんと共同生活?かな。