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第7章「やってみたいお年頃」

「ほっほっほ。なんと、あのフェニックスの子とな?」
「はい。ビスマルク様。初めて、お目に掛かれて光栄です。」

ラリイは、ビスマルクのいる城にフィニアに無事に案内して貰い、
ビスマルクと対面することが出来た。
ビスマルクは穏やかな表情ではあったが、ラリイの腕に
リヴァイアサンの腕輪が有る事に気づき、
ラリイが人間達の為に来たのだとすぐに理解した。
その腕輪はフランがしていたものと同じだったからだ。

「こんな老いた幻獣に、わざわざ海の中まで来て、会いたがるとは、
ラリイは物好きじゃなぁ。
それとも、わしに何か別の用事でもあるのかのぉ?」

ビスマルクは意地悪そうな笑顔でラリイに聞く。
大きな白いクジラのような幻獣ビスマルクは、飄々としてはいるが、
オーディンの様に曲者でもある。それから、頑固さで言えば、ラムウ並みだ。
ラリイは、そんなビスマルクの機嫌を損ねないように慎重に答える。

「いいえ。私は個人的に、ビスマルク様には、ぜひお会いしたかったのです。
私は今後も人間界に来ることがありますし、その時に挨拶出来る友が
増えたら嬉しいと素直に思っていたのです。」
「なんと!実に素直で愛らしいことを言いよる。あのフェニックスから、
こんな子が出来ようとはのぉ。ほっほっほ。」

ビスマルクは、そう笑いながら、ラリイを見定める。
ラリイが嘘をついていないのは、ビスマルクも気でわかった。
ビスマルクは、フェニックスと、しばらく会っていなかったが、
噂は聞いていた。
人間嫌いを克服し、人間との子を持ったことを。ビスマルクも、
その事に関しては、喜ばしいことだと思っていたのだ。

「うむうむ。フェニックスは実に良い子を持ったようだ。
久方ぶりにわしも会いたくなったぞ。」
「では、今度、ビスマルク様に会うように、私から伝えておきます。」
「ほっほっほ。それは良いな。わしは、この海から出られぬ身。
フェニックスから会いに来てくれるのなら、大歓迎じゃ。」

ラリイとビスマルクの間には、緩やかな時間が流れる。
フィニアもそれを遠くから見守り、安心する。今の所、ラリイは、
ビスマルクの機嫌を損ねていないことに。

「ところでラリイ。お前は人間をどう思うね?」

ビスマルクは突然、ラリイにこう尋ねる。ラリイは驚いた顔をしながら、
ビスマルクの目を見る。その目はラリイの中の人間性を見ているようだった。

「人間は・・・まだまだ未熟な存在だと思います。もちろん、
私も人間の血が流れているので、未熟な存在だと認識しております。」
「ほうほう・・・」
「ですが、だからと言って、すべてが邪悪だと思っていないです。
いや、出来るのなら、思って欲しくないです。
フェニックスは、私に言いました。人間の中にも、愛しいと思える存在はいると。
そういう人間を増やせるように、今後は見守っていきたい。
それもあるからこそ、自分は幻獣界を作ったとも。」
「なんと・・・そこまで、あのフェニックスがのぉ・・・」
「はい。だから、私も親のフェニックスの力に、今後も
なれるように生きていきたいと思ってます。
もちろん、幻獣達の意思も尊重しながらですが。」

ラリイは純粋に自分の気持ちを飾らずに、ビスマルクに伝えた。
ビスマルクは、ラリイの言葉を受け取り、考える。

「ならば、ラリイの意見としては、人間と付き合うのを止めるのは、
勿体無いと言う事かのぉ?」
「はい。出来るのならば、今後も仲違いがあっても、話し合いをして貰い、
人間達の成長の為にも、見守ってくれる存在になってくれればと願います。
私を含め、良き友であってくれたら、私も、これほどまでに嬉しい事はないです。」

ラリイは最高の笑顔でビスマルクに言った。
ビスマルクは、そんなラリイに、また笑顔で返した。

「ほっほっほ。フェニックスの子に、こうまで言われるのなら、
わしも人間に対する考えを見直してもいいかもしれんのぉ。
ところでラリイ。人間に託されたものがあるのじゃろ?」
「あはは。ビスマルク様は、そこまでご存じでしたか。」
「伊達に長生きはしとらんでのぉ。それから、オーディンにも、
時間がある時は、遊びに来いと言っておくれ。」
「はい。ちゃんと言っておきます。」

ラリイは、自分の背後にオーディンが居ることも見抜かれて、
ちょっとドキっとしてしまったが、ビスマルクは気分を
悪くしたわけではなかったので、安心した。
ラリイとビスマルクのやり取りを見ていたフィニアは、ラリイに凄く感心した。

(あのビルマルク様が、あんなにも、すぐに気に入られるとは、
珍しい。ラリイ様の気が、ビスマルク様には心地良いものだったのかもしれないな。
何せ、あのアルゥイントにも、気に入られてる存在のようだからな。)

ラリイは、ビスマルクにフレンから預かった手紙を無事に渡し、
ビスマルクがその手紙を読んでいる最中に、ある存在が、ビスマルクの元に来た。

「おじいちゃーん!お客様はまだいる?」

明るく、可愛らしい声で、どこかで聞いたことがあるような声の存在は、
ラリイの前に出て来て、嬉しそうにする。

「良かったわーラリイが、まだ居て♪」

その存在は、白のウェーブのかかった長い髪に、透き通るほどの綺麗な肌で、
珊瑚の赤さを思わせる瞳をした美少女の人魚であった。
ラリイは、その人魚に心当たりがないので、困った顔をした。
そんなラリイの態度を見て、その人魚はクスクス笑う。

「もう!ラリイったら!私がわからないの?ヴィアンレよ♪」
「え?!ヴィアンレ?!」
「そうよー♪あの時は助けてくれて、有難うね♪」

ヴィアンレは、可愛い仕草でラリイにお辞儀をした。
ビスマルクは驚いた顔で、孫のヴィアンレとラリイを見る。

「なんじゃ?ヴィアンレ?ラリイと知り合いだったのか?」
「うん♪ほんの少し前に、ラリイは私をシャークスから、救ってくれたの!
凄いんだよ!あっという間に、巨大な渦を作って、シャークスを
蹴散らしちゃったの♪おじいちゃんにも見せたかったくらい♪」

ヴィアンレは、ビスマルクの側に行き、甘えながら、ラリイに助けて貰った事情を話す。
ビスマルクは、孫の話を嬉しそうに聞いている。
その様子から見るに、ビスマルクは、相当、孫のヴィアンレが大好きな感じであった。
まるで、フェニックスがラリイを溺愛するように。

「なんと!ラリイは、すでにわしの大事なヴィーを助けていたとな?!
ならば、その礼をしなければ、ならなかったのではないか!」

ビスマルクは目を見開いて、ラリイを見た。ラリイは、
そんなビスマルクに驚きながらも、なんとか返事を返す。

「で、でしたら、その手紙を受け取って頂いたことが、お礼で大丈夫です。」
「本当に、ラリイは良い子じゃのぉ。欲がない子じゃ。
わしは、ますますラリイが気に入ったぞ!」

ビスマルクは豪快に笑った。ヴィアンレも、そんな祖父を嬉しそうに見ていた。
とにかく、ラリイは、今回の事が、良い結果に終わって、一安心した。
これなら、フレン達も喜んでくれそうだと、ラリイも思えた。
後日談になるが、ビスマルク側とフレン側は、無事に和解することが出来た。
どうやら、何かの行き違いがあったようで、フレン側だけに、
落ち度があったように見えたが、そうではなかったらしい。
それから、オーディンが指示して、フレンに書かせた手紙も、
かなりの効果があったようだ。
オーディンは、ビスマルクの性格を把握した上で、
喜ばせるように書かせたのだから、悪い方向にいくわけはなかった。
ラリイは、自分の剣の師の知略に、再度、尊敬しながらも、
自分も、まだまだ学ばねばいけないなと、気持ちを引き締めた。
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