このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第5章「離れゆく心」

「ラリイ♪おはようございます♪」
「お・・・おはようございます・・・」
「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?ラリイ?」

フェニックスはここ数日ラリイの様子がおかしいことに気づいた。
日に日にラリイの明るさがなくなり、言葉数も減り、何よりも、
親である自分を見る目が冷たくなったような気さえする。
フェニックスは努めて、普段通りにラリイに接するのだが、
それでも、今までになかった、ぎこちなさがラリイとの関係で
出来てしまったことを感じる。

「いいえ、大丈夫です・・・」
「そう・・・ですか?ラリイ・・・何かあるなら、わたs」
「ご馳走様です。勉強に行って参ります。」


ラリイはろくに朝食も食べずに、フェニックスとの会話を避けるように、
立ち上がりいなくなった。
フェニックスは、ますますラリイの事が心配になる。

「ラリイ・・・どうしてしまったと言うんですか・・・貴方に何が・・・」

フェニックスはあらゆる事態を考えるが、何も思いつかない。
もし、思いつくのだとしたら、反抗期だったが、まだ歳が早いような気がする。
しかし、他の歳が近い幻獣の子達と関わることで、
ラリイに何か変化が起きているのなら、無理に関わらずに様子を
見守るべきだと、フェニックスは思った。
この時のフェニックスは、ラリイが虐められているなど、
全く知りもしなかったのだ。
魔法の勉強などが上手くいかずに落ち込んでいるとか、そういう方面で考えてしまっていた。
一方、ラリイの方では、いつもの日々が始まる。

「おい!幻獣のなれそこない!お前にこの魔法が使えるか?」

1体の幻獣の子供が、ラリイに、いつもの様に偉そうに言う。
ラリイも最初は反発して、抵抗もしたが、魔法院で学ぶ、
幻獣の子供達は、誰もラリイの味方ではなかった。
1人対多数の中で、ラリイが何においても敵うわけがない。
ラムウもラリイが、こうして虐められていることは
知らぬわけでもなかったが、黙認していた。子供同士の事だから関わらないでいたのだ。
大人の自分が出るべきではないと。

「お前みたいな奴が、将来は三大重臣のフェニックス様の跡を継ぐのか?
ありえないだろ?」
「そうだ、そうだ!お前は半分は人間なんだから、人間界に帰ればいいんだ!」
「人間の血を持ってるなんて、この幻獣界の恥さらしだわ!」
「そうよ!ましてや、あのフェニックス様の子だなんて、信じられない!」

幻獣の子供達は、歳が幼いのもあり、容赦なくラリイを傷つけていく。
親から聞いて育った、人間への憎しみが、ラリイにどんどん向けられていく。
この時代の幻獣界では、幻獣人はラリイだけであった。
人間界には数人存在してはいたが、人間界にいる幻獣人達は、
こうした差別があることを危惧して、幻獣界に来ることは拒んだのだ。
それに、片親は人間なわけだから、人間界で暮らすのに、さほど不自由はしていなかった。
けれど、ラリイの場合は違う。
ラリイは転生して、幻獣人になった、特殊な例の存在だった。
それもあってか、幻獣の子供達は更にラリイに残酷な事を言い出す。

「どうせ、フェニックス様が、ある人間をお情けで助けて、
転生させて、自分の子にしたのがお前なんだろう?なら、お前は、ほぼ人間じゃん?」
「え?」

ラリイはある幻獣の子の言葉に反応する。ラリイは実は、まだ
自分の出生の事はフェニックスから聞いてはいなかった。
成長したら、ちゃんと教えますと、フェニックスから言われて、
無理に聞くことはしないでいたのだが、それを今日、虐めっ子達から
聞くことになり、動揺する。

「う、嘘だ!僕には、ちゃんとフェニともう1人親がいるもん!」
「何だよ、お前!自分の事なのに知らなかったのかよ?
だったら、フェニックス様が教えないなら、実はお前、
フェニックス様から大事に思われてないんじゃないか?」
「そうだーそうだーお前は、本当は息子だと思われてないんだ!」
「そうよーそうよー!可哀想な子!」

周りに幻獣の子供達は、ラリイがどんなにショックを
受けていても、構わずに誹謗中傷してくる。
ラリイは、その日はもう魔法院に居るのが辛くなり、教室に
していた部屋から飛び出してしまった。

「見ろよ!幻獣もどきが逃げ出したぞ!追いかけろ!」

ラリイを特に虐めてる子供達は、ラリイを追いかける。
ラリイは、魔法院の側にある、小さい森に逃げ込んだ。
この森はラリイからすれば、唯一落ち着ける場所でもあった。
虐めっ子達から逃げれる場所で、ラリイが1人泣いていても大丈夫でもある場所。
ラリイは、フェニックスに心配をかけたくなかったから、
虐められていることを必死に隠そうとしていた。
自分が虐められていることを知ったフェニックスの方が、
絶対に自分よりも傷つきそうだと思ったから。
しかし、今日のあの言葉を聞いて、ラリイの心は揺らぐ。

「フェニ・・・本当は僕の事・・・大事じゃなかったの?
だから、僕の出生の事は、何も話してくれなかったの?」

ラリイはこの言葉に深く傷ついていた。いつもなら、何でも教えてくれるフェニ。
だけど、確かに出生の話になると、フェニックスは苦笑いをして、
教えてくれなくなる。
時が経つまではと。

「ぐっす・・・本当は、ほとんど自分の子じゃないって・・・
ぐす・・・言わなきゃいけないから・・・教えてくれなかったの?
フェニ・・・僕は・・・じゃあ、何なの?」

ラリイは、森の中の大木の根本の穴に上手く隠れて、虐めっ子達をやり過ごそうとする。
だが、虐めっ子達は執拗にラリイ探しを諦めない。
そして、最悪なことに最後には見つかってしまう。

「見ろよ!こんなとこに隠れてるぜ!幻獣にもなれない、人間でもない未熟者が!」
「本当だ!引きずり出して晒そうぜ!」
「いいねー♪引きずり出そうー引きずり出そう♪」

幻獣の子供達は、ラリイを無理矢理に引きずり出すと、
馬鹿にした顔で、またラリイを罵り出す。

「どうした?悔しかったら、反論してみろよ!」
「どうせ何も言えないよな?お前ははみ出し者だもの!」
「これに懲りたら、大人しく人間界に帰れよ!フェニックス様の
お情けで、今までいられたことを感謝してな!」

虐めっ子達は、今度はラリイを容赦なく攻撃してくる。
無邪気な故に、その攻撃力も半端ではない。
ラリイは魔法で身を守ろうとするが、幼いので上手に出来ない。
それを見た、幻獣の子供達は更に馬鹿にする。

「見ろよ!あれで防御してるつもりかよ!だせー!」
「所詮は、人間の血の所為で、魔法もろくに使えないんだろ?」
「可哀想な奴!幻獣界にいなきゃ、こんなことにもならなかったのにな!!」

最後にそう言い出した、虐めっ子の1人はラリイに、最大級の水の攻撃魔法を当てる。
この時、ラリイは、死を予感する。このままでは、自分は死んでしまうと。
そう思ったラリイは、自分の中の火の精霊に助けを求めていた。
火の精霊は、ラリイの言葉を聞き届けると、巨大なサラマンダーの姿になり、
虐めっ子の達を取り囲むと、火責めに遭わせた。
ラリイは水の攻撃を受けた所為で気を失い、虐めっ子達は、
事に気づいたラムウに助けられ、何とか一命を取り留めた。
この事件は、すぐに仕事中のフェニックスの耳にも届いた。
2/7ページ
スキ