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第9章「交錯しあう気持ちと確認」

俺はモリヤ教授に会っていた。
もちろん誘拐事件はあっさりと解決している。
モリヤ教授の娘は、場末のバーに拉致られていたがそれを俺が難なく救い出し、
娘は今はモリヤ教授の奥さんに見守られながら、自宅のベッドに寝ている。
と言うか、俺が能力を使って寝かせたのが正しいんだけどな。
起きてて色々と目撃されては困ることもあるからな。
助け出してくれた俺の顔さえ覚えてないだろう。
いきなり誘拐されて、どこかのバーに連れ込まれ、気付いたら助かってるって感じだろうから、
本人は何が何だか理解出来ずにしばらく悩むかもしれないが、
そんな誘拐されたことはさっさと忘れてくれるといいけどな。
それが何よりも本人の為だ。

「こんなにも早く娘を救い出してくれるとは思いませんでした。
噂は本当だったみたいですね。
助かりました。それで報酬の話なんですが・・・
本当に私の最近書いた手書きの論文だけで良いのですか?」
「ええ。上の人間からはそれで話がついていると聞いてますのでそれで大丈夫です。」
「貴方に個別に報酬を渡すことはしなくていいのですか?」
「必要ありません。俺はあの事務所に所属する人間なので、
後で事務所から手当でも出るくらいでしょう。所長が気前よくはずんでくれたらですが。」

俺が冗談を言いながら笑顔でモリヤ教授に言うと、モリヤ教授は安堵した顔になり、
俺に感謝し始めた。

「ああー助かりました。お恥ずかしい話ですが、いくら有名な大学の教授をしているとは言え、
お金に余裕のある暮らしをしているわけではないので・・・
それにこれで警察沙汰になれば、被害者と言っても私の大学内でのイメージも悪くなるし、
心底困っていたとこだったのです。」
「お役に立てたのなら何よりです。後、お互いの為にもこの事はぜひ内密にお願いします。」
「わかってますとも!絶対に誰も言いません。妻や娘にも余計な事は言いません。」
「それでお願いします。娘さんは俺の顔も覚えてないと思うので、
今回のことを詮索しようにも出来ないとは思いますが。」
「娘には余計なことはさせません。誓います。」

モリヤ教授は俺の手を握り、熱い目で誓ってくれた。
これなら大丈夫そうか?俺は何となくモリヤ教授の人柄を見て、
安心出来る気がした。
ジェシーが好きになる人物だしな・・・芯は悪い人間ではなさそうだ。

「あの今一度確認したいのですが、その論文をお渡しはするんですが、
この研究を学会に発表したら駄目だとか、そういうことはないんですよね?」
「はい。そこは何も問題ないです。うちの所長は変わり者でして。
有名な大学の教授の論文とか趣味で集めたりして、個人でひっそり楽しむのが趣味なんですよ。
だから教授の研究を学会に発表したらいけないとか、
そういうのは全くありません。」
「へぇ・・・それは変わったご趣味の方ですね。」
「ですよね?だから時々ですが、凄く戸惑われる方も居て、
俺も報酬を貰う時に困ることもあります。あはは。」

俺は苦笑いしながら、モリヤ教授の顔色を窺った。
普通なら問題を解決したなら金銭や金目の物を欲しがるもんだよな?
なのに論文が報酬で良いと言うのも変わってる。
だから時たま変にこちらを詮索してくる者も稀にいるのだ。
そんな相手の時は、あれこれ説明するのが面倒で俺も苦手なんだが、
モリヤ教授は変に俺に疑う事もなく、感謝してくれるだけで終わった。
さてと事務所に帰ったら、この論文を7冊目に届けなきゃか・・・
今日も俺で遊ぼうとしなければいいんだけどな。

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