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今日は試験の日。
俺と乱太郎としんべヱの3人は昨夜のうちに試験勉強をするはずだったのに、昼間のアルバイトがきつくて結局いつの間にか眠ってしまっていた。
まぁなんとかなるかな…なんて半ば諦めの気持ちで筆を持つ。
土井先生は試験問題を配ると窓の外を眺めていた。
今日はいい天気。
だけど土井先生の表情は空の清々しさとは対照的に暗かった。
みんなの試験の点数が気になるのかな。
いや、それはいつものことだし…。
土井先生は俺の視線にも気づかず、遠くをぼんやりと見つめていた。
すると、ほんの少しだけ土井先生の口が開いて何かを呟いた。
「…………」
それは、誰にも聞こえないような…口だけを動かしたようなもの。
矢羽根ほどの音もない。
でも、俺にはそれが何と言っているのかはっきりと分かった。
たまみ
…間違いない。
俺には読唇術なんてできないけど。
土井先生は、今この場にいない彼女の名前を呟いていた。
たまみさんは珍しく早朝から出かけていた。
新鮮な春野菜を仕入れるため、食堂のおばちゃんと市場に買い物に行ったのだ。
土井先生が「試験監督は一人で十分だし気をつけて行っておいで」と話しているのを偶然聞いた。
けど、土井先生はそんなことを言いつつ内心とても心配しているのが俺の目にもはっきりと分かった。
ちょっと学園の外へ外出するだけでこんなに心配するなんて、土井先生はほんとに過保護だなと思う。
まぁでもたまみさんは、これまでにも誘拐されたり色々あったからなぁ…心配になるのも分からないでもない。
土井先生は伏し目がちに窓の外をぼんやり眺めている。
俺は適当にテストに答えながら…真剣に考えてもよく分かんねぇし…土井先生の様子を見ていた。
いつもなら俺の視線に気づく土井先生なのに、全くその気配がない。
…いわゆる隙だらけってやつじゃないのかな。
すると、ボーッと外を見つめていた土井先生がぴくりと眉を動かした。
あれ、何かあったのかな?
当然ここからはその視線の先が見えない。
何事かと土井先生の表情を観察していると、土井先生は急に出席簿とチョークを持って教室の戸を開けた。
「すまん!すぐ戻るからちょっと自習しててくれ!」
「土井先生、今は試験中なので自習はできません。」
庄左ヱ門の的確な突っ込みが返ってきて土井先生がたじろいだ。
「あっ、そ、そうだな。では私が戻るまでみんな何も話さずに試験に集中しておくように!」
言うやいなや、土井先生は教室を飛び出し駆け出した。
何があったんだろう。
俺は答案を適当に全て埋めて机に置いた。
みんなはまだ書いているところだったので、そろりそろりと窓に近づき外を見てみる。
…あ。
下を見ると、たまみさんが市場から帰ってきていた。
そして、たまみさんと食堂のおばちゃんの重そうな荷物を、なぜか利吉さんがまとめて全部持っていた。
うわ、利吉さん重たそうなのにすげぇ嬉しそうに笑ってるな~…ていうか距離近くない?
肩を並べるというよりも、たまみさんと肩をくっつけるように並んで歩いている。
遠目に見ると、仲良し夫婦が買い物帰りに寄り添って歩いているように見えた。
ははーん、これが土井先生の走っていった理由か…。
ガラガラガラガラッッ!!
突然、大きな音と砂埃を立てて、土井先生が物凄い勢いで荷車を引いてたまみさん達のもとへ走ってきた。
驚く3人が立ち止まると、土井先生は利吉さんの持っていたたくさんの荷物を奪い取りドサドサッと荷車に乗せた。
そしてその持ち手を利吉さんに押しつけると、たまみさんの手を無理矢理引っ張って足早に歩いていった。
食堂のおばちゃんがポカーンとその後ろ姿を眺める。
利吉さんは苦虫を噛み潰したような顔で土井先生を睨みつけていた。
「いやー、土井先生、あからさまなヤキモチだねぇ。」
突然声がして振り向くと、一年は組の全員が俺の後ろから…窓からその様子を眺めていた。
「そんなにピリピリしなくても、たまみさんは土井先生のことが大好きなのにねぇ。」
「でもさ、やっぱり利吉さんが相手だと不安になるよね。」
「利吉さんかっこいいもんね。」
「土井先生もかっこいいけど、利吉さんの方がグイグイくる感じだよね。」
「女の人はオシに弱いって、先輩方が話してたよ。」
「オスシ?」
「お寿司じゃなくてお酢でしょ。」
「オシリって言ってなかった?」
「お尻じゃなくてオシ!少しくらい強引に誘ったりするほうがいいって話!」
「土井先生より利吉さんの方がオシ強そう…。」
「僕達が言うのもなんだけど、土井先生は補習とかそういうのばかりでいつも忙しそうだもんねぇ。」
「よーし、じゃあ僕達が利吉さんの邪魔をしよう!」
「え~、邪魔ってどうやって?」
「それはー……」
そうしてみんなが好き勝手話していると…。
「こらっ!お前達、テストはどうした!?」
出ていったときの勢いのままに、土井先生がガラリと戸を開け戻ってきた。
「土井先生!僕達、テストよりも大事な作戦を練っていたところなんです。」
「テストよりも大事な作戦?…なんだそれは。」
庄左ヱ門の言葉に、土井先生がみんなで色々書いていた計画書をひょいと覗き込んだ。
「………!?」
中身を見て肩を震わせる土井先生。
「余計な心配しとらんと、早く席につきなさーいっ!!!!」
とびきりの一喝がとんで、みんなが慌てて自分の席に戻った。
また試験が再開されて、全部埋めてしまっていた俺は手持ちぶさたになった。
ふと、土井先生を見上げる。
また窓の外を見ていた土井先生は、今度は穏やかな顔つきをしていた。
…わかりやすいなぁ。
俺は答案を考えているフリをしながら微笑んだ。
俺と乱太郎としんべヱの3人は昨夜のうちに試験勉強をするはずだったのに、昼間のアルバイトがきつくて結局いつの間にか眠ってしまっていた。
まぁなんとかなるかな…なんて半ば諦めの気持ちで筆を持つ。
土井先生は試験問題を配ると窓の外を眺めていた。
今日はいい天気。
だけど土井先生の表情は空の清々しさとは対照的に暗かった。
みんなの試験の点数が気になるのかな。
いや、それはいつものことだし…。
土井先生は俺の視線にも気づかず、遠くをぼんやりと見つめていた。
すると、ほんの少しだけ土井先生の口が開いて何かを呟いた。
「…………」
それは、誰にも聞こえないような…口だけを動かしたようなもの。
矢羽根ほどの音もない。
でも、俺にはそれが何と言っているのかはっきりと分かった。
たまみ
…間違いない。
俺には読唇術なんてできないけど。
土井先生は、今この場にいない彼女の名前を呟いていた。
たまみさんは珍しく早朝から出かけていた。
新鮮な春野菜を仕入れるため、食堂のおばちゃんと市場に買い物に行ったのだ。
土井先生が「試験監督は一人で十分だし気をつけて行っておいで」と話しているのを偶然聞いた。
けど、土井先生はそんなことを言いつつ内心とても心配しているのが俺の目にもはっきりと分かった。
ちょっと学園の外へ外出するだけでこんなに心配するなんて、土井先生はほんとに過保護だなと思う。
まぁでもたまみさんは、これまでにも誘拐されたり色々あったからなぁ…心配になるのも分からないでもない。
土井先生は伏し目がちに窓の外をぼんやり眺めている。
俺は適当にテストに答えながら…真剣に考えてもよく分かんねぇし…土井先生の様子を見ていた。
いつもなら俺の視線に気づく土井先生なのに、全くその気配がない。
…いわゆる隙だらけってやつじゃないのかな。
すると、ボーッと外を見つめていた土井先生がぴくりと眉を動かした。
あれ、何かあったのかな?
当然ここからはその視線の先が見えない。
何事かと土井先生の表情を観察していると、土井先生は急に出席簿とチョークを持って教室の戸を開けた。
「すまん!すぐ戻るからちょっと自習しててくれ!」
「土井先生、今は試験中なので自習はできません。」
庄左ヱ門の的確な突っ込みが返ってきて土井先生がたじろいだ。
「あっ、そ、そうだな。では私が戻るまでみんな何も話さずに試験に集中しておくように!」
言うやいなや、土井先生は教室を飛び出し駆け出した。
何があったんだろう。
俺は答案を適当に全て埋めて机に置いた。
みんなはまだ書いているところだったので、そろりそろりと窓に近づき外を見てみる。
…あ。
下を見ると、たまみさんが市場から帰ってきていた。
そして、たまみさんと食堂のおばちゃんの重そうな荷物を、なぜか利吉さんがまとめて全部持っていた。
うわ、利吉さん重たそうなのにすげぇ嬉しそうに笑ってるな~…ていうか距離近くない?
肩を並べるというよりも、たまみさんと肩をくっつけるように並んで歩いている。
遠目に見ると、仲良し夫婦が買い物帰りに寄り添って歩いているように見えた。
ははーん、これが土井先生の走っていった理由か…。
ガラガラガラガラッッ!!
突然、大きな音と砂埃を立てて、土井先生が物凄い勢いで荷車を引いてたまみさん達のもとへ走ってきた。
驚く3人が立ち止まると、土井先生は利吉さんの持っていたたくさんの荷物を奪い取りドサドサッと荷車に乗せた。
そしてその持ち手を利吉さんに押しつけると、たまみさんの手を無理矢理引っ張って足早に歩いていった。
食堂のおばちゃんがポカーンとその後ろ姿を眺める。
利吉さんは苦虫を噛み潰したような顔で土井先生を睨みつけていた。
「いやー、土井先生、あからさまなヤキモチだねぇ。」
突然声がして振り向くと、一年は組の全員が俺の後ろから…窓からその様子を眺めていた。
「そんなにピリピリしなくても、たまみさんは土井先生のことが大好きなのにねぇ。」
「でもさ、やっぱり利吉さんが相手だと不安になるよね。」
「利吉さんかっこいいもんね。」
「土井先生もかっこいいけど、利吉さんの方がグイグイくる感じだよね。」
「女の人はオシに弱いって、先輩方が話してたよ。」
「オスシ?」
「お寿司じゃなくてお酢でしょ。」
「オシリって言ってなかった?」
「お尻じゃなくてオシ!少しくらい強引に誘ったりするほうがいいって話!」
「土井先生より利吉さんの方がオシ強そう…。」
「僕達が言うのもなんだけど、土井先生は補習とかそういうのばかりでいつも忙しそうだもんねぇ。」
「よーし、じゃあ僕達が利吉さんの邪魔をしよう!」
「え~、邪魔ってどうやって?」
「それはー……」
そうしてみんなが好き勝手話していると…。
「こらっ!お前達、テストはどうした!?」
出ていったときの勢いのままに、土井先生がガラリと戸を開け戻ってきた。
「土井先生!僕達、テストよりも大事な作戦を練っていたところなんです。」
「テストよりも大事な作戦?…なんだそれは。」
庄左ヱ門の言葉に、土井先生がみんなで色々書いていた計画書をひょいと覗き込んだ。
「………!?」
中身を見て肩を震わせる土井先生。
「余計な心配しとらんと、早く席につきなさーいっ!!!!」
とびきりの一喝がとんで、みんなが慌てて自分の席に戻った。
また試験が再開されて、全部埋めてしまっていた俺は手持ちぶさたになった。
ふと、土井先生を見上げる。
また窓の外を見ていた土井先生は、今度は穏やかな顔つきをしていた。
…わかりやすいなぁ。
俺は答案を考えているフリをしながら微笑んだ。