第54話 ぬいぐるみ
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職員室に土井先生はいなかった。
実技の授業ももう終わっているはずだし、すぐに戻ってくるかな…。
そう思い一旦自室に帰ろうとしたとき。
「失礼します。」
「り、利吉、さんっ…!!」
大きな風呂敷を持った利吉さんが現れた。
「たまみさん、こんにちは。」
いつもの爽やかな笑顔。
私はぎこちなく目を泳がせてしまった。
「こ、こんにちは…!あの、土井先生は、今席を外してますよ…?」
「そうですか。父上に着替えを持ってきただけなので、別に土井先生に用事はありませんが…?」
利吉さんが不思議そうな顔をして、私は慌てて手を振った。
「あ!そ、そうですよねっ!すみません、間違えました!」
利吉さんが怪訝そうに眉をしかめた。
しまった。
動揺が態度に出てしまった…。
「たまみさん、何かありましたか?」
「え!?いえ、あの、何でもないんです…!気にしないでください!」
「何でもないようには見えませんが…」
利吉さんが荷物を床に置き、私に近づいてじっと見つめた。
その鋭い眼差しに、私は思わず目をそらした。
「…何があったか、教えて貰えませんか?」
言えない。
まさか、本当は土井先生のことが好きなのですか?なんて聞けない…!
「…その荷物と関係あるのですか?」
利吉さんが私の手元を見た。
土井先生に見せようと、風呂敷に包んで持ってきたぬいぐるみだ。
私は咄嗟にそれを背に隠した。
「ち、違うんです…これは…。」
利吉さんが私に一歩近づく。
私も一歩あとずさる。
あっという間に部屋の隅に追いやられた。
「私では…相談するのに頼りないですか?」
利吉さんが悲しそうな顔をした。
「そ、そうじゃなくて!あの…、その…!」
何だか申し訳なくなって、私は仕方なく遠回しに聞いてみることにした。
「利吉さん、私、恋愛って自由だと思うんです…。」
「??…はい。」
「誰がどんな人を好きになっても、それは仕方ないというか、コントロールできないというか…別に周りがとやかく言うことではないと思うんです…。」
「…そうですね…???」
「それで…あの、利吉さんは…お裁縫は得意ですか?」
「裁縫?…まぁ人並み程度には…。」
「では…あの、…好きな人のぬいぐるみとか、作ったことはありますか?」
「ぬいぐるみ?」
利吉さんは、話が全く見えないといった困惑した顔で私を見た。
ぬいぐるみと聞いても思い当たるふしがなさそうだった。
これは、やっぱり利吉さんではないのかもしれないと思ったけれど、プロの忍者ならこれくらい隠し通せるのかもしれない。
私は意を決して風呂敷からぬいぐるみを取り出した。
「これ…利吉さんのですか?」
利吉さんは驚いて土井先生のぬいぐるみをまじまじと見た。
「私のものではありませんが…よくできていますね。」
ひっくり返したり押したりして観察している。
「利吉さんのじゃないんですね?」
「違いますよ。なんで私が土井先生の人形を…。」
そこまで言って利吉さんはハッと固まった。
「たまみさん、まさか…。」
「はい?」
「これを、私が作って持っていたと思ったんですか?」
「…だって、利吉さんの小袖と同じマークが入っていたから…。」
「確かに同じですね。でも私が作ったのではありません。」
「そ、そうですか…。」
「…で、つまり、私が土井先生を慕ってこの人形を作ったと…そう思ったということですか?」
利吉さんがジト目でこちらを睨む。
私は小さくなっておずおずと答えた。
「えっと…もしかしたら、もしかしたりするのかななんて…、す、すみません…。」
利吉さんはとても不満げに腕を組んでため息をついた。
「土井先生のことは人としても忍としても尊敬していますが、私は男に興味ありません。」
「ほ、ほんとに…?」
「当たり前でしょう!!本気で疑ってるんですか!?」
利吉さんが呆れた顔でこちらを見た。
「す、すみません…。」
返す言葉もなくてしゅんとすると、利吉さんがぬいぐるみを机に置いてこちらに歩み寄った。
「そんなことぐらいで疑われてしまうなんて…私の言葉はたまみさんに全く届いてなかったようですね。」
「えっ」
利吉さんが距離をつめてきて、身を引こうとすると壁に背中があたった。
「言葉で伝わらないなら…」
利吉さんが私の顎に手をかけた。
鋭く妖艶な瞳に真っ直ぐ見据えられて、私は一瞬動けなくなった。
「直接、身体にお伝えするしかありませんね…。」
壁と利吉さんの間に挟まれて、私は逃げ場を失った。
「り、利吉さっ…!」
近すぎる胸を押して抵抗しようとすると手首をつかまれた。
そのまま頭の横で両腕を固定される。
「私が好きなのはあなただけですよ…」
利吉さんの顔がゆっくりと近づく。
「やっ…!」
がらっ
「!」
突然障子が開いた。
驚いて見ると、そこには長身の黒い影。
「ど…!」
バシッ!
言葉を発する間もなく、状況をみた土井先生が一瞬で間合いを詰め利吉さんを出席簿で払いのけた。
利吉さんはそれを片手で受け、痛みに微かに顔を歪めた。
「利吉くん」
土井先生の声がビリッと響く。
「ひとの彼女に手を出すとは、覚悟はできてるんだろうな。」
その声は静かなのに恐いくらい怒気を含んでいた。
庇われた背中から私にも伝わるくらい殺気を帯びている。
利吉さんは落ち着いて言葉を返した。
「…たまみさんに土井先生との仲を疑われたもので、つい。」
「……は?」
予想外の言葉に、土井先生が怪訝そうに私を振り返る。
「あ、いえっ、お二人の仲を疑ったという訳ではなくて、ですね…。」
私は土井先生に事の一部始終を説明した。
実技の授業ももう終わっているはずだし、すぐに戻ってくるかな…。
そう思い一旦自室に帰ろうとしたとき。
「失礼します。」
「り、利吉、さんっ…!!」
大きな風呂敷を持った利吉さんが現れた。
「たまみさん、こんにちは。」
いつもの爽やかな笑顔。
私はぎこちなく目を泳がせてしまった。
「こ、こんにちは…!あの、土井先生は、今席を外してますよ…?」
「そうですか。父上に着替えを持ってきただけなので、別に土井先生に用事はありませんが…?」
利吉さんが不思議そうな顔をして、私は慌てて手を振った。
「あ!そ、そうですよねっ!すみません、間違えました!」
利吉さんが怪訝そうに眉をしかめた。
しまった。
動揺が態度に出てしまった…。
「たまみさん、何かありましたか?」
「え!?いえ、あの、何でもないんです…!気にしないでください!」
「何でもないようには見えませんが…」
利吉さんが荷物を床に置き、私に近づいてじっと見つめた。
その鋭い眼差しに、私は思わず目をそらした。
「…何があったか、教えて貰えませんか?」
言えない。
まさか、本当は土井先生のことが好きなのですか?なんて聞けない…!
「…その荷物と関係あるのですか?」
利吉さんが私の手元を見た。
土井先生に見せようと、風呂敷に包んで持ってきたぬいぐるみだ。
私は咄嗟にそれを背に隠した。
「ち、違うんです…これは…。」
利吉さんが私に一歩近づく。
私も一歩あとずさる。
あっという間に部屋の隅に追いやられた。
「私では…相談するのに頼りないですか?」
利吉さんが悲しそうな顔をした。
「そ、そうじゃなくて!あの…、その…!」
何だか申し訳なくなって、私は仕方なく遠回しに聞いてみることにした。
「利吉さん、私、恋愛って自由だと思うんです…。」
「??…はい。」
「誰がどんな人を好きになっても、それは仕方ないというか、コントロールできないというか…別に周りがとやかく言うことではないと思うんです…。」
「…そうですね…???」
「それで…あの、利吉さんは…お裁縫は得意ですか?」
「裁縫?…まぁ人並み程度には…。」
「では…あの、…好きな人のぬいぐるみとか、作ったことはありますか?」
「ぬいぐるみ?」
利吉さんは、話が全く見えないといった困惑した顔で私を見た。
ぬいぐるみと聞いても思い当たるふしがなさそうだった。
これは、やっぱり利吉さんではないのかもしれないと思ったけれど、プロの忍者ならこれくらい隠し通せるのかもしれない。
私は意を決して風呂敷からぬいぐるみを取り出した。
「これ…利吉さんのですか?」
利吉さんは驚いて土井先生のぬいぐるみをまじまじと見た。
「私のものではありませんが…よくできていますね。」
ひっくり返したり押したりして観察している。
「利吉さんのじゃないんですね?」
「違いますよ。なんで私が土井先生の人形を…。」
そこまで言って利吉さんはハッと固まった。
「たまみさん、まさか…。」
「はい?」
「これを、私が作って持っていたと思ったんですか?」
「…だって、利吉さんの小袖と同じマークが入っていたから…。」
「確かに同じですね。でも私が作ったのではありません。」
「そ、そうですか…。」
「…で、つまり、私が土井先生を慕ってこの人形を作ったと…そう思ったということですか?」
利吉さんがジト目でこちらを睨む。
私は小さくなっておずおずと答えた。
「えっと…もしかしたら、もしかしたりするのかななんて…、す、すみません…。」
利吉さんはとても不満げに腕を組んでため息をついた。
「土井先生のことは人としても忍としても尊敬していますが、私は男に興味ありません。」
「ほ、ほんとに…?」
「当たり前でしょう!!本気で疑ってるんですか!?」
利吉さんが呆れた顔でこちらを見た。
「す、すみません…。」
返す言葉もなくてしゅんとすると、利吉さんがぬいぐるみを机に置いてこちらに歩み寄った。
「そんなことぐらいで疑われてしまうなんて…私の言葉はたまみさんに全く届いてなかったようですね。」
「えっ」
利吉さんが距離をつめてきて、身を引こうとすると壁に背中があたった。
「言葉で伝わらないなら…」
利吉さんが私の顎に手をかけた。
鋭く妖艶な瞳に真っ直ぐ見据えられて、私は一瞬動けなくなった。
「直接、身体にお伝えするしかありませんね…。」
壁と利吉さんの間に挟まれて、私は逃げ場を失った。
「り、利吉さっ…!」
近すぎる胸を押して抵抗しようとすると手首をつかまれた。
そのまま頭の横で両腕を固定される。
「私が好きなのはあなただけですよ…」
利吉さんの顔がゆっくりと近づく。
「やっ…!」
がらっ
「!」
突然障子が開いた。
驚いて見ると、そこには長身の黒い影。
「ど…!」
バシッ!
言葉を発する間もなく、状況をみた土井先生が一瞬で間合いを詰め利吉さんを出席簿で払いのけた。
利吉さんはそれを片手で受け、痛みに微かに顔を歪めた。
「利吉くん」
土井先生の声がビリッと響く。
「ひとの彼女に手を出すとは、覚悟はできてるんだろうな。」
その声は静かなのに恐いくらい怒気を含んでいた。
庇われた背中から私にも伝わるくらい殺気を帯びている。
利吉さんは落ち着いて言葉を返した。
「…たまみさんに土井先生との仲を疑われたもので、つい。」
「……は?」
予想外の言葉に、土井先生が怪訝そうに私を振り返る。
「あ、いえっ、お二人の仲を疑ったという訳ではなくて、ですね…。」
私は土井先生に事の一部始終を説明した。