第114.5話 魔女の誘惑
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とりあえず指示に従い4人で食堂に来てみた。
決まり文句は「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。」というものらしい。
少し肌寒いなか、マントを反対に向けたたまみの背中を風から守りつつ、人が来るのをじっと待つ。
はたして誰が一番最初にお菓子を手にいれるのか。
「先程決めた通り、時間短縮のため早い者勝ち…先にお菓子を手に入れた人の勝ちということで…後から文句言わないでくださいね。」
利吉くんが不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。
くそっ、よりによってどうして利吉くんが一番なんだ…!
食堂へ来た人に声をかける順番は、公平にくじ引きで決めた。
しかし、もし彼が勝ったらたまみに何を命令するか…。
あの悪巧みしていそうな目…絶対よからぬことを考えている、間違いない。
「利吉さんって女装したらホント美人になりますよねぇ…。」
たまみがのんきに感嘆の声をあげた。
確かに女装した利吉くんはその気になれば大概の男性を騙せると思う。
「そうだな。」
しかしそれどころではない私は素っ気ない返事をした。
利吉くんの女装がどうとか、魔女としての完成度が高いとか、さすが現役プロ忍、嫌がっていても一度なりきってしまえばやはりその動きはちゃんと女性に見えるとか…そんなことはどうでもいい。
利吉くんはどんな戦法で攻めるつもりだ…一体誰が食堂に現れ…
「ずいぶんアツい視線を送られるのですね?」
「へ?」
たまみがじろりと私を睨んでいる。
「利子さん、綺麗ですもんね。」
拗ねる素振りを見せるたまみ。
「…??」
「………………。」
無言で目を逸らし続けるたまみ。
なんだ、何を怒って…?
「!」
ハッ!
まさか………。
まさか、あれか。
また利吉くんにやきもちをやいているのか…!?
「………たまみの方が可愛いよ?」
耳元でそう小さく囁くと、たまみは頬を染めて俯いた。
…よし、正解だ。
あぶない、一瞬どう返すべきか迷った…。
また変な勘違いで妬かれてこじれてはたまらないからな。
「利子さんの魔女姿、四人のなかで一番さまになってると私は思うんですけど…。妖艶な美女って感じで危険な香りがします。」
「私はたまみが一番危険だと思う。」
他の二人に聞こえないよう、また耳元で囁いてみる。
たまみが肩をぴくりと揺らして口許を緩めた。
…あ、喜んでる。
何だかちょっと可愛くて、からかっているわけではないがもっといじめたくなってきた。
「でも、半子さんずっと利子さんばっかり眺めてるし……」
「変な命令をするんじゃないかって対策を考えてたんだ。」
「……私の方は見てくれないし……」
「そ……それは…」
私は少し躊躇い、しかし彼女の肩に手を置いて更に小さな声で囁いた。
「あんまり見てたら触りたくなるから…」
ヒュンッ
利吉くんの杖が飛んできた。
「そこ、イチャイチャしないでください。」
「たまみがまた君と私の仲を疑っていたから誤解をといてたんだよ。」
「…ええ、聞こえてました。」
利吉くんがため息をついた。
憂いを帯びた目でさらりと肩にかかる髪を払いのける。
そのままたまみに歩み寄り、赤い艶やかな唇で彼女にゆっくり話しかけた。
「もしも本当に呪術が使えるなら…」
不思議な圧にたまみが一歩下がると、利吉くんが更に一歩歩み寄りたまみの手をとった。
「あなたの瞳に私しか映らぬよう……」
惑わせるように蠱惑的な、懇願するような切ない声。
あまりにも妖艶な雰囲気。
たまみが驚き固まると、利吉くんは彼女の手をそっと持ち上げ、その甲に口づけしようとした。
本当に悪い魔法でもかけてしまいそうだった。
私は慌ててたまみの肩を引いてその手を離させた。
予想通り私を睨む利吉くん。
予想外に頬を染めているたまみ。
…え、頬を染め……?!
「…すごい、ちょっと土井先生の気持ちが分かっちゃいました。」
「私の気持ち?」
「はい。これ、ヤバいですね…利子さん、色っぽすぎて……!」
いやいやいや、何を興奮しているんだ。
全然分かってないぞ!
それは私の気持ちではこれっぽっちもない!!
「いやー、これはフラッとなりますね。」
「いや、全くならない。」
「男性の気持ちが分かっちゃいました…」
「だから全然分かってない!」
「でも浮気はダメですよ?」
「するか!!」
二人で言い合っていると、利吉くんがオホンと咳払いして再びたまみの手をとった。
「…たまみさんが望むなら、この姿のまま愛でて差し上げてもいいですよ。」
「えっ…」
「こらこら。何を赤くなってる…!?」
「いやだって、こんな綺麗な人にこんな風に言われたら…ねぇ、誰でも赤くなりますよ!あ、半助さんはダメですよ!」
「なるわけないだろう。だいたい利吉くんは男だ。」
「…たまみさん、なんでこっちの姿の方が反応がいいんですか。」
「そういえば私の女装にも喜んでたな。」
「や、お二人とも元の姿の方が素敵なんですけど!でもほら、女装しても綺麗だからこう、見ていて興奮しちゃいますよね!?」
「「いや全然。」」
利吉くんと声がはもった。
するとそこまで黙って聞いていた伝子さんがたまみの肩をガシッと掴んだ。
「たまみちゃん、あなたも女装の良さが分かってきたのね?それはいわゆる美への追求…!」
「はい!」
何を意気投合している。
何だか妙な展開になってきたな…。
また変なことを言い出さなければいいのだが…。
「あら、こんなところで何をしてるんですか?」
声のする方を振り返ると、食堂の入り口に山本シナ先生が立っていた。
「あら、利吉く…利子ちゃん。あなたも参加してたの。」
シナ先生はメガネをかけ、白衣の医師の格好をしていた。
一見すると敏腕の女医。
しかしその白衣は真っ赤に染まっていて、一瞬本当に怪我をしているのではないかと動揺してしまった。
だがよく見ると血まみれに見えるそれは木の実の色で、本物より淡い色味だった。
「はい、なぜか呼び出されてこのような仮装をさせられました。」
「ふふふ、綺麗ね~よく似合ってるわ。…後ろのお三方も。」
シナ先生はちらりと我々を見ると楽しげに笑った。
伝子さんは「やだぁ~」とか言いながら恥らう仕草をしたが、私はひきつった笑いを返し、たまみは苦笑いをしていた。
利吉くんがシナ先生の前にずいっと出た。
「ところで、配られたお菓子は今お持ちですか?」
利吉くんが単刀直入に切り出すと、シナ先生は目を細めてスッと包みを取り出した。
「これのことかしら?」
「!…あの、それとこれを交換しませんか。」
利吉くんはどこからともなく包みを取り出し、中に入っているお団子を見せた。
「あら、もしかしてそれって今流行りのお店の三色団子かしら?」
「はい。美味しいとの噂を聞きまして。」
すると利吉くんがスッとたまみに流し目をよこし「貴方にはまた後で」と小さく告げた。
またたまみを餌付けするつもりで持ってきていたのか…!
どうしてくれようと苛立ち考えていると、シナ先生が頷いた。
「いいわね、それ食べてみたかったの。」
「!ではそのお菓子と交換を…!」
「ええ、でもかけ声が違うんじゃない?」
「かけ声?…ああ、あのお菓子をくれなきゃ…ってやつですか。」
「そうそう。こういうのは雰囲気も大事だから。ちゃんと『魔女』として言ってみて?」
シナ先生もまた妙なことを言うものだ。
利吉くんは一瞬当惑した顔を見せたが、すぐにサッと表情を消して雰囲気を変えた。
一度目を閉じた後、スッと細く開かれた鋭い目。
シナ先生の顎を人差し指でついっと持ち上げ、妖艶な瞳で艶やかに囁いた。
「お菓子をくれなきゃ…悪戯しますよ…」
妖しい声音。
艶っぽい表情。
おお…
さすが利吉くん。
これは大概の男が騙されるな。
シナ先生が満足そうに口角をあげた、その瞬間。
「シナ先生ずるーいっ!!」
「私達もやってくださーい!!」
「お菓子ぜーんぶ差し上げるので悪戯してくださーいっ!!」
くノ一教室の生徒達…シナ先生と同じく朱に染まった白衣で…が黄色い声をあげて一斉に食堂になだれ込んできた。
「なっ、なんなんだ君たちは…っ!?」
「お医者さんごっこしませんかー!?」
「はああ!?くっ、来るなーっ!!」
ゆきちゃん達の勢いに利吉くんが慌てて逃げ出した。
シナ先生は「あらあら」とか言いながらそれを楽しげに眺めている。
「さぁみんな、どこまで追いかけられるかしらね…」
シナ先生はフフフと笑うと自身も利吉くん達の後を追って駆け出した。
「「「…………」」」
食堂に残されたのは伝子さんとたまみと私。
しばしポカンとしていたが、とりあえず利吉くんがこの場からいなくなったことに私はホッと胸をなでおろした。
さて、次は私の番だ。
一歩前に出ると、たまみが私のマントを掴んだ。
「…半子さんは、他の人とイチャイチャしたらダメですよ?」
ちょっと拗ねた感じでおねだりするのが可愛い。
が、女装しているときに言われると何だか複雑な気持ちになる…。
「はは…するわけないだろう…。」
それにしても、次に食堂に入ってくるのは誰なのか。
三人で固唾を飲んで待っていると、聞きなれた声が聞こえてきた。
「あれ、土井先生達こんなところで何してるんですか?」
一年は組の良い子達がぞろぞろと入ってきた。
しめた…!
これなら問題ない!
「お前達、お菓子を渡さないと宿題を増やすぞ!」
こう言えば確実にお菓子を渡してくれるはずだ!
しかし全員が私の言葉に驚いて顔を見合わせた。
「土井先生、あのー…」
「なんだ庄左ヱ門?」
「僕たち、もうみんなお菓子食べちゃいました!」
「なにぃーっ!?」
ずっこける我々三人。
そうか、そんなこともあり得たか…!
「半子さん、それじゃあ仕方ないわね。ほら下がって下がって、次はたまみちゃんの番よ。」
伝子さんが笑いを堪えながら私の背をポンと叩いた。
不思議そうにこちらを見ながら食堂を去る乱太郎達。
私はガックリと肩を落としてたまみの後ろにたった。
次にたまみが勝敗をつけてくれなければ、もし伝子さんが勝つようなことがあれば、下手をするとまた女装で買い物やら付き合わされるかもしれない。
たまみ、頑張ってくれ…!
決まり文句は「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。」というものらしい。
少し肌寒いなか、マントを反対に向けたたまみの背中を風から守りつつ、人が来るのをじっと待つ。
はたして誰が一番最初にお菓子を手にいれるのか。
「先程決めた通り、時間短縮のため早い者勝ち…先にお菓子を手に入れた人の勝ちということで…後から文句言わないでくださいね。」
利吉くんが不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。
くそっ、よりによってどうして利吉くんが一番なんだ…!
食堂へ来た人に声をかける順番は、公平にくじ引きで決めた。
しかし、もし彼が勝ったらたまみに何を命令するか…。
あの悪巧みしていそうな目…絶対よからぬことを考えている、間違いない。
「利吉さんって女装したらホント美人になりますよねぇ…。」
たまみがのんきに感嘆の声をあげた。
確かに女装した利吉くんはその気になれば大概の男性を騙せると思う。
「そうだな。」
しかしそれどころではない私は素っ気ない返事をした。
利吉くんの女装がどうとか、魔女としての完成度が高いとか、さすが現役プロ忍、嫌がっていても一度なりきってしまえばやはりその動きはちゃんと女性に見えるとか…そんなことはどうでもいい。
利吉くんはどんな戦法で攻めるつもりだ…一体誰が食堂に現れ…
「ずいぶんアツい視線を送られるのですね?」
「へ?」
たまみがじろりと私を睨んでいる。
「利子さん、綺麗ですもんね。」
拗ねる素振りを見せるたまみ。
「…??」
「………………。」
無言で目を逸らし続けるたまみ。
なんだ、何を怒って…?
「!」
ハッ!
まさか………。
まさか、あれか。
また利吉くんにやきもちをやいているのか…!?
「………たまみの方が可愛いよ?」
耳元でそう小さく囁くと、たまみは頬を染めて俯いた。
…よし、正解だ。
あぶない、一瞬どう返すべきか迷った…。
また変な勘違いで妬かれてこじれてはたまらないからな。
「利子さんの魔女姿、四人のなかで一番さまになってると私は思うんですけど…。妖艶な美女って感じで危険な香りがします。」
「私はたまみが一番危険だと思う。」
他の二人に聞こえないよう、また耳元で囁いてみる。
たまみが肩をぴくりと揺らして口許を緩めた。
…あ、喜んでる。
何だかちょっと可愛くて、からかっているわけではないがもっといじめたくなってきた。
「でも、半子さんずっと利子さんばっかり眺めてるし……」
「変な命令をするんじゃないかって対策を考えてたんだ。」
「……私の方は見てくれないし……」
「そ……それは…」
私は少し躊躇い、しかし彼女の肩に手を置いて更に小さな声で囁いた。
「あんまり見てたら触りたくなるから…」
ヒュンッ
利吉くんの杖が飛んできた。
「そこ、イチャイチャしないでください。」
「たまみがまた君と私の仲を疑っていたから誤解をといてたんだよ。」
「…ええ、聞こえてました。」
利吉くんがため息をついた。
憂いを帯びた目でさらりと肩にかかる髪を払いのける。
そのままたまみに歩み寄り、赤い艶やかな唇で彼女にゆっくり話しかけた。
「もしも本当に呪術が使えるなら…」
不思議な圧にたまみが一歩下がると、利吉くんが更に一歩歩み寄りたまみの手をとった。
「あなたの瞳に私しか映らぬよう……」
惑わせるように蠱惑的な、懇願するような切ない声。
あまりにも妖艶な雰囲気。
たまみが驚き固まると、利吉くんは彼女の手をそっと持ち上げ、その甲に口づけしようとした。
本当に悪い魔法でもかけてしまいそうだった。
私は慌ててたまみの肩を引いてその手を離させた。
予想通り私を睨む利吉くん。
予想外に頬を染めているたまみ。
…え、頬を染め……?!
「…すごい、ちょっと土井先生の気持ちが分かっちゃいました。」
「私の気持ち?」
「はい。これ、ヤバいですね…利子さん、色っぽすぎて……!」
いやいやいや、何を興奮しているんだ。
全然分かってないぞ!
それは私の気持ちではこれっぽっちもない!!
「いやー、これはフラッとなりますね。」
「いや、全くならない。」
「男性の気持ちが分かっちゃいました…」
「だから全然分かってない!」
「でも浮気はダメですよ?」
「するか!!」
二人で言い合っていると、利吉くんがオホンと咳払いして再びたまみの手をとった。
「…たまみさんが望むなら、この姿のまま愛でて差し上げてもいいですよ。」
「えっ…」
「こらこら。何を赤くなってる…!?」
「いやだって、こんな綺麗な人にこんな風に言われたら…ねぇ、誰でも赤くなりますよ!あ、半助さんはダメですよ!」
「なるわけないだろう。だいたい利吉くんは男だ。」
「…たまみさん、なんでこっちの姿の方が反応がいいんですか。」
「そういえば私の女装にも喜んでたな。」
「や、お二人とも元の姿の方が素敵なんですけど!でもほら、女装しても綺麗だからこう、見ていて興奮しちゃいますよね!?」
「「いや全然。」」
利吉くんと声がはもった。
するとそこまで黙って聞いていた伝子さんがたまみの肩をガシッと掴んだ。
「たまみちゃん、あなたも女装の良さが分かってきたのね?それはいわゆる美への追求…!」
「はい!」
何を意気投合している。
何だか妙な展開になってきたな…。
また変なことを言い出さなければいいのだが…。
「あら、こんなところで何をしてるんですか?」
声のする方を振り返ると、食堂の入り口に山本シナ先生が立っていた。
「あら、利吉く…利子ちゃん。あなたも参加してたの。」
シナ先生はメガネをかけ、白衣の医師の格好をしていた。
一見すると敏腕の女医。
しかしその白衣は真っ赤に染まっていて、一瞬本当に怪我をしているのではないかと動揺してしまった。
だがよく見ると血まみれに見えるそれは木の実の色で、本物より淡い色味だった。
「はい、なぜか呼び出されてこのような仮装をさせられました。」
「ふふふ、綺麗ね~よく似合ってるわ。…後ろのお三方も。」
シナ先生はちらりと我々を見ると楽しげに笑った。
伝子さんは「やだぁ~」とか言いながら恥らう仕草をしたが、私はひきつった笑いを返し、たまみは苦笑いをしていた。
利吉くんがシナ先生の前にずいっと出た。
「ところで、配られたお菓子は今お持ちですか?」
利吉くんが単刀直入に切り出すと、シナ先生は目を細めてスッと包みを取り出した。
「これのことかしら?」
「!…あの、それとこれを交換しませんか。」
利吉くんはどこからともなく包みを取り出し、中に入っているお団子を見せた。
「あら、もしかしてそれって今流行りのお店の三色団子かしら?」
「はい。美味しいとの噂を聞きまして。」
すると利吉くんがスッとたまみに流し目をよこし「貴方にはまた後で」と小さく告げた。
またたまみを餌付けするつもりで持ってきていたのか…!
どうしてくれようと苛立ち考えていると、シナ先生が頷いた。
「いいわね、それ食べてみたかったの。」
「!ではそのお菓子と交換を…!」
「ええ、でもかけ声が違うんじゃない?」
「かけ声?…ああ、あのお菓子をくれなきゃ…ってやつですか。」
「そうそう。こういうのは雰囲気も大事だから。ちゃんと『魔女』として言ってみて?」
シナ先生もまた妙なことを言うものだ。
利吉くんは一瞬当惑した顔を見せたが、すぐにサッと表情を消して雰囲気を変えた。
一度目を閉じた後、スッと細く開かれた鋭い目。
シナ先生の顎を人差し指でついっと持ち上げ、妖艶な瞳で艶やかに囁いた。
「お菓子をくれなきゃ…悪戯しますよ…」
妖しい声音。
艶っぽい表情。
おお…
さすが利吉くん。
これは大概の男が騙されるな。
シナ先生が満足そうに口角をあげた、その瞬間。
「シナ先生ずるーいっ!!」
「私達もやってくださーい!!」
「お菓子ぜーんぶ差し上げるので悪戯してくださーいっ!!」
くノ一教室の生徒達…シナ先生と同じく朱に染まった白衣で…が黄色い声をあげて一斉に食堂になだれ込んできた。
「なっ、なんなんだ君たちは…っ!?」
「お医者さんごっこしませんかー!?」
「はああ!?くっ、来るなーっ!!」
ゆきちゃん達の勢いに利吉くんが慌てて逃げ出した。
シナ先生は「あらあら」とか言いながらそれを楽しげに眺めている。
「さぁみんな、どこまで追いかけられるかしらね…」
シナ先生はフフフと笑うと自身も利吉くん達の後を追って駆け出した。
「「「…………」」」
食堂に残されたのは伝子さんとたまみと私。
しばしポカンとしていたが、とりあえず利吉くんがこの場からいなくなったことに私はホッと胸をなでおろした。
さて、次は私の番だ。
一歩前に出ると、たまみが私のマントを掴んだ。
「…半子さんは、他の人とイチャイチャしたらダメですよ?」
ちょっと拗ねた感じでおねだりするのが可愛い。
が、女装しているときに言われると何だか複雑な気持ちになる…。
「はは…するわけないだろう…。」
それにしても、次に食堂に入ってくるのは誰なのか。
三人で固唾を飲んで待っていると、聞きなれた声が聞こえてきた。
「あれ、土井先生達こんなところで何してるんですか?」
一年は組の良い子達がぞろぞろと入ってきた。
しめた…!
これなら問題ない!
「お前達、お菓子を渡さないと宿題を増やすぞ!」
こう言えば確実にお菓子を渡してくれるはずだ!
しかし全員が私の言葉に驚いて顔を見合わせた。
「土井先生、あのー…」
「なんだ庄左ヱ門?」
「僕たち、もうみんなお菓子食べちゃいました!」
「なにぃーっ!?」
ずっこける我々三人。
そうか、そんなこともあり得たか…!
「半子さん、それじゃあ仕方ないわね。ほら下がって下がって、次はたまみちゃんの番よ。」
伝子さんが笑いを堪えながら私の背をポンと叩いた。
不思議そうにこちらを見ながら食堂を去る乱太郎達。
私はガックリと肩を落としてたまみの後ろにたった。
次にたまみが勝敗をつけてくれなければ、もし伝子さんが勝つようなことがあれば、下手をするとまた女装で買い物やら付き合わされるかもしれない。
たまみ、頑張ってくれ…!