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第3章「歩き出す時に」

「ラリイ・・・」

フェニックスは、ラリイの寝室に辿り着いて、いつもと変わらない感じに、
ラリイを抱っこした。

「・・・・・・」

抱っこしたラリイは、確かに何かが異様であった。
具合が悪そうではない。苦しんでる様子もない。
ただ寝ているだけと言えば、寝ているだけそうなのだが・・・

「ラリイ?起きて下さい?ラリイ?」

フェニックスは、少し強めに、ラリイを揺さぶり起こそうとした。
しかし、ラリイは体を揺らすだけで、起きる気配がない。
いつもであれば、起きるであろう強さであっても。

「困りましたね・・・ラリイの生命力に異常はないのに・・・
精神的な何かが、ラリイを起こさせないのでしょうか・・・」

フェニックスは、ラリイを優しく抱っこしたまま、自分の寝室へ移動し、
ベッドに座り、ラリイと自分の気を同調させた。
親子であるなら、ラリイと気を同調させれば、何かしら、わかるはずだと。

「ラリイ・・・私の気を感じ取って下さい。」

フェニックスは目を閉じ、更にラリイの事を深く思いながら、気を高める。
ラリイの体にフェニックスの気が優しく包み込む。
もし、ラリイが呪いなど、そうした類に掛かっているのなら、
これでフェニックスも大体、気づける。
しかし、ラリイには異常な気は感じられない。

「そんな・・・では何がラリイを・・・」

フェニックスは、冷静でいようとするが、ラリイが何が原因で
起きないのかわからず、だんだんと混乱し始める。

「人間だけの特有な病気?いや、それに関しては、私もかなりの
本を読んで勉強したなので、わかるはず・・・
ラリイ。どうしてしまったんですか?お願いですから、起きて下さい・・・」

フェニックスは悲痛な声で、愛しの息子の名前を呼ぶ。
これから、魔界に古代神兵器を探しに、忙しくなりそうな時に、
ラリイがこの様子では、気が気でない。

「仕方がありません。もっと、ラリイと深く同調してみましょう。」

フェニックスは、意を決して、更に気を高めて、ラリイと同調してみることにした。
軽度の同調ならば、ラリイの体に負担はないが、重度になれば、
最悪ラリイの精神を狂わせてしまうこともある。
フェニックスは、慎重にラリイと同調していく。
まるで眠りに落ちるかのように。深く、深く。
すると、フェニックスはラリイのある記憶に辿り着く。

「貴様のような人間のガキに、この俺が敗れようとはな。」
「潔く観念しろ。オルトロス。お前の負けだ。」

前世のラリイが、アルゥイントを片手に持ちながら、オルトロスと言う、
魔獣と対峙していた。
オルトロスはラリイと戦った後で、敗れ、死にかけている。
それでも、オルトロスの目にはまだ強い光が宿っており、
心ではまだ負けたと認めていなかった。

「俺が死んでも、他の奴らが必ず、いつか人間界に復讐をするだろう。
もっと強い力を手に入れて、必ずな!」

オルトロスは憎らし笑顔でラリイに言う。
が、ラリイはその言葉を聞いても、何も動じなかった。
だから、どうした?と言う顔だ。

「そうか。そうだとしても、俺がいる間は、そんな事させない。」
「イキがるなよ、人間のガキ。お前でも、絶対に勝てないさ。
過去にお前ら祖先が作り出した、あの兵器にはな!」

ラリイは、最後にオルトロスが、そう叫んだと同時に、止めを刺した。
ラリイのその顔は冷酷そのものだった。これ以上生かしても無駄だと
言った行動で躊躇さえない。
フェニックスも、知らなかった前世のラリイの記憶。
昔、魔物とも多く戦っていたと、確かに前世のラリイは言っていた。
その光景が終わったと同時に、フェニックスは、ハッと気づいて、
ラリイとの同調を止めた。

「まさか、ラリイ・・・貴方はこれを私に見せる為に、こんなことを?」

フェニックスは、まだ心臓が悪い意味でドキドキしていた。
そして、今の息子のラリイの顔を覗き込む。
やることは済んだと言う顔で目を覚ましたラリイは、
フェニックスに無邪気に笑いかける。
まるで、何事もなかったかのように。

「ふぇに!きゃうぅう!あう!ふぇんに!」
「はぁ・・・ラリイ・・・貴方と言う人は・・・」

無事に目を覚ました息子に、フェニックスは深く安堵した。
それから、同時に、愛しさが込み上げ、深くラリイを抱きしめる。
この親友は、転生したとしても、フェニックスを驚かせ、
そして力になろうとしてくれていた。

「本当にラリイは心臓に悪い人ですね。私に何かを教えてくれようとしたのは
感謝しますが・・・本当に心配したんですからね・・・?」
「きゃう?ふぇに?あうあう!」

赤ん坊のラリイは、ただキョトンとした顔で、フェニックスを見つめている。
今のラリイには、何もわかるわけがなかった。
これは転生する前の親友の方のラリイがしたことなのだから。

「あの記憶を私に見せたと言う事は・・・
ラリイ。貴方はもしかして・・・古代神兵器のあるかもしれない
居場所を示唆してくれたんですか?」

フェニックスは赤ん坊のラリイを大事にあやしながら、独り言を呟く。
信じられないようなことが起きて、フェニックスも呆然としてしまったが、
冷静になるにつれて、そうだろうと確信していく。

「有難う・・・親友ラリイ。
お前は、いつもでも、私を見守っていてくれたのだな・・・
私の方が見守っているつもりだったのに。」

フェニックスは、穏やかに笑い、今のラリイをまた抱きしめた。
絶対に、今後も自分の命を懸けて、大事に守りながら、
大切に育てていこうと、再度、フェニックスは固く決意した。
自分の息子となったラリイには、絶対に幸せに生きて貰おうと。

「ふぇに!ふぇに!」

今のラリイは、フェニックスの深い愛情を、ただ素直に喜び、受け入れていた。
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