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第4章「蠢く敵の影」

「結局、僕達に同情しちゃったんだね・・・50冊目・・・」

8冊目から解放された、ワンの顔は、普通の顔に戻っていた。
しかし、もうワンは、喋るのもやっとな感じだ。

「有難う・・・僕をあいつから解放してくれて・・・
ずっと願ってたんだ。
したくもない事をさせられ続けて、こんな日がいつまで続くんだろうって。
8冊目に惨たらしく殺されるくらいなら、まだ別の本喰人に・・・
って今まで思ったけど。やっぱり、いざ殺されるのは、こんな僕でも怖くてね・・・」
「それは、誰だってそうだよ・・・」

僕は、もう立つことも出来ない、ワンを抱きかかえて、一緒に座った。
二四も、トゥリーも、そんな僕達をただ見守っている。

「苦しみ抜いて、僕なんかは死ぬと思ったのに・・・
こんな穏やかな気持ちで終焉を迎えられるとは思わなったよ。
50冊目・・・いい能力を持ったね。その能力は、今後も、
きっと50冊目の大きな力になると思うよ。
どうか、お願い。今後も、僕達みたいに、苦しんでる眷属がいたら、救ってあげて欲しいな・・・」
「わかった。僕が出来る限りで、今後も救って行くよ。必ず。」
「今日、会ったばっかりなのに・・・50冊目は、お人よしな本だね。
だけど、そんな50冊目だから、逆に良かったのかもしれないね。」

ワンは、弱々しくも、無邪気に僕に笑ってみせた。
僕は、過去に一緒に暮らしていた下巻の兄弟達を思い出す。
ワンみたいに、最後を看取った兄弟も何冊かいる。
僕を見ながら、ワンみたいに微笑んで亡くなった兄弟もいた。

「不思議だな・・・今、50冊目の過去の思い出が見えた気がする。
こんな経験を過去にもしてたんだね。だから、その能力は、力を増したのかもしれない。」
「うん、そうだと僕も思うよ。」

僕は、ワンの言葉に素直に同意した。

「もう、疲れたろ?お休み?」
「はは。そうするよ。お休み、50冊目。今度は君みたいな
本喰人の眷属になりたい・・・な。」

ワンは、軽く笑った後で、そう言って静かに眠った。
ワンが眠ると、僕の腕の中には、ボロボロになった本だけが残った。
8冊目の眷属として死んだワンは、ただの小冊子に戻ったのだ。
特殊小冊子でなく、ただの本に。

「ゴートン・・・」

二四は、何故か不安そうな声で僕の名を呼ぶ。
嫌だなぁー二四は、僕は勝ったんだから、嬉しそうな顔してくれてもいいのにさ。

「ワン。良かったですね。長年の夢が叶って。」

トゥリーは、ワンの最後を見て、静かにワンに言葉を贈った。
その様子は、さっきの無感情なものと違い、優しさがあった。
トゥリーも、普段は無感情に見せているだけで、本当は
感情があったのかもしれない。
僕達は、もう互いに戦わなくていいのだと、悟った。
トゥリーも、トゥーも完全に戦意を無くしていた。
僕の能力があれば、8冊目はもう、無理矢理に残った眷属達を
思い通りには動かせなくなったのだから。

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