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エピローグ

「やっぱり、あんただったのか。
シルヴィルの墓に毎日来て、お供え物をくれていたのは・・・」
「お前は・・・シルヴィルの・・・」

イルルヤンカシュと話をした後で、ラリイはいつもの日課になっている、
シルヴィルの墓に向かった。
そこに、今までシルヴィルの墓に来ていて、会う事が無かった、
イルディアと初めて、ラリイは出くわしてしまった。
ラリイは、一瞬身構えたが、イルディアに敵意が無いのがわかったので、すぐに構えを解く。
イルディアは、躊躇いもなく、妹の墓の側に来て、ラリイの横に並ぶ。

「母から聞いたよ。あんたが、あの魔界でも有名だった赤き者だったんだな。
過去に妹を・・・今もこうして妹の為に・・・感謝する。」

イルディアは、ラリイの顔を見るでもなく、妹の墓に顔を向けたままではあるが、
ラリイに感謝をした。
ラリイも同じように、シルヴィルの墓に顔を向けたままで、返事をする。

「いや、これは私が勝手にしている事だ。むしろ、最後にシルヴィルを、
守る事が出来なかった、無様な私だ。感謝されることもない。」

そう言うラリイに、イルディアはふっと短く、でも嫌味なく笑う。

「それでも、一族の長として、家族の者として、感謝させて貰うよ。
あんたが、受け取ってくれなくてもな?」
「イルディア・・・そこまで言ってくれるなら・・・受け取るよ。
でないと、シルヴィルに怒られそうだからな。」

ラリイも、イルディアと同じように笑った。
2人は、ここで、お互いに気が合いそうだと、何となく感じた。
ラリイの気と、イルディアの気は、変に反発したりしていない。
つまり、今はお互いに嫌な感情は持っていなかったのである。

「イルディアは・・・これからも、鬼人族の長として、やっていくのか、あの場所で?」
「そうだ。あの場所こそが、我が一族の土地であり、故郷とでも言うべき場所だからな。
それに、ダグールについた一族の者で逃げた者も、もしかしたら帰って来るかもしれない。
だから、俺はあそこで、これからも、暮らしていくいるつもりだ。」
「そうか。しかし今回の事で、裏切った者を、イルディアは、
もう一度、受け入れるつもりなのか?」

ラリイは立ち入った話をしていると、分かってはいたが、聞かずにいられなかった。
イルディアは、妹の墓に顔を向けたままで悩む。

「どうだろうな。今の俺の度量では、受け入れられずに、キレて、
殺してしまうかもしれないな。
だが、出来るなら、そんなことはしたくない。母にも言われたが、
そもそもが、俺の長としての、器量がないから、多くの仲間に
失望されて、こんな事になったんだ。
叔父に裏では、いつ殺されるかわからないくらい、危険な状態だったのに。
それにも気づかず、俺は父を倒す事だけを考えて生きてしまった。
俺は、叔父に甘え過ぎていたんだ。だから、最後は見放されてもしょうがなかったと思ってる。
馬鹿な男だよ、俺は・・・妹を失って、やっと気づくとかな。」
「・・・・・・」

ラリイはイルディアの独白を聞き、自分と似たものを感じた。
イルディアにとっても、シルヴィルは大事な妹だったようだ。
大事な存在を無くした者同士。
それが、2人にとっては、もう敵対する必要もない要素になったようだ。

「だが・・・あの人数で、あの土地を支配するのは難しいんじゃないのか?
イルルから聞いたが、お前達、鬼人族の中で戦える者は、2、3人もいないと聞いたぞ?」
「イルル?ああ、父の事を言ってるのか?はっきり言ってくれるぜ。
確かに、戦えそうな者は、2、3人もいない。」
「なら、どう守る?ここまで来て、ただの理想で終わらせる気ではないんだろう?」
「くっ・・・紅き者も、耳に痛い事を言ってくるんだな。」
「悪気はないんだ。ただ、気になってしまってな。」

イルディアは、悔しそうな顔をして、ラリイの言葉に答える。
ラリイも、イルディアを怒らせたくて、こんな話をしているつもりはないのだ。
シルヴィルを守れなかったからこそ、ラリイは、代わりに
何か出来ないかと、実は考えていた。
だが、ラリイは、他の鬼人族から見れば、敵のように見えるだろう。
事情が事情とは言っても、ゴルドの部下の人間以上に、
ダグールについた鬼人族達も、殺してしまったのだから。
生き残った、鬼人族達が、ラリイを激しく憎んでもしょうがない。
イルディアと、ミディアが、いくら許してくれてるとはいえ。

「赤き者は・・・どうしたらいいと思う?あんたなら・・・
どうする?」
「私は・・・私なら・・・」

イルディアから、思ってもいなかった、質問をされて、ラリイは悩んだ。
どう答えればいいだろうか?
ラリイはすぐに答えが出せなかった。この質問に、ラリイは、
自分の中の問題にも、何か答えが出そうな気がしていたのだ。
ラリイと、イルディアの間に、しばらく沈黙が続く。
イルディアは、ラリイにイライラする様子もなく、黙ったままで、
ラリイの回答を、静かに待った。

「今度こそ、しっかり守ると決めたのなら、自分の下らないプライドなのは、
一時的にきっぱりと捨てる。
自分が未熟な者だと理解しているのなら、自分の実力がしっかりつくまでは、
力あるものの、助力を得てでも守る・・・かな?」
「やっぱり、あんたも、それが最善だと思うか・・・」

イルディアは、ラリイの答えを最初から予期していたかのような、
反応を示した。
イルディアも、内心では、ちゃんとわかっているのだ。
自分の一族を今、どうあっても安全に守りたいのなら、
父である、イルルヤンカシュの力を借りるべきなのだと。
だが、小さい頃から、叔父に「仇」だと教え込まれてきた存在を、
すぐに「父親」とするのは、イルディアも難しいのだろう。
イルディアもイルディアで、苦悩していたのだ。

「イルディア・・・お節介なのは承知で言う。イルルと・・・
イルルヤンカシュと、ちゃんと話し合ってみてくれ。」
「赤き者・・・」
「私は何も言える立場でないのは、わかってはいる。
それでも、言わせて欲しい。これは、シルヴィルの願いでもあったから。」
「シルヴィルの?」
「ああ。シルヴィルは、再び自分の家族が集まる事を、何よりも望んていた。
兄であるお前と、イルルヤンカシュが対峙した時は、自分の命を
捨ててでも、止めようとしたくらいだ。」
「あいつは・・・どうしようもない妹だなぁ・・・」

イルディアは、妹の墓を見て、目を細める。ラリイの言った光景がすぐに思い浮かんだのだろう。

「それに、シルヴィルは死ぬ前に、イルルヤンカシュの力に目覚めた兆しもあったんだ。」
「何?!それは本当か?!赤き者!」
「間違いないと思う。シルヴィルの呼び出した風の精霊は、
あれはイルルヤンカシュの力に通じるものがあった。
だから、イルディア。お前が、しっかりとイルルヤンカシュから、力の使い方を学べば、
確実に強くなるはずだ。お前は今はまだ嫌悪を抱くかもしれないが、
シルヴィルと同じく、幻獣イルルヤンカシュの力を受け継いでいるのだから。」
「・・・・・・・」
「次こそは、ちゃんとした鬼人族の長になるんだろう?」

ラリイは、イルディアに自分の思った事をちゃんと伝えた。
きっと、親のフェニックスも、同じ様な立場でいたら、
同じようなことをしたのではないかとラリイは思う。
親友とその息子が、仲違いしているのなら、きっと、何かしら力にはなろうとするだろうと。
その日は、イルディアは考え込んだ顔のままであったが、
数日後に、このラリイの願いは叶う事になる。
母のミディアの説得もあったようで、イルディアは、自分がしっかりと力がつくまでの間、
父親の助力を受けることにしたようだ。
そして、自分の中の幻獣の力を覚醒させようと決意したみたいだ。
ラリイは、自分の事のように、嬉しい気持ちなる。
種族は違えど、イルディアも幻獣と魔族のハーフである。
その後、ラリイは、イルルヤンカシュの元に行くたびに、
イルディアとも仲を深めていくことになった。
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