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第3章「混濁するモノたち」

「なんとも・・・そういう話であったのか・・・宮部・・・
無理をして、重い病に罹り、結局は、この本を死ぬ最後には
触ることも出来ずに亡くなるとは。
まるで、この本の・・・いや、妾の人生のようではないか・・・」

女の霊は、四四の報告を聞いて、何か思うところがあるようで、
宮部と言う男に、深く同情していた。
この女の霊は、自分と何か境遇が似ている宮部と言う男を愛してしまったのだろう。
だからこそ、蔵にしまわれたのはいいが、その後、宮部が一切姿を見せない事で、
裏切られたと感じ、激しく憎悪する結果になってしまった感じか。
うーん、女心と言うのは、霊と言う存在になっても、複雑なモノらしい。
俺が、俺なりに悩んでいると、女の霊は、四四に感謝していた。

「四四とやら、本当に妾の為に調べ上げてくれて、感謝するぞ。
妾は、これで思い残すことは何もない。今まで、この本にとり憑き、
永い時を共にしたが、それも潮時であろう。
四四であれば、今後はこの本を妾の様に大事にしてくれようぞ?」
「はい。私の身体の一部の様に大事にさせて頂きます。」
「そうか・・・なら安心じゃ。では、世話になったの・・・」
「はい・・・安らかに、お休みなさい。」

「禁断の本」から、女の霊の執念は綺麗に消え、四四は静かに、
女の霊が成仏していくのを見守った。
俺達も、薄っすらとではあるが、女の霊が、無事に成仏したと言う気配は感じた。
もう「禁断の本」からは、禍々しいものは感じなくなった。
トワは、初めての経験に、ぼけーっとしてしまっている。
そりゃ・・・こんな経験をしたら、一時的に腑抜けになっても、
仕方がないかもしれないな。
俺も、四四と初めて出会い、こういう仕事を手伝った時には、
トワほどは、酷くなかったとしても、何か考えさせられるものがあったからな。

「はぁー。これで何とか無事に解決出来ましたね。」
「ああ、そのようだな。」

身体を伸ばしながら、四四は俺とトワを見ながら、話をする。
俺も欠伸をしてしまいそうになるのを堪えて答えた。
女の霊が無事に成仏して、俺達が落ち着いた頃には、朝の8時近くになっていた。
俺達は、住職がいる自宅の方に、事の報告をして、無事に問題が
解決したことを話すと、住職は大喜びをして、俺を抱きしめて来た。
おいおい・・・俺は男に抱きしめられて喜ぶような本じゃないんだが。
それを見た、住職の娘が、父である住職に怒ってくれて、
俺は何とかすぐに解放されることが出来た。
その後で、住職はあの「禁断の本」を始め、いわくありげな本や書物を、
大量に、無料で俺達に譲ってくれた。
まじかよ?ほとんどが、最上級の「特殊な本」だぞ?本当にいいのか?
俺が申し訳なさそうな顔をしていると、四四が俺の耳元で囁いた。

「気にしなくていいんですよ。お寺では祓いきれないから、私が貰い受けるんです。
向こうとしては、本来は祓い料を出すとこなんですが、
私が無料で全部貰いますって言ったから、お金がかからず済んで、
大喜びされてるんです。お互いwin-winの関係なんですから。」
「そ、そういうものなのか?本当に四四はやり手だな。昔から。」
「そうですか?」

情けない顔をしているであろう俺が、四四にそう言うと、四四は、
俺の言葉に不思議そうにしていた。
欲があるのか、ないのか。四四には、そういう所があるな。
トワの方はと言えば、四四の仕事が済んだことを、ウキウキした気分で、
二四達にメールで報告しているようだった。
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