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第4章「私は、回収しただけです」

聞いて下さい!私は、ただあの浜辺にあった漂流物を回収しただけなんです!
なのに、あんな事になるなんて!いつものビーチの掃除を
していただけのつもりだったのに!
自分は何にも悪気はなかったんです!本当なんです!
え?まずは、落ち着いて、自分の事情を話して下さいと?
そうですよね・・・失礼しました。
私は、いや俺は平凡な20代後半のサラリーマンの男です。
特に出世コースを歩むこともなく、だからって窓際とかでもない、
本当に日々平凡に仕事しているだけの男です。
そんな俺の唯一の楽しみは、サーフィンなんですが、その活動の一環で、サーフィン仲間と、
一緒にビーチの清掃活動もしたりします。
仲間と楽しく掃除するのも悪くはないですが、ほとんどの者は、その掃除の後に、
お酒をワイワイと飲めるのが楽しいから参加してる感じですね。
俺も正直言えば、そんなうちの1人です。
ここ数年、当たり前にしていた、ビーチの清掃中に、俺は今回の問題ある物を
拾ってしまったのです。

「なんだ・・・これ?」
「どしたーA?」
「あ、Dか。なんか変な瓶拾ったんだけどさ。これ何だと思う?」
「おー最近じゃ、珍しい漂流物じゃんか。お!これ瓶の中に何か紙が入ってるぞ?
もしかしたら、どっかの海外の美女からの手紙かもしれないぜ?」
「は?そんな、調子のいい話はないだろう?相変わらず、お前らしいな。」

俺はお調子者のDの発言に呆れながら、瓶の中の紙を再度、見てみる。
瓶の中の紙は、瓶の栓がしっかりしてあったおかげで、紙そのものは
濡れてることもなさそうで、その気になれば無事に取り出させそうだった。
最初は俺も少しはこの瓶の中にある紙に興味があったが、Dと話してから
何故か、急に中身を確認してみたいと思わなくなった。
嫌な予感がしたのだ。見ない方がいいのではないかと。

「なんか、気持ち悪い気がするから、俺はこのまま、ここにこの瓶置いておくわ。」
「えー?何でだよ?ロマンチックじゃないか!浜辺の漂流物って?」
「じゃ、Dが回収してくれよ。俺は、なんか触りたくない。」
「Aは冷めてるなぁーそんなんだから、彼女出来ないんだよ。」
「う、うるさいな!それは関係ないだろ!今は!」

俺は、Dに最近、彼女がいないことをからかわれて、頭にきたが、
でもDがその瓶を欲しがったので渡してやった。
Dは、その瓶の中身の紙が、何か良い内容の手紙と思い込んでるようだが、
俺は、逆に恨み言とか呪いの類の紙なんじゃないかと、どうしてもそう思ってしまう。
自分でも理由はわからないが、嫌な予感だけを感じるのだ。
それから、俺は、何とも言えない気分のままに、ビーチの掃除を仲間達と行い、
夕方になって、掃除は無事に終わり、楽しみにしていた飲み会が
始まったのだが、楽しめる気分じゃなくなってしまった。

「おー?どうした、A?今日のお前は、なんか顔色が悪くね?
気分でも悪いのか?」
「Fか。やっぱり、俺、顔色悪いか?」
「ああ、良くは見えないな。体調が良くないなら、家まで送ってやろうか?」
「いや、Fは、飲み会、楽しんでるだろ?悪いよ。
それに、俺は体調が悪いって言うか、ちょっと寒気を感じるだけだからさ。
Fに送って貰う程とかじゃないよ。」
「寒気を感じるって、今日の参加当初から風邪でも引きそうだったのか?」
「んいや、ちょっと今日のビーチ掃除してる途中からな・・・」

俺の歯切れの悪い答えに、Fは何かを感じたらしく、俺の側に
寄って来て、俺と会話を続けた。

「おいおい、その掃除中に何かあったとか言わないよな?」
「何でだよ?」
「お前、俺がちょっと霊感とあるの知ってるだろ?」
「そりゃー知ってるけどさ、でもあれは霊とかじゃないだろ?
今日、ビーチの掃除中に、変な漂流物の瓶を見つけただけだぞ?
まぁ・・・確かに、俺は嫌な予感はしたから、余計に触ったりしなかったけど。」
「漂流物の瓶?どんな瓶だったんだ?」

Fは、興味有り気な顔で、俺にその瓶の話を聞いてくる。
俺は、何も隠すことはないと、正直にありのままに話した。

「どっかの外国産の瓶っぽい感じで、中身に紙が入ってた。
栓がしっかりされてたから、中身の紙を取り出そうと思えば、取れそうだったけど、
俺は、何かその紙を見るのが、凄く嫌だったから、その瓶は
そのまま、元の場所に放置しようしたんだ。」
「うん。」
「だけど、Dが側に居て、瓶の話をしたら、興味持ってしまってさ。
それで、その瓶の中の紙も気になるから、俺にその瓶を欲しいって・・・」
「また、Dは・・・あいつも懲りないな。過去にも肝試しして、
酷い目に遭ってんのに・・・
また得体の知れない物に興味を持って、持ち帰ろうとしてんのか?」

Fは俺からの話を聞いて、Dの行動に呆れた。俺もその点は同感だ。
Dは明るくて、行動力もあって、悪い奴ではないのだが、ノリが軽すぎて、
悪ふざけをしすぎてしまうのが、玉に瑕だ。
過去に学生の時に、俺やFや数人の男子だけで、マジでヤバいと
噂の廃病院に肝試しで行ったことがあるが、あの時も、調子に乗って、
廃病院内にある、カルテを勝手に持ち出した所為で、大変な目にあったことがある。
あの時は、Fの知り合いに強い霊感あり、祓う力もあった人が
居たおかげで、
助けられたことがあるが、俺はその経験をしてから、自分の中では、
霊はいると信じるようになった。他人には強制はしないが。
当のDは、そんな経験をしたはずなのだが、今でも反省しているのかしてないのか、
昔と変わらずな態度のままだ。
俺はそのうち、Dは、あの経験以上にヤバい事をしそうで、
ちょっと怖いなぁと思っているところがある。
俺は、あの学生の時の経験の所為で、一生、肝試しとかはしないと決めたけど、
Dは、俺やFに隠れて、女の子にモテたい為だけに、未だに肝試しをしてる感じはあった。
俺は心配で何度か注意してやったことがあるが、D本人が聞く気が無いので、
今は無視している。友達だから心配してやってはいるんだけどな。

「ちと、Dの奴のとこにいって、その噂の瓶を見てくるわ。」
「そうしてやってくれ。俺は今日はもう、Dに近づきたくない気分だわ。」

俺は、FにDの様子を見て貰うように頼み、その場で1人、
静かに軽食をつまみながら、酒はやめて、ジュースを飲んでいた。
すると、Dの周りから、盛り上がる声が聞こえて、俺は、じっと耳を澄ませた。
どうやら、Dがあの瓶を皆に目立つように掲げ、他の仲間達に見せて自慢していた。

「見てくれよ!皆!今日、俺は、あのビーチでこの珍しい漂流物の瓶を拾ったんだ!
しかも、この瓶の中には、俺もまだ見てない、何かの紙が入ってるんだぜ!」
「おう?どんな紙なんだ?」
「わ!本当だ!見せてー見せてー♪」
「せっかくだから、この場で取り出して、紙に何か書かれてないか見てみようぜ!」

Dを取り囲んでいる、Bや、Dが狙っている女の子のC子、他に数人の知り合いが、
酔っぱらっているのもあってか、Dが見せている、あの瓶に大盛り上がりである。
俺は、内心はくだらねぇーと思ったが、あの場の皆が楽しんでいる
雰囲気を壊すようなことも言えずに、ただ、1人黙って、
遠巻きから見ている事しか出来なかった。
っつかーあの瓶を俺が最初に拾ったのに、相変わらず、調子がいいなーあいつは。
俺はそんなDに、ちょっとイラっとしていると、Fが青ざめた顔をして、
俺の元に戻って来て、俺に短く「ちょっと、外に出よう。」と言って、
俺の腕を強く引っ張り、俺をいつもの居酒屋から、外に連れ出した。
俺は、Fの只ならぬ様子に、素直に従い、すぐにFと一緒に外に出た。
D達は盛り上がっている所為か、俺達が外に出た事には気づいてない。

「どうしたんだよ?F?」
「A、お前の嫌な感は当たってそうだ。あの瓶は冗談抜きで、
ヤバいやつかもしれない。」
「ま、マジかよ?あの瓶に何があるって言うんだ?」
「うーん、はっきりとは言えないんだが、あの瓶の中に悪い霊がいるかもしれない・・・」
「へ?」

俺は、Fの言葉に耳を疑った。瓶の中に悪い霊がいる?
そんなホラー映画とか夏の心霊特集番組とかにありそうな展開があるって言うのか?
Fじゃない奴がそんな事を言ったら、俺は怒ってるぞ、そんな話・・・

「Fは、あの瓶から、悪い霊の気配を感じたってことか?」
「そうだ。俺も噂程度で、実物を見たことがないからわからんが、
過去に流行った、外国の霊を閉じ込めたって言う、そういう類の
瓶かもしれない。」
「あー昔に流行ったな。ゴーストボトルだっけ?
でも、あれって本当は玩具とかで、わざと怖がらせる為の嘘を
ついていた商品だったんだろう?」

俺は、過去にその商品が話題になった時に、某有名な掲示板サイトで、
それらの情報の書き込みを調べて見て、やっぱりデマだったのかと、
馬鹿にしていた時の事を思い出した。
しかしFは、そんな俺の言葉を否定して、話を続ける。

「日本で売られてるのは、玩具だったって話だけど、日本で
あのブームが去ってから1年後ぐらいかな?
某掲示板では、海外のサイト売っていた物の中には、
本物も一部あったって話らしいぞ。」
「え?マジでか?それは、俺は見てなかったわ・・・」

俺はFからその話を聞いて、驚いた。日本でブームが去っても、
海外のサイトから買って検証みたいなことをしてる物好きでもいたのか?

「まぁ、あの掲示板だから、デマかもしれないと言われれば、それまでだけどな。」
「あの掲示板で真偽を言い出したら、キリがないさ。
でも、Fの事だから、全部がデマじゃないって、思うとこがあったんだろ?」
「実はな・・・」

俺とFは、居酒屋の外で、少し話し込み、30分後くらいに居酒屋に戻った。
D達はあの瓶の中の紙を取り出す為に、瓶の栓を開けてしまったようだ。
それから、中の紙を見て、すぐに飽きてしまったのだろう。瓶と紙は、無造作に置かれていた。
それを見た俺とFは意を決して、例の瓶に入っていた紙を確認した。
紙には、何かの魔法陣の様な小さい図が書き込まれて、どこの国の文字かわからないが、
何かの文字が書かれていた。
俺とFは、D達に今日はもう帰ると謝り、Fの機転で、すぐに
過去に世話になった、Fの知り合いの強い霊感のある、
あの人のとこに行き、今日の出来事を聞いて貰った。
Fの知り合いは、一応、祓っておこうって言ってくれて、俺とFはお祓いをして貰う事にし、
その日は、俺達には何もなく終わったので、俺も一先ずは安堵した。
だが、次の日、Dは、あの飲み会の後で、交通事故に巻き込まれ、
今はかなり危険な状態で入院している。他にも数日後にBは行方不明になり、
C子は、精神を病み、自殺未遂を起こし、今は実家で廃人のようになったと噂で聞いた。
俺が毎年楽しみにしていたサーフィンは、仲間がどんどん不幸なことになり、
最後は悲しい形で、解散と言う事で終わりになってしまった。
浜辺にある漂流物が、ロマンチックなだけではないことを、俺は
今後他の人にも話すだろう。
この悲惨な思い出の所為で。
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