第58話 包帯
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夜。
自室の天井が微かにノックされ、土井先生が音もなく畳に降り立った。
「たまみ、何かあったのかい?」
私が何も言わないうちに、土井先生が心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「どうしたんだ?」
「土井先生…」
私は昼間のことと一年は組の卒業後について感じたことをそのまま土井先生に話してみた。
土井先生は静かにじっと私の言葉に耳を傾けていた。
「私、あの子達にもし何かあったらと思うと…こわくて…。」
「…そうだな…。」
土井先生は遠い目をしてゆっくり言葉を紡いだ。
「今は農民でも戦に駆り出されたり権力者であっても敵対する者に命を奪われたり、どの職業だから安全というものはないが…それでも、やはり忍は危険に身を晒す機会が多い。
だが、忍の本分は情報をもたらすことだ。戦うことじゃない。」
土井先生は自分の手のひらを見た。
彼もここに来る前は忍をしていたと聞いたけれど、まるでそのときのことを思い出しているような…そんな目をしていた。
「私は、あの子達に自分の力で生き抜く力を…自分の道を切り開いていくための力を身に付けてほしいと思っている。忍術はそのための手段のひとつだと、私は思うんだ…。一年は組のなかにも忍者になることが目的ではない子もいるしな。」
確かに、家業を継ぐ予定のある子もいる。
全員が忍者を目指して学んでいるわけではない。
「だが…もし忍として働くようになれば…もしかすると、あいつらの中で敵対してしまう者も出てくるかもしれない。…それでも、私は、みんなに自分の信じた道を真っ直ぐに歩んでほしいと思っている…。」
土井先生の言葉には淀みがなく、それが、以前よりこのことについて熟考していたことを示していた。
「もしも何かあったらとか…恐くならないですか?」
土井先生は静かに頷いた。
「恐くないわけがない。…あの子達が元気に長生きしてくれることが、私の望みだよ。
…でもそれは、もしかしたら忍の道を教えるということと矛盾しているのかもしれない。…私が教えたことの為に、あの子達が危険な目にあうことがあるかもしれない。」
土井先生はぐっと拳を握っていた手を開いた。
手のひらには爪のあとがあった。
「それでも…忍術学園に通うと決めたのはあの子達自身のはずだから、私は、その中でできうる限り、生き延びる為の方法を教えていきたいと思うんだ…。」
「土井先生…。」
土井先生は悲しそうに目を伏せた。
その瞳には迷いがあった。
「…でも、こんなことを言っていても、…もし卒業後にあの子たちに何かあったら……私は…私は、平静を保っていられないかもしれない…。」
土井先生は苦悩の表情を浮かべた。
やっぱり、我が子のように可愛がっているあの子達の身を案じて迷う心は、私と同じなのだと感じた。
この優しい土井先生は、やっぱり、心痛める部分があったのだと思った。
「土井先生…」
私は土井先生を抱きしめた。
彼は私の頭を撫でて苦笑した。
「まあ、でもまだ誰が忍者になるとも決まってないしな。…下手をすると、卒業できるかも分からない…。…卒業…できるかどうか…。」
土井先生はため息をついた。
「うぅ…自分で言いながら胃が痛くなってきた…。」
「ど、土井先生!大丈夫ですよ、みんなチームワークはいいですし、助け合いながら卒業は…進級は出来ると思いますよ!」
「…何で卒業を進級って言い直したんだ。」
「や、あのー、目標は、あまり先のことより身近なことの方がいいかなって…。」
「はは、そうだな…。」
土井先生は私をぎゅっと抱きしめた。
その胸のなかで、私は我が子のようになりつつあるあの子達が、どうか笑顔で元気に生き抜いてくれるようにと願わずにはいられなかった。
自室の天井が微かにノックされ、土井先生が音もなく畳に降り立った。
「たまみ、何かあったのかい?」
私が何も言わないうちに、土井先生が心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「どうしたんだ?」
「土井先生…」
私は昼間のことと一年は組の卒業後について感じたことをそのまま土井先生に話してみた。
土井先生は静かにじっと私の言葉に耳を傾けていた。
「私、あの子達にもし何かあったらと思うと…こわくて…。」
「…そうだな…。」
土井先生は遠い目をしてゆっくり言葉を紡いだ。
「今は農民でも戦に駆り出されたり権力者であっても敵対する者に命を奪われたり、どの職業だから安全というものはないが…それでも、やはり忍は危険に身を晒す機会が多い。
だが、忍の本分は情報をもたらすことだ。戦うことじゃない。」
土井先生は自分の手のひらを見た。
彼もここに来る前は忍をしていたと聞いたけれど、まるでそのときのことを思い出しているような…そんな目をしていた。
「私は、あの子達に自分の力で生き抜く力を…自分の道を切り開いていくための力を身に付けてほしいと思っている。忍術はそのための手段のひとつだと、私は思うんだ…。一年は組のなかにも忍者になることが目的ではない子もいるしな。」
確かに、家業を継ぐ予定のある子もいる。
全員が忍者を目指して学んでいるわけではない。
「だが…もし忍として働くようになれば…もしかすると、あいつらの中で敵対してしまう者も出てくるかもしれない。…それでも、私は、みんなに自分の信じた道を真っ直ぐに歩んでほしいと思っている…。」
土井先生の言葉には淀みがなく、それが、以前よりこのことについて熟考していたことを示していた。
「もしも何かあったらとか…恐くならないですか?」
土井先生は静かに頷いた。
「恐くないわけがない。…あの子達が元気に長生きしてくれることが、私の望みだよ。
…でもそれは、もしかしたら忍の道を教えるということと矛盾しているのかもしれない。…私が教えたことの為に、あの子達が危険な目にあうことがあるかもしれない。」
土井先生はぐっと拳を握っていた手を開いた。
手のひらには爪のあとがあった。
「それでも…忍術学園に通うと決めたのはあの子達自身のはずだから、私は、その中でできうる限り、生き延びる為の方法を教えていきたいと思うんだ…。」
「土井先生…。」
土井先生は悲しそうに目を伏せた。
その瞳には迷いがあった。
「…でも、こんなことを言っていても、…もし卒業後にあの子たちに何かあったら……私は…私は、平静を保っていられないかもしれない…。」
土井先生は苦悩の表情を浮かべた。
やっぱり、我が子のように可愛がっているあの子達の身を案じて迷う心は、私と同じなのだと感じた。
この優しい土井先生は、やっぱり、心痛める部分があったのだと思った。
「土井先生…」
私は土井先生を抱きしめた。
彼は私の頭を撫でて苦笑した。
「まあ、でもまだ誰が忍者になるとも決まってないしな。…下手をすると、卒業できるかも分からない…。…卒業…できるかどうか…。」
土井先生はため息をついた。
「うぅ…自分で言いながら胃が痛くなってきた…。」
「ど、土井先生!大丈夫ですよ、みんなチームワークはいいですし、助け合いながら卒業は…進級は出来ると思いますよ!」
「…何で卒業を進級って言い直したんだ。」
「や、あのー、目標は、あまり先のことより身近なことの方がいいかなって…。」
「はは、そうだな…。」
土井先生は私をぎゅっと抱きしめた。
その胸のなかで、私は我が子のようになりつつあるあの子達が、どうか笑顔で元気に生き抜いてくれるようにと願わずにはいられなかった。