プロローグ
「ネイル、もしかしてだけどさ・・・」
「その「もしかして」だよ。あの、今日最初に来たおっさんは、
この依頼人から、うまい具合に9つの禁術書の土のアース・リィヴァを
盗んで、とんずらしたわけだ。」
ネイルは呆れたような感じにおどけながら、僕に言う。
やっぱり、そういうことなんだ・・・
「お恥ずかしい話ながら、そうなのです。ギルドから紹介された冒険者と
聞いていましたので、安心してしまい、一緒に土の禁術書を、
土の神殿に持っていく途中で、こんな事になってしまいまして。
今思えば、途中、ギルドに寄りたがらないし、おかしいとこもあったのですが・・・
私が別の用事で、この町のギルドにちょっと行ってた隙に盗まれまして・・・
私が宿屋に帰ってきた時には、本も彼の姿も無くて・・・」
「あんたにとっては、災難だったな。俺も、こんな事になるとは思わなかったからな。
あの時に、あのおっさんの本を確認しておけば、良かったぜ。
悪い事をしたな。そうしてれば、すぐにあのおっさん捕まえられたんだが。」
「いいえ。こんな事態は誰だって想像出来ませんよ。」
ネイルは、最初のあの男の人にした、自分の対応を少し後悔しているみたい。
うんうん、少しはそれで反省してくれればいいんだよね。
ネイルがあの時に、面倒臭がらないで、やる事をしていれば、
もっと早くに解決出来た事件?かもしれなかったんだから。
未然に防げたかもしれないからこそ、ネイルも反省して、
今回のこの仕事を引き受けるつもりなのかな?
「でも、まずはあんたに確認したいんだが。」
「何でしょうか?」
「9つの禁術書は、基本はある場所に保管されてるはずだ。
なのに、何で今回は土の神殿に持っていく必要があったんだ?」
「それは、今回は土の神殿で、大神官様がある儀式の為にお使いになるので、
私が、聖星団からお借りし、運ぶ手筈になってました。」
「ある儀式・・・か。そろそろ、土神の鎮魂祭の儀式か・・・
あるいは、新しい大神官への昇格の儀式あたりか?」
「流石、ネイル殿ですね。そちらの事情にもお詳しいと
聞いていましたが。ここまでとは、恐れ入りました。」
「いや、大したことない。調べる気になれば、すぐわかることだろ。」
「ご謙遜を。けど、そこまで言われてしまったので、はっきり申し上げますが、
新しい大神官への昇格の儀式の為に今回使われる予定でございました。」
「やっぱり、そっちの方面の問題そうだな。今回の件は。」
「出来るのであれば、そうなって欲しくなかったのですが。
だから、私だけで、内密にあの本を運ぶ予定でいたのに・・・」
「万全を期したつもりでも、権力に目の眩んだ奴は、何をするかわからないもんさ。
一部のギルド組合員を買収することだって、出来る程の奴かもしれないならな?」
「本当に、同じ神官として、お恥ずかしい限りです。エンガイスが過去よりは
平和になったとは言え、未だに、こうした人間の醜い権力争いは減りませんからね。」
「ふっ。それは無理だろうな。平和だからこそ、戦いが出来ない分、
権力を求めるんだろな。」
「ネイル殿は、そのお歳でそこまで理解されているとは。恐れ入ります。」
「おい、やめてくれ。これは、師匠の受け売りの言葉なだけだ。」
ネイルはエネスさんと、僕のついていけない話で盛り上がる。
僕はとりあえず、大人しくして、ネイル達の会話を引き続き聞く。
「それで、失礼なのを承知して、早急に取り返したいのですが、
可能でしょうか?」
「んー何か手がかりが欲しいとこだな。エネスは、あのおっさんと
旅をしてる間に、何か聞けたことはないか?
どこかの地名とか、人の名前らしきものとか?」
「うーん、そうですね。彼の名前は、本名じゃないと思いますが、
バドと名乗ってました。
自身の出身地は、ロヴァールとか言ってましたね。
後は特に・・・なんせ、彼も早くにも土の神殿に行きたがってた印象しか・・・」
「そうか。なら、あのバドとか言うおっさんの本当の依頼主は、
土の神殿内部にいるのかもしれないな。」
「私も、それしか考えられないと思ってます。」
「エネスから見て、こんなことをしそうな相手に心当たりがありそうだな?」
「はい。今は大神官補佐の1人である、ガドールくらいしか、考えられません。
土の神殿に来た当初から、野心が凄いと噂の男でしたし、私を含め、
多くの神官達に牽制してくる程の奴でしたから。
過去に親族が土の大神官をしたこともあると言うのが自慢な男で、
だから、いずれ自分も大神官になってもおかしくないのだと言ってました。」
「そりゃ・・・また。過去の威厳を自慢する馬鹿タイプか。
面倒なんだよな。その親の七光りみたいなのを自慢する馬鹿って。」
「はい。確かに相手にするには、骨が折れる相手かもしれません。
人の話を聞くのも好きじゃないですからね。あの男は。」
エネスの話を聞いて、嫌そうな顔するネイルに、エネスも一緒になって、
うんざりとした顔をしている。
これは、僕が思っているよりも、複雑な事件なのかもしれない?
「この調子だと、ここで悩んでいるよりも、早く行動した方が良さそうだ。
エネス、自分の荷物を持って来て、この家に戻ってきてくれ。
それから、ラリイは、旅の準備を急いでしろ。俺もするから。」
「わ、わかったよ!ネイル!」
「承知しました。ネイル殿。では、一旦、私は宿屋に帰りますね。」
「じゃあ、一時解散だ。」
ネイルが椅子から立ち上がると、僕とエネスさんも立ち上がって、
各自がそれぞれの行動をする。
僕は、一応は昨日のうちから軽く準備はしてあったんだよね。
依頼人さんが変わってしまったけど、最初に来た、あの男の人に問題が無かったら、
あの人とで仕事する予定ではあったから。
「ラリイ。」
「ん?何?ネイル?」
「あんまり、荷物はいっぱいにするなよ?今回は場合よっては、
すぐ解決するかもしれないからな。」
「そうなの?わかった!そうするよ。」
「全く。ラリイはガキだよな。いちいち、こんな基本的な事を
俺が毎度、教えなきゃならないんだから。」
ネイルは僕に意地悪な顔をして、わざと言ってくる。
僕からしたら、毎度そうやって言ってくるネイルの方が、子供じみてると思うけど。
でも、口答えは僕はしない。ネイルを変に不機嫌にさせても、
僕には良い事ないからね。
「はいはい。どうせ、僕はまだまだ未熟者だから、ネイルの助言はしっかり聞くよ。」
「ふん。そんなの当たり前だ。じゃなきゃ、お前の面倒なんか
見てやるか。
そんじゃ、さっさと支度しろよ。」
ネイルは、僕が反発してこないのがつまらないのか、プイっと
顔を背けて、自分の部屋に向かった。
こんな性格だから、ネイルと仕事を組んだ人で、長続きした人が
いないなんて言われちゃうんだよ。
そりゃ・・・ネイルから見たら、僕なんて、ガキに見えちゃうかもしれないけどさ。
「でも、ネイルみたいな意地悪なことは、僕はしないもんね。」
ネイルに聞こえないように、僕は静かに小さい声で言った。
そんなネイルだけど、最初に一緒に暮らしてた2、3ヶ月は、
別に普通だった。
今でこそ家事全般は僕の仕事になっちゃったけど、最初は
ネイルが食事を作ってくれたりもしてたんだよね。
それから実は、僕は読み書きもネイルに教えて貰ったりもしてるんだ。
僕が学校?って言う所に行ってないって言ったら、凄い顔された
記憶がある。
ネイルからしたら、学校に行ってない僕は珍しい存在だったみたい。
読み書きが出来るようになってから、僕はネイルと、ギルド組合に
一緒に行って、仕事人の登録したんだ。
そういう恩も一応あるから、僕はネイルに意地悪されても、
大嫌いにはなれないんだよねぇ・・・
「その「もしかして」だよ。あの、今日最初に来たおっさんは、
この依頼人から、うまい具合に9つの禁術書の土のアース・リィヴァを
盗んで、とんずらしたわけだ。」
ネイルは呆れたような感じにおどけながら、僕に言う。
やっぱり、そういうことなんだ・・・
「お恥ずかしい話ながら、そうなのです。ギルドから紹介された冒険者と
聞いていましたので、安心してしまい、一緒に土の禁術書を、
土の神殿に持っていく途中で、こんな事になってしまいまして。
今思えば、途中、ギルドに寄りたがらないし、おかしいとこもあったのですが・・・
私が別の用事で、この町のギルドにちょっと行ってた隙に盗まれまして・・・
私が宿屋に帰ってきた時には、本も彼の姿も無くて・・・」
「あんたにとっては、災難だったな。俺も、こんな事になるとは思わなかったからな。
あの時に、あのおっさんの本を確認しておけば、良かったぜ。
悪い事をしたな。そうしてれば、すぐにあのおっさん捕まえられたんだが。」
「いいえ。こんな事態は誰だって想像出来ませんよ。」
ネイルは、最初のあの男の人にした、自分の対応を少し後悔しているみたい。
うんうん、少しはそれで反省してくれればいいんだよね。
ネイルがあの時に、面倒臭がらないで、やる事をしていれば、
もっと早くに解決出来た事件?かもしれなかったんだから。
未然に防げたかもしれないからこそ、ネイルも反省して、
今回のこの仕事を引き受けるつもりなのかな?
「でも、まずはあんたに確認したいんだが。」
「何でしょうか?」
「9つの禁術書は、基本はある場所に保管されてるはずだ。
なのに、何で今回は土の神殿に持っていく必要があったんだ?」
「それは、今回は土の神殿で、大神官様がある儀式の為にお使いになるので、
私が、聖星団からお借りし、運ぶ手筈になってました。」
「ある儀式・・・か。そろそろ、土神の鎮魂祭の儀式か・・・
あるいは、新しい大神官への昇格の儀式あたりか?」
「流石、ネイル殿ですね。そちらの事情にもお詳しいと
聞いていましたが。ここまでとは、恐れ入りました。」
「いや、大したことない。調べる気になれば、すぐわかることだろ。」
「ご謙遜を。けど、そこまで言われてしまったので、はっきり申し上げますが、
新しい大神官への昇格の儀式の為に今回使われる予定でございました。」
「やっぱり、そっちの方面の問題そうだな。今回の件は。」
「出来るのであれば、そうなって欲しくなかったのですが。
だから、私だけで、内密にあの本を運ぶ予定でいたのに・・・」
「万全を期したつもりでも、権力に目の眩んだ奴は、何をするかわからないもんさ。
一部のギルド組合員を買収することだって、出来る程の奴かもしれないならな?」
「本当に、同じ神官として、お恥ずかしい限りです。エンガイスが過去よりは
平和になったとは言え、未だに、こうした人間の醜い権力争いは減りませんからね。」
「ふっ。それは無理だろうな。平和だからこそ、戦いが出来ない分、
権力を求めるんだろな。」
「ネイル殿は、そのお歳でそこまで理解されているとは。恐れ入ります。」
「おい、やめてくれ。これは、師匠の受け売りの言葉なだけだ。」
ネイルはエネスさんと、僕のついていけない話で盛り上がる。
僕はとりあえず、大人しくして、ネイル達の会話を引き続き聞く。
「それで、失礼なのを承知して、早急に取り返したいのですが、
可能でしょうか?」
「んー何か手がかりが欲しいとこだな。エネスは、あのおっさんと
旅をしてる間に、何か聞けたことはないか?
どこかの地名とか、人の名前らしきものとか?」
「うーん、そうですね。彼の名前は、本名じゃないと思いますが、
バドと名乗ってました。
自身の出身地は、ロヴァールとか言ってましたね。
後は特に・・・なんせ、彼も早くにも土の神殿に行きたがってた印象しか・・・」
「そうか。なら、あのバドとか言うおっさんの本当の依頼主は、
土の神殿内部にいるのかもしれないな。」
「私も、それしか考えられないと思ってます。」
「エネスから見て、こんなことをしそうな相手に心当たりがありそうだな?」
「はい。今は大神官補佐の1人である、ガドールくらいしか、考えられません。
土の神殿に来た当初から、野心が凄いと噂の男でしたし、私を含め、
多くの神官達に牽制してくる程の奴でしたから。
過去に親族が土の大神官をしたこともあると言うのが自慢な男で、
だから、いずれ自分も大神官になってもおかしくないのだと言ってました。」
「そりゃ・・・また。過去の威厳を自慢する馬鹿タイプか。
面倒なんだよな。その親の七光りみたいなのを自慢する馬鹿って。」
「はい。確かに相手にするには、骨が折れる相手かもしれません。
人の話を聞くのも好きじゃないですからね。あの男は。」
エネスの話を聞いて、嫌そうな顔するネイルに、エネスも一緒になって、
うんざりとした顔をしている。
これは、僕が思っているよりも、複雑な事件なのかもしれない?
「この調子だと、ここで悩んでいるよりも、早く行動した方が良さそうだ。
エネス、自分の荷物を持って来て、この家に戻ってきてくれ。
それから、ラリイは、旅の準備を急いでしろ。俺もするから。」
「わ、わかったよ!ネイル!」
「承知しました。ネイル殿。では、一旦、私は宿屋に帰りますね。」
「じゃあ、一時解散だ。」
ネイルが椅子から立ち上がると、僕とエネスさんも立ち上がって、
各自がそれぞれの行動をする。
僕は、一応は昨日のうちから軽く準備はしてあったんだよね。
依頼人さんが変わってしまったけど、最初に来た、あの男の人に問題が無かったら、
あの人とで仕事する予定ではあったから。
「ラリイ。」
「ん?何?ネイル?」
「あんまり、荷物はいっぱいにするなよ?今回は場合よっては、
すぐ解決するかもしれないからな。」
「そうなの?わかった!そうするよ。」
「全く。ラリイはガキだよな。いちいち、こんな基本的な事を
俺が毎度、教えなきゃならないんだから。」
ネイルは僕に意地悪な顔をして、わざと言ってくる。
僕からしたら、毎度そうやって言ってくるネイルの方が、子供じみてると思うけど。
でも、口答えは僕はしない。ネイルを変に不機嫌にさせても、
僕には良い事ないからね。
「はいはい。どうせ、僕はまだまだ未熟者だから、ネイルの助言はしっかり聞くよ。」
「ふん。そんなの当たり前だ。じゃなきゃ、お前の面倒なんか
見てやるか。
そんじゃ、さっさと支度しろよ。」
ネイルは、僕が反発してこないのがつまらないのか、プイっと
顔を背けて、自分の部屋に向かった。
こんな性格だから、ネイルと仕事を組んだ人で、長続きした人が
いないなんて言われちゃうんだよ。
そりゃ・・・ネイルから見たら、僕なんて、ガキに見えちゃうかもしれないけどさ。
「でも、ネイルみたいな意地悪なことは、僕はしないもんね。」
ネイルに聞こえないように、僕は静かに小さい声で言った。
そんなネイルだけど、最初に一緒に暮らしてた2、3ヶ月は、
別に普通だった。
今でこそ家事全般は僕の仕事になっちゃったけど、最初は
ネイルが食事を作ってくれたりもしてたんだよね。
それから実は、僕は読み書きもネイルに教えて貰ったりもしてるんだ。
僕が学校?って言う所に行ってないって言ったら、凄い顔された
記憶がある。
ネイルからしたら、学校に行ってない僕は珍しい存在だったみたい。
読み書きが出来るようになってから、僕はネイルと、ギルド組合に
一緒に行って、仕事人の登録したんだ。
そういう恩も一応あるから、僕はネイルに意地悪されても、
大嫌いにはなれないんだよねぇ・・・
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