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第10章「それでも愛する息子達」

「おのれ・・・フェニックスの息子め・・・忌々しい奴だ。」

ゴルトは、ラリイの行動に怒りを露わにする。
ダグールは、それを見て、皮肉そうに笑う。

「馬鹿な娘だ。何もせずに大人しくしていれば、まだ殺さずにいたものを。
結局、幻獣の血が混じっている、お前ら親子を、生かしておくなど無理だったようだ。」
「やっぱり、母も兄も、いずれは殺す気だったんですね・・・ダグール。」

シルヴィルは、叔父を睨み、過去からの感じていたものを実感した様子だった。

「信じたくなかった。貴方は優しい叔父だと思っていたかった。
でも、私がヴァジャルに誘拐された時に私は陰で聞いてしまった・・・
貴方はいずれは、自分が私の兄に代わり、鬼人族の長になると。
その為に、ヴァジャルから協力を得ようとして、私を捧げたって!」
「な・・・んだと?」

その言葉に、今度はイルルヤンカシュがダグールに怒り出す。

「貴様・・・ダグール!そんな事の為に!俺の娘を!
まさか、今回の事も、自分が長になる為に、それで起こした事か!」
「そうだとも。イルルヤンカシュ。お前を我が一族に受け入れたのは、
やっぱり間違いだったのだ。
かつての魔王だった祖父は、お前に何を期待したのかは知らんが、
私の姉との結婚を認めた。
だが、姉と間に出来たお前の子達はどうだ?魔王になれるような素質を見せることもない。
それどころか、現状は一族を束ねることさえ、出来ない有様だ。
この私がいなければな!ならば、いっそ、その子供達、姉さえも、
消えて貰おうと思ったのよ。
父を殺した、憎い幻獣の血を持つ忌み子達だからな!!」

ダグールは、イルルヤンカシュに負けじと、怒り、憎しみの炎を燃やし、睨み返した。
自分の父を殺した憎い幻獣。そういう目でしか、ダグールは、
イルルヤンカシュを見ていない。
その目は、過去のイルルヤンカシュと対峙した、イルディアの目に似ている。
ダグールは、イルディアを支えるフリをしながらも、イルルヤンカシュへの憎しみを植え付け、
いつかは、親子が殺し合う事を願ったのだろう。
それがダグールのイルルヤンカシュへの復讐。
ラリイでもさえも、そのダグールの考えが分かり、ラリイはダグールへの怒りも強める。

「イルディアは実にいい子に育ったよ。お前をよく憎んでくれた。今でも相当、憎んでいるだろう。
自分達を裏切り、捨てた父である、イルルヤンカシュをな。
代わりに、この私を父と慕って、最後は騙されて、今回の件で
死ぬ事になるとも知らずに、可哀想な子だよ。」
「ダグール・・・貴様と言う魔族は・・・!!!」

イルルヤンカシュも、身体が痺れいるとは言え、かなりの怒りで無理に動こうとしていた。
ラリイは、ゴルトの部下の召喚士の動きを、注意深く見ていた。
召喚士は1人しかいない。それをどうにか出来れば、勝機があるとラリイは考えるが、
なかなか上手くいかない。
シルヴィルと、イルルヤンカシュを守りながらでは、どうしても、
召喚士に対応するのは無理だった。

「どうにか・・・あいつさえ、どうにか出来れば・・・」

ラリイが召喚士を凄く睨んでいるのを、シルヴィルは察して、考える。
召喚士のことをどうにか出来れば、自分もラリイと父を
救えるかもしれない。
シルヴィルも必死に考えている中で、突然、ラリイからも苦しそうな声が聞こえる。

「ぐっう!ぐは!!!」
「ラリイ?!!」
「よしよし!よくやったぞ!召喚士!やっぱり、こいつは、幻獣人とは言え、
親の力が強すぎたのが仇になったようだな?
こんなにまで、召喚士が幻獣を抑え込むのに使う魔法が効くとは、皮肉だな?ラリイとやら?」
「ゴル・・・ト・・・ぐぐぐ・・・」

ラリイは、召喚士から集中的に魔法の力で、無理矢理に身体を抑え込まれてしまっていた。
立っていることも出来ずに、苦しそうに屈む。
シルヴィルは、そんなラリイを見ていることが出来ずに、
ある行動をしようと決意した。

(今度は、私が命を懸けて、ラリイを・・・父を救う番だわ。)

シルヴィルは、ラリイの背後から抜け出て、逆にラリイの前に立つ。
それに気づいたラリイは、シルヴィルに叫ぶ。

「だ、駄目だ!シルヴィル!私の後ろにいるんだ!くぅうう!」

ラリイはシルヴィルの行動を止めさせようとするが、
召喚士の魔法に更にきつく抑え付けられ、苦しい声を上げた。

「何だ?魔族の小娘が、お前1人で何をしようと言うのだ?」
「シルヴィル。無駄に逆らわずに大人しくしろ。お前には何も出来まいよ。
お前には何の力もないのだからな。」
「本当にそう思いますか?叔父様?いえ、ダグール。」
「どういう意味だ?」

シルヴィルは、今までの大人しく、弱々しい態度ではなかった。
ラリイ達を命懸けで守ると決めた時、シルヴィルは、初めて戦う覚悟を決めたのだ。

「私は、戦うのは嫌いでした。自分が魔族と言え、誰かを傷つけるのはしたくなかった。
自分の身が危なかったとしても・・・けど、今回は違う。
ラリイは、私の命の恩人。そんな、ラリイと、父を救う事が
出来るのなら、私は何だってする!」

シルヴィルは、そうダグール達に力強く言うと、自分の風の精霊を、シルフの姿に変えて、
まず、召喚士を狙い、風の攻撃魔法の基本である、ウィングダートを放った。
召喚士はラリイ達を抑え込むのに必死で、自分の身を守る事が出来ずに、
シルヴィルの風の攻撃魔法をもろに受けて、その衝撃の強さに、
洞窟の壁を壊し、外にまで弾き飛ばされたほどだった。

「馬鹿な?!この魔族の小娘にこんな力が?!」
「シルヴィル!お前!今まで力を隠していたのか?!」

シルヴィルの攻撃力に、ダグール達が一気に慌てる。
シルヴィルが呼び出した、風の精霊は立派な、妖精の女王の様な姿をした、シルフになっていた。
普通であれば、シルフとして呼び出しても、小さい子供のような妖精の姿をしているシルフの方が多いのだ。
でも、シルヴィルの呼び出した風の精霊はそれだけ強力な存在だと示すものになっていた。

「はぁはぁ・・・」
「シルヴィル・・・俺の血が覚醒したのか?」

ラリイ達は、シルヴィルのおかげで、召喚士の魔法から解放されて、
身体の自由を取り戻すことが出来た。
あれだけの攻撃魔法を食らったら、召喚士は、しばらくは
戦闘不能だろうと、ラリイは確信する。
しかし、ラリイの方はまだ身体の痺れが若干残ってしまい、
立ち上がれずにいた。

「クソ!油断するな!あの魔族の小娘を殺せ!!」

ゴルトは発狂気味に部下達にそう命令をする。
シルヴィルはそれを聞いて、更に自分の風の精霊を使い、トルネードを放つ。
洞窟の支配者の間の中に小さな竜巻が起こり、ゴルト達は竜巻に飲み込まれ、
悲鳴を上げながら、今度は洞窟の天井が壊れて、外に弾き出されることになった。

「シルヴィル・・・凄いな。やっぱり、イルルの娘だな。」

ラリイは、シルヴィルの風の魔法の凄さに感心した。
シルヴィルは、敵が一掃出来たと安心するとラリイの側に駆け寄った。

「ラリイ?!大丈夫?!」
「ああ、私は大丈夫だよ。シルヴィル、有難う、助けてくれて。」
「そんなこと・・・ラリイが無事ならそれで・・・」

ラリイはシルヴィルに支えられ、立ち上がる。
2人は、互いに見つめ合い、お互いが無事なのに安堵し、
ついに、口づけを交わした。
ラリイとシルヴィルは、お互いが好きな事を、やっとここで
認め合ったのだ。
イルルヤンカシュは、そんな2人を祝福する。
だが、そんな2人の仲を引き裂こうとする、邪悪な2つの影が、
静かにラリイ達に忍び寄っていた。

「死ねぇえええ!」

突然、支配者の間の出入り口から、大声を上げて、
ゴルトが剣を掲げて、ラリイを斬りつけようと飛び出して来る。
ゴルトはあの竜巻で外に飛ばされなかったのだ。
ダグールが自身の魔法で自分とゴルトを守り、
そして、身を潜めて、ラリイ達を殺すチャンスを伺っていたのだ。
それに気づいた、シルヴィルは、咄嗟にラリイを庇おうと、
ラリイの前に出る。
その刹那、ゴルトの一振りは、最悪な事に、シルヴィルの首に
振りかざされてしまった。
シルヴィルの首は、綺麗に切られ、空中を舞った。
ラリイは、一瞬の出来事に何が起きたのか理解が追いつかない。
イルルヤンカシュは、唖然としてしまった、ラリイを守る為に、
攻撃魔法で、ゴルトを弾き飛ばし、隠れていたダグールをも追撃した。
ゴトリと何かが落ちる、無情な音が響く。ラリイは、その音の方に顔を向けた。
そこには穏やかな顔をした、シルヴィルの首があった。
ラリイは、この時、初めて我を失い、大暴走する。
イルルヤンカシュの制止の言葉も聞こえず、ゴルトとダグールを守ろうとする、
ゴルト達の部下達を残虐に殺し始めた。
その姿は魔族なんかよりも恐ろしいものであった。
その騒ぎで、ようやくイルディアとミディアも駆けつけ、
騒ぎの終わり頃になって、ヒヤデス達もやっと駆けつけることに
なったのだが、あまりの悲惨な光景に、ヒヤデス達も言葉を失ったと言う。
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