第53話 日記
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日は一年は組の抜き打ちテストをした。
職員室で採点をすると、やはり視力検査のような点数…。
なぜだ。
ここはつい昨日教えたばかりのところなのに。
教えたはずだ…
教えたはずだー!!
「うぅ…」
予想通りの点数ではあるがやはりキリキリと胃が痛み、どんどん気持ちが落ち込んでいく。
私の教え方がよくないのか…。
「土井先生、お茶、飲みますか?」
たまみさんが可愛い笑顔で気を遣ってお茶を渡してくれた。
「ありがとう…」
湯飲みを受け取りお茶を喉に流し込む。
ほっと温まって、気持ちも少し落ち着いた。
「土井先生の授業はあんなに分かりやすいのに、不思議ですねぇ。」
彼女が私の腕に寄り添うように隣に座った。
いつもならこんな昼間の職員室でくっつくようなことはしないのだが、今はそれだけで少し癒される自分がいた。
「…たまみさん。」
「はい?」
「…抜き打ちテスト、しましょうか。」
「え?」
私の授業が本当に分かりやすいのなら、忍ではない彼女であってもある程度答えられるはずだ。
…そう、そのはず。
私は紙に筆を走らせて彼女に渡した。
「これを解いてみてください。」
問題用紙をじっと見つめるたまみさん。
「私、まだ崩し字ってなんとなくでしか読めなくて…。『問一、…五車の術の種類と…その内容を答えよ。…回答は…余白に崩し字で書くこと。』ですか…?」
「正解!」
たどたどしいもののちゃんと読めている。
最初は崩し字がほとんど読めなかったたまみさんが日々合間の時間で勉強をしていることを知っていたので、その成果に私も嬉しくなった。
「五車の術って…喜怒哀楽だから…喜車の術、怒車の術、哀車の術、楽車の術、あとは…きょ、きょ…」
そうだ、恐車の術だ!
「香車の術?」
それは将棋の駒だろう!
きょうしゃという音は同じだが惜しいな…。
「その内容は…色香で隙をつく…?」
うーむ、何だかありそうではあるが違う…。
恐車の術は、敵の恐怖心をあおったり、驚かせたりして戦意を無くすことだ…。
心のなかでつっこみながら、たまみさんが筆を動かす様を見ていた。
下を向いて長い睫毛が揺れている。
ほんの少し唇を突き出して考えている様子が可愛らしかった。
「んー、『問二、七方出とは何か答えよ。』…?たしか…変装するときに疑われにくい七つの職業のこと…。」
そうそう。
「えっと…虚無僧、商人、お坊さん、山伏、普通の町人とかお百姓さんとかそういうの……あと何だったかな。」
そう、あと二つだ。
授業の補佐をしながら聞いているだけだろうに、ここまでちゃんと覚えてくれていたことに感動した。
生徒は全く覚えていないというのに…!
「さ、さ…さる…」
そう、さるがく…猿楽だ。
「お猿さん…。」
猿に変装してどうする!
隣でずっこける私にかまわず答案に「猿」と書くたまみさん。
…天然だよなぁ。
それもまた可愛いのだが…。
「あとひとつ…んー、…」
これは思いつかないようで、暫く無言で考え筆を動かしたあと、おずおずと私に答案を渡した。
私はそれを受け取ると、サラサラと採点していった。
「…っ!」
「あの…土井先生…?」
「あいつらも…あいつらも、これぐらい答えてくれたら…っ!!」
素晴らしい点数に泣きながらマルをつけると、たまみさんが背中をぽんぽんと撫でた。
「一応補佐として視力検査並みの点数にならなくてよかったです…。土井先生の授業が分かりやすいから私でも覚えてるんですよ。」
「ありがとう…ありがとうっ…。たいへん良くできました…!」
涙を拭って笑顔で答案を返すと、たまみさんは嬉しそうに微笑んだ。
「土井先生に採点して貰えるなんて嬉しい…!これ、大事にしまっておきます。」
なんていじらしいことを言ってくれるのだろう。
私は思わず隣に座る彼女をそっと抱き寄せた。
「そんなのでよかったらいつでも…。」
「私、土井先生の字も好きなんです…。いつもほんと綺麗な字を書くなぁって思いながら真似してるんですよ。」
惚れ惚れしたように答案用紙に書かれた私の字を指でなぞる。
頬を染めながら答案を見つめる彼女に思わず手が出そうになり、ぐっと我慢する。
「ありがとうございます。…それにしても、ほんとによく覚えてましたね。七方出も七つのうち五つまで合ってて惜しかった。…でも、最後の回答のお嫁さんっていうのは…職業ですか…?」
「女の子として憧れる職業ですよ!」
「そ、そうですか…。」
たまみさんも憧れているということだろうか。
きっと可愛くて働き者のいい嫁になるだろうな…。
意識が違う方向に向きかけて、慌てて目の前の紙に意識を戻した。
「しかし、まだ崩し字を書くのは難しいみたいですね。」
「そうなんです…。少しは読めるようになってきましたし、よく使う文章はなんとなく書けるんですけど、あまり使わない文章はよく分からなくて…。」
うーん、実際に書かないとなかなか覚えられないしなぁ…。
「…日記を書いてみますか?」
「日記?」
「教師が業務日誌をつけるように、たまみさんも毎日何があったかとか書くようにしたら崩し字の練習になるかもしれませんよ。」
「そうですねぇ。…続けられるかなぁ。」
「…よかったら、文字があってるか私が見ましょうか?」
「!……土井先生、お忙しいのにそんなお手間を増やしたら…。」
「それぐらい何てことないですよ。それなら続くんじゃないですか?」
「そ、それはそうだと思いますが…いいんですか?」
快く頷くと、たまみさんは頬を染めて嬉しそうに笑った。
職員室で採点をすると、やはり視力検査のような点数…。
なぜだ。
ここはつい昨日教えたばかりのところなのに。
教えたはずだ…
教えたはずだー!!
「うぅ…」
予想通りの点数ではあるがやはりキリキリと胃が痛み、どんどん気持ちが落ち込んでいく。
私の教え方がよくないのか…。
「土井先生、お茶、飲みますか?」
たまみさんが可愛い笑顔で気を遣ってお茶を渡してくれた。
「ありがとう…」
湯飲みを受け取りお茶を喉に流し込む。
ほっと温まって、気持ちも少し落ち着いた。
「土井先生の授業はあんなに分かりやすいのに、不思議ですねぇ。」
彼女が私の腕に寄り添うように隣に座った。
いつもならこんな昼間の職員室でくっつくようなことはしないのだが、今はそれだけで少し癒される自分がいた。
「…たまみさん。」
「はい?」
「…抜き打ちテスト、しましょうか。」
「え?」
私の授業が本当に分かりやすいのなら、忍ではない彼女であってもある程度答えられるはずだ。
…そう、そのはず。
私は紙に筆を走らせて彼女に渡した。
「これを解いてみてください。」
問題用紙をじっと見つめるたまみさん。
「私、まだ崩し字ってなんとなくでしか読めなくて…。『問一、…五車の術の種類と…その内容を答えよ。…回答は…余白に崩し字で書くこと。』ですか…?」
「正解!」
たどたどしいもののちゃんと読めている。
最初は崩し字がほとんど読めなかったたまみさんが日々合間の時間で勉強をしていることを知っていたので、その成果に私も嬉しくなった。
「五車の術って…喜怒哀楽だから…喜車の術、怒車の術、哀車の術、楽車の術、あとは…きょ、きょ…」
そうだ、恐車の術だ!
「香車の術?」
それは将棋の駒だろう!
きょうしゃという音は同じだが惜しいな…。
「その内容は…色香で隙をつく…?」
うーむ、何だかありそうではあるが違う…。
恐車の術は、敵の恐怖心をあおったり、驚かせたりして戦意を無くすことだ…。
心のなかでつっこみながら、たまみさんが筆を動かす様を見ていた。
下を向いて長い睫毛が揺れている。
ほんの少し唇を突き出して考えている様子が可愛らしかった。
「んー、『問二、七方出とは何か答えよ。』…?たしか…変装するときに疑われにくい七つの職業のこと…。」
そうそう。
「えっと…虚無僧、商人、お坊さん、山伏、普通の町人とかお百姓さんとかそういうの……あと何だったかな。」
そう、あと二つだ。
授業の補佐をしながら聞いているだけだろうに、ここまでちゃんと覚えてくれていたことに感動した。
生徒は全く覚えていないというのに…!
「さ、さ…さる…」
そう、さるがく…猿楽だ。
「お猿さん…。」
猿に変装してどうする!
隣でずっこける私にかまわず答案に「猿」と書くたまみさん。
…天然だよなぁ。
それもまた可愛いのだが…。
「あとひとつ…んー、…」
これは思いつかないようで、暫く無言で考え筆を動かしたあと、おずおずと私に答案を渡した。
私はそれを受け取ると、サラサラと採点していった。
「…っ!」
「あの…土井先生…?」
「あいつらも…あいつらも、これぐらい答えてくれたら…っ!!」
素晴らしい点数に泣きながらマルをつけると、たまみさんが背中をぽんぽんと撫でた。
「一応補佐として視力検査並みの点数にならなくてよかったです…。土井先生の授業が分かりやすいから私でも覚えてるんですよ。」
「ありがとう…ありがとうっ…。たいへん良くできました…!」
涙を拭って笑顔で答案を返すと、たまみさんは嬉しそうに微笑んだ。
「土井先生に採点して貰えるなんて嬉しい…!これ、大事にしまっておきます。」
なんていじらしいことを言ってくれるのだろう。
私は思わず隣に座る彼女をそっと抱き寄せた。
「そんなのでよかったらいつでも…。」
「私、土井先生の字も好きなんです…。いつもほんと綺麗な字を書くなぁって思いながら真似してるんですよ。」
惚れ惚れしたように答案用紙に書かれた私の字を指でなぞる。
頬を染めながら答案を見つめる彼女に思わず手が出そうになり、ぐっと我慢する。
「ありがとうございます。…それにしても、ほんとによく覚えてましたね。七方出も七つのうち五つまで合ってて惜しかった。…でも、最後の回答のお嫁さんっていうのは…職業ですか…?」
「女の子として憧れる職業ですよ!」
「そ、そうですか…。」
たまみさんも憧れているということだろうか。
きっと可愛くて働き者のいい嫁になるだろうな…。
意識が違う方向に向きかけて、慌てて目の前の紙に意識を戻した。
「しかし、まだ崩し字を書くのは難しいみたいですね。」
「そうなんです…。少しは読めるようになってきましたし、よく使う文章はなんとなく書けるんですけど、あまり使わない文章はよく分からなくて…。」
うーん、実際に書かないとなかなか覚えられないしなぁ…。
「…日記を書いてみますか?」
「日記?」
「教師が業務日誌をつけるように、たまみさんも毎日何があったかとか書くようにしたら崩し字の練習になるかもしれませんよ。」
「そうですねぇ。…続けられるかなぁ。」
「…よかったら、文字があってるか私が見ましょうか?」
「!……土井先生、お忙しいのにそんなお手間を増やしたら…。」
「それぐらい何てことないですよ。それなら続くんじゃないですか?」
「そ、それはそうだと思いますが…いいんですか?」
快く頷くと、たまみさんは頬を染めて嬉しそうに笑った。