第5章「離れゆく心」
「オーディン様!困ります!」
「オーディン様!お止め下さいませ!」
フェニックスが不在の間に、オーディンはフェニックスの屋敷に来ていた。
そして、問答無用でラリイのいる部屋に向かう。
フェニックスの屋敷にいる使用人達は必死にオーディンを止めようとはするが、
止められるわけがなかった。
オーディンの剣幕は凄いものがあり、オーディンの一番の部下達で
ある、フギンとムニンも一緒に来ていた。
これだけの幻獣が揃ってフェニックスの屋敷に来て、使用人達だけで、
追い返すなど出来るわけがない。
「すべての責任は俺が持つ、お前達は俺達に関わらずとも良い!
ラリイを俺に会わせろ。それだけだ。」
「で、ですが・・・」
ラリイの専属の執事である、フェイロは、それでも躊躇う。
フェニックスから許しを得ているなら、誰だって止めはしない。
けれど、オーディンはフェニックスに何の許可も得ずに、
今のあのラリイと会おうとしているのだ。
使用人達が、おいそれとオーディンに従うなど出来るわけがない。
「今、一度言うぞ?俺はフェニックスの息子のラリイに会いたいだけだ。
悪いようにはせん。会わせろ。それに、俺の部下は気が短いのでな、
あんまり聞き分けが良くないと何をするか、わからんぞ?」
オーディンは、最後にそう言って、フェイロにニヤリと笑った。
ここまで言われてしまえば、もう誰も逆らうものなどいなかった。
「しかし、オーディン様。何もここまでせずとも、フェニックス様なら、
普通に会わせてくれるのでは?」
フギンはオーディンの行動を不思議に思いながら、言う。
オーディンは笑いながら、フギンとムニンに説明する。
「いや、今のフェニックスでは無理だ。息子のラリイの事で
頭がいっぱいで、俺の提案など聞かないだろうよ。
だから、今日のこの日を狙ったのだ。
フェニックスが人間界の世界会議へ参加する今日にな。」
「そう言えば、今日、フェニックス様が人間界に行かれる日でしたね。」
「そうだ。この日の為に、俺が行っても良かったのを、
わざと断ったのだ。せっかく、ラリイと剣術が出来ると
楽しみにしていたのに、この有様だからな。」
「オーディン様・・・まさか、それが理由で今日、こんな事を?」
ムニンが少し、困った顔でオーディンを見る。オーディンは、
その通りだと、また笑う。
オーディン達は急ぎ足でラリイの部屋に急いだ。
「お前達はここで待て。俺以外は絶対に誰も部屋に入れるな。
俺が許可を出すまで、あのフェニックスでもだ。いいな?」
「わかりました。オーディン様。」
「承知しました。オーディン様。」
フギンとムニンはそれぞれに頭を下げ、オーディンの言葉を聞いた。
オーディンは、フギンとムニンをラリイの部屋の外に待機させると、
静かにラリイの部屋に入り、ラリイを見た。
ラリイは、ただ静かに椅子に座り、じっとしていた。
まるで生きた人形と言うべき存在に、今のラリイはなってしまっている。
「俺が前に見た時はわんぱくで、元気な子だったがな。
この様子では、フェニックスが穏やかでいられないのも、わかると言うものだ。」
オーディンはそっとラリイの側に近寄り、声を掛ける。
「久しぶりだな。ラリイ。俺が見た時はまだ3歳くらいだったが、
俺がわかるか?オーディンだ。お前の親のフェニックスとは、
同じ仕事仲間と言ったところか?」
オーディンは陽気にラリイに話しかけるが、ラリイは少しだけ、
ピクっと反応したっきり、何も動かなかった。
(俺の言葉の反応を見る限りでは、完全に心を閉ざしたわけじゃなさそうだな。
少しだが、反応を示した。これはやっぱり荒治療かもしれんが、
ラリイの心に直接話掛けた方が良さそうだ。)
オーディンはそう考え、ラリイの頭に優しく手を置き、意識を集中させる。
「ラリイ。何も怖がることはないからな。俺はお前の味方だ。
だから、俺の声を聞いてくれ。」
オーディンは出来る限りの優しい声で現実のラリイにもそう呼びかけた。
そうしてから、オーディンは目を閉じ、ラリイの心の中に入り込む。
ラリイは闇の空間で、1人膝を抱え泣いていた。
そんなラリイを見つけ、オーディンは再びラリイに陽気に声を掛けた。
「こんなとこに居たのか?ラリイ?久しぶりだな!」
「?」
泣いていたラリイは、顔を上げ、オーディンを見て、誰?と言う顔をする。
オーディンはラリイを怖がらせないようにと、ゆっくりラリイに
近づき、ラリイの目線に合わせる為に、しゃがみ込んだ。
「なんだ?俺の事を忘れちゃったか?オーディンだ。お前の今度、
剣の先生になる予定だったんだぞ?」
「オーディン様?フェニと同じ、三大重臣の?」
「そうだ!そうだ!ラリイは、やっぱりフェニックスの子だな!
賢い子だ!」
オーディンは、ラリイの心の中ではあるが、ラリイの頭を激しく撫でてやった。
それから、大袈裟と言うほどにラリイを褒める。
でも、ラリイは、少しも嬉しそうではなかった。
「でも、僕は・・・フェニには・・・必要ない子だから・・・
だから、剣術とか学んでも、しょうがないかも・・・」
「そうか?学ぶことに何一つ無駄など無いものだぞ?
それに、逆にラリイはこれから、多くの事を学ぶべきだ。」
「どうして?」
「ラリイ。お前は強くならなきゃいけない。
あんな虐めっ子達に負けてる場合じゃないぞ?」
オーディンはラリイの頭を優しく撫で続けながら、話しも続ける。
「ラリイ。お前はな、興味深い存在なんだ。いい意味でも、
悪い意味でも、注目されてしまうほどにな?」
「どうして、僕なんか、注目するの?」
ラリイは、オーディンの言う事が全くわからないと言った顔で、
口を尖らせて言う。
「ラリイがこの幻獣界では、ただ1人の存在である、幻獣人だから!
そして、お前の親があの有名な幻獣のフェニックスだからな!」
オーディンは笑顔でラリイと会話しつつ、ラリイにウィンクして見せる。
陽気なオーディンにラリイは、不思議そうにしながらも、
オーディンに暖かさを感じ、少しずつ、心を開きかけていた。
子供ながらに、ラリイは実感した。目の前にいるオーディンは、
ラリイを虐めていた子供達とは全く違うのだと。
「ラリイ、お前は、あんな奴らに言われたくらいで、親であるフェニックスと
信頼がなくなってしまうほど、親とは脆い繋がりなのか?」
「そんな!違う!僕はフェニを・・・フェニを・・・」
「な?ラリイ?人間であろうと、幻獣であろうと、心を閉ざし、
会話しなければ、何もわからずじまいだ。わかるな?」
「オーディン様・・・」
「お前が怖いと思うのも無理はない。けどな?それは無知だから
くる恐怖でもある。
だからこそ、何においても学ぶべきなのだ。肉体的にも、精神的にも強くなる為にもな。
その手助けは俺もしてやろう。だから、帰ってこい!現実に!
フェニックスも、お前の事を誰よりも待っているぞ?」
オーディンはラリイを抱きしめてやった。
きっと、こうしてやれば、ラリイはフェニックスの事も強く思い出すだろうと思って。
「フェニ・・・フェニ・・・ぐすぅ・・・」
オーディンが考えていた通り、ラリイは親であるフェニックスを
思い出し、また泣き出した。
無感情だったラリイに、少しずつ感情が戻る。
現実に戻って来たオーディンはラリイの頭から手を離し、ラリイを再度見た。
ラリイの目には、感情の光が薄っすらと戻って来たことを、
オーディンは確認した。
「オーディン様!お止め下さいませ!」
フェニックスが不在の間に、オーディンはフェニックスの屋敷に来ていた。
そして、問答無用でラリイのいる部屋に向かう。
フェニックスの屋敷にいる使用人達は必死にオーディンを止めようとはするが、
止められるわけがなかった。
オーディンの剣幕は凄いものがあり、オーディンの一番の部下達で
ある、フギンとムニンも一緒に来ていた。
これだけの幻獣が揃ってフェニックスの屋敷に来て、使用人達だけで、
追い返すなど出来るわけがない。
「すべての責任は俺が持つ、お前達は俺達に関わらずとも良い!
ラリイを俺に会わせろ。それだけだ。」
「で、ですが・・・」
ラリイの専属の執事である、フェイロは、それでも躊躇う。
フェニックスから許しを得ているなら、誰だって止めはしない。
けれど、オーディンはフェニックスに何の許可も得ずに、
今のあのラリイと会おうとしているのだ。
使用人達が、おいそれとオーディンに従うなど出来るわけがない。
「今、一度言うぞ?俺はフェニックスの息子のラリイに会いたいだけだ。
悪いようにはせん。会わせろ。それに、俺の部下は気が短いのでな、
あんまり聞き分けが良くないと何をするか、わからんぞ?」
オーディンは、最後にそう言って、フェイロにニヤリと笑った。
ここまで言われてしまえば、もう誰も逆らうものなどいなかった。
「しかし、オーディン様。何もここまでせずとも、フェニックス様なら、
普通に会わせてくれるのでは?」
フギンはオーディンの行動を不思議に思いながら、言う。
オーディンは笑いながら、フギンとムニンに説明する。
「いや、今のフェニックスでは無理だ。息子のラリイの事で
頭がいっぱいで、俺の提案など聞かないだろうよ。
だから、今日のこの日を狙ったのだ。
フェニックスが人間界の世界会議へ参加する今日にな。」
「そう言えば、今日、フェニックス様が人間界に行かれる日でしたね。」
「そうだ。この日の為に、俺が行っても良かったのを、
わざと断ったのだ。せっかく、ラリイと剣術が出来ると
楽しみにしていたのに、この有様だからな。」
「オーディン様・・・まさか、それが理由で今日、こんな事を?」
ムニンが少し、困った顔でオーディンを見る。オーディンは、
その通りだと、また笑う。
オーディン達は急ぎ足でラリイの部屋に急いだ。
「お前達はここで待て。俺以外は絶対に誰も部屋に入れるな。
俺が許可を出すまで、あのフェニックスでもだ。いいな?」
「わかりました。オーディン様。」
「承知しました。オーディン様。」
フギンとムニンはそれぞれに頭を下げ、オーディンの言葉を聞いた。
オーディンは、フギンとムニンをラリイの部屋の外に待機させると、
静かにラリイの部屋に入り、ラリイを見た。
ラリイは、ただ静かに椅子に座り、じっとしていた。
まるで生きた人形と言うべき存在に、今のラリイはなってしまっている。
「俺が前に見た時はわんぱくで、元気な子だったがな。
この様子では、フェニックスが穏やかでいられないのも、わかると言うものだ。」
オーディンはそっとラリイの側に近寄り、声を掛ける。
「久しぶりだな。ラリイ。俺が見た時はまだ3歳くらいだったが、
俺がわかるか?オーディンだ。お前の親のフェニックスとは、
同じ仕事仲間と言ったところか?」
オーディンは陽気にラリイに話しかけるが、ラリイは少しだけ、
ピクっと反応したっきり、何も動かなかった。
(俺の言葉の反応を見る限りでは、完全に心を閉ざしたわけじゃなさそうだな。
少しだが、反応を示した。これはやっぱり荒治療かもしれんが、
ラリイの心に直接話掛けた方が良さそうだ。)
オーディンはそう考え、ラリイの頭に優しく手を置き、意識を集中させる。
「ラリイ。何も怖がることはないからな。俺はお前の味方だ。
だから、俺の声を聞いてくれ。」
オーディンは出来る限りの優しい声で現実のラリイにもそう呼びかけた。
そうしてから、オーディンは目を閉じ、ラリイの心の中に入り込む。
ラリイは闇の空間で、1人膝を抱え泣いていた。
そんなラリイを見つけ、オーディンは再びラリイに陽気に声を掛けた。
「こんなとこに居たのか?ラリイ?久しぶりだな!」
「?」
泣いていたラリイは、顔を上げ、オーディンを見て、誰?と言う顔をする。
オーディンはラリイを怖がらせないようにと、ゆっくりラリイに
近づき、ラリイの目線に合わせる為に、しゃがみ込んだ。
「なんだ?俺の事を忘れちゃったか?オーディンだ。お前の今度、
剣の先生になる予定だったんだぞ?」
「オーディン様?フェニと同じ、三大重臣の?」
「そうだ!そうだ!ラリイは、やっぱりフェニックスの子だな!
賢い子だ!」
オーディンは、ラリイの心の中ではあるが、ラリイの頭を激しく撫でてやった。
それから、大袈裟と言うほどにラリイを褒める。
でも、ラリイは、少しも嬉しそうではなかった。
「でも、僕は・・・フェニには・・・必要ない子だから・・・
だから、剣術とか学んでも、しょうがないかも・・・」
「そうか?学ぶことに何一つ無駄など無いものだぞ?
それに、逆にラリイはこれから、多くの事を学ぶべきだ。」
「どうして?」
「ラリイ。お前は強くならなきゃいけない。
あんな虐めっ子達に負けてる場合じゃないぞ?」
オーディンはラリイの頭を優しく撫で続けながら、話しも続ける。
「ラリイ。お前はな、興味深い存在なんだ。いい意味でも、
悪い意味でも、注目されてしまうほどにな?」
「どうして、僕なんか、注目するの?」
ラリイは、オーディンの言う事が全くわからないと言った顔で、
口を尖らせて言う。
「ラリイがこの幻獣界では、ただ1人の存在である、幻獣人だから!
そして、お前の親があの有名な幻獣のフェニックスだからな!」
オーディンは笑顔でラリイと会話しつつ、ラリイにウィンクして見せる。
陽気なオーディンにラリイは、不思議そうにしながらも、
オーディンに暖かさを感じ、少しずつ、心を開きかけていた。
子供ながらに、ラリイは実感した。目の前にいるオーディンは、
ラリイを虐めていた子供達とは全く違うのだと。
「ラリイ、お前は、あんな奴らに言われたくらいで、親であるフェニックスと
信頼がなくなってしまうほど、親とは脆い繋がりなのか?」
「そんな!違う!僕はフェニを・・・フェニを・・・」
「な?ラリイ?人間であろうと、幻獣であろうと、心を閉ざし、
会話しなければ、何もわからずじまいだ。わかるな?」
「オーディン様・・・」
「お前が怖いと思うのも無理はない。けどな?それは無知だから
くる恐怖でもある。
だからこそ、何においても学ぶべきなのだ。肉体的にも、精神的にも強くなる為にもな。
その手助けは俺もしてやろう。だから、帰ってこい!現実に!
フェニックスも、お前の事を誰よりも待っているぞ?」
オーディンはラリイを抱きしめてやった。
きっと、こうしてやれば、ラリイはフェニックスの事も強く思い出すだろうと思って。
「フェニ・・・フェニ・・・ぐすぅ・・・」
オーディンが考えていた通り、ラリイは親であるフェニックスを
思い出し、また泣き出した。
無感情だったラリイに、少しずつ感情が戻る。
現実に戻って来たオーディンはラリイの頭から手を離し、ラリイを再度見た。
ラリイの目には、感情の光が薄っすらと戻って来たことを、
オーディンは確認した。