第61.5話 温泉へ行こう(山田利吉視点)
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飛び交う怒号、叫び声、武器のぶつかる金属音、火薬と血と砂埃の臭い…。
戦の戦況分析の仕事が終わり、私は野宿で一夜を過ごした。
暗闇のなか、目を閉じると昼間見た戦場の風景が思い浮かぶ。
目の前で次々と奪われていく命…。
その声が、叫びが、幻聴のように響く。
…いつもは、こんな気持ちになる前に切り替えられるはずなのに。
疲れているのだろう。
休むのも仕事のうちだと、私は考えることをやめて浅い眠りについた。
朝、目が覚めるとひどく空腹感に襲われた。
じっと己の掌を見つめる。
自分は生きているのだと実感した。
そして昨日は水と忍者食しか口にしなかったことを思い出す。
…たまみさんのご飯が食べたいな…。
疲れたときについ思い浮かぶ彼女の笑顔。
自分の話を楽しそうに聞くその微笑み、差し出される温かい料理、彼女の日常のほんわかとした話、柔らかい声…。
…会いたいな…。
そうだ、次の仕事までには時間もあるし、忍術学園に行こう。
合戦場で染み付いたこの硝煙諸々の臭いも落としたかったし、風呂を借りて昼食を食べてから次の仕事へ行っても十分間に合う。
私は立ち上がると足早に忍術学園へと向かった。
道中、東の方角から乱太郎、きり丸、しんべヱの三人が歩いてくるのが見えた。
今日は休日のはず…補習はないのか、珍しいな。
朝からどこへ行くのだろう。
「あれ、利吉さん?」
近くまで来てようやく乱太郎が私に気づいた。
ここまで近づかなければ気づかないとは…。
「やあ、君たちどこへ行くんだい?」
するとしんべヱがのんびりした口調で答えた。
「僕達、この先にある温泉に行くんです~!」
「しんべヱが福引きで当てたからタダなんすよ!」
「温泉?」
そういえば、この近くに新しくできたと聞いたことがある。
福引きで客寄せをしているのか。
「あともう一人無料で行けるんで、よかったら利吉さんも一緒にどうですかー?」
三人がにこにこと聞いてきた。
普段の私なら断っていたと思うが、疲れた身体に温泉という響きが魅力的に感じられた。
そうして、私は三人と温泉に行くことになったのだった。
着いてみると、思ったより小綺麗な温泉だった。
脱衣場の戸を開けると、洗い場の先に大きな湯が見えた。
「わあ、大きな温泉だねぇ~!」
しんべヱののんびりした声が響く。
「しんべヱが福引き当てたおかげで俺達までこんなとこにタダで入れるなんてラッキー!」
「ペアチケットだから一人分余ってたところに、ちょうど利吉さんと出くわしてよかったですね。」
「ああ。合戦場で硝煙の臭いが付いてしまったから忍術学園で水浴びしようと思ってたんだが…君達に出会ってよかったよ。こんな温泉は久しぶりだ。」
素直に感想を述べると、三人はにこにこと嬉しそうに笑った。
「本当は土井先生を誘おうと思ったんですけど用事があるらしくて。利吉さんラッキーでしたね。」
きり丸が何気なく言った言葉が気になった。
休みの日に用事とは、忍務だろうか…。
学園長先生の突然の思いつきか、はたまた何かあったのだろうか…。
そんなことを考えているとき、温泉の大きな岩の陰から小石が飛んでくる気配がした。
身構えたとたん、矢羽音が聞こえてきた。
『利吉くん、私だ。』
『土井先生?!』
『ちょっと訳あって、少しの間、そいつらと一緒に外の方を向いておいてくれないか。』
こんなところで訳あってとは、一体何事か…。
温泉といえば、どんな身分の者でも強兵でも守りが手薄になる場所。
まさか、暗殺もしくは何らかのターゲットを追ってここに来たか、またはここにおびきだしたとか…。
いずれにしても仕事の邪魔をする訳にはいかない。
『訳は後で話すよ。頼む…!』
一体どんな忍務なのか…忍務の内容は他者に話さないのが鉄則ではあるが、非常に気になった。
しかしとりあえず、目の前の三人組が土井先生の邪魔をしないようにしなくては…場合によっては三人を護りながら土井先生の援護をしよう。
「あっ、そこにいるのはカブトムシじゃないか?ほら、大きな角が…。」
私は三人の目線が温泉の方に向かないよう適当な嘘で気を引いた。
「えっ、どこですか~?」
「ほら、あそこの竹藪のなか。」
こんなところにカブトムシなどいないのは分かっていたが、乱太郎達はうまく騙されてくれた。
目線は乱太郎達に向けたまま背後の気配を探る。
温泉の湯のなかを進む微かな水音…。
湯を上がり小走りに走る、土井先生のものとは異なる小さな足音。
…なんだ?
土井先生は誰かを追っていたわけではないのか?
足音は我々の出てきた脱衣場とは別の方に走っていく。
どこへ行くつもりだ…。
その足音は忍のものではなく、しかし身軽なもので、成人男性のそれには聞こえない…老人にしては動きが速く、まさか少年…?
目線は向けず、気配と微かな音で探る。
すると、突然。
「きゃっ!」
!?
女性の声!?
というか、これは…!
「危ないっ!!」
間髪をいれず土井先生の声が続く。
思わず後ろを振り返ってしまい、私は目の前の光景に唖然とした。
土井先生が。
たまみさんを横抱きに抱えて床に膝をついている…!?
「び、びっくりしました…!」
たまみさんが驚いた顔で呟く。
すると土井先生が呆れた顔で苦笑した。
「大丈夫か!?こっちこそびっくりした…!」
土井先生の腕の中でたまみさんがテヘヘと笑う。
…なんだこれは。
あまりの予想外な光景に思考が停止した。
「びっくりしたのはこっちなんすけど…」
「「あ」」
きり丸の声に二人がこちらを振り返る。
「土井先生、これはどういうことですか…」
思わず尋ねると、土井先生が慌てて両手を振って説明する。
「い、いや、違うんだ。ここ、実は混浴で…!」
「「「「えっ」」」」
混浴?!
土井先生が指し示す方を見ると、確かに脱衣場がもうひとつあった。
「でも何で土井先生とたまみさんがいるんですか?」
そうだ。
ここが混浴であろうと何であろうと、何故土井先生とたまみさんがここにいるんだ。
「だ、団子屋の福引きで当たったんだ。折角だから日頃手伝ってくれてるたまみさんを労おうと思ってだな…。」
しどろもどろに答える土井先生。
その態度から、やましい気持ちもあったようにみうけられて私はつい詰問してしまった。
「…なるほど。そういう口実で、混浴の温泉にたまみさんを誘ったと?」
半ば無意識に睨み付けると、土井先生がタジタジと答えた。
「混浴とは知らなかったんだ…!すぐに出ようと思ったんだがきみたちが入ってきて…」
「そうですか。…そのわりに随分のぼせた顔をしてますが。」
「う…」
二人してのぼせたような赤い顔をしていて、とてもすぐに出ようとしていたとは思えない。
くそっ、人が一生懸命仕事してるってのに、土井先生はなんて羨まし…じゃなくて、破廉恥なことを!
土井先生の仕事を邪魔してはいけないと気をつかったのに、まさか、まさか、たまみさんとこんなところでイチャついていたとは…!
怒りのような呆れのような嫉みのような感情を隠せずにいると、きり丸が割って入ってきた。
「まーまー。ここはひとつ、お昼ご飯で手を打とうじゃないですか!」
「え?」
「土井先生がみんなに隣の飯屋でお昼を奢ってくれたら俺達は今回何も見てないってことで!土井先生は口止めできるし、僕達はご飯食べれるし、悪い話じゃないでしょ!」
「…きり丸、目が銭になってるぞ。」
「土井先生だって二人で温泉に入ってたなんて広まったら困るでしょー?」
「ぐっ…。わかった。私は先に出ているから…。」
「まいどありっ!」
上機嫌になるきり丸。
私はそんなものでは誤魔化されませんよ…!
納得できず土井先生を睨み続けていると、たまみさんが立ち上がり脱衣場へと走っていった。
あ…。
ずっと、見ないようにしていたのについ見てしまった。
大きな手拭いを纏っているが、隠しきれていない白い太股。
細くくびれた腰に、濡れた手拭いがぴったりと張り付いて形がまるわかりの丸く可愛いお尻。
…一瞬、みとれてしまった。
そして、次の瞬間、そんな彼女と温泉でイチャイチャしていたであろう土井先生に無性に腹がたってきた。
土井先生は「なぜこんなことに…。」と呟きながら男性用の脱衣場へ向かっている。
ぬわぁにが「なぜこんなことに」だ!
この変態教師が…!!
私は心のなかで罵詈雑言を吐きながら、温泉よりも熱くたぎる怒りに先程までの疲労感がすっかりなくなっていた。
戦の戦況分析の仕事が終わり、私は野宿で一夜を過ごした。
暗闇のなか、目を閉じると昼間見た戦場の風景が思い浮かぶ。
目の前で次々と奪われていく命…。
その声が、叫びが、幻聴のように響く。
…いつもは、こんな気持ちになる前に切り替えられるはずなのに。
疲れているのだろう。
休むのも仕事のうちだと、私は考えることをやめて浅い眠りについた。
朝、目が覚めるとひどく空腹感に襲われた。
じっと己の掌を見つめる。
自分は生きているのだと実感した。
そして昨日は水と忍者食しか口にしなかったことを思い出す。
…たまみさんのご飯が食べたいな…。
疲れたときについ思い浮かぶ彼女の笑顔。
自分の話を楽しそうに聞くその微笑み、差し出される温かい料理、彼女の日常のほんわかとした話、柔らかい声…。
…会いたいな…。
そうだ、次の仕事までには時間もあるし、忍術学園に行こう。
合戦場で染み付いたこの硝煙諸々の臭いも落としたかったし、風呂を借りて昼食を食べてから次の仕事へ行っても十分間に合う。
私は立ち上がると足早に忍術学園へと向かった。
道中、東の方角から乱太郎、きり丸、しんべヱの三人が歩いてくるのが見えた。
今日は休日のはず…補習はないのか、珍しいな。
朝からどこへ行くのだろう。
「あれ、利吉さん?」
近くまで来てようやく乱太郎が私に気づいた。
ここまで近づかなければ気づかないとは…。
「やあ、君たちどこへ行くんだい?」
するとしんべヱがのんびりした口調で答えた。
「僕達、この先にある温泉に行くんです~!」
「しんべヱが福引きで当てたからタダなんすよ!」
「温泉?」
そういえば、この近くに新しくできたと聞いたことがある。
福引きで客寄せをしているのか。
「あともう一人無料で行けるんで、よかったら利吉さんも一緒にどうですかー?」
三人がにこにこと聞いてきた。
普段の私なら断っていたと思うが、疲れた身体に温泉という響きが魅力的に感じられた。
そうして、私は三人と温泉に行くことになったのだった。
着いてみると、思ったより小綺麗な温泉だった。
脱衣場の戸を開けると、洗い場の先に大きな湯が見えた。
「わあ、大きな温泉だねぇ~!」
しんべヱののんびりした声が響く。
「しんべヱが福引き当てたおかげで俺達までこんなとこにタダで入れるなんてラッキー!」
「ペアチケットだから一人分余ってたところに、ちょうど利吉さんと出くわしてよかったですね。」
「ああ。合戦場で硝煙の臭いが付いてしまったから忍術学園で水浴びしようと思ってたんだが…君達に出会ってよかったよ。こんな温泉は久しぶりだ。」
素直に感想を述べると、三人はにこにこと嬉しそうに笑った。
「本当は土井先生を誘おうと思ったんですけど用事があるらしくて。利吉さんラッキーでしたね。」
きり丸が何気なく言った言葉が気になった。
休みの日に用事とは、忍務だろうか…。
学園長先生の突然の思いつきか、はたまた何かあったのだろうか…。
そんなことを考えているとき、温泉の大きな岩の陰から小石が飛んでくる気配がした。
身構えたとたん、矢羽音が聞こえてきた。
『利吉くん、私だ。』
『土井先生?!』
『ちょっと訳あって、少しの間、そいつらと一緒に外の方を向いておいてくれないか。』
こんなところで訳あってとは、一体何事か…。
温泉といえば、どんな身分の者でも強兵でも守りが手薄になる場所。
まさか、暗殺もしくは何らかのターゲットを追ってここに来たか、またはここにおびきだしたとか…。
いずれにしても仕事の邪魔をする訳にはいかない。
『訳は後で話すよ。頼む…!』
一体どんな忍務なのか…忍務の内容は他者に話さないのが鉄則ではあるが、非常に気になった。
しかしとりあえず、目の前の三人組が土井先生の邪魔をしないようにしなくては…場合によっては三人を護りながら土井先生の援護をしよう。
「あっ、そこにいるのはカブトムシじゃないか?ほら、大きな角が…。」
私は三人の目線が温泉の方に向かないよう適当な嘘で気を引いた。
「えっ、どこですか~?」
「ほら、あそこの竹藪のなか。」
こんなところにカブトムシなどいないのは分かっていたが、乱太郎達はうまく騙されてくれた。
目線は乱太郎達に向けたまま背後の気配を探る。
温泉の湯のなかを進む微かな水音…。
湯を上がり小走りに走る、土井先生のものとは異なる小さな足音。
…なんだ?
土井先生は誰かを追っていたわけではないのか?
足音は我々の出てきた脱衣場とは別の方に走っていく。
どこへ行くつもりだ…。
その足音は忍のものではなく、しかし身軽なもので、成人男性のそれには聞こえない…老人にしては動きが速く、まさか少年…?
目線は向けず、気配と微かな音で探る。
すると、突然。
「きゃっ!」
!?
女性の声!?
というか、これは…!
「危ないっ!!」
間髪をいれず土井先生の声が続く。
思わず後ろを振り返ってしまい、私は目の前の光景に唖然とした。
土井先生が。
たまみさんを横抱きに抱えて床に膝をついている…!?
「び、びっくりしました…!」
たまみさんが驚いた顔で呟く。
すると土井先生が呆れた顔で苦笑した。
「大丈夫か!?こっちこそびっくりした…!」
土井先生の腕の中でたまみさんがテヘヘと笑う。
…なんだこれは。
あまりの予想外な光景に思考が停止した。
「びっくりしたのはこっちなんすけど…」
「「あ」」
きり丸の声に二人がこちらを振り返る。
「土井先生、これはどういうことですか…」
思わず尋ねると、土井先生が慌てて両手を振って説明する。
「い、いや、違うんだ。ここ、実は混浴で…!」
「「「「えっ」」」」
混浴?!
土井先生が指し示す方を見ると、確かに脱衣場がもうひとつあった。
「でも何で土井先生とたまみさんがいるんですか?」
そうだ。
ここが混浴であろうと何であろうと、何故土井先生とたまみさんがここにいるんだ。
「だ、団子屋の福引きで当たったんだ。折角だから日頃手伝ってくれてるたまみさんを労おうと思ってだな…。」
しどろもどろに答える土井先生。
その態度から、やましい気持ちもあったようにみうけられて私はつい詰問してしまった。
「…なるほど。そういう口実で、混浴の温泉にたまみさんを誘ったと?」
半ば無意識に睨み付けると、土井先生がタジタジと答えた。
「混浴とは知らなかったんだ…!すぐに出ようと思ったんだがきみたちが入ってきて…」
「そうですか。…そのわりに随分のぼせた顔をしてますが。」
「う…」
二人してのぼせたような赤い顔をしていて、とてもすぐに出ようとしていたとは思えない。
くそっ、人が一生懸命仕事してるってのに、土井先生はなんて羨まし…じゃなくて、破廉恥なことを!
土井先生の仕事を邪魔してはいけないと気をつかったのに、まさか、まさか、たまみさんとこんなところでイチャついていたとは…!
怒りのような呆れのような嫉みのような感情を隠せずにいると、きり丸が割って入ってきた。
「まーまー。ここはひとつ、お昼ご飯で手を打とうじゃないですか!」
「え?」
「土井先生がみんなに隣の飯屋でお昼を奢ってくれたら俺達は今回何も見てないってことで!土井先生は口止めできるし、僕達はご飯食べれるし、悪い話じゃないでしょ!」
「…きり丸、目が銭になってるぞ。」
「土井先生だって二人で温泉に入ってたなんて広まったら困るでしょー?」
「ぐっ…。わかった。私は先に出ているから…。」
「まいどありっ!」
上機嫌になるきり丸。
私はそんなものでは誤魔化されませんよ…!
納得できず土井先生を睨み続けていると、たまみさんが立ち上がり脱衣場へと走っていった。
あ…。
ずっと、見ないようにしていたのについ見てしまった。
大きな手拭いを纏っているが、隠しきれていない白い太股。
細くくびれた腰に、濡れた手拭いがぴったりと張り付いて形がまるわかりの丸く可愛いお尻。
…一瞬、みとれてしまった。
そして、次の瞬間、そんな彼女と温泉でイチャイチャしていたであろう土井先生に無性に腹がたってきた。
土井先生は「なぜこんなことに…。」と呟きながら男性用の脱衣場へ向かっている。
ぬわぁにが「なぜこんなことに」だ!
この変態教師が…!!
私は心のなかで罵詈雑言を吐きながら、温泉よりも熱くたぎる怒りに先程までの疲労感がすっかりなくなっていた。