第57話 触れたくて
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「着いた…!綺麗ですねぇ!」
半助さんと手を繋いで歩き、海に着くとすぐに草履を脱いで砂の上を素足で踏みしめた。
砂浜は比較的綺麗で流木や石などもほとんどなく、主に貝殻が埋まっているくらいだった。
振り返ると半助さんがニコニコとこちらを見ている。
私は波打ち際まで行き、足を水に浸けた。
「冷たくて気持ちいい…!あ、あそこに小さな魚が見えますよ!」
「ははは、また転んでびしょ濡れにならないように気をつけて。」
ばしゃばしゃと浅瀬を歩いていると、半助さんも袴を膝まで捲り私が転ばないように手を握ってくれた。
今日は風もあまりなく海は凪いでいた。
晴れ渡る太陽の日差しで海は青く透き通り、美しく輝いている。
水は透明で海の底の白い砂まで見透せた。
時折白く小さな魚が浅瀬まで泳いできて、私はそれを追いかけるように歩いた。
「網があればすくえるでしょうか…。」
「小魚とはいえ速いからどうかな。」
水面をじーっと眺めて目を凝らす。
ふと気づくと、半助さんが私をじっと見つめていた。
「前にきり丸達と海に来たときも楽しそうにしていたけど、たまみは本当に海が好きなんだな。」
「はい!綺麗だし、何か生き物がいるかなと思うとワクワクするし、波の音も好きです…!」
そう話しているうちに、我ながら子どものようだなと思ってしまった。
半助さんがクスクスと笑う。
「前に来たとき、釣りがしたいと言ってただろう。あの浜では釣りがしにくかったけど、ここならできそうな場所があるからやってみるかい?」
「釣竿とか何もないですよ?」
「手釣りといって、針と糸と餌があればできるんだ。」
半助さんはそう言うと器状になった大きな葉の包みを荷物から取り出した。
「実は、ここに来る途中たまみが花を見たり余所見してる間に、ミミズを拾ってここに入れてたんだ。昨夜雨だったのか、わりといててよかった。」
「えっ…!そ、そうだったんですか…、全然気づきませんでした。」
半助さんに連れられて、少し出っ張った岩場に行く。
すぐ横には水深の少し深そうな入り江が続いていた。
「そろそろ海水が温かくなってきたから、これぐらいの浅瀬でも魚がいると思う。」
半助さんは荷物の中から糸と針を出し、海面をじっと眺めた。
その真剣な表情、格好いいな…。
惚れ惚れと見惚れてニヤけてしまった。
半助さんはそんなことには気づかず針に餌をつけると、ひょいっとそれを遠くに投げた。
「はい、これ持って。魚が食いついたらすぐ分かると思うから。」
「えっ!?」
半助さんが私の手に糸を持たせた。
「こう持つといい。」
そう言うと、半助さんは岩場にあぐらをかいて、私をその膝の上に座らせた。
「こうしてたらたまみが落ちる心配もないし、腕も支えてあげられる。手が疲れたら替わるから言ってくれ。」
耳元で半助さんの優しい声が響く。
私のお腹に腕が回されて密着し、大きな手が私の体を抱きしめる。
つ、釣りってこんな感じだったっけ…!?
近すぎる距離にドキドキして魚のことを忘れそうになる。
寄せては返す波の音だけが静かな空間に聞こえていた。
「あ…!」
「きた?」
「何だかピクピクと動いてる感じがします…!」
「餌がつつかれているのかもしれないな。もう少し待って。」
「…あ!いまグイッて引っ張られました!」
「よし、糸を引いて。」
慌てて糸を手繰り寄せて引く。
何だか少し重たい手応えがある…!
バシャッ
「あっ!」
糸を引き続けると、手のひら位の大きさの魚が水面から上がった。
ビチビチと跳ねて揺れ動く糸をどうしたらよいのかと焦ると、半助さんがその糸を持って魚を捕まえてくれた。
「すごい!釣れました!!」
「美味しそうな魚だ。後で焼いて食べよう。」
半助さんはにこにことその魚から針を抜いて岩場の小さな潮溜まりの中に入れた。
「半助さん、意外とワイルドですね…」
ちょっと驚いて新たな一面に惚れ直していると、半助さんが照れたように笑った。
「ははは、そうかい?これでも一応忍だから一通りのサバイバルはできるよ。」
半助さんはまた餌をつけて同じように投げて私に糸をくれた。
すぐに魚がかかるわけでもなく、私達は他愛もない話をして過ごした。
密着したままで緊張していて、半分くらい内容を覚えてないけれど、それはとても楽しい一時だった。
「…そういえば、昨日からきり丸のことをきりちゃんって呼んでるけど何かあったのかい?」
土井先生が不思議そうに聞いた。
「あ、あれは…買い出しに出たとき、お店の人に『しっかりした息子だね』って言われて…」
「値切り交渉したから?」
「はい。…それで、その後『きりちゃん頼りにしてるよ』って言ってみたんです。そしたら何だか嬉しそうな顔をしたから…そのままきりちゃんって呼ぶようにしたんです。
一年は組の補佐としては一人だけ呼び方を変えるのはよくないかなとも思ったんですけど…。」
「うーん…まあ、いいんじゃないかな。」
「よかった。…みんなが休みの始めに家に帰るとき寂しそうな顔をしてたし、きりちゃんも、誰かの特別でありたいのかなって少し思ったりもして…。私では役不足かもですけど…。」
「そんなことない。きり丸もたまみにそう呼ばれて嬉しそうに見えた。…ありがとう。」
そう言った半助さんの声音はとても優しかった。
本当にきりちゃんのことを大切に思ってることが伝わってくる。
そう思ったとき、急に手に手応えがきた。
「あっ!また引っ張られました!!」
今度は魚が大きいのか、糸がグイグイ引かれて手に食い込んだ。
すぐに半助さんが一緒に糸を手繰り寄せてくれる。
魚の引きにも緩急があるようで、糸が緩んだ隙に半助さんがぐっと巧みに手繰り寄せ、やがて水面から魚が上がった。
「おっきい…!」
「これは中々!いいのが釣れたぞ!」
半助さんはパシッと魚を手に取り、子どものように嬉しそうな笑顔でそれを見せてくれた。
「こいつも焼いて食べたら旨いんだ。さっきのとこれと、持ってきたおにぎりでお昼ご飯にしようか?」
半助さんは上機嫌ですぐに火をおこして魚を焼いてくれた。
その手つきの手慣れたこと。
私はおにぎりを横に並べながら半助さんに聞いた。
「半助さんって、海の近くに住んでたんですか?」
「…ん?」
「さっきからすごく手慣れてるから…よく釣りとかされてたのかなって。」
「ああ…」
半助さんは静かに海を見て目を細めた。
「うん、幼い頃は…たまに海に行ったこともあったかな…。」
半助さんはそれ以上言葉を続けなかった。
やっぱり、半助さんも昔何かあったのかもしれない…。
それはきっと…触れられたくないところのように感じられた。
私はそっと彼の手に手を重ねた。
半助さんがフッと笑って焼けた魚を私に差し出す。
「いつか…きみとなら。あの海に…また行ってみてもいいかもしれないな……。」
その目は寂しげだったけれど、優しい眼差しをしていた。
「はい…見てみたいです…。」
私はそれ以上何も聞かず、焼きたての新鮮な魚を半助さんと半分こした。
微笑み合うこのひとときが、彼の瞳を曇らせたものから少しでも救いになるようにと願いながら。
半助さんと手を繋いで歩き、海に着くとすぐに草履を脱いで砂の上を素足で踏みしめた。
砂浜は比較的綺麗で流木や石などもほとんどなく、主に貝殻が埋まっているくらいだった。
振り返ると半助さんがニコニコとこちらを見ている。
私は波打ち際まで行き、足を水に浸けた。
「冷たくて気持ちいい…!あ、あそこに小さな魚が見えますよ!」
「ははは、また転んでびしょ濡れにならないように気をつけて。」
ばしゃばしゃと浅瀬を歩いていると、半助さんも袴を膝まで捲り私が転ばないように手を握ってくれた。
今日は風もあまりなく海は凪いでいた。
晴れ渡る太陽の日差しで海は青く透き通り、美しく輝いている。
水は透明で海の底の白い砂まで見透せた。
時折白く小さな魚が浅瀬まで泳いできて、私はそれを追いかけるように歩いた。
「網があればすくえるでしょうか…。」
「小魚とはいえ速いからどうかな。」
水面をじーっと眺めて目を凝らす。
ふと気づくと、半助さんが私をじっと見つめていた。
「前にきり丸達と海に来たときも楽しそうにしていたけど、たまみは本当に海が好きなんだな。」
「はい!綺麗だし、何か生き物がいるかなと思うとワクワクするし、波の音も好きです…!」
そう話しているうちに、我ながら子どものようだなと思ってしまった。
半助さんがクスクスと笑う。
「前に来たとき、釣りがしたいと言ってただろう。あの浜では釣りがしにくかったけど、ここならできそうな場所があるからやってみるかい?」
「釣竿とか何もないですよ?」
「手釣りといって、針と糸と餌があればできるんだ。」
半助さんはそう言うと器状になった大きな葉の包みを荷物から取り出した。
「実は、ここに来る途中たまみが花を見たり余所見してる間に、ミミズを拾ってここに入れてたんだ。昨夜雨だったのか、わりといててよかった。」
「えっ…!そ、そうだったんですか…、全然気づきませんでした。」
半助さんに連れられて、少し出っ張った岩場に行く。
すぐ横には水深の少し深そうな入り江が続いていた。
「そろそろ海水が温かくなってきたから、これぐらいの浅瀬でも魚がいると思う。」
半助さんは荷物の中から糸と針を出し、海面をじっと眺めた。
その真剣な表情、格好いいな…。
惚れ惚れと見惚れてニヤけてしまった。
半助さんはそんなことには気づかず針に餌をつけると、ひょいっとそれを遠くに投げた。
「はい、これ持って。魚が食いついたらすぐ分かると思うから。」
「えっ!?」
半助さんが私の手に糸を持たせた。
「こう持つといい。」
そう言うと、半助さんは岩場にあぐらをかいて、私をその膝の上に座らせた。
「こうしてたらたまみが落ちる心配もないし、腕も支えてあげられる。手が疲れたら替わるから言ってくれ。」
耳元で半助さんの優しい声が響く。
私のお腹に腕が回されて密着し、大きな手が私の体を抱きしめる。
つ、釣りってこんな感じだったっけ…!?
近すぎる距離にドキドキして魚のことを忘れそうになる。
寄せては返す波の音だけが静かな空間に聞こえていた。
「あ…!」
「きた?」
「何だかピクピクと動いてる感じがします…!」
「餌がつつかれているのかもしれないな。もう少し待って。」
「…あ!いまグイッて引っ張られました!」
「よし、糸を引いて。」
慌てて糸を手繰り寄せて引く。
何だか少し重たい手応えがある…!
バシャッ
「あっ!」
糸を引き続けると、手のひら位の大きさの魚が水面から上がった。
ビチビチと跳ねて揺れ動く糸をどうしたらよいのかと焦ると、半助さんがその糸を持って魚を捕まえてくれた。
「すごい!釣れました!!」
「美味しそうな魚だ。後で焼いて食べよう。」
半助さんはにこにことその魚から針を抜いて岩場の小さな潮溜まりの中に入れた。
「半助さん、意外とワイルドですね…」
ちょっと驚いて新たな一面に惚れ直していると、半助さんが照れたように笑った。
「ははは、そうかい?これでも一応忍だから一通りのサバイバルはできるよ。」
半助さんはまた餌をつけて同じように投げて私に糸をくれた。
すぐに魚がかかるわけでもなく、私達は他愛もない話をして過ごした。
密着したままで緊張していて、半分くらい内容を覚えてないけれど、それはとても楽しい一時だった。
「…そういえば、昨日からきり丸のことをきりちゃんって呼んでるけど何かあったのかい?」
土井先生が不思議そうに聞いた。
「あ、あれは…買い出しに出たとき、お店の人に『しっかりした息子だね』って言われて…」
「値切り交渉したから?」
「はい。…それで、その後『きりちゃん頼りにしてるよ』って言ってみたんです。そしたら何だか嬉しそうな顔をしたから…そのままきりちゃんって呼ぶようにしたんです。
一年は組の補佐としては一人だけ呼び方を変えるのはよくないかなとも思ったんですけど…。」
「うーん…まあ、いいんじゃないかな。」
「よかった。…みんなが休みの始めに家に帰るとき寂しそうな顔をしてたし、きりちゃんも、誰かの特別でありたいのかなって少し思ったりもして…。私では役不足かもですけど…。」
「そんなことない。きり丸もたまみにそう呼ばれて嬉しそうに見えた。…ありがとう。」
そう言った半助さんの声音はとても優しかった。
本当にきりちゃんのことを大切に思ってることが伝わってくる。
そう思ったとき、急に手に手応えがきた。
「あっ!また引っ張られました!!」
今度は魚が大きいのか、糸がグイグイ引かれて手に食い込んだ。
すぐに半助さんが一緒に糸を手繰り寄せてくれる。
魚の引きにも緩急があるようで、糸が緩んだ隙に半助さんがぐっと巧みに手繰り寄せ、やがて水面から魚が上がった。
「おっきい…!」
「これは中々!いいのが釣れたぞ!」
半助さんはパシッと魚を手に取り、子どものように嬉しそうな笑顔でそれを見せてくれた。
「こいつも焼いて食べたら旨いんだ。さっきのとこれと、持ってきたおにぎりでお昼ご飯にしようか?」
半助さんは上機嫌ですぐに火をおこして魚を焼いてくれた。
その手つきの手慣れたこと。
私はおにぎりを横に並べながら半助さんに聞いた。
「半助さんって、海の近くに住んでたんですか?」
「…ん?」
「さっきからすごく手慣れてるから…よく釣りとかされてたのかなって。」
「ああ…」
半助さんは静かに海を見て目を細めた。
「うん、幼い頃は…たまに海に行ったこともあったかな…。」
半助さんはそれ以上言葉を続けなかった。
やっぱり、半助さんも昔何かあったのかもしれない…。
それはきっと…触れられたくないところのように感じられた。
私はそっと彼の手に手を重ねた。
半助さんがフッと笑って焼けた魚を私に差し出す。
「いつか…きみとなら。あの海に…また行ってみてもいいかもしれないな……。」
その目は寂しげだったけれど、優しい眼差しをしていた。
「はい…見てみたいです…。」
私はそれ以上何も聞かず、焼きたての新鮮な魚を半助さんと半分こした。
微笑み合うこのひとときが、彼の瞳を曇らせたものから少しでも救いになるようにと願いながら。