第55話 紫陽花とかたつむり
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翌日。
朝から激しい雨がふった。
雷も鳴っていたので午後は自習となり、私は長屋の見回りのために廊下を歩いていた。
ふと中庭に目をやると、たまみさんがまた紫陽花の前にしゃがんでいる。
「たまみさん!こんな大雨のなか何をしてるんですか!」
彼女は傘もささずに何かを探しているようだった。
「土井先生…!いなくなっちゃったんです。」
「何がですか?」
「昨日のカタツムリが…雨で溺れてしまわないように避難させようと思ったら、どこにもいなくなってて…。」
たまみさんは悲しげな顔をして俯いた。
「カタツムリも自分でどこかに隠れたんじゃないですか?」
「そうかもしれません…。でももしかしたら鳥に食べられちゃったのかなとか、考え出したら気になってしまって…!…おかしいですよね。でも、昨日、喜三太くんとカタツムリと遊んでいたから何だか妙に愛着がわいてしまって…。」
雨が彼女の頬を伝い、まるで泣いてるように見えた。
私は彼女の頭をぽんと撫でてできるだけ優しく言った。
「カタツムリも自然の生き物です。食べられてしまった可能性もありますが、きっと大雨を察知して紫陽花より安全な場所に逃げたのでしょう。今頃、どこかで殻に閉じこもって隠れてますよ。」
「…そう、ですね…。」
たまみさんが俯きながら頷いた。
その頬に触れると、随分冷たく冷えている。
「こんなに冷たくなって…風邪をひいたらどうするんだ…。早くお風呂で温まってきてください。」
「…はい……」
元気なく歩いていくたまみさん。
私はその後ろ姿を見送ると、大きく息を吐いて紫陽花の前にしゃがみこんだ。
「まったく…カタツムリってのはどこで雨宿りするんだ…?」
彼女の悲しげな顔を見たくなくて、私はあてもなくカタツムリを探し始めた。
「あれ、土井先生何してるんですか?」
きり丸、乱太郎、しんべヱが、どしゃ降りのなか植木の近くでしゃがむ私を見つけて聞いてきた。
「ああ、実はかくかくしかじかで…。」
経緯をかいつまんで話すと、乱太郎が勢いよく大雨の中庭にとび降りた。
「僕も一緒に探します!」
「いや、お前達は濡れて風邪をひいたらいけないから私だけで十分だ。戻りなさい。」
「一人で探すより、みんなで探した方が見つかりやすいですよ~。」
しんべヱも中庭に降りてきた。
「仕方ないですねぇ。見つかったら何か奢ってくださいよ。」
きり丸まで何のためらいもなく中庭に降り立った。
すると、すぐ近くの部屋の戸ががらりとあいて、話を聞いていたのか庄左ヱ門が大声を出した。
「土井先生!僕達も探します!今こそ一年は組の団結力を見せるときです!」
「庄左ヱ門!」
「みんな、土井先生を手伝おう!」
その声に反応して部屋から良い子達がぞろぞろと出て来る。
誰一人ためらうことなく、既にだいぶ水の溜まっている中庭に次々と降りてきた。
「お、お前たち…。」
驚いていると、喜三太に袖をひかれた。
「土井先生、みんなで探せばカタツムリさんきっと見つかりますよぉ。」
びしょ濡れの顔でにこりと笑う喜三太。
私はその頭をぽんと撫でて頷いた。
「みんなありがとう。よし、じゃあさっさと見つけてたまみさんを安心させてあげよう。」
「「「「「おー!」」」」」」
そこからみんなで草や石の裏側、塀、木の幹など周りを捜索した。
けれど中々カタツムリは見つからない。
「はにゃ~、昨日僕の部屋にお泊まりさせておけばよかったなぁ。」
「カタツムリの移動速度から考えるとそんなに遠くには行かないと思うんだが…もう少し範囲を広げてみるか。」
すると、廊下の向こうからお風呂上がりのたまみさんが歩いてきた。
しまった。
彼女が申し訳なく思うだろうから、こっそり探しておこうと思っていたのに、ばっちりみんなで探しているところを見られてしまった。
「あれ、みんな、何やって…」
「たまみさん、カタツムリは僕達がちゃんと見つけますから!大丈夫ですよ!」
庄左ヱ門の言葉に、みんながたまみさんを安心させる為にカタツムリを探していると気づいた彼女は驚いて固まった。
「えっ…!?みんなで、探してくれてるの!?」
そのとき、喜三太がこちらに走ってきた。
「カタツムリさん居ましたよー!」
その手には、昨日見た大きめのカタツムリ。
たまみさんはそれを見るとほっと安心して笑顔を見せ、次いで泣きそうな顔になった。
「ありがとう…!!みんな…そんなにずぶ濡れになって…!」
たまみさんがまた中庭に降りて喜三太を抱きしめた。
「はにゃ、たまみさん、また濡れちゃいますよ。」
「いいの。みんな、本当にありがとう…!」
彼女の嬉しそうな顔を見て良い子達もみな満足そうに笑った。
「たまみさんそんなにカタツムリが心配だったんだね~。」
「しんべヱ…それもあるだろうけど、たまみさんは僕達がみんなで探したことを喜んでくれてるんじゃないかな。」
乱太郎が濡れてくもった眼鏡を拭いながら優しく笑った。
私は本当に優しい生徒達に恵まれたと思う。
「みんな、一緒に探してくれて助かった、ありがとう。では風邪をひかないように今すぐ風呂に行くぞー!」
「「「「「はーい!」」」」」」
連れだって歩いていくと、喜三太がカタツムリを長屋の柱に避難させて、たまみさんの袖をひっぱった。
「たまみさん、また濡れちゃったし一緒にお風呂に入りましょー。」
「えっ」
「そうだ、僕達またたまみさんとお風呂に入りたいなぁ!」
「行こう行こうー!」
たまみさんがぐいぐい引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと待てお前ら。それはいくらなんでもまずいから…」
するとたまみさんが私を見て苦笑した。
「土井先生」
「ん?」
「少しの間、見張りしてて貰えますか?」
「!」
私は暫くためらったが、申し訳なさそうに微笑む彼女にため息をついて頷いた。
「…わかりました。…お前達、今回だけだからな。」
良い子達が「わーい」とはしゃぎながら走っていった。
不意に、彼女が背伸びして私の頬に触れる。
「土井先生も、こんなに冷たくなるまで探してくれて…ありがとうございます。」
「うん、見つかってよかったね。」
「はい、ちゃんと無事でよかったです。…あの、お風呂、なるべくみんなを早く入れるので、少しだけ待っててくださいね。」
彼女はまた申し訳なさそうに微笑んだ。
「私は平気だからゆっくり入っておいで。」
「…私は、土井先生が一緒でもいいんですけど…」
「え?」
「…何でもありません!」
照れ笑いする彼女の小さな声は、雨音にかきけされて聞き取れなかった。
そうして私達は良い子達のあとに続いて歩いていった。
朝から激しい雨がふった。
雷も鳴っていたので午後は自習となり、私は長屋の見回りのために廊下を歩いていた。
ふと中庭に目をやると、たまみさんがまた紫陽花の前にしゃがんでいる。
「たまみさん!こんな大雨のなか何をしてるんですか!」
彼女は傘もささずに何かを探しているようだった。
「土井先生…!いなくなっちゃったんです。」
「何がですか?」
「昨日のカタツムリが…雨で溺れてしまわないように避難させようと思ったら、どこにもいなくなってて…。」
たまみさんは悲しげな顔をして俯いた。
「カタツムリも自分でどこかに隠れたんじゃないですか?」
「そうかもしれません…。でももしかしたら鳥に食べられちゃったのかなとか、考え出したら気になってしまって…!…おかしいですよね。でも、昨日、喜三太くんとカタツムリと遊んでいたから何だか妙に愛着がわいてしまって…。」
雨が彼女の頬を伝い、まるで泣いてるように見えた。
私は彼女の頭をぽんと撫でてできるだけ優しく言った。
「カタツムリも自然の生き物です。食べられてしまった可能性もありますが、きっと大雨を察知して紫陽花より安全な場所に逃げたのでしょう。今頃、どこかで殻に閉じこもって隠れてますよ。」
「…そう、ですね…。」
たまみさんが俯きながら頷いた。
その頬に触れると、随分冷たく冷えている。
「こんなに冷たくなって…風邪をひいたらどうするんだ…。早くお風呂で温まってきてください。」
「…はい……」
元気なく歩いていくたまみさん。
私はその後ろ姿を見送ると、大きく息を吐いて紫陽花の前にしゃがみこんだ。
「まったく…カタツムリってのはどこで雨宿りするんだ…?」
彼女の悲しげな顔を見たくなくて、私はあてもなくカタツムリを探し始めた。
「あれ、土井先生何してるんですか?」
きり丸、乱太郎、しんべヱが、どしゃ降りのなか植木の近くでしゃがむ私を見つけて聞いてきた。
「ああ、実はかくかくしかじかで…。」
経緯をかいつまんで話すと、乱太郎が勢いよく大雨の中庭にとび降りた。
「僕も一緒に探します!」
「いや、お前達は濡れて風邪をひいたらいけないから私だけで十分だ。戻りなさい。」
「一人で探すより、みんなで探した方が見つかりやすいですよ~。」
しんべヱも中庭に降りてきた。
「仕方ないですねぇ。見つかったら何か奢ってくださいよ。」
きり丸まで何のためらいもなく中庭に降り立った。
すると、すぐ近くの部屋の戸ががらりとあいて、話を聞いていたのか庄左ヱ門が大声を出した。
「土井先生!僕達も探します!今こそ一年は組の団結力を見せるときです!」
「庄左ヱ門!」
「みんな、土井先生を手伝おう!」
その声に反応して部屋から良い子達がぞろぞろと出て来る。
誰一人ためらうことなく、既にだいぶ水の溜まっている中庭に次々と降りてきた。
「お、お前たち…。」
驚いていると、喜三太に袖をひかれた。
「土井先生、みんなで探せばカタツムリさんきっと見つかりますよぉ。」
びしょ濡れの顔でにこりと笑う喜三太。
私はその頭をぽんと撫でて頷いた。
「みんなありがとう。よし、じゃあさっさと見つけてたまみさんを安心させてあげよう。」
「「「「「おー!」」」」」」
そこからみんなで草や石の裏側、塀、木の幹など周りを捜索した。
けれど中々カタツムリは見つからない。
「はにゃ~、昨日僕の部屋にお泊まりさせておけばよかったなぁ。」
「カタツムリの移動速度から考えるとそんなに遠くには行かないと思うんだが…もう少し範囲を広げてみるか。」
すると、廊下の向こうからお風呂上がりのたまみさんが歩いてきた。
しまった。
彼女が申し訳なく思うだろうから、こっそり探しておこうと思っていたのに、ばっちりみんなで探しているところを見られてしまった。
「あれ、みんな、何やって…」
「たまみさん、カタツムリは僕達がちゃんと見つけますから!大丈夫ですよ!」
庄左ヱ門の言葉に、みんながたまみさんを安心させる為にカタツムリを探していると気づいた彼女は驚いて固まった。
「えっ…!?みんなで、探してくれてるの!?」
そのとき、喜三太がこちらに走ってきた。
「カタツムリさん居ましたよー!」
その手には、昨日見た大きめのカタツムリ。
たまみさんはそれを見るとほっと安心して笑顔を見せ、次いで泣きそうな顔になった。
「ありがとう…!!みんな…そんなにずぶ濡れになって…!」
たまみさんがまた中庭に降りて喜三太を抱きしめた。
「はにゃ、たまみさん、また濡れちゃいますよ。」
「いいの。みんな、本当にありがとう…!」
彼女の嬉しそうな顔を見て良い子達もみな満足そうに笑った。
「たまみさんそんなにカタツムリが心配だったんだね~。」
「しんべヱ…それもあるだろうけど、たまみさんは僕達がみんなで探したことを喜んでくれてるんじゃないかな。」
乱太郎が濡れてくもった眼鏡を拭いながら優しく笑った。
私は本当に優しい生徒達に恵まれたと思う。
「みんな、一緒に探してくれて助かった、ありがとう。では風邪をひかないように今すぐ風呂に行くぞー!」
「「「「「はーい!」」」」」」
連れだって歩いていくと、喜三太がカタツムリを長屋の柱に避難させて、たまみさんの袖をひっぱった。
「たまみさん、また濡れちゃったし一緒にお風呂に入りましょー。」
「えっ」
「そうだ、僕達またたまみさんとお風呂に入りたいなぁ!」
「行こう行こうー!」
たまみさんがぐいぐい引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと待てお前ら。それはいくらなんでもまずいから…」
するとたまみさんが私を見て苦笑した。
「土井先生」
「ん?」
「少しの間、見張りしてて貰えますか?」
「!」
私は暫くためらったが、申し訳なさそうに微笑む彼女にため息をついて頷いた。
「…わかりました。…お前達、今回だけだからな。」
良い子達が「わーい」とはしゃぎながら走っていった。
不意に、彼女が背伸びして私の頬に触れる。
「土井先生も、こんなに冷たくなるまで探してくれて…ありがとうございます。」
「うん、見つかってよかったね。」
「はい、ちゃんと無事でよかったです。…あの、お風呂、なるべくみんなを早く入れるので、少しだけ待っててくださいね。」
彼女はまた申し訳なさそうに微笑んだ。
「私は平気だからゆっくり入っておいで。」
「…私は、土井先生が一緒でもいいんですけど…」
「え?」
「…何でもありません!」
照れ笑いする彼女の小さな声は、雨音にかきけされて聞き取れなかった。
そうして私達は良い子達のあとに続いて歩いていった。