「では、その件で犯人扱いされたことがやっぱり未練で、
この会社の屋上で自殺か何かされてしまって、八百代さんは
地縛霊になってしまったと言う事ですか？」

私は八百代の話を最後まで聞いて、率直にこう質問した。
八百代は、私の質問に再度困惑した顔になりはしたが、首を横に振って否定した。

「いえ。私はこの会社で自殺して、地縛霊になったわけではありません。
貴女とこうして話していて、思い出したんです。
私は突然、この会社に縛り付けられてしまったのだと。
私自身が地縛霊になりたくてなっているわけではなかったのです。」
「え？そうだったのですか？！」

私は八百代の言葉に驚き、目を丸くしてしまった。
つまり、私と会話したことで、曖昧だった自分の記憶を取り戻せたと言う事だろうか？

「では、八百代さんは別のとこでお亡くなりになったと？」
「はい。私はこの会社の警備を強制的に退職させられてから、
１か月後に海外から帰ってこられた、肆方院様に同情して頂き、
新しい仕事と支援金を頂いたのです。
おかげで病だった母は病院で安らかに息を引き取り、妹は高等学校を卒業した後に事務職につき、
1人立ちも出来るようになりました。
それに安心してしまった所為なのか、今度は私が病に罹ってしまって・・・
それで私は、闘病生活をしたのですが、最後は母と同じ病院で亡くなりました。
妹を1人、この世に残すことになってしまったのは悔やまれますが・・・」
「まぁ・・・」

私は短く、それだけしか言えなかった。不運なことがあったとは言え、
また新しい人生を歩もうとした矢先に病気で亡くなってしまったとは。
何とも悲しい話だ。だが、かと言って変に慰めの言葉をかけることも出来ず、
私は黙ってしまった。全くの他人の自分が何と言葉を掛けてあげればいいのだろうか・・・
私は軽率な言葉だけはかけたくはなかった。
四堂と仲が良かった人だったから。

「皮肉ですよね。肆方院様にも、最後まであんなにも良くして頂いたと言うのに。」

八百代はそう言いながら、虚しい感じに苦笑いをして私を見た。
私は弱々しく笑う八百代の笑顔に心が痛む。

「でも、だったとしたら、どうして貴方はここに縛られてしまったのでしょうか？
病院で亡くなられたはずなのに・・・」
「それですが・・・もしかしたらと思うところがあります。」
「原因がわかるんですか？」

私は意外にも八百代が、自分が地縛霊みたいになってしまった要因に、
心当たりがある事にびっくりした。

「なんとなくなのですが、私は木本に怨念？と言うのか、
執念みたいなものに引き寄せられてしまったと思うのです。
自分ではこの場から動けずに、確認しようがないのですが、この会社からは、
木本の気配を感じる気がするのです。
貴女は、私と会う前に、私以外の何か存在に会ってませんか？」
「も、もしかして・・・あの人型の影みたいな存在？」

木本に言われて、私は地下室で出会った、あの人型の影の敵を思い出した。
あれがもしかして、八百代の話に出てきた、木本と言う男なのだろうか？
だったとしたら、木本は言う男は間違いなく怨念によって、姿が変わってしまっている。
人の言葉も話せないほどにだ。
私はこの話の流れで、次にしなければいけないことが、はっきりした気がした。