「お帰りなさいませ。ナイン様。」
「お帰りなさい！ナイン様！」

私が自分の家に帰ると、２冊の自分の眷属に出迎えられる。
彼らの名前もノウェムとヴァンダムだ。
しかし名前は一緒ではあるが、本自体が違うので、外見、性格も今とは全く違う。
現在の彼らとは別人と言うべきかしらね。
過去の兄達と言うべき存在かしら？

「あら？ファウヌスはどうしたの？」

私はもう１冊の眷属が居ない事に気付き、ノウェム達に聞く。
彼らは顔を合わせて、少し気まずそうにしたがすぐに答える。

「あの・・・ファウヌスは、食事を調達に行きました。」
「食事を？私はお金などは渡してないわよね？どうやって？」
「そ、それが・・・俺達にも詳しくは・・・」
「ふぅ・・・人間の女を騙してかしら？あの子は・・・」

ノウェムの報告を聞き、私は顔を歪めた。
そんな私を見て、ノウェムもヴァンダムも冷や汗を流したような顔をして黙った。
私の機嫌がこれ以上悪くならないようにする為に余計なことは言わない。
この頃の私は、自分の眷属は召使程度にしか思っていなかった。
だから、機嫌を損ねるようなことをすれば、食事を抜いたり、
罰として今では信じられないような酷いこともしたこともあったくらいだった。
この頃は愛情のある育て方とは無縁だったのよね・・・
セブンと一緒にアメリカに渡ったばっかりなのもあるし、
自立したばかりもあって、私は自分の事で手一杯だった。
それでも、２冊目よりはマシに扱っていると思い込んでいたくらい。
今の私なら、なんて最低な事をしていたのだろうと思う。
彼らの信頼してくれる気持ちを大切にせずに、利用していただけだったのだ。

「まぁ、いいわ。ファウヌスには帰ってきたら、私がどうやって食事を調達する気だったのか聞くわ。
前と同じなら、人間の女を騙して、金か本そのものを騙し取ったりするんでしょうし。
変なとこは私に似るのね・・・」
「俺達はナイン様に指示されない限りは勝手なことはしません！」
「そうです！そんなことをしてるのは、ファウヌスだけです！」
「はいはい。わかってるわ。ちょっと大人しくしなさい。うるさく騒がないで。」
「すいません。ナイン様。」
「ごめんなさい・・・。」

ノウェムとヴァンダムは、イラっとした私に恐縮してまた黙った。
それから、１時間後くらいにファウヌスはあり得ないほどの量の本を持って帰ってきた。
本の数だけでなく、質も悪くなかったので、私もノウェム達も心底驚いた。
これだけの量の本を買うのなら、相当のお金が必要なはずね。
でなければ、よっぽど金持ちの相手を上手に騙して、貰い受けたに違いない。
ファウヌスは、ノウェムやヴァンダムよりも後に生まれた眷属なので、
まだまだ未熟だと思っていたが、この成果に私は怒るどころか、喜んでしまったのだ。
どうして、あの時にもっと疑って、ファウヌスを問い詰めなかったのだろうか。
この時にそうしていれば、後の最悪な事態を回避出来たかもしれないのに。
私は過去の自分の浅はかさを恨んだ。