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第10章「それでも愛する息子達」

ヒヤデス達は、自分達だけでは、この状況に対応出来ないと、即座に判断し、
聖星団本部にすぐに連絡をして、フレンとフェニックスを呼んだ。
ヒヤデス達が来る前、イルディアとミディアは、シルヴィルの残酷な死が、
ゴルトとダグールの所為だと、すぐに知る。
ラリイに凄い顔で追われ、それに怯える、ゴルトとダグールが、
悲鳴を上げながら、互いを責めていたのを聞けたからだ。
その会話の中でゴルトがシルヴィルを殺したとはっきりわかった。
2人は大事な家族を失い、怒りを露わにはしたものの、
ラリイの凄まじい怒りに気付き、戸惑う。
ラリイの怒りは、イルディアとミディアさえも戸惑わせる程に、
苛烈で、凄まじい怒りだったのだ。正直、イルディアは恐怖さえ感じるほどに。
ラリイは、ゴルトとダグールに激しく怒り、彼らを守る部下を、
これでもかと残虐に殺していく。その数は軽く100は超えた。
人間もいるが、その中には、鬼人族の者達さえ、もちろん含まれる。
ダグールの部下は、鬼人族なのだから。
イルディアは、この時まで、気付いていなかった。
叔父のダグールに、一族の者の3分の2の数が、本当は叔父を長として従っていたことを。

「ラリイ!止めろ!これ以上は、お前でもやりすぎだぞ!!」
「・・・・・・・」

いつもであれば、すぐにイルルヤンカシュの言葉に答えるラリイでも、
この時ばかりは、怒りで我を忘れていて、イルルヤンカシュの声さえも届いていなかった。
イルルヤンカシュは、悔しそうに舌打ちし、最後の手段だと、
ラリイの側に行き、仕方がなく、ラリイを気絶させた。
その後で、今度はイルディアが、ダグール達を殺そうとしたが、すぐに怒鳴って止めさせる。
イルルヤンカシュも、本音を言えば、すぐにでもダグール達を八つ裂きにしたかった。
しかし、この場ですぐに、殺してしまっては、今回のこの事件は真に解決しない。
イルルヤンカシュは、それに気づいたから、自分の気持ちを
必死に抑えて、ラリイもイルディアも止めたのだ。

「どうして止めるんだ!!やっぱり、お前はシルヴィルを、
自分の娘だと認めないから、悔しくも何もないのか!!!」

イルディアは、イルルヤンカシュから、ダグール達を殺す事を、
止められて、怒りで、イルルヤンカシュを貶す。
イルルヤンカシュは、黙って、何も反論はしない。
ただ、ゴルト達が逃げないように、しっかりと魔法で拘束していた。
ラリイの怒りに怯えたゴルトやダグールの生き残った部下は、
蜘蛛の子を散らす様に逃げて消えた。
その場に残ったのは、イルディアを信じた鬼人族達だけ。その数は、余りにも少ない数だった。

「それ以上、言うのはおよし。」
「だけど、母さん・・・」
「これは、お前の招いたことでもあるんだよ?わかってるのかい?」
「お、俺が?どうして?!」

イルディアは、母のミディアにそう言われて、激しく動揺する。
ミディアは息子を厳しく見つめ、話を続けた。

「お前に、もっと長としての度量があれば、今回のこんな悲惨な事にはなりはしなかった。
お前は、自分の父をいつか倒す。いつも、頭の中は、それだけしか考えていなかった。
だから、そこ生じた隙をダグールにつかれて、良い様に利用されただけなのよ。」
「そ、そんな・・・」

イルディアは、ガックリとうな垂れ、地面に両手をついた。

「父への憎しみ。それしか普段、考えないお前を、一族の多くは、長と認めていなかった。
裏ではダグールを長として従っていたの。昔からね。だから、
ダグールは、いつかお前を殺して、自分が本当の長になろうとしていたのよ。」
「そんな・・・俺は・・・」
「これを見なさい。」

ミディアは、うな垂れる息子を通り過ぎ、ゴルトの側に寄り、
イルルヤンカシュに頷いてから、ゴルトの懐から、あのシルヴィルが守った、
密書を取り返し、それを広げて、イルディアに確認させた。

「見てごらん?この密書を。お前が知らない間に一文足されてるはずだよ。」
「こ、これは?!」

イルディアは、密書の最後の一文を見て、目を見開く。
そこには、自分が確認した時には無かった文章が足されていた。

「今後、関わる鬼人族の長はダグールとして認め、その者と、
ディスザード国の宰相ウェウリは関係を結ぶ・・・」
「わかったかい?それが証拠さ。そして、自分の未熟さが、
今回招いた結果でもあると言う事を。」
「うぅうわぁぁぁああああああああ!!!!!」

イルディアは、悲痛な叫び声を上げ、地面を激しく叩き出した。
自分の両手から血が出始めても、止めることなく、延々と。
イルディアは自分の情けなさに我慢が出来ず、泣いていた。
そうなるとわかっていたはずのミディアは、ただ悲しい顔をして、息子を見守る。
イルルヤンカシュでさえも、表情には出さないが、苦しんだ。
息子が苦しむ原因を、作ったのは自分なのだと、心の中で責めていた。
そんな最中で、ヒヤデス達は、この事態に遭遇する。
実はラリイに鬼人族の住処の場所は教えられていたので、
ヒヤデス達もどんな場所か、確認のつもりで来たのだ。

「そうなのですね・・・貴方様が、あの高名な幻獣イルルヤンカシュ様なのですね。」
「そうだ。今は、人の姿になってはいるがな。」
「事情は、大体わかりました。人間の愚かな争いの為に、
ご協力して頂いたことを、聖星団を代表してお礼を申し上げます。」

ヒヤデスとアルクトゥルスは深々と頭を下げ、イルルヤンカシュに、礼を述べた。
イルルヤンカシュは、そんなことは不要だと言う顔で、首を横に振った。

「そんなことは構わん。ただ、ラリイの事は許してやって欲しい。
その亡くなった娘は、ラリイにとっては、今後大事な存在となるはずだった者なのだ。
それを無残にもあんな殺され方をされてしまった所為で、
ラリイはいつも抑えていた感情を爆発させてしまっただけなのだ。
それをすぐに止められなかった、俺にも責任がある。
だから、ラリイだけが悪いのではない。」
「そんなご事情があったのですね。イルルヤンカシュ様。
大丈夫です。ラリイ様は、我々人間達の為に、長年尽くしてくれた大恩人。
きっと、フレン様が悪い様にしないはず。なので、どうかご安心を。」

ヒヤデス達は、イルルヤンカシュから、ラリイの大暴走の経緯を聞き、辛そうな顔をした。
この凄まじい死体の山の光景を見たら、ラリイにとって、
どれだけシルヴィルと言う魔族の少女の存在が大きいものであったか、
ヒヤデス達でも、すぐにわかった。

「ラリイ・・・なんで、こんな事に・・・」

あの後で、フェニックスはすぐにラリイを迎えに来た。
聖星団のフレンからの報告は、すぐに幻獣界のフェニックスの元にも届き、
バハムートに許しを貰って、フェニックスはラリイの側にすぐに駆け付けたのだ。
そして、今までの事を全て、親友であるイルルヤンカシュから全部聞き、
フェニックスは気絶している息子を抱きしめ、泣いた。

「何と・・・何という悲劇でしょうか・・・イルルヤンカシュ・・・
私は貴方の娘なら、ラリイとぜひ結婚して欲しかったと思っていたのに・・・」
「フェニックス・・・俺もだ。娘は確実にラリイを好いていた。
過去にラリイに娘は助けられていたらしくてな。
その頃から、娘は、シルヴィルはラリイを好いていたようだ。」
「そうだったのですか!ああ・・・許せません。その人間達が。
せめて・・・首でなければ、ラリイの力で、いや私の力でも、
イルルヤンカシュ・・・貴方の大事な娘を助けれたかもしれないのに・・・」
「それを言うな、フェニックス。ラリイもそれがあったからこそ、
あんなに大暴走したのだろう。
でなければ、あんなに自我を無くしてしまうほど、あのラリイが怒ることもない。」
「そうですね・・・ラリイはオーディンの教えで、感情の制御は、
出来ていた子ですから・・・」

フェニックスは、イルルヤンカシュとの会話を終え、すぐに幻獣界に戻った。
フレンの最大級の計らいで、ラリイとイルルヤンカシュは、
今回のディスザード国の権力争いには、関与してないと言う事にしたのだ。
それから、ゴルトとダグールが生存していたおかげで、この事件の最大の首謀者である、
宰相のウェウリが犯人だと証明でき、無事にウェウリを罪に問いて、処罰した。
ディスザード国の王子達は、和解し、兄のソルアは、そのまま王に、
弟のソシエドは恋人のカレンヌと結婚し、ソシエドは、
その恩もあって、生涯を一生、兄に尽くすと誓った。
最後に、ゴルト達もそれなりの処罰をされたらしいが、フェニックスは、
その辺の話は聞かないことにした。
でないと、自分が何かしてしまいそうで、怖かったからだ。
最愛の息子ラリイの初恋をぶち壊した人間達に、どれだけ呪いすらかけたい気持ちになったか。
フェニックスは、悔しく歯痒い思いさえしていた。
当のラリイは、未だに目を覚ます事なく、自分のベッドに寝ている。
爆発的な怒りで、一気に自分の力を解放してしまった所為で、
ラリイは回復の為に、深い眠りについてしまったのだ。
その後、ラリイが目を覚ました時には、人間界では1か月も過ぎた頃であった。
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