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第5章「離れゆく心」

あれから数日後、ラリイは体力もしっかりと戻り、オーディンが
望んでいた剣術の修行をすることになった。
最初の1か月は、オーディンとだけで修行をする。
オーディンが、気を使い、その方が良いだろうと考えてくれたのだ。
ラリイの方も、その方が有難かった。
オーディンだけなら、ラリイが虐められることもない。
ラリイだけでなく、フェニックスも安心して、ラリイをオーディンに託した。
オーディンは、ラリイに剣術だけでなく、魔法の基礎も再度、
教えなおし、色々な雑学も教えた。
それから、人間界がどんな場所であるかも教えていく。

「人間界はお前のもう一つの故郷のようなものだ。だけど、今は、
まだ子供のお前が1人で遊びに行くのは危険な場所でもある。」
「そんなに・・・危険なの?」
「ああ、とっても危険な場所だ。まだ魔物がたくさんいるし、
魔物と同じくらい、危険な人間も存在するからな。」
「人間も・・・危険なの?」
「そうだ。ラリイ、お前は人間からも、様々な目で見られることになるだろう。
悪意を向けてくる奴もいれば、好意的な奴もな。
今後はそれを見極められるようになるのも大事だ。」
「わかりました・・・」

ラリイは素直にオーディンの教えに従い、成長していく。
オーディンはラリイに処世術も教えた。
おかげでラリイは、他の同年代の幻獣達と揉めることはなかったが、
代わりに、子供の頃のような、明るさはなくなり、冷静で無口な青年に育っていった。
フェニックスは、それを凄く寂しがったが、ラリイが
望んだことなのだからと、最後は認めた。
ラリイは無口になったとは言っても、フェニックスがラリイの気を感じる時は、
感情を無駄に表に現さないだけなのだと分かったから。
それに、争いが嫌いで心優しいのは変わっていない。

「俺が予想していた通り、ラリイは剣の腕もいいな。
いや、想像以上かもしれん。」
「そう・・・ですか?」
「そうだとも!フェニックスに過去にチラっと聞いたが、
前世のお前は、あのアルゥイント・ガルトを使いこなしたと言う。
神々の時代に作られたと言う、世界最高の武器、七幻主をな。」
「ななげんしゅ?」
「人間界では、七星具とも言うらしいがな。あの武器達は、持ち主を選ぶと言う。
もしかすれば、お前はまたアルゥイントを使いこなせるかもしれないな。」

オーディンは、その事があったのもあって、ラリイに剣術を
教えるのが楽しみでもあった。
転生したラリイがまた七幻主を使う事が出来るのか。
そのアルゥイント・ガルドは、今はフェニックスの屋敷で大事に保管されていた。
フェニックスが前世のラリイの肉体を人間界から幻獣界に
移動させた際に、アルゥイントも持って来ていたのだ。
フェニックスからすれば、七幻主としてよりも、
前世のラリイとの大事な思い出の品としての方が意味は強い。
オーディンはそんなことは知らないが。

「そうなれば、ラリイ。お前にとって、自分の身を守るのに、
大きな武器になるだろう。
七幻主は、ただ力が強いだけではない。持ち主にとって、
良い道しるべになる存在でもあるらしいからな。」
「へぇー・・・」

ラリイはオーディンの話を聞いて、素直に感心する。
フェニックスから、アルゥイントの存在を知ってはいたが、
ここまで詳しく知ったのは、今日が初めてであった。
この話を聞き、ラリイはいつかまた自分がアルゥイントを
持つのに相応しくなれるように、剣術の稽古を、しっかりとこなした。
ラリイは絶対にアルゥイントを使いこなそうと決意する。
そうなれば、フェニックスが喜んでくれそうな気がしたのだ。
これはラリイの勘であったが、後に、その勘は間違いではなかったことになる。
フェニックスは、ラリイがある歳になったら、喜んで、
アルゥイントを託すことになったからだ。
しかし、今のラリイはまだそれを知らない。

「そんな武器が使えるようになると、ラリイは大人になったら、
モテるかもしれないなぁ。
何せ、あのフェニックスの子で、顔立ちも悪くないし、将来は実力もついてくるだろう。
それに、今後の幻獣界に幻獣人が増えれば、他の幻獣達の価値観も変わってくるだろうし、
そうなってくると、ラリイが次期幻獣王になんて話も出て来ても、
おかしくないと俺は踏んでるぞ?」
「僕が・・・幻獣王に?本当?」
「ああ、今は、まだここだけの話だけどな。
でも、バハムート王も考えてるっぽいけどな、
自分の次に誰を王にするのかをな。」
「?」

幼いラリイには、まだオーディンの考えが難しかった。
オーディンも、つい余計にしゃべりすぎた事を後悔するが、
ラリイがいい子だったので、上手く丸め込んで誤魔化した。
今のラリイに聞かせるには、早すぎる話だと思ったからだ。

「ま、とにかく、今は実力をつけるのが先だ。
ラリイ、今日の剣術の稽古も優しくはないからな!しっかり、ついて来いよ?」
「はい!」
「うん!良い返事だ!」

しっかりと返事をするラリイに、オーディンは微笑む。
オーディンの教え方は、ラリイには適していた。
厳しい指導もあるが、ちゃんと出来れば、オーディンはラリイをしっかりと褒める。
ラリイが挫けそうになっても、いい感じに活を入れ、ラリイを励ましたりもした。
そのおかげもあり、ラリイが成長した頃には、幻獣界で1、2位を
争えるほどに、剣術では実力がついていた。

(いつか、成長したラリイが、俺の娘の誰かの婿になって貰うのもいいかもしれないな。
身分、容姿、実力ともに、悪くない。
何より俺が今、こうして指導してるからな。)

ちゃっかり、オーディンはこんな事も考えていた。
あのフェニックスの力を、自分の家系に加えれることが出来れば、
悪い話ではない。
でも、そんな考えを持っていたのは、実はオーディンだけではなかった。
バハムートも、いつかラリイを義理の息子にしたいと考えていたのだ。
自分の娘の誰かと結婚させて。
順序で言えば、バハムートの方が先にラリイを自分の義理の息子にと、思っていた。
そうすれば、今後に、ラリイの実力次第では、幻獣王にしても
良いとさえ考えていたからだ。
バハムートは、フェニックスと組んだ時から、自分に何かあったら、
次に幻獣王になるべきなのは、フェニックスだと考えてはいた。
けど、フェニックスは、あの性格故に、頑なに王にはならないだろうとも思っている。
そうだとするならば、フェニックスの息子のラリイに譲るしかないと。
そうすれば、フェニックスと実際は対等的な立場なのであると、
バハムートは思って貰いたかった部分があった。
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