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この願いが叶うなら

 今日の【客】を見送って、不思議なミセの店主は煙管をひと吸いして大きく煙を吐き出した。
 いつもの縁側へ向かいながら、会話を頭の中で反芻する。

『願いを叶えるには対価が必要です。多すぎても、少なすぎてもいけない。平等に、目には目を、歯には歯を、命には命を』
『はい』
『――それでも貴方は、その願いを叶えたいと望みますか?』

「「四月一日」」
 可愛らしい声が、縁側に腰掛けた店主、四月一日の意識を呼び戻す。顔を向けると、ふたりの少女、マルとモロがくるくると回っていた。
「百目鬼きたよ」
「百目鬼がきた」
 二人が報告するとほぼ同時に、その後ろから廊下を歩いてくる百目鬼が目に入る。四月一日は軽く手を挙げた。
「よう」
「おう」
 百目鬼は四月一日の隣までやってくると両手に持った荷物を置く。四月一日はその中身を見分するとふむ、と唸った。
「やっぱりお前、見る目はあるな」
「……まあな」
 歯切れの悪い百目鬼の言葉に四月一日は顔を上げる。
「なんだよ、いつもと様子が違うじゃないか」
「それはお前の方だろう」
「…………」
 図星で黙り込んだ四月一日を見て、百目鬼はきびすを返す。
「おい、寄っていかないのか」
「今日はいい」
「……あっそ。マル、モロ、門のところまで送ってやってくれ」
「「はーい」」
 明らかに気遣われた。四月一日は不満げに、ひとつ借りができた、などとぼやいていたが、ふと真顔になって煙管をくわえた。

『貴方の願いは「恋人の命を救いたい」。命には命を――対価は、貴方の命の半分です』
『構いません。それであの人が助かるなら』

 四月一日は決然としたあの瞳を思い出す。ふう、と煙を吐き出した。
 四月一日にも、願いがある。いつ叶うのか、そもそも叶えることができるのかすら分からない、切なる願い。
 今日の依頼は、それを強く意識させられるものだった。
「……侑子さん」
 もしも、この願いが叶うなら、それ以外は何もいらない。
 自分もあの【客】も、何も変わらない。願いを叶えるためならどこまでも貪欲になれる、業の深いイキモノ。
 それでも、四月一日は、もう一度彼女に逢いたかった。
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