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第2章「ハイハイ・イン・ザ・ハイ」

フェニックスは、会いたかった、もう1体の幻獣に会いに行く。
そこは、ギリギリ人間界ではあるが、魔界にも近い土地であった。
フェニックスも、弱い魔物と戦いつつ、多少の危険があるのを、
覚悟してでも、会いたい存在であった。
空気を読むかのように、ラリイもフェニックスが、戦ってる間は大人しくする。
フェニックスは、そんなラリイに、また愛しさを感じる。

「今は何もしてあげれないけど、後で、ラリイと一緒に遊びたい。」

フェニックスは心の中で、そう思いながら、目的の場所に向かう。
そこは、日中であるにも関わらず、薄暗く、じめじめとした場所で、
とても生物が棲みつくには、良い環境とは言えない。
けれども、フェニックスは、どんどん進む。
少し拓けた場所に出ると、1体の銀の竜が居た。

「懐かしい気を感じると思えば・・・フェニックスか・・・」

目的の存在に出逢い、その幻獣はフェニックスを見て、穏やかにしていた。
フェニックスも、無事に逢えた事に安堵しながら、挨拶をする。

「お久しぶりです。イルルヤンカシュ。お元気そうで何よりです。」
「ふっ。こんな見捨てられた幻獣に会いに来る、物好きなど、
お前しかおらんぞ?フェニックス。」

イルルヤンカシュは、薄っすらと笑った。過去に、バハムート達と一緒に活躍した、
ドラゴン族の幻獣であり、一時期は、バハムートさえ凌ぐと噂すらあった存在だ。
しかし、ある時に魔族の女と恋仲になり、魔界に身を置くようになったことで、
幻獣達から異端と見なされ、最後は、バハムート達と小競り合いになり、追放された。
その事もあって、幻獣界では、イルルヤンカシュの名は禁句であり、
その為に見捨てられた幻獣と言う、不名誉な通り名まで、
ついてしまったのだ。

「他の幻獣がどう言おうが、私には、あの頃と変わらず、
大事な友ですよ、イルルヤンカシュ?」

フェニックスは自虐的に笑うイルルヤンカシュに、自分の気持ちをしっかりと言った。
フェニックスは、他の幻獣が、何と言おうとも、気にせず、
今でもイルルヤンカシュとの関係を続けている。
本当であれば、幻獣界に来て貰いたいとさえ、思っているのだが、
一部の幻獣が反対しているのと、イルルヤンカシュ自身も、
それを拒んだので、無理であった。

「お前は相変わらずだな・・・しかし、その赤子なんだ?」
「そうです!イルルヤンカシュ!貴方にぜひに見せたかったのです!
私の息子のラリイを!」
「息子・・・?その子は人間の様にも見えるが?」
「はい、人間との子です!」
「お・・・お前がか?」

さっきまで、静かにしていた、イルルヤンカシュは、フェニックスの言葉に、ざわついた。
そう、イルルヤンカシュは、まだこの時は知らなかったのだ。
フェニックスが、大の人間嫌いを克服していた事を。

「あの自由を愛してやまない、お前が幻獣界を作るのを協力し、
ましてや今は、三大重臣になど、何故なっているのかと思えば、
そういう経緯だったのか・・・」

イルルヤンカシュは、フェニックスから、今までの事を聞いて、
疑問に持っていた事が、一気に解決したようだ。
フェニックスの話を聞いた後で、イルルヤンカシュは、ラリイを見る。
ラリイの方は、イルルヤンカシュの方を見て、可愛い笑顔を向けて、
一生懸命に、イルルヤンカシュの方に手を伸ばしていた。

「ほら、見て下さい、イルルヤンカシュ!ラリイも、貴方に興味深々のようです♪
流石、我が息子♪私と同じく、貴方と仲良くしたいのだと思いますよ?」
「本当に変わったのだな、フェニックス。今はまだ慣れないが・・・悪い感じはしない。」
「そう、言ってくれて嬉しいです。子は良いものだと、私に最初に言ったのは、
イルルヤンカシュでしたからね。」
「ああ、我が子は可愛いものだぞ。だが、俺の子は、妻と一緒になって、
最後は俺を捨てたがな。」
「そんな・・・」
「いいのだ。魔界にやはり幻獣と言う存在は、相容れぬものだった。
妻の事は愛していたが、かと言って、お前や、バハムート達と戦うなど、
俺には考えられない。だから、別れる結果になっても、しょうがないと思っている。」
「イルルヤンカシュ・・・」

フェニックスは不憫な生き方をしている、友が悲しかった。
イルルヤンカシュは、幻獣界に戦を持ち込まない為に、魔族で
ある妻側の提案を飲まなかったのだ。しかし、それは魔界側では、裏切りだ。
その為に、イルルヤンカシュは、幻獣界からも、魔界からも、
見捨てられた存在になってしまったのだ。
フェニックスは、それを知っているからこそ、放っておくが、
出来なかったのだ。
バハムートも、この話は知っている。だから、最近は
イルルヤンカシュへの考え方も、少しずつ、変わってはいる。
もう少し、幻獣界が安定し、フェニックスの説得が上手くいけば、
イルルヤンカシュを、幻獣界に迎い入れることも、可能になりそうではあった。
ただ、当のイルルヤンカシュが、受け入れるには、もっと時間が
掛かりそうではあるが。

「フェニックス。お前の息子を俺にもっと見せてくれないか?」
「ええ。ぜひ見てやって下さい。ほら、ラリイ、私の友のとこに。」

フェニックスは、イルルヤンカシュの目の前にラリイを座らせた。
ラリイは、キャッキャと笑いながら、座っているだけかと思いきや、
ハイハイをして、イルルヤンカシュの元に向かった。
これには、フェニックスも、嬉しい悲鳴を上げた。

「ああー♥ラリイが、初のハイハイしてる♥なんて、可愛いんでしょうか!♥
しかも、イルルヤンカシュの側にもっと行きたい為に♥♥♥
本当にラリイは私を、嬉しさで殺す気ですか?♥」
「・・・・・・」

過去のフェニックスとは違う、かなりの変貌ぶりに、イルルヤンカシュは、
言葉を失い、絶句していた。
逆に、こんなにもフェニックスを変えた、人間に興味も出る。

「お前をここまで変えた、その人間の女は、相当にいい女だったんだろうな?」

イルルヤンカシュは、そう言いながら、ラリイに、自分の顔を触らせている。
ラリイは、嬉しそうに、イルルヤンカシュの顔を触り、その可愛らしい笑顔は、
イルルヤンカシュに癒しを与えていた。

「俺の子も、こんな可愛い時期があったんだがな・・・」

イルルヤンカシュは、心の中で、そう呟いた。そして、ふっと思った。
もし、今後ラリイが大きくなり、自分の元に来た時に、フェニックスと
仲違いしてる事があった時には、相談に乗ってやろうと、何故かこの時に思った。
自分のような思いを、友のフェニックスには、して欲しくないと。
そう考えてくれている、イルルヤンカシュの気持ちも知らずに、
フェニックスは、ラリイの動向に、嬉しさが隠しきれず、
親馬鹿が、大爆発してる最中であった。
イルルヤンカシュのさっき言った言葉も、どうやら、
フェニックスには届いていなかったようだ。
イルルヤンカシュも、苦笑いしながらも、友とその子ラリイとで、
穏やかな時間を過ごしていた。
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