第124話 それから
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たまみの様子を見に行ったら、まさかの小松田くんがしでかしていて危なかった。
やっと一段落ついたと思っていたが、やはり目が離せない…。
たまみは体調が悪いようではなくて安心した。
色々なことが起きたので精神的にも大丈夫かと心配したが、話しているうちにいつもの元気な彼女に戻ってきて…私もやっと気持ちが落ち着いた。
たまみの部屋に昼食を運んだあと、職員室に戻って宿題の採点をする。
一年は組の生徒達は昨日から今朝にかけての騒動を知らない。
いつも通りの笑顔に授業風景…。
…いつも通りの点数…………。
「ここは先週教えたはずだっ!!」
なぜだ、なぜ全員の答えが間違っている…!?
「はぁ~…」
思わずため息をついた。
…でも、まぁ。
何気ないいつもの日常。
それがとても大切なものだと改めて思った。
そして、これからすべきこと…まずは……
「土井、いるか?」
職員室の障子があいて、そこには石川が立っていた。
「飯も食っておにぎりも頂戴したし、そろそろここを出ようかと思ってな。」
「石川…!」
私は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「今回は本当に助かった…。いつか、もし何か力になれることがあれば、またいつでも遠慮せず言ってくれ…!」
「気にするな、面白いものも見れたしそれなりに楽しかった。ああ、他言はしないから安心しろ。」
そして石川は私の肩をポンと叩くとニヤリと笑った。
「あの土井が…まさか色恋に溺れている姿が見られるとは、面白いものが見れた。」
「お、溺れてなど…ッ!!」
…ない、はず…だ……!?
しかし冷静に思い返してみると、何だか色々恥ずかしくなってきて私は頭を抱え俯いた。
石川のやつ、生徒から何か聞いたのか?
どれだ…あれか!?あのときのことか…!?
いやいやそれとも…!?
「ははは、冗談だ。…俺はな、安心したんだよ…あのお前が……。いや、あの嬢ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ。そうだ、ついでにいいことを教えてやるよ。」
「?」
石川はサッと周囲に気配がないか察した後、小さな声で私に耳打ちした。
「…………どうだ、悪くないだろ?」
「…よくそんなこと知ってるな。」
「だてに天竺やらあちこち行ってないさ。南蛮の情報もそこそこ入る。じゃあ、達者でな。」
「!…石川も、無茶はするなよ!」
石川は目を細め、手をヒラヒラと振りながら飄々と出ていった。
見送りも不要だと語るその背中を、私は見えなくなるまでじっと見送っていた。
数刻後、ちょうど書類整理が一段落ついたのでたまみの様子を見に行ってみた。
先ほど運んだ昼食はちゃんと食べられただろうか。
「…?」
部屋の前に行くと、中からたまみの声が聞こえてきた。
「利吉さんのおかげもあって、ここにこうして居ることができました…本当にありがとうございます。」
…利吉くん?
廊下から聞き耳をたてるつもりはなかったが、体がピタリと止まってしまった。
「お礼なんて。私はただたまみさんに……」
そこで急に利吉くんの言葉が止まった。
…私の気配に気づいたか?
「あなたに、幸せでいてほしいのです。…たまみさんが笑っていてくれるのなら…それで……。」
「利吉さ……あっ!」
!?
よからぬ想像にかられ、すぐさま障子を開けようとした瞬間。
障子の隙間から何かが飛んできた。
反射的に中庭に跳んで避けたものの、そのまま木に貼りついた飛翔物を見て背筋が凍った。
「ちッ、ちくわ…ッ!!!?」
な、なぜたまみの部屋から、ち、ち、ちくわが飛んで…ッ!!!!?
「土井先生、教師たるもの盗み聞きとはいかがなものでしょうか。」
振り返ると、利吉くんがたまみの部屋の障子に手をかけてこちらを呆れ顔で見ている。
「ち、違うっ…!聞くつもりは無かっ…いや忍者なら別におかしいことでは…!というかこのチクワは!?」
「たまみさんの昼食の残りです。」
「最後の一口だけ、下に落としてしまって…すみません!」
そういえばランチにちくわがあったな!
私の分はしんべヱに食べさせて事なきをえたがまさかここにきてこんな…
って、そうではなくて!
「り、利吉くんこそ、たまみの部屋で何をしていたんだ!また妙な真似をしたら…!」
「しませんよ。」
「え?」
「ご結婚、されるのでしょう?」
利吉くんは微かに目を細めて微笑んだ。
たまみがもう話したのかと思ったが、彼女は驚いた顔をしている。
「見ていれば分かりますよ。」
苦笑ともとれる微笑みに、小さな呟きが漏れた。
「ずっと、見ていたんですから…」
たまみは聞き取れなかったのかキョトンとしていた。
利吉くんは軽く首を横に振り、そして真剣な目で彼女を真っ直ぐに見つめ、静かに言った。
「たまみさん…もし…土井先生があなたを泣かせるようなことがあれば……あなたが笑っていられなくなるようなことがあれば…いつでも、私を頼ってください。」
「利吉さん……」
たまみが何かを言おうとした瞬間、利吉くんは遮るように彼女の腕をグッと引いて力強く抱きしめた。
「どうか、幸せに…!」
それは、一瞬の抱擁だった。
低く掠れた…かろうじて聞き取れる程の声に、止めようとした私の手も止まった。
利吉くんは一瞬強く目を閉じるとすぐに身を離し、そのまま一瞥もくれず踵を返し足早に去っていった。
「………利吉くん…。」
胸が痛んだ。
弟のように思っている利吉くんにあんな顔をさせるのは本意ではなかった…。
いや、分かっていたはずだ。
それでも、だからといって、彼女を譲ることなどできないのだから…。
そして、先ほどの言葉は半ば私に向けられていた。
たまみを決して泣かせるなと。
…彼女を遺していくなと。
「…たまみ?」
泣きそうな顔になっている彼女を、私はそっと抱きしめた。
「…私がきみを幸せにするから。利吉くんが、身を引いてよかったと思えるくらい。」
たまみは小さく頷いて、私の背に腕を回した。
「私も、半助さんを幸せにしたいです…。」
「一緒にいてくれるだけで私は幸せだよ。」
「……半助さん、私……」
「うん?」
「利吉さんの気持ちには応えられないけど、でも、利吉さんにも幸せであってほしいです…」
「…そうだな。」
「だから、ずっと考えていたんです。利吉さんのために、私には何ができるかなって。」
「…うん?」
「山田先生がお休みのとき帰省するよう私からも言い続けるとか…プロ忍が美味しく食べれる忍者食を研究するとか…利吉さんの好きな食べ物って何なんでしょう………」
「んん?」
「あと…」
考え込む彼女の両頬を、私は両手で挟んでヒヨコの口にさせた。
「!?」
「…そんなに利吉くんのことが気になる?」
「ひゅ、ひゅみまへん…!えもわらし、りいりはんにはあすへへもらっへばありで…」
ヒヨコの口のまま一生懸命に話そうとする彼女に思わず噴き出してしまった。
利吉くんのことばかり考えるたまみにやきもちをやいたが、笑いと共に吹き飛んだ。
頬から手を離すと、真面目な彼女はまた説明しだす。
「すみません、でも私、利吉さんには助けてもらってばかりで何もお返しができてないから…!」
「利吉くんはお返しなんて望んでないよ。…きみが笑っていれば…それが彼の望みだと言っていただろう。」
そう、だから。
利吉くんに言われるまでもないが、私がきっちり幸せにする。
「でも…」
「あ~わかったわかった。とりあえずじゃあまた今度、山田先生と一緒に山田先生の奥さんにご挨拶に伺おうか。」
「!…はい!」
利吉くんがそれを喜ぶのかは分からないが、お世話になった山田先生の奥さんには報告しておきたいし、山田先生を連れていけば少なくとも奥さんは喜んでくれるだろう。
きっと利吉くんへの風当たりもマシになるはずだ。
…私も仕事ばかりでたまみをほったらかしになんてならないようにしなくてはな…。
私は改めてそんなことを心のなかで誓いながら苦笑した。
やっと一段落ついたと思っていたが、やはり目が離せない…。
たまみは体調が悪いようではなくて安心した。
色々なことが起きたので精神的にも大丈夫かと心配したが、話しているうちにいつもの元気な彼女に戻ってきて…私もやっと気持ちが落ち着いた。
たまみの部屋に昼食を運んだあと、職員室に戻って宿題の採点をする。
一年は組の生徒達は昨日から今朝にかけての騒動を知らない。
いつも通りの笑顔に授業風景…。
…いつも通りの点数…………。
「ここは先週教えたはずだっ!!」
なぜだ、なぜ全員の答えが間違っている…!?
「はぁ~…」
思わずため息をついた。
…でも、まぁ。
何気ないいつもの日常。
それがとても大切なものだと改めて思った。
そして、これからすべきこと…まずは……
「土井、いるか?」
職員室の障子があいて、そこには石川が立っていた。
「飯も食っておにぎりも頂戴したし、そろそろここを出ようかと思ってな。」
「石川…!」
私は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「今回は本当に助かった…。いつか、もし何か力になれることがあれば、またいつでも遠慮せず言ってくれ…!」
「気にするな、面白いものも見れたしそれなりに楽しかった。ああ、他言はしないから安心しろ。」
そして石川は私の肩をポンと叩くとニヤリと笑った。
「あの土井が…まさか色恋に溺れている姿が見られるとは、面白いものが見れた。」
「お、溺れてなど…ッ!!」
…ない、はず…だ……!?
しかし冷静に思い返してみると、何だか色々恥ずかしくなってきて私は頭を抱え俯いた。
石川のやつ、生徒から何か聞いたのか?
どれだ…あれか!?あのときのことか…!?
いやいやそれとも…!?
「ははは、冗談だ。…俺はな、安心したんだよ…あのお前が……。いや、あの嬢ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ。そうだ、ついでにいいことを教えてやるよ。」
「?」
石川はサッと周囲に気配がないか察した後、小さな声で私に耳打ちした。
「…………どうだ、悪くないだろ?」
「…よくそんなこと知ってるな。」
「だてに天竺やらあちこち行ってないさ。南蛮の情報もそこそこ入る。じゃあ、達者でな。」
「!…石川も、無茶はするなよ!」
石川は目を細め、手をヒラヒラと振りながら飄々と出ていった。
見送りも不要だと語るその背中を、私は見えなくなるまでじっと見送っていた。
数刻後、ちょうど書類整理が一段落ついたのでたまみの様子を見に行ってみた。
先ほど運んだ昼食はちゃんと食べられただろうか。
「…?」
部屋の前に行くと、中からたまみの声が聞こえてきた。
「利吉さんのおかげもあって、ここにこうして居ることができました…本当にありがとうございます。」
…利吉くん?
廊下から聞き耳をたてるつもりはなかったが、体がピタリと止まってしまった。
「お礼なんて。私はただたまみさんに……」
そこで急に利吉くんの言葉が止まった。
…私の気配に気づいたか?
「あなたに、幸せでいてほしいのです。…たまみさんが笑っていてくれるのなら…それで……。」
「利吉さ……あっ!」
!?
よからぬ想像にかられ、すぐさま障子を開けようとした瞬間。
障子の隙間から何かが飛んできた。
反射的に中庭に跳んで避けたものの、そのまま木に貼りついた飛翔物を見て背筋が凍った。
「ちッ、ちくわ…ッ!!!?」
な、なぜたまみの部屋から、ち、ち、ちくわが飛んで…ッ!!!!?
「土井先生、教師たるもの盗み聞きとはいかがなものでしょうか。」
振り返ると、利吉くんがたまみの部屋の障子に手をかけてこちらを呆れ顔で見ている。
「ち、違うっ…!聞くつもりは無かっ…いや忍者なら別におかしいことでは…!というかこのチクワは!?」
「たまみさんの昼食の残りです。」
「最後の一口だけ、下に落としてしまって…すみません!」
そういえばランチにちくわがあったな!
私の分はしんべヱに食べさせて事なきをえたがまさかここにきてこんな…
って、そうではなくて!
「り、利吉くんこそ、たまみの部屋で何をしていたんだ!また妙な真似をしたら…!」
「しませんよ。」
「え?」
「ご結婚、されるのでしょう?」
利吉くんは微かに目を細めて微笑んだ。
たまみがもう話したのかと思ったが、彼女は驚いた顔をしている。
「見ていれば分かりますよ。」
苦笑ともとれる微笑みに、小さな呟きが漏れた。
「ずっと、見ていたんですから…」
たまみは聞き取れなかったのかキョトンとしていた。
利吉くんは軽く首を横に振り、そして真剣な目で彼女を真っ直ぐに見つめ、静かに言った。
「たまみさん…もし…土井先生があなたを泣かせるようなことがあれば……あなたが笑っていられなくなるようなことがあれば…いつでも、私を頼ってください。」
「利吉さん……」
たまみが何かを言おうとした瞬間、利吉くんは遮るように彼女の腕をグッと引いて力強く抱きしめた。
「どうか、幸せに…!」
それは、一瞬の抱擁だった。
低く掠れた…かろうじて聞き取れる程の声に、止めようとした私の手も止まった。
利吉くんは一瞬強く目を閉じるとすぐに身を離し、そのまま一瞥もくれず踵を返し足早に去っていった。
「………利吉くん…。」
胸が痛んだ。
弟のように思っている利吉くんにあんな顔をさせるのは本意ではなかった…。
いや、分かっていたはずだ。
それでも、だからといって、彼女を譲ることなどできないのだから…。
そして、先ほどの言葉は半ば私に向けられていた。
たまみを決して泣かせるなと。
…彼女を遺していくなと。
「…たまみ?」
泣きそうな顔になっている彼女を、私はそっと抱きしめた。
「…私がきみを幸せにするから。利吉くんが、身を引いてよかったと思えるくらい。」
たまみは小さく頷いて、私の背に腕を回した。
「私も、半助さんを幸せにしたいです…。」
「一緒にいてくれるだけで私は幸せだよ。」
「……半助さん、私……」
「うん?」
「利吉さんの気持ちには応えられないけど、でも、利吉さんにも幸せであってほしいです…」
「…そうだな。」
「だから、ずっと考えていたんです。利吉さんのために、私には何ができるかなって。」
「…うん?」
「山田先生がお休みのとき帰省するよう私からも言い続けるとか…プロ忍が美味しく食べれる忍者食を研究するとか…利吉さんの好きな食べ物って何なんでしょう………」
「んん?」
「あと…」
考え込む彼女の両頬を、私は両手で挟んでヒヨコの口にさせた。
「!?」
「…そんなに利吉くんのことが気になる?」
「ひゅ、ひゅみまへん…!えもわらし、りいりはんにはあすへへもらっへばありで…」
ヒヨコの口のまま一生懸命に話そうとする彼女に思わず噴き出してしまった。
利吉くんのことばかり考えるたまみにやきもちをやいたが、笑いと共に吹き飛んだ。
頬から手を離すと、真面目な彼女はまた説明しだす。
「すみません、でも私、利吉さんには助けてもらってばかりで何もお返しができてないから…!」
「利吉くんはお返しなんて望んでないよ。…きみが笑っていれば…それが彼の望みだと言っていただろう。」
そう、だから。
利吉くんに言われるまでもないが、私がきっちり幸せにする。
「でも…」
「あ~わかったわかった。とりあえずじゃあまた今度、山田先生と一緒に山田先生の奥さんにご挨拶に伺おうか。」
「!…はい!」
利吉くんがそれを喜ぶのかは分からないが、お世話になった山田先生の奥さんには報告しておきたいし、山田先生を連れていけば少なくとも奥さんは喜んでくれるだろう。
きっと利吉くんへの風当たりもマシになるはずだ。
…私も仕事ばかりでたまみをほったらかしになんてならないようにしなくてはな…。
私は改めてそんなことを心のなかで誓いながら苦笑した。