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第5章「離れゆく心」

ラリイが意識を戻した日の夜に、フェニックスは、出来る限りラリイに分かりやすく、
出生の話を聞かせてた。子守歌のように優しく。
親友ラリイとの出会いなども含めて。
ラリイはただ静かにフェニックスの話をじっと聞いていた。
質問したいことは、いっぱいあったが、今のラリイには、それが難しかった。
フェニックスも、そんなラリイの状態がわかっていたから、
今後はいつでも質問すればいいと言い聞かせた。
その時は、もう隠さないで話すと。
本当は一定の歳になれば、隠す気などはなかったのだが、
話が難しいだろうからと先延ばしにしていただけだったのだ。

「ラリイ。確かに厳密に言えば、遺伝子的な話になりますが、
私とラリイは親子と言うのは難しいかもしれません。けれど、
貴方は確かに私の力を受け継いでいるのです。フェニックスと
しての私の力が。そして、そんな存在は、ラリイ。
私の愛しい息子である貴方しかいません。」
「フェニ・・・」

フェニックスは優しい眼差しでラリイを見ながら、頭を撫でる。

「だからこそ、貴方は、間違いなく私の息子なのです。
他の者は、この事が理解出来ずに、貴方に今後も悪意のある言葉を
投げかける者が出てくるかもしれません。でも、気にしてはいけません。
ラリイと私が親子であることを否定することなど、その者には
絶対に出来やしないのですから・・・ね?ラリイ?」
「うん・・・わかった・・・」
「うふふ、ラリイは本当にいい子ですね♪さぁ、ラリイ?
もう眠くなってきたでしょ?寝てもいいですよ?私が側にずっと居ますから。」
「フェニ・・・うん。」

ラリイは、頭を撫でられているのが気持ちよくなり、ウトウトし出す。

「ラリイ。今後は何でもいいから、私に話して下さいね?
我慢なんかしなくていいんですからね?」
「う・・・ん・・・・」

ラリイは最後になんとか返事を返して寝てしまった。
フェニックスは優しい笑顔でラリイの寝顔を見る。
そして、オーディンに感謝せねば、と思い出す。

「オーディンがこんなにも助けてくれるとは、思いもしませんでした。
もしかして、オーディンも何か、幻獣人に対して思いがあったのでしょうか?」

フェニックスなりに、考えはしてみるが、答えは出なかった。
それにしても、ここまで助けてくれるほど、ラリイに剣術を
教えてることが、オーディンにとって、楽しみだったことを知り、
フェニックスも、内心はかなり驚いていた。

「ラリイをこんなにも助けてくれたのですから、きっと将来は、
ラリイにとって良き師であり、先輩になってくれるかもしれませんね。」

フェニックスは健やかに寝ているラリイの頭を撫でながら、
将来のラリイとオーディンの姿を想像し、笑った。
フェニックスの予想は後に見事に当たり、ラリイは大きくなってからも、
オーディンとは良い友情関係で結ばれることになる。
そして遠い未来では、ラリイの息子達、フェニックスからすれば、
孫達も、大変にお世話になる存在になるのであった。
その頃、そんなオーディンは言うと、フェニックスの屋敷を出て、
自分の屋敷に帰る途中で、ラムウと出くわした。

「オーディン。感謝する。」
「はて?何の事ですか?」
「フェニックスの息子のラリイのことだ。」

オーディンは薄々ラムウが自分の前に出て来た要件に気づいてはいたが、
敢えてとぼける振りをした。
オーディンも馬鹿素直な男ではない。三大重臣の中立を保つ為にも、
フェニックスへ助力したのは、あくまでも気まぐれと
言う事にしなければならなかったのだ。

「ああ、ラリイですか?今日は、今後の剣術について話をしに
行っただけですよ。
そしたら、俺の陽気さが良かったんですかね?
返事してくれまして、本当に小さい子は可愛いもんですね。ラムウ殿。」
「ふっ、そうだな、オーディン。だが、わしからも感謝する。
それだけだ。では、失礼するぞ。」
「はい。それではラムウ殿。」

ラムウとの短い会話の後で、オーディンは、胸を撫で下す。
オーディンにとって、この幻獣界で一番敵に回したくないのは、
ラムウであった。
正直な話、バハムートもフェニックスも単体で勝負するなら、
オーディンには勝算がある。
しかし、ラムウだけは力に勝てても、それ以外では勝つのが難しい所があったのだ。
別に、オーディンは今後、幻獣界で一番になろうとか、そういう意思はない。
これはいざと言う時の考えだ。何かの弾みで幻獣界が荒れることになった時の。
こればかりは、オーディンも自分の性分なので、どうとも思ってはいない。

「そういえば、兄上が、幻獣界にも裁判出来るシステムを
導入させたいとか言っていたが・・・俺が手伝わされるんだろうな・・・」

オーディンは、自分の兄である、アレクサンダーの事を考え、
苦笑いをしてしまう。
アレクサンダーは、幻獣国では、何かの役職に今はついていないが、
実はまだバハムートを王としては認めていなかった。
ただ、敵対はしていないので、何もないだけで済んでいるのと、
弟のオーディンがすでに三大重臣として仕えているのも大きかった。
アレクサンダーもオーディンに負けず、切れ者の幻獣ではあるが、
とにかくプライドが高く、格式などにうるさい幻獣であった。
どうにか、権力的には、バハムートの上になれないかと、裏では
画策していたのだ。
そこで、裁判制度を設け、いざと言う時は、バハムートが王であろうとも、
罪を犯せば、裁ける立場になろうとしていたのだ。
兄のこの考えに、オーディンは、感心しながらも、
苦笑いしか出来なかったわけである。

「別に裁判が悪いとかでなく、俺はあんまり堅苦しいのが、
好きじゃないんだよな。
細かい決まり事とか作った所為で、逆に自分が苦しめられる例なんて、
人間界でもたくさん見てきたからな。
そうならないように、注意だけはしておかなくてはな。」

オーディンは、それだけは危惧していた。
幻獣界では、そうしたことでゴタゴタしたくないと、オーディンは
本気で思っていた。
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