第97.5話 織姫と彦星
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もうすぐ七夕。
忍術学園では大きな笹を一本取ってきて、みんなが短冊や飾り等を思い思いに飾っていた。
一年は組のみんなも各々自分の好きな飾りを作っていた。
「僕ねぇ、おにぎりの飾りを作るんだ!織姫も彦星もお腹すかないようにね!」
「私は手裏剣を作ろうかな。一流の忍者になれますようにって…!」
「俺はやっぱり銭の飾りを作って儲かりますようにって願おうかな。」
きりちゃん、乱太郎くん、しんべヱくんも楽しそうに紙を使って工作していた。
私は、みんなの作品を上の方に飾っている土井先生に目を向けた。
にこにこと嬉しそうに皆の飾りを受け取っては子どもたちが届かないところにもまんべんなく飾りを吊るしている。
私も何か作ってみようかな…。
とりあえず身近にあった桃色の折り紙を手に取った。
七夕の飾りにはそれぞれ意味があると聞いたことがあるけれど、私はそれらの作り方をよく知らない。
…桃色といえばこれかな…。
私は思いつくままにハートの飾りを作ってみた。
「土井先生、これも飾ってくれますか?」
「ん、いいよ。かしてごらん。」
にこりと微笑まれて、大きな手が優しく差し出された。
私はハートの飾りを渡しながら、ふと思い出し小声で彼に耳打ちした。
「いつかのおうどんを思い出しますね?」
「……!」
土井先生は一瞬固まったあと顔を赤くした。
片手で目を覆い、隠すように上を向いてしまった。
その姿がとても可愛くて、私は思わず微笑んだ。
「あ」
飾りのなかに、織姫と彦星の紙人形があった。
私はその二つを横に並べて半助さんを見上げた。
「すみません、さっきのやっぱりここに貼りつけてもいいですか?」
「貼りつける?」
「はい、こうやって…」
私はすぐ近くにあった糊を使い、織姫と彦星をハートで繋いでくっつけた。
「これで織姫と彦星はずっと一緒です。」
半助さんは少し驚いた顔でそれを見つめ、やがて目を細めて柔らかく微笑んだ。
「…うん、じゃあ上の方に飾ろうか。」
「はい!」
私は温かい気持ちで大きな笹を見上げた。
サラサラと笹の葉が風になびく。
織姫と彦星は仲睦まじそうに手を繋ぎ、楽しげに風に揺れていた。
数日後。
七夕が終わり、飾りは作った本人の元に戻された。
教科の授業のために土井先生とともに教室に入ると、例の織姫と彦星の飾りが教壇に置かれていた。
「ん?これは…?」
土井先生が飾りを手に取ると、庄左ヱ門くんが「土井先生!」と手を上げた。
「実はそれ、お二人を模した人形だったんです。」
「「えっ!?」」
「胸のところをよく見てください、ちゃんと名札もつけています。」
土井先生と私は驚いて人形を見た。
確かに胸には小さく私達の名前が書いてある…!
「つまりですね。お二人はハートを背負ってずっと手を繋いでいたのですが、それを全校生徒が見ていたわけでして…」
!!!!??
ぜ、全校生徒がこのラブラブな…織姫と彦星だと思ったら実は土井先生と私だったという人形飾りを目にしたと…!?
驚き言葉も出ずにいると、土井先生が動揺しながら大声で尋ねた。
「なっ、な、何でそれを早く言わないんだ…!!」
「言えば土井先生すぐに外しちゃうでしょう?せっかく七夕の飾りにと作ったんですからちゃんと飾らないと…!」
「し、しかしこれは…!」
は…恥ずかしすぎる…!
みんなの前で、土井先生と私の人形がハートを背に手を繋いで…!?
まさか全校生徒に見られた…!?
土井先生も隣でワナワナと震えていた。
「まぁ上の方に飾ってましたし、みんな織姫と彦星と思って気づかなかったんじゃないすか?」
きりちゃんが苦笑しながら慰めてくれた。
しかし横から…
「潮江先輩は『けしからん!』とか言ってましたよ。」
「食満先輩は鉄双節棍を磨きに行くとか言ってました。」
「伊作先輩は『よかったね』って笑ってました!」
「立花先輩は『土井先生もなかなか見せつけてくれる』とかなんとか……」
「七松先輩は………」
みんなが口々に他の生徒の反応を教えてくれた。
…それはつまりみんな気づいていたということで。
「…っ、ぃ、胃が…!」
「ど、土井先生!?」
結局その日の授業は自習にして、土井先生は保健室で胃薬を貰い暫く横になっておくようにと言われた。
新野先生がお水を汲みに行き、二人だけになった静かな部屋。
横たわる彼の手を握りながら、
まるであの織姫と彦星の飾りみたいだな…とその手を眺めた。
織姫と彦星……
想いあっていても会えない離ればなれの恋人………
私は土井先生の大きな温かい手をぎゅっと握った。
「……離さないでくださいね。」
その手にそっと頬を寄せると、彼は優しく瞳を揺らした。
「離すわけがない…。」
力強くそう言うと、強く手を握り返してくれた。
その温もりに、先程の七夕飾りのことを思い出した。
どさくさに紛れてこっそり懐に回収してきた二人の紙人形。
恥ずかしいことこの上ないけれど、これも数年後にはいい思い出になるのかな…。
……数年後………?
私はそっと懐に触れた。
紙人形がカサリと音をたて、土井先生の視線が向けられた。
「ずっと……」
土井先生が小さく呟き、私の腕をぐいっと引いた。
間近に覗き込む優しい瞳。
「一緒だ。」
そのまま優しく頭を引き寄せられ、そっと重なる唇。
脳裏をよぎった一抹の不安が、一瞬で甘い安堵感に変わった。
ずっと、一緒……。
心からそう願い、私はそっと目を閉じた。
忍術学園では大きな笹を一本取ってきて、みんなが短冊や飾り等を思い思いに飾っていた。
一年は組のみんなも各々自分の好きな飾りを作っていた。
「僕ねぇ、おにぎりの飾りを作るんだ!織姫も彦星もお腹すかないようにね!」
「私は手裏剣を作ろうかな。一流の忍者になれますようにって…!」
「俺はやっぱり銭の飾りを作って儲かりますようにって願おうかな。」
きりちゃん、乱太郎くん、しんべヱくんも楽しそうに紙を使って工作していた。
私は、みんなの作品を上の方に飾っている土井先生に目を向けた。
にこにこと嬉しそうに皆の飾りを受け取っては子どもたちが届かないところにもまんべんなく飾りを吊るしている。
私も何か作ってみようかな…。
とりあえず身近にあった桃色の折り紙を手に取った。
七夕の飾りにはそれぞれ意味があると聞いたことがあるけれど、私はそれらの作り方をよく知らない。
…桃色といえばこれかな…。
私は思いつくままにハートの飾りを作ってみた。
「土井先生、これも飾ってくれますか?」
「ん、いいよ。かしてごらん。」
にこりと微笑まれて、大きな手が優しく差し出された。
私はハートの飾りを渡しながら、ふと思い出し小声で彼に耳打ちした。
「いつかのおうどんを思い出しますね?」
「……!」
土井先生は一瞬固まったあと顔を赤くした。
片手で目を覆い、隠すように上を向いてしまった。
その姿がとても可愛くて、私は思わず微笑んだ。
「あ」
飾りのなかに、織姫と彦星の紙人形があった。
私はその二つを横に並べて半助さんを見上げた。
「すみません、さっきのやっぱりここに貼りつけてもいいですか?」
「貼りつける?」
「はい、こうやって…」
私はすぐ近くにあった糊を使い、織姫と彦星をハートで繋いでくっつけた。
「これで織姫と彦星はずっと一緒です。」
半助さんは少し驚いた顔でそれを見つめ、やがて目を細めて柔らかく微笑んだ。
「…うん、じゃあ上の方に飾ろうか。」
「はい!」
私は温かい気持ちで大きな笹を見上げた。
サラサラと笹の葉が風になびく。
織姫と彦星は仲睦まじそうに手を繋ぎ、楽しげに風に揺れていた。
数日後。
七夕が終わり、飾りは作った本人の元に戻された。
教科の授業のために土井先生とともに教室に入ると、例の織姫と彦星の飾りが教壇に置かれていた。
「ん?これは…?」
土井先生が飾りを手に取ると、庄左ヱ門くんが「土井先生!」と手を上げた。
「実はそれ、お二人を模した人形だったんです。」
「「えっ!?」」
「胸のところをよく見てください、ちゃんと名札もつけています。」
土井先生と私は驚いて人形を見た。
確かに胸には小さく私達の名前が書いてある…!
「つまりですね。お二人はハートを背負ってずっと手を繋いでいたのですが、それを全校生徒が見ていたわけでして…」
!!!!??
ぜ、全校生徒がこのラブラブな…織姫と彦星だと思ったら実は土井先生と私だったという人形飾りを目にしたと…!?
驚き言葉も出ずにいると、土井先生が動揺しながら大声で尋ねた。
「なっ、な、何でそれを早く言わないんだ…!!」
「言えば土井先生すぐに外しちゃうでしょう?せっかく七夕の飾りにと作ったんですからちゃんと飾らないと…!」
「し、しかしこれは…!」
は…恥ずかしすぎる…!
みんなの前で、土井先生と私の人形がハートを背に手を繋いで…!?
まさか全校生徒に見られた…!?
土井先生も隣でワナワナと震えていた。
「まぁ上の方に飾ってましたし、みんな織姫と彦星と思って気づかなかったんじゃないすか?」
きりちゃんが苦笑しながら慰めてくれた。
しかし横から…
「潮江先輩は『けしからん!』とか言ってましたよ。」
「食満先輩は鉄双節棍を磨きに行くとか言ってました。」
「伊作先輩は『よかったね』って笑ってました!」
「立花先輩は『土井先生もなかなか見せつけてくれる』とかなんとか……」
「七松先輩は………」
みんなが口々に他の生徒の反応を教えてくれた。
…それはつまりみんな気づいていたということで。
「…っ、ぃ、胃が…!」
「ど、土井先生!?」
結局その日の授業は自習にして、土井先生は保健室で胃薬を貰い暫く横になっておくようにと言われた。
新野先生がお水を汲みに行き、二人だけになった静かな部屋。
横たわる彼の手を握りながら、
まるであの織姫と彦星の飾りみたいだな…とその手を眺めた。
織姫と彦星……
想いあっていても会えない離ればなれの恋人………
私は土井先生の大きな温かい手をぎゅっと握った。
「……離さないでくださいね。」
その手にそっと頬を寄せると、彼は優しく瞳を揺らした。
「離すわけがない…。」
力強くそう言うと、強く手を握り返してくれた。
その温もりに、先程の七夕飾りのことを思い出した。
どさくさに紛れてこっそり懐に回収してきた二人の紙人形。
恥ずかしいことこの上ないけれど、これも数年後にはいい思い出になるのかな…。
……数年後………?
私はそっと懐に触れた。
紙人形がカサリと音をたて、土井先生の視線が向けられた。
「ずっと……」
土井先生が小さく呟き、私の腕をぐいっと引いた。
間近に覗き込む優しい瞳。
「一緒だ。」
そのまま優しく頭を引き寄せられ、そっと重なる唇。
脳裏をよぎった一抹の不安が、一瞬で甘い安堵感に変わった。
ずっと、一緒……。
心からそう願い、私はそっと目を閉じた。