第56話 花椀
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米を買って帰り、たまみが昼食を作る。
手伝おうかと聞いたが、すぐにできるから休んでいてくださいと言われた。
実はうちに帰るために昨夜は遅くまで仕事をしていたので、お言葉に甘えて横になる。
トントントンと規則正しい包丁の音がして、いい匂いがしてくる。
心地好い微睡みのなかで、私は夢を見た。
台所に立つ彼女の後ろ姿。
その隣に少し背が伸びて大きくなったきり丸。
そして囲炉裏の近くに自分がいて。
その腕のなかには赤ん坊。
とても穏やかで幸せに満ちた日常で…。
おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー…!
…ん?
それは、夢ではなく本当の赤子の泣き声だった。
「あ、土井先生起きましたか!赤ん坊預かりに行ったらなんと双子だったんですよ!ちょっと一人抱いてもらえませんか?」
「きり丸…今日はもうアルバイトを受けるなと言っただろう。」
私はしぶしぶ赤ん坊を一人受けとると抱っこしてあやした。
ちょうどお昼ご飯ができたが、抱っこから降ろすと泣くので交替で順番に食べることになった。
「たまみさん、すんごい美味しいです!」
きり丸がガツガツと食べるのを見て、たまみが「よかった」と微笑む。
赤ん坊達もちょうど眠りについたので、起こさないようそっと布団に寝かせた。
「今のうちに食べましょう。」
私とたまみは少し急いでお昼ご飯を食べることにした。
たまみの手には先程の花柄のお椀とお箸。
彼女がそれを受け取ってくれたことが嬉しくて、また彼女の小さな手にそれはやはりよく似合っていて、私はじっと眺めた。
私がそれに込めた気持ちはきっと伝わっている気がした。
まだはっきりと言葉にするのは早い気がして遠回しな言い方をしたが、彼女がその気持ちを受け取ってくれたように感じて、私は嬉しかった。
「…あの、もう少し味が濃い方がよかったですか?」
見すぎて彼女に変な誤解をさせてしまった。
「あ、いや、違うんだ。…その、あー、…嬉しいなと思って。」
気恥ずかしくて色んな言葉を省いて短くそう言うと、たまみは「私も嬉しいです…」と顔を赤くした。
そんな姿もまた可愛らしく思えてしまい、二人で赤くなりながらもくもくと食べた。
「御馳走さま。美味しかったよ。」
「よかったです。…ねぇ、半助さん。あれ見てください。」
見ると、きり丸が赤ん坊の傍で横になって眠っていた。
「…家族、って、こんな感じなんでしょうか。」
たまみが優しい眼差しできり丸達を眺めた。
私やきり丸は、家族を失ったことがある分、いまの温かさが身に染みる。
そして、彼女は、家族の記憶がなく孤独である分、いまの温かさが身に染みるのかもしれない。
「……そうだな。」
私はたまみの肩をそっと抱いて頷いた。
結局、洗濯物と赤ん坊を返しに行くまでバタバタして、あっという間に一日が過ぎていった。
晩御飯は私ときり丸も手伝いながら一緒に作り、今度は三人揃って落ち着いて食べることができた。
「僕、ここでこんなに美味しいご飯が食べれる日がくるなんて思いませんでした!」
「お前がイナゴやら何やらを取ってきて雑炊に入れるからいつもあんなご飯になるんだろうが。」
「えっ、イナゴ。」
「その辺で捕まえたらタダだし、栄養もあるからいいじゃないですか。」
「きりちゃん、私頑張って働くからイナゴはちょっと勘弁…!」
「あははっ、たまみさんがいるときはやめときますよ。」
きり丸はいつもよりにこにこと話していた。
…やはり、きり丸も母親的な存在が欲しいのだろうか。
そう思って、自分が子持ちの父親みたいなことを考えているのに気づき頭をかいた。
そして、この和やかな時間がずっと続けばいいのに…そう願わずにはいられなかった。
夜。
たまみの希望で、二組の布団を横に並べて、きり丸を挟んで川の字になって寝ることになった。
きり丸がいるとはいえ、同じ部屋で彼女と寝ることに少し意識してしまう。
「じゃあ寝よっか。」
彼女はきり丸をぎゅっと抱きしめたあと、「おやすみ、きりちゃん。」ときり丸のおでこに軽く口づけた。
びっくりしたきり丸がバッと離れて私にぶつかる。
「あ…、ごめんイヤだったかな?」
たまみが申し訳なさそうに聞くと、きり丸は赤くなって布団をかぶった。
「…別に。イヤじゃ、ないですけど。」
珍しく照れているきり丸。
なんだなんだ、きり丸だけずるいじゃないか。
つい羨ましくなってからかった。
「なんだきり丸、じゃあ私もしてやろうか。」
そう言うと、きり丸は「やめてください気持ち悪い!」と本気で嫌がった。
まぁそうだよな。
「おやすみなさい!」
きり丸は布団をかぶったままそう言って打ち切った。
私とたまみもきり丸の隣に横になる。
そして昼間のバイトで疲れたのか、はしゃいで疲れたのか、きり丸はそのまま早々に寝息をたて始めた。
そっと掛け布団を顔から外してやる。
「半助さん」
たまみが小声で私を呼んだ。
見ると、寝転んだ彼女の腕がきり丸の頭の上からこちらに伸ばされていた。
「おやすみなさい。」
私は彼女の手に指を絡ませて握った。
「おやすみ、たまみ。」
そう言ってたまみの手を少し引いて口づけすると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
暫くすると、たまみの手が温かくなってスヤスヤと眠りについたのが分かった。
私はその可愛い寝顔を見ながら、幸せをかみしめて眠った。
手伝おうかと聞いたが、すぐにできるから休んでいてくださいと言われた。
実はうちに帰るために昨夜は遅くまで仕事をしていたので、お言葉に甘えて横になる。
トントントンと規則正しい包丁の音がして、いい匂いがしてくる。
心地好い微睡みのなかで、私は夢を見た。
台所に立つ彼女の後ろ姿。
その隣に少し背が伸びて大きくなったきり丸。
そして囲炉裏の近くに自分がいて。
その腕のなかには赤ん坊。
とても穏やかで幸せに満ちた日常で…。
おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー…!
…ん?
それは、夢ではなく本当の赤子の泣き声だった。
「あ、土井先生起きましたか!赤ん坊預かりに行ったらなんと双子だったんですよ!ちょっと一人抱いてもらえませんか?」
「きり丸…今日はもうアルバイトを受けるなと言っただろう。」
私はしぶしぶ赤ん坊を一人受けとると抱っこしてあやした。
ちょうどお昼ご飯ができたが、抱っこから降ろすと泣くので交替で順番に食べることになった。
「たまみさん、すんごい美味しいです!」
きり丸がガツガツと食べるのを見て、たまみが「よかった」と微笑む。
赤ん坊達もちょうど眠りについたので、起こさないようそっと布団に寝かせた。
「今のうちに食べましょう。」
私とたまみは少し急いでお昼ご飯を食べることにした。
たまみの手には先程の花柄のお椀とお箸。
彼女がそれを受け取ってくれたことが嬉しくて、また彼女の小さな手にそれはやはりよく似合っていて、私はじっと眺めた。
私がそれに込めた気持ちはきっと伝わっている気がした。
まだはっきりと言葉にするのは早い気がして遠回しな言い方をしたが、彼女がその気持ちを受け取ってくれたように感じて、私は嬉しかった。
「…あの、もう少し味が濃い方がよかったですか?」
見すぎて彼女に変な誤解をさせてしまった。
「あ、いや、違うんだ。…その、あー、…嬉しいなと思って。」
気恥ずかしくて色んな言葉を省いて短くそう言うと、たまみは「私も嬉しいです…」と顔を赤くした。
そんな姿もまた可愛らしく思えてしまい、二人で赤くなりながらもくもくと食べた。
「御馳走さま。美味しかったよ。」
「よかったです。…ねぇ、半助さん。あれ見てください。」
見ると、きり丸が赤ん坊の傍で横になって眠っていた。
「…家族、って、こんな感じなんでしょうか。」
たまみが優しい眼差しできり丸達を眺めた。
私やきり丸は、家族を失ったことがある分、いまの温かさが身に染みる。
そして、彼女は、家族の記憶がなく孤独である分、いまの温かさが身に染みるのかもしれない。
「……そうだな。」
私はたまみの肩をそっと抱いて頷いた。
結局、洗濯物と赤ん坊を返しに行くまでバタバタして、あっという間に一日が過ぎていった。
晩御飯は私ときり丸も手伝いながら一緒に作り、今度は三人揃って落ち着いて食べることができた。
「僕、ここでこんなに美味しいご飯が食べれる日がくるなんて思いませんでした!」
「お前がイナゴやら何やらを取ってきて雑炊に入れるからいつもあんなご飯になるんだろうが。」
「えっ、イナゴ。」
「その辺で捕まえたらタダだし、栄養もあるからいいじゃないですか。」
「きりちゃん、私頑張って働くからイナゴはちょっと勘弁…!」
「あははっ、たまみさんがいるときはやめときますよ。」
きり丸はいつもよりにこにこと話していた。
…やはり、きり丸も母親的な存在が欲しいのだろうか。
そう思って、自分が子持ちの父親みたいなことを考えているのに気づき頭をかいた。
そして、この和やかな時間がずっと続けばいいのに…そう願わずにはいられなかった。
夜。
たまみの希望で、二組の布団を横に並べて、きり丸を挟んで川の字になって寝ることになった。
きり丸がいるとはいえ、同じ部屋で彼女と寝ることに少し意識してしまう。
「じゃあ寝よっか。」
彼女はきり丸をぎゅっと抱きしめたあと、「おやすみ、きりちゃん。」ときり丸のおでこに軽く口づけた。
びっくりしたきり丸がバッと離れて私にぶつかる。
「あ…、ごめんイヤだったかな?」
たまみが申し訳なさそうに聞くと、きり丸は赤くなって布団をかぶった。
「…別に。イヤじゃ、ないですけど。」
珍しく照れているきり丸。
なんだなんだ、きり丸だけずるいじゃないか。
つい羨ましくなってからかった。
「なんだきり丸、じゃあ私もしてやろうか。」
そう言うと、きり丸は「やめてください気持ち悪い!」と本気で嫌がった。
まぁそうだよな。
「おやすみなさい!」
きり丸は布団をかぶったままそう言って打ち切った。
私とたまみもきり丸の隣に横になる。
そして昼間のバイトで疲れたのか、はしゃいで疲れたのか、きり丸はそのまま早々に寝息をたて始めた。
そっと掛け布団を顔から外してやる。
「半助さん」
たまみが小声で私を呼んだ。
見ると、寝転んだ彼女の腕がきり丸の頭の上からこちらに伸ばされていた。
「おやすみなさい。」
私は彼女の手に指を絡ませて握った。
「おやすみ、たまみ。」
そう言ってたまみの手を少し引いて口づけすると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
暫くすると、たまみの手が温かくなってスヤスヤと眠りについたのが分かった。
私はその可愛い寝顔を見ながら、幸せをかみしめて眠った。