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第10章「それでも愛する息子達」

ラリイはシルヴィルをなんとか落ち着かせて、両者の戦いを、
一緒に見守る事にさせた。
ラリイには、イルルヤンカシュの気で、状況が分かっていたのだ。
イルルヤンカシュは、今はまだ本気で息子を殺そうとはしていないことを。
イルルヤンカシュが本気を出したら、その殺気は凄まじいものになるだろう。
普通の魔族では、かなりの恐怖に違いない。シルヴィルなら、
立ってもいられないほどの恐怖を感じるかもしれない。
ラリイでさえも、きっとアルゥイントを手にかけてることだろう。

「いい素質だ。実に勿体無い。俺の力が、お前にもあるのに、
お前はそれを使いこなせていない・・・
俺がちゃんと教えてやることが出来ていたら・・・
ラリイと同格・・・いや上をいけたかもしれないのに・・・
残念だ。」
「何の話だ?俺は、お前の様な幻獣に教わることなど何もない!!!」
「そんな、無駄に感情的になるようでは、余計に無理だな。」
「う、うるさい!!!黙れ!!!」

イルルヤンカシュは、余裕な態度で、息子のイルディアと戦っている様子だった。
この調子であれば、急に悲劇的な展開にはならないだろうと、
ラリイは少しだけ安堵していた。

「心なしか、イルルは嬉しそうだしな・・・」
「え?」
「あ、何でもない。」

ラリイは、小声でイルルヤンカシュ達の戦いの感想を言ってしまった。
そんなラリイの言葉に、シルヴィルが、不思議そうな顔をする。
女のシルヴィルには、きっとわからないだろう。
この戦いの中で、イルルヤンカシュが息子の成長を何よりも
喜んでいることなど。
シルヴィル的には、こんな戦いなど早く止めて、兄と父が、
和解して仲良くして貰いたいだろうから。
けど、それはイルディアにもわかっていない。
父であるイルルヤンカシュが自分の成長を、内心では、喜んでいることなども。
逆に、イルディアにとっては、神経を逆なでされている状態だろう。
あんな余裕な態度で、自分と戦われていることに、怒りを感じているのは、
ラリイから見てもわかる。

(自分も、もしフェニとあんなことになったら・・・
イルディアの気持ちがわかったのかな・・・?)

ラリイは自分だったらと、考えてみるが、どうにもしっくりこなかった。
あのフェニックスを、ここまで憎むことが自分に出来るだろうか?
いや、きっと無理だろう。赤ん坊の頃から、あんなにも愛情を注いでくれている親を、
ラリイは憎むことなど、絶対にないと確信する。
それを考えると、自分は如何に幸運であるのか実感した。
少しでも何かが違っていれば、自分も、イルルヤンカシュの
親子のような関係になったかもしれないのだから。

「どうした?それで終わりなのか?」
「くっ・・・この幻獣・・・」

イルルヤンカシュは一旦攻撃を止め、息子を見る。
その態度は、お前など何にも脅威でないと、堂々と示していた。
それに、イルディアは、物凄く悔しそうにする。
今のイルディアでは、イルルヤンカシュの足元にも及ばないと、
明確に、力の差を突き付けられたのだ。

「これで人間界に戦いの仕掛けるのか?一族の復興の為とは言えど、
その程度で、出来ることなどたかが知れている。
小さな村程度を支配出来るかどうかくらいだろう。
いや、それすら無理かもしれないな。今の人間は、昔よりも、
大分魔族に対する対応も出来るようになったと聞く。
人間達の愚かな欲望に、わざと騙され、逆に利用しようと考えているようだが、
それすらが、無駄だとも理解出来ないようでは、先が知れている。
シルヴィアの方が、余程賢い。」
「何も・・・何も知らない癖に!!偉そうに俺に説教するな!!」

イルルヤンカシュの言葉に、激怒したイルディアは、最後の力で、
イルルヤンカシュに突撃していった。
イルルヤンカシュは、呆れた顔をし、息子と再度、対峙した。

「やれやれ、遥か昔の若い頃の俺のようだ。悪い所も似るとは、何たる皮肉よ。」
「黙れ!!!お前なんか、俺の父ではない!!!」

イルディアは、イルルヤンカシュに全力の物理攻撃をしようとしていたが、
それはあっけなく、イルルヤンカシュの反撃で防がれ、逆に、
自分が大ダメージを受けて、気絶する羽目になった。

「そんな?!兄さん!!!!」

シルヴィルは、悲痛な声で兄の名前を呼び、イルディアの側に駆け寄る。
ラリイも一緒に側に寄り、すぐに回復魔法かけて、イルディアを回復させた。
これで、命に別状はないだろう。

「すまないな・・・ラリイ。」
「いや、勝手にこんなことをしたことを詫びるよ。イルル。」
「ラリイが詫びることはないにない。シルヴィルを・・・
俺の娘を、さっきの戦いから守ってくれたことも感謝しよう。」
「え・・・?」

シルヴィルは、イルルヤンカシュの言葉を聞き、呆気に取られる。
イルルヤンカシュは、初めてシルヴィルを優しい顔で見た。

「お前は俺の娘だ。俺はお前を娘として認める。今まで、
認めなかった、この不甲斐ない父を許せ。シルヴィル。」
「そ、そんなこと・・・ないです・・・お、お父さん・・・」

シルヴィルは、イルルヤンカシュの言葉で、一気に両目に大粒の涙を零し、
まだぎこちない感じではあるが、イルルヤンカシュを、お父さんと、なんとか呼んだ。
ラリイは、この光景に、心から喜んだ。イルルヤンカシュと
娘の間には家族間の絆が戻ったのだから。

「良かったな、シルヴィル。父に認められて。」
「はい!ラリイ・・・さっきも・・・その・・・ありがとう。」

ラリイに笑顔で声を掛けられた、シルヴィルは、同じ笑顔で、
ラリイに照れながらもお礼を言った。
この雰囲気に、イルルヤンカシュも、おや?と思ったは言うまでもない。

(ラリイめ・・・俺の娘に好意を持ったか?だが、ラリイなら悪くないはないな。
親友の息子だし、何せあのフェニックスの力を継いでいる。
しかし、あのフェニックスが俺の娘とは言え、ラリイとの結婚を
認めるだろうか?)

イルルヤンカシュは、心の中で2人を見て、そう考えた。
フェニックスにしても、イルルヤンカシュにしても、
実に思いが先に行きすぎていた。
当人達は、まだ、自分達の恋にすら気づいていないと言うのに。

「ラリイ、手間をかけさせて悪いと思うが、息子と娘を、
鬼人族の住処近くまで、届けてくれないか?」
「私は、全然構わないが、いいのか?イルルは一緒に行かないのか?」
「俺は、まだ鬼人族の側には行かない方がいいだろう。
息子の計画とやらが、おかしい方向に向かったら、困るからな。
どうせ、俺にこうしてやられても、息子は計画を続行するだろう。
後、シルヴィルは、ラリイとまた戻って来た方がいい。」
「わかりました。ラリイと戻ってきます。」
「うむ。ラリイ、頼んだぞ。」
「わかった。イルル、じゃあ、行ってくる。シルヴィル、鬼人族の住処の案内をお願い出来るか?」
「はい!任せて!ラリイ!」
「じゃあ、お願いする。」

シルヴィルの明るい返事に、ラリイも嬉しそうにする。
それを、イルルヤンカシュも暖かく見守った。
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