第10章「それでも愛する息子達」
「ラリイ!ここが私達の住処付近です!」
「そうか・・・どこにイルディアを置いたらいいかな?」
「この岩陰あたりなら大丈夫かと・・・」
ラリイとシルヴィルは、イルルヤンカシュの指示に従い、
イルディアを鬼人族の住処近くに戻しに来ていた。
イルディアは、大きな怪我はしたが、致命傷は避け、ラリイがすぐに回復させたので、
大丈夫なはずなのだが、未だに気絶したままだった。
時々、悪夢にうなされているのか、苦しそうな声を出す。
「ちく・・・しょう・・・」
「イルディア・・・」
「兄さん・・・」
辛そうな、でもどこか悲しそうな声で苦しむ、イルディアに
ラリイもシルヴィアも心配していた。
「ここで大丈夫だな?」
「はい。ここから、住処に近いですから、兄が別の魔族に襲われることはないかと。」
「そうか・・・」
「兄は、これで良かったんです。父から厳しく言われて・・・
少しは考え方を改めてくれればいいんですが・・・」
シルヴィルは心配そうに兄の顔を触った。
それを見て、ラリイは、シルヴィルとイルディアは兄妹だなと
確認した。
外見も、ラリイが見た限りでは、似ている感じがする。
イルディアもシルヴィルと同じ銀色の髪で、瞳も同じ金色だった。
ただ違うとするなら、シルヴィルには、頭に小さい角が1本があるが、
イルディアは男だからか、大きな角が2本あった。
角のは鬼人族の証。立派な角を持つ者ほど、力が強いと言うのが、
鬼人族の常識らしい。
ラリイは、イルルヤンカシュから聞いて、それを思い出していた。
「さぁ・・・行こうか?」
「そうですね・・・」
ラリイは、シルヴィルに帰りを促した、その時に、ある人物が
ラリイ達の目の前に現れる。
ラリイは、咄嗟にアルゥイントを手にしようとしたが、
シルヴィルの言葉を聞いて、それを止める。
「お母さん?!」
シルヴィルが母と呼んだ、その鬼人族の女性は、グラマラスな
かなりの美女だった。
イルルヤンカシュが、自分の妻をいい女と評したのは、
嘘ではなかったと、ラリイでさえ思うほどの。
髪の毛の色は、シルヴィル達と同じだが、瞳の色は、濃い紫色をしていた。
そして、頭にはイルディアと同じで2本の角があった。
「シルヴィル・・・あんたって子は。最近、何かコソコソとしていると思ったら・・・
やっぱり会いに行っていたんだね・・・自分の父に・・・」
「だって・・・」
「私の大事なイヤリングが一時的に無くなった時に、確信したわ。
ホント、普段は大人しい子なのに、ここぞと決めたら、
凄い行動力を見せるのだから・・・まるで若い頃の私みたいね・・・」
「お母さん・・・私は・・・お父さんに助けを求めようと思ったの・・・
だって、兄さんのすることは間違ってるもん・・・」
呆れながらも、母らしい優しい眼差しを向けるミディアに、
シルヴィルは、自分の気持ちを素直に言う。
「ふぅ。どうしようもない子達だねぇ・・・出来るならあの方に
迷惑かけて欲しくないんだけど・・・
それに、あんたの存在は知らないはずだし・・・認めてくれるとは思えないけど・・・」
「認めましたよ。イルルヤンカシュは。」
ラリイは、シルヴィルの親子の会話に、つい口を挟んでしまった。
いつものラリイなら、無口だから聞かれない限りは、絶対にしないのに。
「そう・・・ですか・・・」
ラリイの言葉に、ミディアは短い時間だけ目を閉じた。
娘の存在を認めてくれた。それだけでも、ミディアは嬉しかったのではないかとラリイは思った。
イルルヤンカシュから聞いた話よりも、実際に会った感じでは、
ミディアは、イルルヤンカシュに憎しみなどなさそうだった。
「私の子供達がご迷惑をおかけしました。貴方はラリイ様ですね?」
「どうして、私の名を?シルヴィルから聞いたのか?」
「いいえ。ラリイ様の名は、魔界でも知っている者は知ってますよ。
魔界で、凶暴で、尚且つ、極悪な存在だけを倒されていた存在だと。
幻獣フェニックス様の息子。その外見から、紅き者と、
魔界では一部噂になっておりました。」
「え?!あの紅き者って・・・ラリイの事なの?!」
シルヴィルは母からその言葉を聞き、キラキラした顔でラリイを見る。
その目には、憧れと尊敬と感謝があった。
「そうよ。過去に、あんたにしつこく婚姻を迫った、
あの陰険だった、ヴァジャルを倒されたのは、そこのラリイ様よ。」
「嘘?!ああーラリイ!なんてことなの!!?」
シルヴィルは、明るい笑顔と声で、ラリイの両手を握ると、
ぶんぶんと嬉しそうに上下に振るう。
ラリイは、突然のシルヴィルの行動に、ポカーンとした顔をしてしまう。
「ラリイ!有難う♪まさか、私が危なかった、あの時に
助かったのは、ラリイのおかげだったなんて♪感謝するわ!」
「うーん・・・?シルヴィルが危なかった?」
ラリイは、何の事だかさっぱりわからないまま、ずっとシルヴィルに感謝され続けていた。
その光景に、ミディアは、溜息をつき、興奮してる娘を宥める。
「こら!シルヴィル!いきなり、そんな話をしても、ラリイ様が
困るだけでしょ!ちゃんと1から説明しなさい!」
「あ、そうだった・・・やだ、私ったら・・・恥ずかしい・・・」
シルヴィルは、急いでラリイから手を離し、今度は急に顔を
真っ赤にしたまま、もじもじしている。
ラリイも何故かつられて、一緒になって顔を赤くしていた。
初々しい反応の2人に、ミディアは苦笑いし、シルヴィルの代わりに、事情を説明した。
「数年前に、娘のシルヴィルは、ヴァジャルと言う、
その当時にそれなりの力を持った魔獣人族に誘拐されたのです。」
「ヴァジャル・・・ああ、過去にイーグルが言ってた、タコ魔人か?」
ラリイは、ミディアの説明を聞き、薄っすらと、当時戦った相手の名前を思い出す。
ヴァジャルは、テュポーンの子の1人で、ミディアの言うように、
力のある魔族、正しくは魔獣人族の1人だった。
外見は、上半身は人間なのだが、下半身はタコの様な見た目をしていた。
だから、イーグルが嫌味を込めて、タコ魔人と言っていたのだ。
とにかく、種族を問わず、若く可愛い女が大好きな、下種で卑劣な魔族だと
噂を聞き、ラリイは、特にイーグルから力強く説得され、
ヴァジャルと戦う事になり、最終的には倒すことになる。
「もしかして、あの地下牢で多くの若い女が捕まっていたが・・・その中にシルヴィルも居たのか?」
「はい!そうです!あの時は、私は、恐怖のあまりにずっと泣いていたから、
ラリイの姿は確認出来ませんでしたが・・・
一族から助け出された後で、母から聞いて・・・紅き者が、ヴァジャルを
倒したから、あんたは助かったんだよって・・・
それを聞いてから、いつかはお礼を言いたいと思ってました。」
「なるほど・・・そういう経緯だったのか・・・」
ラリイは、やっと事情が理解出来て、何故だかホッとした。
お互いに面識はないが、その時に会ってはいたわけだ。
シルヴィルは、ラリイと少し顔を会うと、顔を真っ赤にしたままで、顔を逸らしてしまう。
かなり恥ずかしがっていることが、ラリイにもわかる。
(うーん?何で、今頃、こんなに恥ずかしがっているのだろうか?
あの時の私は、おかしいことでもしただろうか?)
ラリイはシルヴィルの気持ちがわからずに、心の中で困る。
シルヴィルの方は、憧れていた命の恩人であり、初恋に近い感じを
抱いていた紅き者がラリイだと知り、嬉しさと恥ずかしさで、
自分の気持ちがどうにも出来ない状態になってしまう。
ただ、最初に自分を助けてくれた感謝の言葉を、ラリイ本人に
言えたことはシルヴィルには嬉しかった。
にしても、まさか自分の父の親友でもあるラリイが、あの赤き者で
あるなんて・・・
なんて巡り合わせなんだろうとも思うシルヴィルであった。
「そうか・・・どこにイルディアを置いたらいいかな?」
「この岩陰あたりなら大丈夫かと・・・」
ラリイとシルヴィルは、イルルヤンカシュの指示に従い、
イルディアを鬼人族の住処近くに戻しに来ていた。
イルディアは、大きな怪我はしたが、致命傷は避け、ラリイがすぐに回復させたので、
大丈夫なはずなのだが、未だに気絶したままだった。
時々、悪夢にうなされているのか、苦しそうな声を出す。
「ちく・・・しょう・・・」
「イルディア・・・」
「兄さん・・・」
辛そうな、でもどこか悲しそうな声で苦しむ、イルディアに
ラリイもシルヴィアも心配していた。
「ここで大丈夫だな?」
「はい。ここから、住処に近いですから、兄が別の魔族に襲われることはないかと。」
「そうか・・・」
「兄は、これで良かったんです。父から厳しく言われて・・・
少しは考え方を改めてくれればいいんですが・・・」
シルヴィルは心配そうに兄の顔を触った。
それを見て、ラリイは、シルヴィルとイルディアは兄妹だなと
確認した。
外見も、ラリイが見た限りでは、似ている感じがする。
イルディアもシルヴィルと同じ銀色の髪で、瞳も同じ金色だった。
ただ違うとするなら、シルヴィルには、頭に小さい角が1本があるが、
イルディアは男だからか、大きな角が2本あった。
角のは鬼人族の証。立派な角を持つ者ほど、力が強いと言うのが、
鬼人族の常識らしい。
ラリイは、イルルヤンカシュから聞いて、それを思い出していた。
「さぁ・・・行こうか?」
「そうですね・・・」
ラリイは、シルヴィルに帰りを促した、その時に、ある人物が
ラリイ達の目の前に現れる。
ラリイは、咄嗟にアルゥイントを手にしようとしたが、
シルヴィルの言葉を聞いて、それを止める。
「お母さん?!」
シルヴィルが母と呼んだ、その鬼人族の女性は、グラマラスな
かなりの美女だった。
イルルヤンカシュが、自分の妻をいい女と評したのは、
嘘ではなかったと、ラリイでさえ思うほどの。
髪の毛の色は、シルヴィル達と同じだが、瞳の色は、濃い紫色をしていた。
そして、頭にはイルディアと同じで2本の角があった。
「シルヴィル・・・あんたって子は。最近、何かコソコソとしていると思ったら・・・
やっぱり会いに行っていたんだね・・・自分の父に・・・」
「だって・・・」
「私の大事なイヤリングが一時的に無くなった時に、確信したわ。
ホント、普段は大人しい子なのに、ここぞと決めたら、
凄い行動力を見せるのだから・・・まるで若い頃の私みたいね・・・」
「お母さん・・・私は・・・お父さんに助けを求めようと思ったの・・・
だって、兄さんのすることは間違ってるもん・・・」
呆れながらも、母らしい優しい眼差しを向けるミディアに、
シルヴィルは、自分の気持ちを素直に言う。
「ふぅ。どうしようもない子達だねぇ・・・出来るならあの方に
迷惑かけて欲しくないんだけど・・・
それに、あんたの存在は知らないはずだし・・・認めてくれるとは思えないけど・・・」
「認めましたよ。イルルヤンカシュは。」
ラリイは、シルヴィルの親子の会話に、つい口を挟んでしまった。
いつものラリイなら、無口だから聞かれない限りは、絶対にしないのに。
「そう・・・ですか・・・」
ラリイの言葉に、ミディアは短い時間だけ目を閉じた。
娘の存在を認めてくれた。それだけでも、ミディアは嬉しかったのではないかとラリイは思った。
イルルヤンカシュから聞いた話よりも、実際に会った感じでは、
ミディアは、イルルヤンカシュに憎しみなどなさそうだった。
「私の子供達がご迷惑をおかけしました。貴方はラリイ様ですね?」
「どうして、私の名を?シルヴィルから聞いたのか?」
「いいえ。ラリイ様の名は、魔界でも知っている者は知ってますよ。
魔界で、凶暴で、尚且つ、極悪な存在だけを倒されていた存在だと。
幻獣フェニックス様の息子。その外見から、紅き者と、
魔界では一部噂になっておりました。」
「え?!あの紅き者って・・・ラリイの事なの?!」
シルヴィルは母からその言葉を聞き、キラキラした顔でラリイを見る。
その目には、憧れと尊敬と感謝があった。
「そうよ。過去に、あんたにしつこく婚姻を迫った、
あの陰険だった、ヴァジャルを倒されたのは、そこのラリイ様よ。」
「嘘?!ああーラリイ!なんてことなの!!?」
シルヴィルは、明るい笑顔と声で、ラリイの両手を握ると、
ぶんぶんと嬉しそうに上下に振るう。
ラリイは、突然のシルヴィルの行動に、ポカーンとした顔をしてしまう。
「ラリイ!有難う♪まさか、私が危なかった、あの時に
助かったのは、ラリイのおかげだったなんて♪感謝するわ!」
「うーん・・・?シルヴィルが危なかった?」
ラリイは、何の事だかさっぱりわからないまま、ずっとシルヴィルに感謝され続けていた。
その光景に、ミディアは、溜息をつき、興奮してる娘を宥める。
「こら!シルヴィル!いきなり、そんな話をしても、ラリイ様が
困るだけでしょ!ちゃんと1から説明しなさい!」
「あ、そうだった・・・やだ、私ったら・・・恥ずかしい・・・」
シルヴィルは、急いでラリイから手を離し、今度は急に顔を
真っ赤にしたまま、もじもじしている。
ラリイも何故かつられて、一緒になって顔を赤くしていた。
初々しい反応の2人に、ミディアは苦笑いし、シルヴィルの代わりに、事情を説明した。
「数年前に、娘のシルヴィルは、ヴァジャルと言う、
その当時にそれなりの力を持った魔獣人族に誘拐されたのです。」
「ヴァジャル・・・ああ、過去にイーグルが言ってた、タコ魔人か?」
ラリイは、ミディアの説明を聞き、薄っすらと、当時戦った相手の名前を思い出す。
ヴァジャルは、テュポーンの子の1人で、ミディアの言うように、
力のある魔族、正しくは魔獣人族の1人だった。
外見は、上半身は人間なのだが、下半身はタコの様な見た目をしていた。
だから、イーグルが嫌味を込めて、タコ魔人と言っていたのだ。
とにかく、種族を問わず、若く可愛い女が大好きな、下種で卑劣な魔族だと
噂を聞き、ラリイは、特にイーグルから力強く説得され、
ヴァジャルと戦う事になり、最終的には倒すことになる。
「もしかして、あの地下牢で多くの若い女が捕まっていたが・・・その中にシルヴィルも居たのか?」
「はい!そうです!あの時は、私は、恐怖のあまりにずっと泣いていたから、
ラリイの姿は確認出来ませんでしたが・・・
一族から助け出された後で、母から聞いて・・・紅き者が、ヴァジャルを
倒したから、あんたは助かったんだよって・・・
それを聞いてから、いつかはお礼を言いたいと思ってました。」
「なるほど・・・そういう経緯だったのか・・・」
ラリイは、やっと事情が理解出来て、何故だかホッとした。
お互いに面識はないが、その時に会ってはいたわけだ。
シルヴィルは、ラリイと少し顔を会うと、顔を真っ赤にしたままで、顔を逸らしてしまう。
かなり恥ずかしがっていることが、ラリイにもわかる。
(うーん?何で、今頃、こんなに恥ずかしがっているのだろうか?
あの時の私は、おかしいことでもしただろうか?)
ラリイはシルヴィルの気持ちがわからずに、心の中で困る。
シルヴィルの方は、憧れていた命の恩人であり、初恋に近い感じを
抱いていた紅き者がラリイだと知り、嬉しさと恥ずかしさで、
自分の気持ちがどうにも出来ない状態になってしまう。
ただ、最初に自分を助けてくれた感謝の言葉を、ラリイ本人に
言えたことはシルヴィルには嬉しかった。
にしても、まさか自分の父の親友でもあるラリイが、あの赤き者で
あるなんて・・・
なんて巡り合わせなんだろうとも思うシルヴィルであった。