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プロローグ

昼になる前には、俺の仕事は終わっていた。
だが、こういう仕事の場合は、あまりにも早いと、変に勘ぐる人間もいるので、
俺は夕方になるちょい前になったら、あの女に声を掛けて、
買い取りの交渉をして、さっさと引き上げようと思った。
が、とりあえず、再度、仕分けした本を見直すことにした。
この仕事をして気をつけなければならないことが数点ある。
まず、食事として上級品な本が、必ずしも市販されている本とは
限らない場合だ。
稀にだが、個人が書いた日記などが、作り手の執念などで、
「特殊な本」になったりもする。
そんなものに高額な値段をつければ、普通の人間なら怪しむ。
逆に、著名人な作家の本に全く値段がつかないのもまた怪しまれる。
そうした矛盾が起きないように、しっかりチェックは必要だ。
今では、そういうヘマはしなくなったが、日本に来て、まだ、
飯探しが不慣れだった時には、ヒヤッとした経験もしたものだ。
この手の仕事で、悪い噂は、最近では特に命取りになりかねない。
古本巡りで、飯探しも悪いものではないが、やっぱり、大量に
飯を用意したい時には、こういう仕事が一番効率がいい。
今回は当たりなのもあって、買い取りが上手くいけば、最悪は、
1年くらい飯探しをしなくてもいいかもしれない。
何より嬉しいのは、程よい力を宿した「特殊な本」が、10冊以上は
あることだ。
これはそういう意味では、大当たりかもしれない。
上巻クラスの奴に見つかる前に、「特殊な本」で自分の力を上げて、
おかないとならないのだ。
本喰人は、共喰いをすることもある種族だ。
本喰人は、自分の基礎となる本に、他に自分の力を保つ為の多くの本を所持している。
自分の基礎となる本が、敵に喰べられれば、消滅する。
人間で言うとこの死だ。
だが、自分の力を保つ本が奪われ喰べられた場合は、力が弱まるだけで済む。
なので、基礎になる本をすぐに喰べられないようにするには、
自分の力を保つ為の本を多く所持する必要がある。
それから、外見は人間の身体のように見えるが、本質的なものは全然違う。
人の様な姿にもなれるし、本の姿にもなれる。
本の姿は変わることがあまりないが、強力な力を持つ「特殊な本」を
喰べた場合は、副作用として、人の姿に変化が起こる場合がある。
俺は今は20代後半の日本人の男に近い姿をしているが、
副作用を起こす本によっては、子供になったり、老人になったり、
時に性別すら変わる。
そこまでの変化を起こす、「特殊な本」もあるからこそ、
強力だからいいと言うわけではないのは、それが理由だ。
本喰人にとって、そう外見がコロコロ変わるのは、俺達は何も感じないが、
人間に関わって暮らしているとそうも言っていられない。
飯を探すのに、やっぱり人間と全く関わらないでいると言うのも不便なのだ。
過去には、本喰人と人間が愛し合って暮らしていたと言う話も
あったらしいが、俺はそれは特殊な話すぎて、信じていない。
人間に、こんな俺達の存在が理解できるとは思えないからだ。

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