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プロローグ

夕方4時くらいになり、俺は、査定が終わったことを、女に伝えた。
女は、驚いた顔をしつつも、思ったよりは、早く俺の仕事が
終わったことに満足しているみたいだ。
俺の希望していた買取金額で女もあっさりと合意してくれた。
後は、さっさと俺の車に本を積み込んで終わりだ。

「本堂さんも、やっぱり本は大好きなんですか?」

女は突然、作業中の俺にこんな事を聞いてきた。
別に、こういう仕事をしていれば、何にも珍しくもない質問であったが、
女の顔は、手放すのを決めたと言え、祖父の本から離れるのが、
寂しいのであろう。
少し悲しそうな笑顔で俺に聞いてきた感じであった。
俺は、女に心配に変な心配はさせまいと、いつもの冗談を言う。

「はい!本は大好きですよ!大好き過ぎて、読むだけでは飽き足らず、
「食べて」しまいたくなるほどです。」
「うふふ。本堂さんって、面白い冗談言う方なんですね。」
「あはは。良く言われます。でも、その分、大事に扱わせて貰いますので。」
「そうですか・・・こんな事を言うのは、変かもしれないんですが、
祖父の本・・・よろしくお願いします。」
「はい。任せて下さい。」

俺が、そう笑顔で言うと、女は安心したようだ。
女も事情が事情であるなら、本当は売りたくないのだろうな。と、
俺はこの時に察した。
だが、ここで、やっぱり売るのを止めますと言われるのは困る。
今日は豪華な夕食にありつけそうなのだから。
俺は、そうならないように、さっさと買い取った本を車に乗せ、
女の家から撤退した。
こういう時に、もたもたしていると良い事がないのは、経験上でわかる。

「あー言う女に限って、やっぱり、この本だけは、売りたくないとか、
言い出すんだよな。そんで、そういう本に限って、「特殊な本」
だから困るんだよ。
ま、そう言い出される前に消えるのが一番だな。」

俺は車の中で1人本音を呟いていた。
過去に1人だけ、しつこく買戻しを願ってきた女が居たのを
思い出して、俺は苦い顔になった。
その女は自分の父の本を、俺に売ってきた。いい感じの「特殊な本」だったので、
俺は喜んで、すぐに買い取り、その日に喜んで食べてしまったのはいいのだが、
後日になって、やっぱり買い戻したいと、しつこく言われるとは
夢にも思っていなかった。
何度も、買い戻しは無理だと断ったのだが、諦めてくれずに、しまいには、
こっちで裏で処理するしかなくなった。

「あの時は、仕方がなく、自分の姿と、自宅も変えたんだよな。
本当に面倒だったな。
今回もあんな事にならないように、数日は様子見るべきか?」

俺はそれを思い出して、豪華な夕食にしようと思っていたのを、
思い留まることになってしまった。
とりあえず、美味そうな本はあるから、上級品は諦めて、そちらから食べるか。
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