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エピローグ

ラリイは、目覚めてから、フェニックスに凄く心配された。
いや、フェニックスだけでなく、バハムートやオーディンも心配してくれたほどだ。
オーディンなんかは、わざわざラリイの所にまで来て、ラリイの様子を確認する。

「一時的なもので済んだようで良かった。この感じなら、後遺症のようなものもないだろう。」
「すまん、オーディン。私は、まだまだ未熟者のようだ。」
「いや、ラリイ、今は謝るな。これまでの事を考えても、ラリイが、
こんなにも感情を表したのは、子供の時以来だろう。
それを考えれば、今回は異例とも言える。自分を責めるな。
誰だって愛する者を、目の前で惨い殺された方をすれば、感情が爆発するものだ。
俺だって、お前のようになっただろうさ。」
「ありがとう・・・オーディン。」

ラリイは表情は無表情に近いが、声には、オーディンに対して、
最大の感謝がこもっていた。

「フェニックス。ラリイは、もう大丈夫だ。きっと、身体の回復をしてる間も、
心の中で、今回の件も、自分なりに整理を大体つけただろう。」
「そうですか。オーディンが、そう言ってくれるのなら、ますます安心しました。」

フェニックスは、オーディンの言葉を聞いて、安堵する。
ラリイは憎しみに囚われてはいない。それを、自分だけでなく、
オーディンからも確認出来た事が、フェニックスには、一番安心出来た事だった。
ラリイが、負の感情に支配されてしまう事。
それが、フェニックスには一番危惧せねばならぬことだったのだ。

(過去の古代神兵器の事もありますからね。もし、ラリイが、
今回の件で、人間を忌み嫌い、憎むようになったら・・・
最悪、古代神兵器を求めてしまうかもしれない。そうなれば・・・
私はラリイを、何がどうなっても止めなければならない。
でも、今回はそれを避けられたようだ。本当に良かったです。)

フェニックスは、愛し息子のラリイを見守りながら、心の中でそう思った。
最悪な事態だけは、回避出来たと。

「シルヴィル・・・」

ラリイは、フェニックス達に心配されながらも、数日後には、
イルルヤンカシュの元を訪ね、シルヴィルの事を聞いた。
そして、イルルヤンカシュから、シルヴィルの墓の場所を聞いて、
1人で訪れていた。
普段、花とか気にした事がないラリイでも、野花の綺麗な白い花を集めて、
それをシルヴィルの墓にお供えした。

「シルヴィル・・・すぐに来れなくて、ごめん。自分の未熟な感情の所為で、
私はあの後、深い眠りについてしまったのだ。
本当なら・・・許されるのなら、君の側にもっと居たかった・・・
土に還る前にね・・・」

ラリイは、シルヴィルの墓の前で、1人喋り続けた。
もちろん、誰からも返事など来るわけがないと分かっていても。
ラリイは、その後も、毎日、シルヴィルの墓に寄り、花や果物や、
シルヴィルにあげたかったものを、お供えし続けた。
こんなのは自分の自己満足だと、分かっていても、ラリイは止めることが出来なかった。
時に、夜になっても、シルヴィルの墓の側に居て、
星空を一緒に見ているつもりになっていたこともあった。

「ラリイ・・・今は、俺も無理に止めろとは言わん。
だが、いつかは、シルヴィルの死と向き合い、離別せねばならん。
娘は死んだのだ。死者との未来はない。それはわかるな?」
「イルル・・・わかってる。でも、今はまだ墓参りはさせてくれ・・・頼む・・・」
「ラリイ・・・わかった。お前の気持ちには、俺も感謝はしている。
シルヴィルの為に、毎日有難うな。」

イルルヤンカシュは、ラリイの行動に心配し、優しく諭した。
ラリイも、イルルヤンカシュの言いたい事は分かっていたので、
変に意固地にならずに、もう少しだけのシルヴィルの墓参りの許しを得た。
ラリイとて、もう子供ではない。ラリイがいくら墓参りをしようとも、
シルヴィルが生き返りはしないのは、痛いほどわかっている。
ただ、どうしても、ラリイはシルヴィルを守り切れなかった後悔だけが、
消えなかったのだ。

「ラリイ。あの時は、お前に感謝しよう。
俺の代わりに娘の死に対して、怒ってくれた事をな。」
「イルル・・・でも、私は未熟者だ。一時的に怒りの感情を爆発させ、
いくら、あの者達の部下とは言え、シルヴィルの死とは無関係な者達を、
あそこまで残酷に殺す必要もなかったはずだ。
しかも、肝心の当人達を殺す事は出来なかった・・・」
「いや、ラリイ。ラリイが俺の代わりに怒る事がなければ、
俺が相当にキレた事だろう。
そうしたら、あれくらいの被害では済むまいよ。
ディスザード国の全てを滅ぼしても、俺は許さなかったと思うぞ。」
「そうか・・・」

フレンが聞いたら、さぞ顔を真っ青にさせそうなセリフを言う、
イルルヤンカシュに、ラリイは薄っすらと笑った。
そうならないで、済んだのなら、ラリイの今回の不祥事も、
無駄ではなかったと言っていいのだろうか。
ラリイは複雑な気持ちになりながらも、今はそれでいいのだと思うことにした。

「そうだ。イルル。あの後、イルディア達、鬼人族はどうなったんだ?」
「あ・・・ラリイには、まだ言っていなかったな。」

ラリイの言葉に、イルルヤンカシュは、イルディア達の事を話してくれた。

「聖星団のフレンと言う者の取り計らいで、イルディア達の罪はかなり軽いもので済んだ。
その分、ダグールの方は重いものになっただろうがな。
イルディア達の鬼人族は、今後は人間に関わらないと聖星団と制約を結んだようだ。
イルディア達、鬼人族は、今回の事件で、かなりの数が減ったからな。
もう、あれに懲りて、人間と協力して、他の人間を侵略などとは考えまい。」
「良かった。心配していたんだ。私の所為もあるから・・・」
「いや、ラリイの所為ではない。イルディアが長としての器量が無かったのだ。
鬼人族が、真に結束していれば、あそこまで数を減らすこともなっただろう。
魔族の中で高い知能がある分、本来であれば、結束力もかなり有り、
それで手強いとも言われていた一族なのだからな。」
「そうなのか・・・」
「それと、イルディアは、ラリイを憎んでなどいないぞ。
むしろ、感謝していた。過去に妹を救った、赤き者としてな。」
「なら、それはそれで良かったよ。シルヴィルの家族に恨まれても、
仕方がないとは思っていたから・・・」
「誰が恨むものか。そこまで、シルヴィルを思い、怒ってくれたラリイを。」

イルルヤンカシュも、ラリイと会話をして、静かに笑った。

「シルヴィルは、魔族の女だ。過去にラリイに命を助けられたからこそ、
あの時、覚悟を決めて、命を懸け、お前を守ったのだ。
だから、シルヴィル本人は何にも悔いなどないだろう。」
「そうだとしても、私には、とても苦しいよ、イルル・・・」
「だろうな・・・ラリイ、お前は優しいからな。」

ラリイと、イルルヤンカシュは、シルヴィルの事を思い、沈黙した。
もう、あの穏やかで可憐で明るい、魔族の少女は、この世にいないのだ。
せっかく、最後はイルルヤンカシュの力にも覚醒したかもしれないのに。
ラリイは、考えれば考える程に、悔しい気持ちになる。
シルヴィルだって、やっとイルルヤンカシュと再会して、
これから、親子として楽しく暮らせるかもしれなかったのだ。

「ラリイ。俺は、しばらくは、イルディア達の鬼人族を庇護しようと思っている。」
「本当か?!イルル!」
「ああ、実はミディアには許可は得ている。息子のイルディアは、まだ反対はしているがな。
しかし、どう見ても、イルディアだけでは守れるわけがない。
今、イルディアの元にいる鬼人族で戦えそうな者は、2、3人もおらん。
これでは、すぐに他の魔族に全滅させられてしまうだろう。
そうなると流石の俺も、後味が悪すぎるからな。」
「イルルが庇護するなら、今後は絶対に大丈夫だろう。」
「ずっとではないぞ?イルディアが、しっかりと長になり、イルディア達だけで、
一族を守れるようになったら、俺はすぐに手を引くつもりだ。」
「そうであっても・・・きっと、シルヴィルは・・・
誰よりも喜んだはずだよ。イルルとイルディア達が一緒に居ると言う事にね。」
「かもしれないな・・・あの子も、優しい子だったからな。」

ラリイとイルルヤンカシュは、お互いに顔を合わせて、穏やかに笑った。
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