第5章「離れゆく心」
「すまぬ、フェニックス。わしの所為じゃ。」
「いえ、ラムウ。子供同士での事ですから・・・」
フェニックスは、事件の詳細をラムウから聞いた。
が、それは大事な部分が話されていなかった。
ラリイが裏で酷い虐めを受けていたことは話されていなかったのだ。
その日は、たまたま子供同士での喧嘩になり、ラムウの義兄弟姉妹の子供達の悪ふざけが過ぎて、
ラリイを怒らせしまったと、そんな感じの話になっている。
実際、ラムウも詳細に現場を見ていたわけではないので、
悪意があって嘘をついたわけではなかった。
ただ、ラリイの方が最初に攻撃を受けていたのだけは、ラムウはわかっていた。
何故なら、ラリイが魔法を使う頃には、ラリイは気絶していたのだから。
自分の身を守る為に使ったから、ラリイはあれだけの火の精霊を
巨大なサラマンダーにして呼び出すことが出来たのだ。
「フェニックス様!恐れ多いですが、ラリイ様は危険な存在です!」
ラムウの義兄弟姉妹の1体の幻獣がフェニックスにそう叫ぶ。
それに続いて、他の幻獣も騒ぐ。
「そうだ!いくら、子供同士の喧嘩とは言え、我らの子を、
1度に3体も殺そうとされたのだ!」
「フェニックス様の子と言え、なんて恐ろしい!」
「やはり、人間側の血が悪さを・・・」
「ええい!黙らぬか!!!!!」
ラムウは義兄弟姉妹が、騒ぐのを、大声で怒鳴り止めた。
そして、ギロっと強く睨み、黙らせた。ラムウは本気で怒っていた。
「言葉を慎め、義兄弟姉妹達よ。誰に向かって口を聞いておる?
三大重臣にして、バハムート王の一番の補佐役ぞ?
無礼な口のきき方は慎め!これ以上、わしに恥をかかせるな!良いな?」
ラムウは、有無も言わせぬ態度で、義兄弟姉妹を一気に黙らせた。
「それに、先にラリイを危険に晒したのは、うぬらの子達よ。
それをラリイが悪いように言うなど、恥さらしも、
ほどほどにせい!わかったか!!!」
ラムウは最後に、こう義兄弟姉妹に怒鳴った。
これを聞き、流石に義兄弟姉妹も、何も言えなくなった。
しかし、顔を見ればわかる。
今は黙ってはいるが、心の中では納得していないことが。
ラムウの義兄弟姉妹達のラリイを見る目は冷ややかだった。
ラリイが眠っていたから良かったが、起きていたら、震えていたかもしれない。
これほどまでに強い悪意に満ちた憎しみに。
「度々、すまぬな。フェニックス。わしの義兄弟姉妹、それに
その子らにも、きつく言っておく。それで許して貰えるか?」
「はい。こちらこそ、我が子ラリイが、皆様に迷惑をかけました。申し訳ありません。」
フェニックスは、そう言い、ラリイを大事に抱きかかえながら、
謝罪をした。
フェニックスとて、心の中では怒りに震えていたのだ。
ラムウの義兄弟姉妹達のあの態度でフェニックスは理解した。
大事な息子のラリイは、虐められていたのだと。
でも、ここでラムウと対立してしまえば、今まで平和だった幻獣界を不穏にさせてしまう。
フェニックスもラムウもそれだけは避けたかったのだ。
「では、ラムウ、すいませんが、失礼しますね。ラリイを早く休ませたいので。」
「わかった。足止めしてすまぬ。行くがよかろう。」
フェニックスは再度軽くお辞儀をし、急いで自分の屋敷に戻った。
ラリイはフェニックスの力のおかげで、生命の危険はなかったが、
代わりに精神的なダメージが、かなり酷かった。
ラリイは苦しそうな顔で、うなされている。
何度も、涙を流しながら、小さい声で、フェニックスを呼ぶ。
「フェニ・・・助けて・・・フェニ・・・」
「ラリイ・・・貴方をこんなにも苦しませることになるなんて・・・」
フェニックスは軽率だった、自分の行動を恨んだ。
もっと、しっかりと考えればわかるではないか。
この幻獣界で幻獣人は、息子のラリイだけだと。
そのラリイが、人間を嫌っている幻獣達の前に出れば、どうなるか。
こんな簡単な答えに、最近のフェニックスは失念していたのだ。
フレン達、人間側ばかり見て、幻獣側を見過ごすと言う失態。
フェニックスは、激しい後悔をしながら、ラリイの看病に明け暮れる。
バハムートもフェニックスに同情し、3日間の休みを許した。
その間は、ラムウとオーディンがバハムートを助けてくれたそうだ。
フェニックスも、3日間寝ずにラリイの側に居て、うなされるラリイに声を掛け続けた。
「フェニ・・・僕は・・・フェニの子じゃ・・・ないの・・・?」
「そんな・・・誰がそんなことを貴方に・・・」
ラリイがこうしたことをうなされながら言うたびに、
フェニックスの心は締め付けられる思いだった。
フェニックスは、ラリイが一番酷くうなされる日は、ずっとラリイを抱きしめてあげていた。
そして、ラリイに優しく囁く。
「ラリイ、貴方は、誰が何と言おうと、私の大事な息子ですよ。
私の愛しいラリイ・・・どうか、悪意のある言葉に負けないで。」
と、フェニックスは何度も何度も伝えた。ラリイの心の中に届くように。
赤ん坊だった頃のように、頭も優しく撫でて。
3日間が過ぎた頃には、酷くうなされることは減ったものの、
ラリイが未だに目を覚ます気配はなかった。
あの事件から1週間後に、ラリイはやっと目を覚ますことに
なったが、フェニックスの喜びは束の間だった。
「ラリイ・・・?」
「・・・・・・・・」
目を開けたラリイの目は虚ろだった。感情がなくなり、
フェニックスが、どんなに話しかけても答えることがない。
ラリイは深く心を閉ざし、まるで、ただの生きてるだけの
人形のようになってしまっていた。
あの事件がどれだけラリイの心を深く傷つけたのか、フェニックスは、
思い知った。
「そんな・・・ラリイ?お願いです!何か答えて下さい!ラリイ?!」
「・・・・・・・・」
フェニックスは必死でラリイに呼びかけるが、ラリイはピクリとも反応を示さない。
まるで何も聞こえていないような行動だった。
絶望に打ちひしがれたフェニックスは、ラリイを抱きしめ、
涙を流すしか出来なかった。
「ラリイ・・・ごめん・・・ごめんね・・・ラリイ。
私が至らないばかりに・・・ラリイをこんな・・・・」
フェニックスの悲痛な声は、今のラリイには届かない。
その日を境に、フェニックスの屋敷は更に暗い雰囲気の
するものになってしまった。
それからフェニックスは、ラリイの心の傷を治す為に、
幻獣界の仕事とラリイとの治療で必死になっていく。
そんなフェニックスを見兼ね、オーディンは重い腰を上げることにした。
せっかく、ラリイの剣術を見ると、長年楽しみにしていた、
約束が出来なくなりそうなことに、オーディンは、少し怒りさえあったのだ。
「ラムウ殿も、酷いことしてくれたものだ。俺の楽しみを奪うなんて。
大体、俺が最初にラリイの剣術を見るって言うのは決まっていたのに。
それに・・・あんな痛々しいフェニックスを、ずっと見たくないしな。」
オーディンは、ある方法を考えていた。人間にそれなりに
詳しい自分だからこそ、出来るかもしれないと思っていたことを。
「いえ、ラムウ。子供同士での事ですから・・・」
フェニックスは、事件の詳細をラムウから聞いた。
が、それは大事な部分が話されていなかった。
ラリイが裏で酷い虐めを受けていたことは話されていなかったのだ。
その日は、たまたま子供同士での喧嘩になり、ラムウの義兄弟姉妹の子供達の悪ふざけが過ぎて、
ラリイを怒らせしまったと、そんな感じの話になっている。
実際、ラムウも詳細に現場を見ていたわけではないので、
悪意があって嘘をついたわけではなかった。
ただ、ラリイの方が最初に攻撃を受けていたのだけは、ラムウはわかっていた。
何故なら、ラリイが魔法を使う頃には、ラリイは気絶していたのだから。
自分の身を守る為に使ったから、ラリイはあれだけの火の精霊を
巨大なサラマンダーにして呼び出すことが出来たのだ。
「フェニックス様!恐れ多いですが、ラリイ様は危険な存在です!」
ラムウの義兄弟姉妹の1体の幻獣がフェニックスにそう叫ぶ。
それに続いて、他の幻獣も騒ぐ。
「そうだ!いくら、子供同士の喧嘩とは言え、我らの子を、
1度に3体も殺そうとされたのだ!」
「フェニックス様の子と言え、なんて恐ろしい!」
「やはり、人間側の血が悪さを・・・」
「ええい!黙らぬか!!!!!」
ラムウは義兄弟姉妹が、騒ぐのを、大声で怒鳴り止めた。
そして、ギロっと強く睨み、黙らせた。ラムウは本気で怒っていた。
「言葉を慎め、義兄弟姉妹達よ。誰に向かって口を聞いておる?
三大重臣にして、バハムート王の一番の補佐役ぞ?
無礼な口のきき方は慎め!これ以上、わしに恥をかかせるな!良いな?」
ラムウは、有無も言わせぬ態度で、義兄弟姉妹を一気に黙らせた。
「それに、先にラリイを危険に晒したのは、うぬらの子達よ。
それをラリイが悪いように言うなど、恥さらしも、
ほどほどにせい!わかったか!!!」
ラムウは最後に、こう義兄弟姉妹に怒鳴った。
これを聞き、流石に義兄弟姉妹も、何も言えなくなった。
しかし、顔を見ればわかる。
今は黙ってはいるが、心の中では納得していないことが。
ラムウの義兄弟姉妹達のラリイを見る目は冷ややかだった。
ラリイが眠っていたから良かったが、起きていたら、震えていたかもしれない。
これほどまでに強い悪意に満ちた憎しみに。
「度々、すまぬな。フェニックス。わしの義兄弟姉妹、それに
その子らにも、きつく言っておく。それで許して貰えるか?」
「はい。こちらこそ、我が子ラリイが、皆様に迷惑をかけました。申し訳ありません。」
フェニックスは、そう言い、ラリイを大事に抱きかかえながら、
謝罪をした。
フェニックスとて、心の中では怒りに震えていたのだ。
ラムウの義兄弟姉妹達のあの態度でフェニックスは理解した。
大事な息子のラリイは、虐められていたのだと。
でも、ここでラムウと対立してしまえば、今まで平和だった幻獣界を不穏にさせてしまう。
フェニックスもラムウもそれだけは避けたかったのだ。
「では、ラムウ、すいませんが、失礼しますね。ラリイを早く休ませたいので。」
「わかった。足止めしてすまぬ。行くがよかろう。」
フェニックスは再度軽くお辞儀をし、急いで自分の屋敷に戻った。
ラリイはフェニックスの力のおかげで、生命の危険はなかったが、
代わりに精神的なダメージが、かなり酷かった。
ラリイは苦しそうな顔で、うなされている。
何度も、涙を流しながら、小さい声で、フェニックスを呼ぶ。
「フェニ・・・助けて・・・フェニ・・・」
「ラリイ・・・貴方をこんなにも苦しませることになるなんて・・・」
フェニックスは軽率だった、自分の行動を恨んだ。
もっと、しっかりと考えればわかるではないか。
この幻獣界で幻獣人は、息子のラリイだけだと。
そのラリイが、人間を嫌っている幻獣達の前に出れば、どうなるか。
こんな簡単な答えに、最近のフェニックスは失念していたのだ。
フレン達、人間側ばかり見て、幻獣側を見過ごすと言う失態。
フェニックスは、激しい後悔をしながら、ラリイの看病に明け暮れる。
バハムートもフェニックスに同情し、3日間の休みを許した。
その間は、ラムウとオーディンがバハムートを助けてくれたそうだ。
フェニックスも、3日間寝ずにラリイの側に居て、うなされるラリイに声を掛け続けた。
「フェニ・・・僕は・・・フェニの子じゃ・・・ないの・・・?」
「そんな・・・誰がそんなことを貴方に・・・」
ラリイがこうしたことをうなされながら言うたびに、
フェニックスの心は締め付けられる思いだった。
フェニックスは、ラリイが一番酷くうなされる日は、ずっとラリイを抱きしめてあげていた。
そして、ラリイに優しく囁く。
「ラリイ、貴方は、誰が何と言おうと、私の大事な息子ですよ。
私の愛しいラリイ・・・どうか、悪意のある言葉に負けないで。」
と、フェニックスは何度も何度も伝えた。ラリイの心の中に届くように。
赤ん坊だった頃のように、頭も優しく撫でて。
3日間が過ぎた頃には、酷くうなされることは減ったものの、
ラリイが未だに目を覚ます気配はなかった。
あの事件から1週間後に、ラリイはやっと目を覚ますことに
なったが、フェニックスの喜びは束の間だった。
「ラリイ・・・?」
「・・・・・・・・」
目を開けたラリイの目は虚ろだった。感情がなくなり、
フェニックスが、どんなに話しかけても答えることがない。
ラリイは深く心を閉ざし、まるで、ただの生きてるだけの
人形のようになってしまっていた。
あの事件がどれだけラリイの心を深く傷つけたのか、フェニックスは、
思い知った。
「そんな・・・ラリイ?お願いです!何か答えて下さい!ラリイ?!」
「・・・・・・・・」
フェニックスは必死でラリイに呼びかけるが、ラリイはピクリとも反応を示さない。
まるで何も聞こえていないような行動だった。
絶望に打ちひしがれたフェニックスは、ラリイを抱きしめ、
涙を流すしか出来なかった。
「ラリイ・・・ごめん・・・ごめんね・・・ラリイ。
私が至らないばかりに・・・ラリイをこんな・・・・」
フェニックスの悲痛な声は、今のラリイには届かない。
その日を境に、フェニックスの屋敷は更に暗い雰囲気の
するものになってしまった。
それからフェニックスは、ラリイの心の傷を治す為に、
幻獣界の仕事とラリイとの治療で必死になっていく。
そんなフェニックスを見兼ね、オーディンは重い腰を上げることにした。
せっかく、ラリイの剣術を見ると、長年楽しみにしていた、
約束が出来なくなりそうなことに、オーディンは、少し怒りさえあったのだ。
「ラムウ殿も、酷いことしてくれたものだ。俺の楽しみを奪うなんて。
大体、俺が最初にラリイの剣術を見るって言うのは決まっていたのに。
それに・・・あんな痛々しいフェニックスを、ずっと見たくないしな。」
オーディンは、ある方法を考えていた。人間にそれなりに
詳しい自分だからこそ、出来るかもしれないと思っていたことを。