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第3章「私は、未練ある者です」

私は未練ある者です。
率直に何の未練があるの?と言う話なんですが・・・
私には、恋人・・・要するに彼氏がいたことがありません。
なーんだ、そんな事?って思った?
そう思われても、しょうがないかもしれないよね。
今を「生きてる」人達からすればね?

「ふーん。つまり、それで未練があるから、この世に留まってるってこと?」

私と会話をしている男、冬秋(ふゆあき)は成仏できない幽霊である、
この私と、普通の人間と会話するように話をしている。
冬秋は、どこにでも居そうな、普通の中肉中背の顔も平凡な日本男子だ。
歳は、20歳とか言ったかな?
本人に言ったら、気分を悪くするかしら?平凡な顔なんて。

「そう。私は生きてるうちに、恋人を作ることが出来なかったの。
でも、それが本当に未練で成仏出来ないのかは、私もわからないわ。」
「自分の事なのに、わからないの?それは困るんじゃないの?」
「うるさいわね!しょうがないでしょ!こんな風に、自分の事を聞いてくる存在なんて、
いなかったんだから!」
「ウケるわ。こんな、漫画とかアニメにありそうな展開になるとは、俺も思わなかったわ。」
「ウケる?何よそれ・・・」

今時の子の会話は、時々、私の知らない単語を言うから、困るわ。
冬秋はウケると言う割には、無感情な感じで、私を見ている。

「いつもなら、未練がある霊って、怖い外見の奴が多いから、
話しかけたりしないんだけど。
君には、今のところは禍々しいものがないし、外見も普通に可愛い女の子だから、
つい声かけちゃったよ。」
「何、あんた。私の外見を見て、幽霊なのに声を掛けたってわけ?」
「うん。俺自身も驚いてるけどね。」
「あんたねぇ・・・」

私はこの冬秋と言う男に呆れる。普通に可愛い女の子だと、
思ったから、ナンパみたいに感じで声を掛けたって言うわけ?
幽霊の私が言うのも何だけど、頭おかしいんじゃないの?

「ま、さぁ、それにしても、何か他の事でこの世の未練を断ち切って、
成仏出来そうなことないの?
彼氏作るとかは、流石に幽霊の君には無理っしょ?」
「うーん・・・そうよね・・・」

冬秋は、何とも言えない表情の顔で、私に聞いてくる。
私も素直に冬秋の言葉に悩む。いざ自分の事なのに、私は良い答えが見つからない。

「その前にさ、聞きたい事があるんだけど?」
「ん?何?」
「何で、あんたは、そんなに私を成仏させたいわけ?全くの他人でしょ?」
「別に、深い理由なんかないよ?ただの俺の暇つぶし。
でも、それでもいいでしょ?君には悪い話でもないしさ。」

冬秋は、何も悪びれた様子もなく、私の質問に答えた。
暇つぶしで、私が成仏出来るのを助けるって・・・
最近の若い子って、そういうのが当たり前なの?私は理解に苦しむわ。

「あ、誤解しないで欲しいんだけどさ。どの幽霊にもするってわけじゃないからね?
俺は、君だからするわけ。邪悪な幽霊じゃなさそうだし、
可愛い女の子の幽霊だからこそ、助けてあげてもいいかなぁーってね?」
「あんた・・・あんまりふざけたことを言うと、
私、あんたを呪って、取り憑いてやるわよ?」
「あはは。それは勘弁して欲しいね。何にも、俺としては、
悪気なんてないのにさ。」

冬秋は、私のこの言葉に初めて少しだけ笑ってみせた。
私のこの言葉で笑うとか、幽霊の私よりも、この冬秋の方が怖くない?

「まぁ、いいわ。あんたくらい、度胸がなきゃ、幽霊の私と行動とか無理でしょうしね。」
「それはそれは、どうも。」

冬秋は、薄っすらとまだ笑ったままで、目を閉じて、私の言葉に答える。
こいつ・・・本当に20歳なの?この言動はまるでじじいみたい。

「そんで?結局、何か思いつかないの?生きてる間にしてみたかったこととかさ?」
「焦らせないでよ・・・私だって、今一生懸命、考えているんだから・・・」

私は、夏の夜の公園のベンチで冬秋を横にして、必死に考える。
やっぱり、いきなりそんな事を聞かれても困るわ・・・どうしよう・・・
私は、公園にある掲示板に気付き、その掲示板の側に寄り、あるポスターを見た。

「打ち上げ花火大会か・・・思えば、私は打ち上げ花火を、
ちゃんと見たことがなかったかもしれない・・・」
「どうしたの?ん?あ、打ち上げ花火大会か・・・そうだった、
もうそろそろやる時期だっけ?」
「冬秋は、これ見に行ったことあるの?」

私は、掲示板を覗きに来た、冬秋に聞いてみた。冬秋は、つまらなさそうにしながら、
「ないかなぁ。俺、こういう人が集まる場所、嫌いだから。」
と、私に答えた。若い癖に、冷めた男ねぇ・・・

「確実に成仏出来るとは断言出来ないけど・・・
私、この打ち上げ花火大会に行ってみたいかも・・・」

私が冬秋に言うと、冬秋は、意外そうな顔で私を見る。

「こんなのでいいの?別に俺は構わないけどさ。でも、会場とかには、俺は行かないよ?
そのかわりに、よく花火が見える場所は知ってるから、
そこに連れて行くって感じでいい?」
「うん。それでいいわ。」

私は冬秋の提案にすぐに乗った。会場に行っても、花火が綺麗に
見えるわけじゃないものね。
私も幽霊だし、会場に行っても、露店が楽しめたりするわけじゃないんだから、
花火が綺麗に見える場所に行った方がいいわ。

「じゃ、決まりだね。今日は何にも俺の方で準備みたいなのしてないから、
明日、またこの公園に深夜あたり来るよ。そしたら、君もここにまた現れてくれる?」
「私が、何かの弾みで成仏してなければね。」
「ふふ。それでいいよ。じゃ、今日はこれで。」

冬秋は、私と短いやり取りで、明日の約束すると、すぐに姿を消した。
幽霊とこんな約束して、何も疑わずに、すぐに帰宅出来るとか、
私の方が、色々と不安になってくる。
私が明日、現れなかったら、どーするつもりなのかしら?
いや、もしかしたら、私の方が騙されて、遊ばれてたってことも
最悪はあるか・・・
けど、私の心配とよそに、冬秋は次の日も、約束を守り、深夜のこの公園に、
ある人形を持って、姿を出した。

「霊体のままだと、長期の移動って大変らしいって、過去に聞いたことがあってね。
だから、仮初の身体だけど、この人形に乗り移ると言うか、憑依とかって出来る?」

冬秋は、私でも知ってる過去に大ブームを起こした着せ替え人形の
女の子を私の方に向けてきた。
この人形に憑依出来るかと言われても、私もわからないわよ。
でも、やるしかないわよね・・・自分が成仏する為だから・・・

「やれるかわからないけど・・・試してみるわ・・・
そうだ、私が人形に乗り移ったからって、やらしいことを
しようとしたら、容赦しないからね!」
「へいへい。安心してくれ。俺は人形フェチとかじゃないから。」

冬秋は、私の言葉に少し苦笑いをしながら、私に返事をした。

「本当かしら?そのくせ、男なのに、こんな人形持ってるし・・・」
「これは、俺の姉さんのさ。使わなくなったのが、
たまたまあったらから、借りただけだよ。変な疑いは勘弁してくれ。」
「ふーん。そうなの。ま、そこであんたを疑ってもしょうがないか。」

私は、冬秋の言葉を信じてあげることにした。どのみち、私は幽霊なんだから、
冬秋が私を襲おうとしたって無理なんだけどね。
私の方が、冬秋を呪うとかは出来そうだけどさ。
そんな事を考えたりしながらも、私は無事に?冬秋の持って来た、
人形に憑依することが出来た。

「どう?感じは?」
「そうね・・・なんか変な感じとしか今は言えないけど、
霊体のままでいるよりは、安心感?があるかな?」
「なら、良かったよ。霊体のままだと、思念の強い霊体に引き寄せられたり、
時に無理に融合しようとしてくる、危険な霊もいるらしいからね。
こうして、物に憑依してる間は、少しは安心して、移動できると思うよ。」
「と言うか、あんた、なんで、そんなことに詳しいのよ・・・」

私は、冬秋のそんな知識がある方の方が、正直言って、怖かった。
普通の日本男子じゃ、こんな知識ないわよね?
それとも、そういうオカルトじみたの好きな変人?

「ごめん。俺の家は実は寺でね。だから、ちょっとした、心霊に関する知識あるんだ。
こうして、自分が使う事になるとは思わなかったけどね。」
「何よ!あんた、お寺の住職の息子だったわけ?!」
「うーん、息子って言うより、孫かな?俺の爺さんが住職さ。」
「へぇーだから、その若さで変に度胸があったわけね。」
「いやいや、そこは語弊があると思うな。住職の孫が、
全員、俺みたいな感じとかはないよ?」

冬秋は、感心する私に、彼なりに釘を差す。確かに、住職の孫が、
全員、冬秋みたいな変わり者なわけないか。

「よし。今日はやるべきことはやれたし、明日の打ち上げ花火大会に備えて、
俺の家に帰ろうか。」
「変な気持ちのままだけど、あんたの言われた通りにするしかないわね。
と言うか、あんたのおじいさんに頼めば、私は成仏させて貰えるんじゃないの?」

私は、もっともな事を冬秋に聞いたが、冬秋は含みのある意味深な笑いをするだけだった。

「そうかもしれないけどさ。でも、せめて打ち上げ花火を
見た後でもいいんじゃないの?成仏するのはさ。」

私も、冬秋にそう言われて、それもそうかと思い、その年の夏は、
打ち上げ花火が綺麗に見える場所に、冬秋に連れて行って貰い、
見ることになった。
冬秋が、なんだかんだ親切にしてくれるのも不思議なんだけど、
私・・・そう言えば、なんで死んだんだっけ?
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