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第7章「思い出していくほどに・・・」

朝方になって、十は俺と別れて、また東京でしたい仕事などをこなすようだ。
いつもなら、忙しい身である十がよく昨日はあんなにも会話に付き合ってくれたと、
俺は最後に感謝の言葉を伝えた。
十はそんなに俺に気持ちよく笑って言う。

「自分も十二には感謝してるよ。本音を言うと自分は心配な面もあったんだ。
初版本世代に近い十二になった時に、自分達を裏切るような最悪な事態には
ならないかなってね。
でも、今回の話し合いで、それがないことは大いに分かったし、
自分の事も話せたから、嬉しかったよ。
同じ中巻クラスの本喰人と仲良くなれる機会もこれまでは無かったからさ。」

十は、最後の言葉を言う時だけ、少し悲しそうな笑顔だった。
俺が考えるに、今までの十は立場的に、1冊目や3冊目の指示が無い限りは、
他の本喰人とは極力仲良くしてはいけないとでも、言われていたんだろうなと察した。
監視する側が監視している者と仲良くなれば、いざと言う時に対処が遅れるもんな。
そうなったら、酷い言い方かもしれないが、1冊目や3冊目からしたら、
最悪の場合、十は信用出来なくなり、使えない存在でしかない。
十も十で辛い立場であったわけだ。
1冊目や3冊目の期待に応える為に・・・
まぁ・・・せめてもの救いは、1冊目や3冊目が2の奴のような
酷い性格の上巻の本喰人じゃなかったことかな。
十は3冊目の元眷属ってこともあるが、1冊目達を心底信頼しているから出来る行為だよな。

「皆、それぞれに事情があるよな。俺達のような存在であっても・・・」

俺は十がいなくなった部屋で、1人呟いた。
今の俺に、もし36冊が無事に生きていて、一緒に過ごしていたら、
どんな状況になっただろうか・・・
俺達も十みたいに、3冊目を手伝ったりしただろうか?
もっと世界を回っていたかもしれない。過去の俺は36冊目と
よくそんな話をしていたのだから。

「36冊目・・・いやミロ・・・明日、一緒にギリシャに帰ろうな。
久しぶりに一緒に3冊目に逢おう。
お前もきっと逢いたいだろうからさ。俺達の育ての親にな。」

俺は自分に言い聞かせるように、ミロに向かって言った。
俺の部屋のベッドの様にある、特殊な箱に入って、今は回復を
待って深い眠りについている、俺の大事な存在。
俺は久しぶりに36冊目の人としての呼び名を思い出し、ミロと呼んだ。
この名で呼ぶのは、本当に久しぶりのことだ。
回数だって、数える程しかない。
何度でも呼べるほどの機会を18の奴に、いや2の奴のくだらない
陰謀の所為で俺は失ったのだ。
それが、一体どんな理由があれば、許せると言うのか・・・
2の奴は、ある理由があって、ミロを消したと言っていたが、
俺はあの会話を思い出すだけでも、怒りに震える。
けど、ミロは完全には消滅しないで済んだのだけが、俺には本当に救いだった。
明日、一緒にギリシャに行き、3冊目と逢い、3冊目からも5冊目の情報などを聞けたら、
5冊目を探す旅をしてもいいかしれないと、俺は考えていた。
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