第52話 団子とやきもち
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閉店時間になってお客さんも全員帰り、店に静けさが戻った。
きり丸くんはふーっと息をついて疲れた様子で、土井先生は何やら不機嫌な顔をしていた。
何かあったのかな…。
すると店の奥からご主人が出てきて笑顔で労ってくれた。
「いやぁ、今日は思ったよりお客さんが来て驚いたね。三人のおかげで本当に助かったよ、ありがとう。」
そう言うと机にお団子と焼き餅とお茶を出してくれた。
「余り物で悪いけど食べてくれ。またよろしく頼むよ!」
「いつも頂いてしまってすみません、ありがとうございます。」
お礼を言ってお団子を頬張る。
疲れた体に甘さが余計にしみて心が潤っていく。
お茶をごくりと飲むと、さっきまでイライラしていた気持ちが少しおさまった。
向かいに座っている土井先生は無言のままお団子をモグモグと食べている。
やっぱり機嫌が悪そう…。
「あっ、俺、宿題やるの忘れてた!ちょっと先に戻るんで、お二人はゆっくり帰って来てください!」
突然きり丸くんが立ち上がり、店主からアルバイト代を受け取ると走っていってしまった。
宿題しなきゃなんて、今まで聞いたこともない台詞。
どうしたのだろう。
すると、お茶を飲み干した土井先生がゆっくりと立ち上がる。
「私達も暗くならないうちに帰りましょう」
どこか冷たいその言葉に違和感を感じながら、土井先生と団子屋さんを出た。
「………」
土井先生は無言で歩いていく。
いつも私にあわせてゆっくり歩いてくれるのに、その歩調は速くて。
ついていけなくなり、私は思いきって聞いてみた。
「土井先生、何を怒ってるんですか?」
土井先生がぴたりと足をとめてこちらを振り返った。
「…もうあそこでアルバイトしないでください。」
「えっ」
「あんなに男達につきまとわれて…取り返しのつかないことになったらどうするんですか。」
「つきまとわれてなんか…」
「いーや、ちゃんと見てましたから。」
「…土井先生こそ、若い女性から沢山声かけられて、デレデレしてましたよね。」
「デレデレなんかしてません。」
「してましたよ!お名前は?とか聞かれてニコニコしてたじゃないですか!ちゃんと見てましたよ。」
「してないから。…きみこそ、抱きつかれて手紙を渡されていただろう。」
「あれはいきなりお客さんが…」
「前にも言ったけど、きみは隙が多すぎる。」
「隙が多いって言われても…。私は別に何もしてな…!」
そのとき、後ろでじゃりっと石を踏む音がした。
「たまみさん。」
振り返ると、そこには何度か団子屋さんで見たお客さんがいた。
二十歳位の精悍な武士に見える青年は、真っ直ぐに私をとらえていた。
「今日こそは、貴方に伝えたいと思いお待ちしてました。」
私が目をパチパチさせていると、土井先生が私の前に割って入って短く聞いた。
「彼女に何か?」
青年はじっと土井先生を見つめた。
「…ああ、たまみさんと一緒に働いていた人ですね。少し二人にさせて頂きたいのですが。」
「断る。」
「!」
土井先生がすげなく断ると、青年が少し驚いた表情を見せた。
「…失礼ながら、たまみさんとどういうご関係ですか。」
「君に言う必要はない。」
見たことないくらい冷たく返す土井先生に驚いていると、青年がこちらを見た。
「たまみさん、私と一緒にきて欲しい。…私なら、貴方に茶店で働かせるような苦労はさせない。」
青年が明らかに土井先生に敵意に満ちた目線を送り、土井先生がぐっと拳を握った。
私はそっと、土井先生の手に手を重ねて青年を見た。
「すみません、お気持ちは嬉しいのですが、私はもう……主人のものなので…。」
二人が驚いて私を見た。
「もう、結婚…していたのか…。」
青年がショックを受けたようにふらりとあとずさる。
「ごめんなさい。」
私が頭を下げると、彼は慌てて手を振った。
「いや、こちらこそ、知らずに…申し訳ない…。」
青年が土井先生を真っ直ぐに睨んだ。
「たまみさんを…ちゃんと幸せにしてやってください。」
「言われるまでもない。」
土井先生が短く答えると、青年は踵をかえして足早に歩いていった。
「あの…すみません、勝手に…旦那さんってことにしてしまって…。」
土井先生がゆっくりこちらを振り返った。
その目はまだ不機嫌そうで。
「すみません…。イヤでしたか…?」
「…そんな訳ない。」
土井先生がそっと私を抱き寄せた。
「もっと皆に私のものだと言いたいくらいだ…。…きみこそ、よかったのかい?私なんかと、その……。」
「私は、半助さんがいいんです。」
「たまみ……」
土井先生が腕に力を入れてぎゅっと抱きしめてくれた。
「もうあんな店には行くんじゃないぞ。」
「あんな店って…普通のお団子屋さんですけど…」
「団子が食べたいなら私が連れてってやるから。アルバイトは他でやりなさい。」
「…連れてってくれるんですか?」
「ああ。だからできたら接客じゃないアルバイトを探すように。…心配でしょうがない。」
私はくすりと笑って頷いた。
そのまま土井先生の胸に顔を埋めて甘えるように言う。
「…土井先生も、他の女の人と話さないでください。」
「普段話していないだろう。」
「くのたま達とも…」
「それは生徒だから話さない訳にいかないな。」
「必要最低限にしてください…。」
土井先生がぽんと頭を撫でた。
「そんなこと心配しなくても、私には…きみだけだよ。」
「ほんとに…?」
「ああ…。」
私がじっと目を見つめると、土井先生は周りを見渡してから私の頬に手を添えた。
ゆっくりと唇が重なって離れる。
私は再び土井先生の胸に頬をすり寄せて微笑んだ。
「私達、お互いにやきもち焼いてたんですね。」
「…たまみにやきもちを焼いてもらえるなんて、嬉しいかぎりだけど。…でも、もうあまり焼かせないでくれ…。」
私はくすりと笑って土井先生の手に指を絡めた。
そうして学園までの道のりを二人で手を繋いで歩いて帰った。
きり丸くんはふーっと息をついて疲れた様子で、土井先生は何やら不機嫌な顔をしていた。
何かあったのかな…。
すると店の奥からご主人が出てきて笑顔で労ってくれた。
「いやぁ、今日は思ったよりお客さんが来て驚いたね。三人のおかげで本当に助かったよ、ありがとう。」
そう言うと机にお団子と焼き餅とお茶を出してくれた。
「余り物で悪いけど食べてくれ。またよろしく頼むよ!」
「いつも頂いてしまってすみません、ありがとうございます。」
お礼を言ってお団子を頬張る。
疲れた体に甘さが余計にしみて心が潤っていく。
お茶をごくりと飲むと、さっきまでイライラしていた気持ちが少しおさまった。
向かいに座っている土井先生は無言のままお団子をモグモグと食べている。
やっぱり機嫌が悪そう…。
「あっ、俺、宿題やるの忘れてた!ちょっと先に戻るんで、お二人はゆっくり帰って来てください!」
突然きり丸くんが立ち上がり、店主からアルバイト代を受け取ると走っていってしまった。
宿題しなきゃなんて、今まで聞いたこともない台詞。
どうしたのだろう。
すると、お茶を飲み干した土井先生がゆっくりと立ち上がる。
「私達も暗くならないうちに帰りましょう」
どこか冷たいその言葉に違和感を感じながら、土井先生と団子屋さんを出た。
「………」
土井先生は無言で歩いていく。
いつも私にあわせてゆっくり歩いてくれるのに、その歩調は速くて。
ついていけなくなり、私は思いきって聞いてみた。
「土井先生、何を怒ってるんですか?」
土井先生がぴたりと足をとめてこちらを振り返った。
「…もうあそこでアルバイトしないでください。」
「えっ」
「あんなに男達につきまとわれて…取り返しのつかないことになったらどうするんですか。」
「つきまとわれてなんか…」
「いーや、ちゃんと見てましたから。」
「…土井先生こそ、若い女性から沢山声かけられて、デレデレしてましたよね。」
「デレデレなんかしてません。」
「してましたよ!お名前は?とか聞かれてニコニコしてたじゃないですか!ちゃんと見てましたよ。」
「してないから。…きみこそ、抱きつかれて手紙を渡されていただろう。」
「あれはいきなりお客さんが…」
「前にも言ったけど、きみは隙が多すぎる。」
「隙が多いって言われても…。私は別に何もしてな…!」
そのとき、後ろでじゃりっと石を踏む音がした。
「たまみさん。」
振り返ると、そこには何度か団子屋さんで見たお客さんがいた。
二十歳位の精悍な武士に見える青年は、真っ直ぐに私をとらえていた。
「今日こそは、貴方に伝えたいと思いお待ちしてました。」
私が目をパチパチさせていると、土井先生が私の前に割って入って短く聞いた。
「彼女に何か?」
青年はじっと土井先生を見つめた。
「…ああ、たまみさんと一緒に働いていた人ですね。少し二人にさせて頂きたいのですが。」
「断る。」
「!」
土井先生がすげなく断ると、青年が少し驚いた表情を見せた。
「…失礼ながら、たまみさんとどういうご関係ですか。」
「君に言う必要はない。」
見たことないくらい冷たく返す土井先生に驚いていると、青年がこちらを見た。
「たまみさん、私と一緒にきて欲しい。…私なら、貴方に茶店で働かせるような苦労はさせない。」
青年が明らかに土井先生に敵意に満ちた目線を送り、土井先生がぐっと拳を握った。
私はそっと、土井先生の手に手を重ねて青年を見た。
「すみません、お気持ちは嬉しいのですが、私はもう……主人のものなので…。」
二人が驚いて私を見た。
「もう、結婚…していたのか…。」
青年がショックを受けたようにふらりとあとずさる。
「ごめんなさい。」
私が頭を下げると、彼は慌てて手を振った。
「いや、こちらこそ、知らずに…申し訳ない…。」
青年が土井先生を真っ直ぐに睨んだ。
「たまみさんを…ちゃんと幸せにしてやってください。」
「言われるまでもない。」
土井先生が短く答えると、青年は踵をかえして足早に歩いていった。
「あの…すみません、勝手に…旦那さんってことにしてしまって…。」
土井先生がゆっくりこちらを振り返った。
その目はまだ不機嫌そうで。
「すみません…。イヤでしたか…?」
「…そんな訳ない。」
土井先生がそっと私を抱き寄せた。
「もっと皆に私のものだと言いたいくらいだ…。…きみこそ、よかったのかい?私なんかと、その……。」
「私は、半助さんがいいんです。」
「たまみ……」
土井先生が腕に力を入れてぎゅっと抱きしめてくれた。
「もうあんな店には行くんじゃないぞ。」
「あんな店って…普通のお団子屋さんですけど…」
「団子が食べたいなら私が連れてってやるから。アルバイトは他でやりなさい。」
「…連れてってくれるんですか?」
「ああ。だからできたら接客じゃないアルバイトを探すように。…心配でしょうがない。」
私はくすりと笑って頷いた。
そのまま土井先生の胸に顔を埋めて甘えるように言う。
「…土井先生も、他の女の人と話さないでください。」
「普段話していないだろう。」
「くのたま達とも…」
「それは生徒だから話さない訳にいかないな。」
「必要最低限にしてください…。」
土井先生がぽんと頭を撫でた。
「そんなこと心配しなくても、私には…きみだけだよ。」
「ほんとに…?」
「ああ…。」
私がじっと目を見つめると、土井先生は周りを見渡してから私の頬に手を添えた。
ゆっくりと唇が重なって離れる。
私は再び土井先生の胸に頬をすり寄せて微笑んだ。
「私達、お互いにやきもち焼いてたんですね。」
「…たまみにやきもちを焼いてもらえるなんて、嬉しいかぎりだけど。…でも、もうあまり焼かせないでくれ…。」
私はくすりと笑って土井先生の手に指を絡めた。
そうして学園までの道のりを二人で手を繋いで歩いて帰った。