「僕といつか結婚して下さい！僕が１人前になって、貴女に相応しい男に必ずなりますから！
そしたら絶対に！」
「あら？」

私はある少年に背後から、そう叫ばれて、軽く驚きながら振り返った。
そこには真剣な眼差しで、私を見つめる少年がいた。
その時の私は、当時の夫である、フログベルデ家の当主だったフィルが寿命で亡くなったので、
フログベルデ家を出るとこだった。
ノウェム達の勧めで、遺産相続の問題に巻き込まれないようにする為にね。

「君、お名前は？」
「僕はオスカーと言います。」
「オスカー・・・あ、フィルの孫の１人の？」
「はい。」
「あらあら♪嫌だわ♪そんな若い君が、将来の結婚相手に私なんかを選ぶの？
君が私と結婚出来る歳になる頃には、私なんて、おばあちゃんかもしれないのよ？それでも？」
「構いません。だって、貴女は女神か何かなんでしょ？」
「え？」

私は突拍子もない事を言う、少年オスカーに目を丸くした。
何を言い出すのかしら？この子は。私が女神？
それだけ美しいと褒められているのなら悪い気はしないのだけれど・・・
この子の顔は、そういう意味で言ってるんじゃなさそうだった。

「どうして、私が女神か何かだと思うの？」
「僕は・・・実は見たんだ。貴女が本の姿になったり、逆に本の姿から人に戻るのを・・・」
「？！！！」

私は少年オスカーの言葉を聞き、すぐに周囲を気にした。
幸い周りには誰も他の人間はいなかった。
そして、彼を連れて、すぐに人気のない場所に移動することにした。
嘘・・・この子にそんな場面を見られていたの？！
当時の私は偉く動揺した記憶がある。
今思えば、こんな出来事もあったからこそ、忘れられない１日になったとも言えるのよね。
長い人生を生きてきて、人間にそんな姿がバレたことは無かったのに。
まさか、こんな少年にバレる日がくるとは夢にも思っていなかった。

「本とかに化けたりするような女を、君は女神とかだと思うの？」

私は周りを気にしながら、低い声で少年オスカーに聞いてみた。
普通は気味悪がって、怪物とかそっちの存在だと考えると思うのだけれど、
少年オスカーは違ったようだった。

「僕にとっては貴女は女神様だと思ってるよ。美しい姿に声に、
それにおじい様にだって、あんなに優しかった。
僕も貴女と何度かお茶したりしたけど、いつも楽しい時間だと思ってた。」
「ま・・・そんな風に思ってくれていたの？」
「うん。だから、絶対に手放しちゃいけないと感じたんだ。
僕の今後の将来に、貴女は絶対に必要だって！！」

そう言うと少年オスカーは、情熱的に私の手を握る。
あらま。こういうとこは、祖父のフィルにそっくり・・・かしら？
けれど、彼はまだ幼さすぎる。と私は正直にそう思った。
幼いからこそ、何かに妄信して、私を愛してしまったのではないかと私は考えたのだ。
私はこの少年の行動にどう対応しようか迷う。
きっと今までの私なら、出来る限りの能力を使って、この少年の記憶から、
私と言う存在だけを消して、二度と目の前に現れることはなっただろう。
なのに、この当時の私はそれをしなかったのだ。