第125話 祝祭
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
金楽寺までの道のり。
私はたまみと山田先生、そして一年は組の生徒全員で賑やかに話しながら歩いていった。
校外学習にでも行くような感じだが、違うのはたまみと私が着飾りみんなが胸に紫陽花の花をつけていることだ。
隣を歩くたまみはとても可憐で、道行く人々が目を止めたり足を止めたりしていた。
こんな綺麗な彼女を妻に迎えられたことが嬉しいような自慢したいような…でも可愛いすぎてやっぱりこれからも変な虫が寄りつかないか心配だなと思ったりもした。
「…何だか夢みたいです。」
たまみが嬉しそうに私を見て笑う。
「そうだな。」
周囲の人々の様子に見向きもせず、私だけを見つめて幸せそうにしているたまみ。
幸福に満ちたその笑顔は、ただひたすらに、本当に可愛かった。
そしてまた、そんな彼女に私も幸せな気持ちになって手を繋いだ。
「転ばないように。」と誰にともなく言い訳しながら…愛しい気持ちが抑えきれなかった。
そうこうしているうち、あっという間に金楽寺に着いた。
青紫や水色の紫陽花があちこちに咲き誇り、水やりをしたところなのか水滴がキラキラと輝き美しい風景となっていた。
たまみの目も嬉しそうに輝いていて、やはりここに来てよかったなと思った。
そうしてみんなで紫陽花を眺めていると、すぐに金楽寺の和尚がやってきた。
「やぁやぁ土井先生、たまみさん。この度は本当におめでとうございます。」
あらかじめ今日伺うことを手紙に書いて送ったので、和尚は私達を待っていたようだった。
そのまま本堂に案内され、仏像の前に全員正座したところで和尚が話し始めた。
「……えー、なので、仏教でいうところの「因縁」のとおり、これまでの歩みを「因」として二人は様々な「縁」で結ばれ……感謝の気持ちをこめて仏様とご先祖様に……来世までの結びつきを……」
「僕、足がしびれてきたよ~」
「和尚様のお話あとどれくらいかなぁ…」
「ぼくもぅ、足が限界…!」
ありがたいお話とそこからの読経が長すぎて、よい子達の集中がもたなくなってきた。
私はただ二人でささやかに誓いあうような想定しかしていなかったので、何だか本格的な式典の雰囲気に少し驚いてしまった。
「えー、では、ここで土井先生からも一言お願いします。」
「えっ」
突然、和尚が私を見てニコリと笑った。
いきなりみんなの前で何を言えと…?!
心の準備も、演説するような言葉の準備も出来てないのですが…!?
というか生徒の前で一体何を語れと…!?
ちらりとたまみを見てみると、彼女は嬉しそうに私を見ていた。
…そうだ。
考えぬいた言葉でなくてもいい。
今日は彼女のために誓いにきたのだ…。
「えーと、本日は……」
「えっ、なに、今じゃない?!」
ん?
私が話しだした瞬間、山田先生と和尚がコソコソと相談し始めた。
すると和尚が苦笑しながらアタフタ手を振った。
「あ、土井先生!ちょっと段取りが…暫しお待ちいただけますか。」
「段取り?」
「え、ええまぁ。少しだけ、このままお待ちください。」
すると、山田先生を先頭に生徒達がフラフラした足取りで部屋を出ていった。
和尚も退出し、部屋には私とたまみだけが残った。
「…何なんでしょう?」
「……さぁ…?」
ポカンとする我々二人。
その間をフッと涼しい風が通った。
障子が開け放たれている先には美しい紫陽花が見えている。
「…嬉しいですねぇ。」
たまみがのんびりと甘い響きで寄り添ってきた。
「ああ、本当に。」
彼女の手に手を重ね、私は頷いた。
ふわりと香るいい匂い…ふと、出会ったときのことを思い出した。
彼女の髪に不意に触れたときの記憶が甦る。
「…花の香り?」
聞くと、たまみは嬉しそうに微笑んだ。
「はい、金木犀の香油です。私、金木犀の香りが好きで…花言葉も『真実の愛』だと知って、今日のために用意したんです。あ、ちゃんときりちゃんとお買い物に行ったから一人で出かけてないですよ!」
話す様子からも、たまみも今日を楽しみにしてくれていたことを感じた。
「いい香りだね。」と言うと嬉しそうに照れる彼女が可愛かった。
「ねぇ、半助さん?」
「ん?」
「半助さんは、私と過ごして何が一番楽しかったですか?」
「一番…?………うーん、たまみといるときはいつだってどこだって楽しいからなぁ…」
「私もそうですけど、一番思い出深いのは?」
「うーん…」
先程の因縁の話から、これまでの出来事を振り返ったのだろうか。
思えば本当に色んなことがあった。
そのどれもが大切な思い出だが、たまみは興味津々といった顔で私を見つめている。
「そうだなぁ…一番といわれると難しいけど、やっぱりあれかなぁ……」
初めて肌を重ねたときなどと言えばどんな顔をするだろう…なんて思いつつ。
心に残る…といったら…
「初めてきみを家に招いて初めての手料理を…雑炊を作ってもらったときかなぁ…。」
「!」
たまみが思い出したように楽しげに目を細めた。
「ふふふ、そうですねぇ、あい言葉にもしましたもんね!二人でお買い物したのも楽しかったし、あのときはすごくドキドキしました…!」
「うん、長期休暇に一緒に過ごしたのも嬉しかったし…夕焼けとか星空とか紅葉とか、これまで普通に通りすぎていた風景も、たまみと見たらどれもとても綺麗だと感じるようになったよ。」
「私も、夕焼けとか見るたびに、あのとき半助さんと見たなぁって思い出して嬉しい気持ちになるんですよ。」
「たまみは何が一番楽しかった?」
「んー…」
たまみは顎に手を当てた。
常に全力な彼女らしく真剣に考えているようだ。
「自分から聞いておいてあれですけど…毎日の授業も至福の時間ですからねぇ…。」
「え、授業が至福なのかい?」
「知的な凛とした半助さんをずっと眺めて、格好いい声が聞けて…至福以外の何者でもないですよ!」
「そ、そお…。」
「あとは…楽しかったといえば…一緒に海に行ったときとかお家で過ごしたときとか……。屋根に登って星空をみたときもドキドキしたし…」
星空…それは初めて心通わすことができた夜のことだろうか。
あのときのことは私もよく覚えている…。
「昼間の半助さんも、夜の半助さんもすごく素敵…」
たまみが甘えて私に擦り寄ってくる。
夜の…とは星空を見たりしたときのことか、忍としての私のことか、それとも…
「全部好き…。」
たまみが私の指に指を絡めた。
小さな可愛らしい手をギュッと握り返す。
「私もだよ。」
たまみが私をじっと見つめる。
「ずっと優しくしてくれますか?」
「もちろん。」
「どんくさくても怒らない?」
「うん。」
「仕事が忙しくても構ってくれますか?」
「…努力する。」
「…そこはもちろんとは言ってくれないのですね」
「あ、いや、もちろん構う!ほったらかしにはしない!」
「…本当ですか?」
「ああ。」
そうだ、こんなに可愛らしい奥さんがいたら構わずにいられない…むしろ色々心配で目が離せない。
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ。」
私を見上げるつぶらな瞳を真っ直ぐに見つめて、誠心誠意をこめて誓った。
「これからの人生…きっと予想外なことも色々あると思うけど、生涯きみだけを愛し守ると誓うよ。」
「私も…ずっとずっと…あなただけを愛し支えます。私の心も身体も魂もすべて、半助さんのもの…。」
「愛してる…」
「私も…」
ゆっくりと誓いの口づけを交わし、二人微笑みあった。
ふと我にかえって周りに誰もいなかったことに胸を撫で下ろす。
しかし仏前でこれはよろしくなかっただろうか。
「土井先生~、たまみさ~ん!」
穏やかな甘い空気のなか、生徒達が外から呼ぶ声がした。
二人で出ていくと、乱太郎達が楽しそうに我々の腕を引いて引っ張っていく。
「おいおい、一体どこに…」
「いーからいーから!着けばわかります!」
言われるがままに歩いていくとそこは白詰草に一面覆われた白い花畑で、そこには…
「おい、主役が来たぞ!」
「みんな、準備はいいな!」
「せーの!」
「「「「おめでとうございまーす!!」」」
なんと、忍術学園の他の学年の生徒達や先生達が沢山の食べ物を並べてピクニックのように座っていた。
「みんな…!」
たまみと二人で驚いていると、学園長がニコニコしながらやってきた。
「いや~今日はたまみちゃん一段と綺麗じゃの。」
「ありがとうございます…学園長先生、あの、これは…!」
「うむ、こんなおめでたいこと、みんなで宴をするほかないじゃろう!二人とも、いやはやほんとにおめでとう!さぁみんなも存分に祝ってやりなさい!」
そこから飲めや歌えの大宴会が始まって。
既にお酒の入った先生方が酒瓶を持って私に飲ませようとしてくるわ、酔った先生…大木先生も来ていて…がたまみに絡もうとするわ、生徒達がひっきりなしに話しにきて根掘り葉掘り遠慮のない質問をするものだからドギマギした。
「もぉ土井先生が奥手すぎてどうなることかと心配しましたけど、よかったですわねぇ。」
「シナ先生は誰より楽しんでおられましたよね。」
「あら野村先生ったら。私は応援してただけですよ。それにしてもなんて可愛らしい花嫁さんでしょう。あの着物……一年は組の生徒達に裁縫を教えてほしいとお願いされたときは間に合わないと思いましたが諦めなくてよかったです。」
「一年は組の生徒が何人も指を怪我をして医務室に来るから何事かと思いましたが、上手に着物を作りあげましたねぇ。草木染から仕立てまで…素晴らしい。」
「新野先生、手指の怪我や荒れに効く軟膏のために薬草を取りに行かれてましたものね。」
「はい。それにしても、山田先生が花嫁に化粧すると聞いて心配しましたが…大丈夫そうでよかったです。」
「新野先生!お化粧はわたし…もとい伝子の得意技ですのよ!?」
「あ…は、ははは…そ、そうですね…」
「堂々とお店に入って、お化粧道具や使い方を色々研究して…とっても楽しい一時でしたわ…。」
「ねぇヘムヘム、伝子さんはどうしてそれを自分のメイクに活かせないんだろうねぇ。ヘムヘムもそう思わない?」
「へムー?」
「小松田くん、何ですって~?!」
「い、いえ!!何でもありませーん!」
「それにしてもこれだけの料理を作るのは大変だったんじゃないですか、食堂のおばちゃん?」
「みんなで手分けして作ったから大丈夫ですよ。婚礼料理のようなものじゃなくてピクニックみたいな感じですけど…今日は練り物は入れないでおいてあげましたからね!」
「しかし、土井先生はちょっとデレデレしすぎじゃないですかね。教師ともあろう者が生徒の前であれはどうかと…」
「安藤先生、今日くらいは大目にみてあげましょうよ。土井先生の使う紙と墨とチョークの減り方からして、きっと今日のために頑張ってこられたのかと…」
「吉野先生、甘いですぞ!」
「の、野村先生?!突然どうしましたか?」
「あのデレデレは今日だけじゃありません!私は知っていますよ、常日頃から…」
「ひがむのは見苦しいぞ野村雄三。」
「雅之助…!貴様こそ酔っ払って花嫁に絡みに行くとは見苦しいぞ!」
「土井先生が嫌になれば杭瀬村に来いと話していただけだ!」
「こらこら喧嘩はよしなさい。めでたい席で何をしておる。」
「「学園長先生、しかしこいつが…!」」
「いいから、土井先生とたまみちゃんを見てみなさい。なんてしあわせそうな……本当によかったのう。」
先生方が一斉にこちらを見たので、私はその視線に気づいて照れ笑いをした。
何やら我々のことを話して賑わっているようだが、いま私の目の前には一年は組の生徒達が集まってワイワイと話していてよく聞き取れない。
「半助さん」
たまみが私の袖をそっと引いた。
「私たち、しあわせ者ですね。」
青空のしたで嬉しそうに微笑む眩しい笑顔。
「ああ、本当に。」
私はみんなの温かい気持ちに感謝するとともに、生涯をかけてこの可愛らしい笑顔を守り抜こうと心に誓ったのだった。
私はたまみと山田先生、そして一年は組の生徒全員で賑やかに話しながら歩いていった。
校外学習にでも行くような感じだが、違うのはたまみと私が着飾りみんなが胸に紫陽花の花をつけていることだ。
隣を歩くたまみはとても可憐で、道行く人々が目を止めたり足を止めたりしていた。
こんな綺麗な彼女を妻に迎えられたことが嬉しいような自慢したいような…でも可愛いすぎてやっぱりこれからも変な虫が寄りつかないか心配だなと思ったりもした。
「…何だか夢みたいです。」
たまみが嬉しそうに私を見て笑う。
「そうだな。」
周囲の人々の様子に見向きもせず、私だけを見つめて幸せそうにしているたまみ。
幸福に満ちたその笑顔は、ただひたすらに、本当に可愛かった。
そしてまた、そんな彼女に私も幸せな気持ちになって手を繋いだ。
「転ばないように。」と誰にともなく言い訳しながら…愛しい気持ちが抑えきれなかった。
そうこうしているうち、あっという間に金楽寺に着いた。
青紫や水色の紫陽花があちこちに咲き誇り、水やりをしたところなのか水滴がキラキラと輝き美しい風景となっていた。
たまみの目も嬉しそうに輝いていて、やはりここに来てよかったなと思った。
そうしてみんなで紫陽花を眺めていると、すぐに金楽寺の和尚がやってきた。
「やぁやぁ土井先生、たまみさん。この度は本当におめでとうございます。」
あらかじめ今日伺うことを手紙に書いて送ったので、和尚は私達を待っていたようだった。
そのまま本堂に案内され、仏像の前に全員正座したところで和尚が話し始めた。
「……えー、なので、仏教でいうところの「因縁」のとおり、これまでの歩みを「因」として二人は様々な「縁」で結ばれ……感謝の気持ちをこめて仏様とご先祖様に……来世までの結びつきを……」
「僕、足がしびれてきたよ~」
「和尚様のお話あとどれくらいかなぁ…」
「ぼくもぅ、足が限界…!」
ありがたいお話とそこからの読経が長すぎて、よい子達の集中がもたなくなってきた。
私はただ二人でささやかに誓いあうような想定しかしていなかったので、何だか本格的な式典の雰囲気に少し驚いてしまった。
「えー、では、ここで土井先生からも一言お願いします。」
「えっ」
突然、和尚が私を見てニコリと笑った。
いきなりみんなの前で何を言えと…?!
心の準備も、演説するような言葉の準備も出来てないのですが…!?
というか生徒の前で一体何を語れと…!?
ちらりとたまみを見てみると、彼女は嬉しそうに私を見ていた。
…そうだ。
考えぬいた言葉でなくてもいい。
今日は彼女のために誓いにきたのだ…。
「えーと、本日は……」
「えっ、なに、今じゃない?!」
ん?
私が話しだした瞬間、山田先生と和尚がコソコソと相談し始めた。
すると和尚が苦笑しながらアタフタ手を振った。
「あ、土井先生!ちょっと段取りが…暫しお待ちいただけますか。」
「段取り?」
「え、ええまぁ。少しだけ、このままお待ちください。」
すると、山田先生を先頭に生徒達がフラフラした足取りで部屋を出ていった。
和尚も退出し、部屋には私とたまみだけが残った。
「…何なんでしょう?」
「……さぁ…?」
ポカンとする我々二人。
その間をフッと涼しい風が通った。
障子が開け放たれている先には美しい紫陽花が見えている。
「…嬉しいですねぇ。」
たまみがのんびりと甘い響きで寄り添ってきた。
「ああ、本当に。」
彼女の手に手を重ね、私は頷いた。
ふわりと香るいい匂い…ふと、出会ったときのことを思い出した。
彼女の髪に不意に触れたときの記憶が甦る。
「…花の香り?」
聞くと、たまみは嬉しそうに微笑んだ。
「はい、金木犀の香油です。私、金木犀の香りが好きで…花言葉も『真実の愛』だと知って、今日のために用意したんです。あ、ちゃんときりちゃんとお買い物に行ったから一人で出かけてないですよ!」
話す様子からも、たまみも今日を楽しみにしてくれていたことを感じた。
「いい香りだね。」と言うと嬉しそうに照れる彼女が可愛かった。
「ねぇ、半助さん?」
「ん?」
「半助さんは、私と過ごして何が一番楽しかったですか?」
「一番…?………うーん、たまみといるときはいつだってどこだって楽しいからなぁ…」
「私もそうですけど、一番思い出深いのは?」
「うーん…」
先程の因縁の話から、これまでの出来事を振り返ったのだろうか。
思えば本当に色んなことがあった。
そのどれもが大切な思い出だが、たまみは興味津々といった顔で私を見つめている。
「そうだなぁ…一番といわれると難しいけど、やっぱりあれかなぁ……」
初めて肌を重ねたときなどと言えばどんな顔をするだろう…なんて思いつつ。
心に残る…といったら…
「初めてきみを家に招いて初めての手料理を…雑炊を作ってもらったときかなぁ…。」
「!」
たまみが思い出したように楽しげに目を細めた。
「ふふふ、そうですねぇ、あい言葉にもしましたもんね!二人でお買い物したのも楽しかったし、あのときはすごくドキドキしました…!」
「うん、長期休暇に一緒に過ごしたのも嬉しかったし…夕焼けとか星空とか紅葉とか、これまで普通に通りすぎていた風景も、たまみと見たらどれもとても綺麗だと感じるようになったよ。」
「私も、夕焼けとか見るたびに、あのとき半助さんと見たなぁって思い出して嬉しい気持ちになるんですよ。」
「たまみは何が一番楽しかった?」
「んー…」
たまみは顎に手を当てた。
常に全力な彼女らしく真剣に考えているようだ。
「自分から聞いておいてあれですけど…毎日の授業も至福の時間ですからねぇ…。」
「え、授業が至福なのかい?」
「知的な凛とした半助さんをずっと眺めて、格好いい声が聞けて…至福以外の何者でもないですよ!」
「そ、そお…。」
「あとは…楽しかったといえば…一緒に海に行ったときとかお家で過ごしたときとか……。屋根に登って星空をみたときもドキドキしたし…」
星空…それは初めて心通わすことができた夜のことだろうか。
あのときのことは私もよく覚えている…。
「昼間の半助さんも、夜の半助さんもすごく素敵…」
たまみが甘えて私に擦り寄ってくる。
夜の…とは星空を見たりしたときのことか、忍としての私のことか、それとも…
「全部好き…。」
たまみが私の指に指を絡めた。
小さな可愛らしい手をギュッと握り返す。
「私もだよ。」
たまみが私をじっと見つめる。
「ずっと優しくしてくれますか?」
「もちろん。」
「どんくさくても怒らない?」
「うん。」
「仕事が忙しくても構ってくれますか?」
「…努力する。」
「…そこはもちろんとは言ってくれないのですね」
「あ、いや、もちろん構う!ほったらかしにはしない!」
「…本当ですか?」
「ああ。」
そうだ、こんなに可愛らしい奥さんがいたら構わずにいられない…むしろ色々心配で目が離せない。
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ。」
私を見上げるつぶらな瞳を真っ直ぐに見つめて、誠心誠意をこめて誓った。
「これからの人生…きっと予想外なことも色々あると思うけど、生涯きみだけを愛し守ると誓うよ。」
「私も…ずっとずっと…あなただけを愛し支えます。私の心も身体も魂もすべて、半助さんのもの…。」
「愛してる…」
「私も…」
ゆっくりと誓いの口づけを交わし、二人微笑みあった。
ふと我にかえって周りに誰もいなかったことに胸を撫で下ろす。
しかし仏前でこれはよろしくなかっただろうか。
「土井先生~、たまみさ~ん!」
穏やかな甘い空気のなか、生徒達が外から呼ぶ声がした。
二人で出ていくと、乱太郎達が楽しそうに我々の腕を引いて引っ張っていく。
「おいおい、一体どこに…」
「いーからいーから!着けばわかります!」
言われるがままに歩いていくとそこは白詰草に一面覆われた白い花畑で、そこには…
「おい、主役が来たぞ!」
「みんな、準備はいいな!」
「せーの!」
「「「「おめでとうございまーす!!」」」
なんと、忍術学園の他の学年の生徒達や先生達が沢山の食べ物を並べてピクニックのように座っていた。
「みんな…!」
たまみと二人で驚いていると、学園長がニコニコしながらやってきた。
「いや~今日はたまみちゃん一段と綺麗じゃの。」
「ありがとうございます…学園長先生、あの、これは…!」
「うむ、こんなおめでたいこと、みんなで宴をするほかないじゃろう!二人とも、いやはやほんとにおめでとう!さぁみんなも存分に祝ってやりなさい!」
そこから飲めや歌えの大宴会が始まって。
既にお酒の入った先生方が酒瓶を持って私に飲ませようとしてくるわ、酔った先生…大木先生も来ていて…がたまみに絡もうとするわ、生徒達がひっきりなしに話しにきて根掘り葉掘り遠慮のない質問をするものだからドギマギした。
「もぉ土井先生が奥手すぎてどうなることかと心配しましたけど、よかったですわねぇ。」
「シナ先生は誰より楽しんでおられましたよね。」
「あら野村先生ったら。私は応援してただけですよ。それにしてもなんて可愛らしい花嫁さんでしょう。あの着物……一年は組の生徒達に裁縫を教えてほしいとお願いされたときは間に合わないと思いましたが諦めなくてよかったです。」
「一年は組の生徒が何人も指を怪我をして医務室に来るから何事かと思いましたが、上手に着物を作りあげましたねぇ。草木染から仕立てまで…素晴らしい。」
「新野先生、手指の怪我や荒れに効く軟膏のために薬草を取りに行かれてましたものね。」
「はい。それにしても、山田先生が花嫁に化粧すると聞いて心配しましたが…大丈夫そうでよかったです。」
「新野先生!お化粧はわたし…もとい伝子の得意技ですのよ!?」
「あ…は、ははは…そ、そうですね…」
「堂々とお店に入って、お化粧道具や使い方を色々研究して…とっても楽しい一時でしたわ…。」
「ねぇヘムヘム、伝子さんはどうしてそれを自分のメイクに活かせないんだろうねぇ。ヘムヘムもそう思わない?」
「へムー?」
「小松田くん、何ですって~?!」
「い、いえ!!何でもありませーん!」
「それにしてもこれだけの料理を作るのは大変だったんじゃないですか、食堂のおばちゃん?」
「みんなで手分けして作ったから大丈夫ですよ。婚礼料理のようなものじゃなくてピクニックみたいな感じですけど…今日は練り物は入れないでおいてあげましたからね!」
「しかし、土井先生はちょっとデレデレしすぎじゃないですかね。教師ともあろう者が生徒の前であれはどうかと…」
「安藤先生、今日くらいは大目にみてあげましょうよ。土井先生の使う紙と墨とチョークの減り方からして、きっと今日のために頑張ってこられたのかと…」
「吉野先生、甘いですぞ!」
「の、野村先生?!突然どうしましたか?」
「あのデレデレは今日だけじゃありません!私は知っていますよ、常日頃から…」
「ひがむのは見苦しいぞ野村雄三。」
「雅之助…!貴様こそ酔っ払って花嫁に絡みに行くとは見苦しいぞ!」
「土井先生が嫌になれば杭瀬村に来いと話していただけだ!」
「こらこら喧嘩はよしなさい。めでたい席で何をしておる。」
「「学園長先生、しかしこいつが…!」」
「いいから、土井先生とたまみちゃんを見てみなさい。なんてしあわせそうな……本当によかったのう。」
先生方が一斉にこちらを見たので、私はその視線に気づいて照れ笑いをした。
何やら我々のことを話して賑わっているようだが、いま私の目の前には一年は組の生徒達が集まってワイワイと話していてよく聞き取れない。
「半助さん」
たまみが私の袖をそっと引いた。
「私たち、しあわせ者ですね。」
青空のしたで嬉しそうに微笑む眩しい笑顔。
「ああ、本当に。」
私はみんなの温かい気持ちに感謝するとともに、生涯をかけてこの可愛らしい笑顔を守り抜こうと心に誓ったのだった。
2/2ページ