第124話 それから
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忍術学園に無事戻ってきたあと。
今日は休むようにと学園長先生が仰ってくれた。
仕事をした方が落ち着く気もしたけれど、土井先生にも休むように言われて大人しくそうすることにした。
そして自室で少し休むつもりがいつの間にか眠ってしまっていて、気づけばもう昼間だった。
顔を洗ってもまだ眠い。
私は自室の障子を開け、廊下に半身を出すように壁にもたれかかり、ただぼんやりと空を眺めていた。
…昨日のことが、まるで遠い昔のことのように感じる。
色んなことがありすぎて、現実味のないことが起こりすぎて、夢を見ていたのではないかとすら思う。
おもむろに手のひらを空に掲げてみた。
掌に陽射しの温かさを感じる。
指の間を通り抜ける風も感じる。
拳をグッと握ってみた。
指先まで感覚がある。
自分の手の温度も感じる。
胸に手を当ててみた。
きちんと脈打つ鼓動を感じる。
…ああ、私はここに生きている。
ここに、きちんと存在している…。
あのとき、炎と共に透けて消えてしまったこの手。
今、ちゃんとここに在る…。
「………」
もう一度、ゆっくりと昨日の一連を思い返す。
みんなのおかげで、こうしてここに居ることができた。
私が違う世界から来たことも伏せられた。
…そして、もうどこかへ飛ばされることもない。
何故か、確信に似た感覚があった。
最初にここへ来たときに着ていた服も、籠のなかに隠していたはずなのに跡形もなく無くなっていた。
…私は、やっと本当に、この世界の来訪者ではなく、ここに生きる命の一つになれた気がした。
そして同時に、自分がここまで多くの人に助けてもらったことに感謝の気持ちでいっぱいだった。
半ば無意識に、また空に手を掲げた。
…透けていない。
何度確認したか分からないけれど、もう飛ばされることはないのだと思ってはいても。
自分の体が消えていく恐怖は相当なもので…ふとしたときに確認せずにはいられな
「うわぁぁぁっ!!」
「!?」
突然の大声に驚くと、廊下を走っていた小松田さんが盛大に転んで文具や紙と一緒にこちらに飛んできた。
ベシャッと廊下に倒れた小松田さんの頭上で紙や筆等が舞い、黒いすずりがビュンッと私の頭をめがけて飛んできて…
「危ないッ!!」
パシッ!!
私の頭に当たる寸前で、土井先生がすずりをキャッチして庇ってくれた。
「大丈夫か!?」
「あ……は、はい…ッ!」
突然現れて助けてくれた土井先生。
いつもながら格好良すぎて、ポカンと頬を染める私。
土井先生は私に怪我がないことを確認すると、小松田さんに「廊下を走るんじゃない!!」と怒りながらすずりを渡した。
小松田さんは「すみませ~ん」と謝りながら足早に去っていく。
「…あ、ありがとうございます……」
「間に合ってよかった…あんなの頭に当たったら大怪我するところだ。」
「あの、土井先生…授業は…?」
「山田先生がマラソンをさせてるよ。食堂のおばちゃんから、たまみがまだお昼御飯を食べてないと聞いて様子を見に来たんだ。」
「さっきまで寝ちゃってました…。」
「そうか…。疲れてるんだ、ゆっくり休むといい。…気分は?」
「まだ眠いです…。土井先生は大丈夫ですか?」
「私は問題ないが………」
土井先生はスッと畳に膝をついてしゃがみ、心配そうな顔で私の目を覗き込んだ。
「たまみ…」
「はい?」
「………大丈夫かい?」
土井先生が私の手に手を重ねた。
「手を見つめて…何か考え込んでいたようだったから……。」
私を心配して気遣う優しい眼差し。
一瞬、心配させまいとごまかそうと思ったけれど、その目に嘘はつけなくて…私は正直に話した。
「手が、透けてないかなって……。あのとき…青い炎に包まれて飛ばされたとき、この手からスーッと消えたんです…」
自分の拳を握ったり開いたりしながら、私は眉をハの字にして微笑んだ。
「…だから…ちゃんと在るかなって…ちょっと見てただけです……。」
「…たまみ…………」
土井先生の大きな両手が、そっと私の手を優しく包み込んだ。
「大丈夫だ。もう、なにも心配しなくていい。…あんなことは二度と起きない。」
大きくて温かい手。
落ち着いて力強い、優しい声音。
根拠などないかもしれないその言葉が、欲しかったその言葉が、胸に染みるように響いた。
緊張をはらみ冷えていた気持ちが温かく凪いでいく。
頷くと、土井先生は優しく微笑んだ。
そしてゆっくり、私の手の甲にそっと口づけた。
「……生涯を『共に』って…約束しただろう?…ずっと一緒だ……。」
「…!」
私を上目遣いに見上げる表情が、格好よすぎて可愛すぎて、一瞬言葉が出なくなった。
『生涯を共に』!!
ぼんやりしていた頭が一気に覚醒した。
そう!
そ、それ!!
やっぱり夢じゃなかった…ッ!!
幻想的過ぎた風景が脳裏に甦り、願望を夢に見たのではとちょっと疑っていたけど…夢じゃなかったぁぁ…!!!
えっ、ちょっ、待っ…あれ、てことはもしかして、もう現時点で私は土井先生の…つ、妻!?
えっ、じゃあ今日から出門票には「土井たまみ」って書…いやいやちょっと待って、先にみんなに報告とご挨拶を…!?
「…たまみ?」
「…ぁ、はいッ!?」
「変な顔してどうした?」
変な顔!?
え、ちょっ、それってどういう…ッ!?
「何を考えているんだ?」
土井先生が私のおでこを人差し指でツンとついた。
「やー!あはは、あの、ちょっと…もしかして妄そ…いえ、夢だったかなとか思ってたので…ホントだったんだなって…!」
「夢じゃないよ。」
ドキドキしすぎてアタフタする私を見て、土井先生がクスリと笑った。
「でも全部、たまみの気持ちが落ち着いてからでいいから……焦らなくても…」
「いえ!いけます!今すぐ土井先生のものにしてください!!」
…ん?
何か言葉を間違えたような!?
土井先生は驚いて目をパチクリさせた後、眉をハの字にして照れながら可笑しそうに笑った。
「あはは、うん、じゃあとりあえず…山田先生とか学園長先生とかきり丸に報告しよう…か。」
「そっ、そうですね!」
一人先走ってしまった気がして恥ずかしくなり、私は笑ってごまかした。
「…楽しみです……!」
「ああ、そうだね。」
優しく微笑み頷く土井先生。
爽やかな風が彼の前髪を柔らかく揺らし、晴れやかな青い空がとても美しく感じられた。
今日は休むようにと学園長先生が仰ってくれた。
仕事をした方が落ち着く気もしたけれど、土井先生にも休むように言われて大人しくそうすることにした。
そして自室で少し休むつもりがいつの間にか眠ってしまっていて、気づけばもう昼間だった。
顔を洗ってもまだ眠い。
私は自室の障子を開け、廊下に半身を出すように壁にもたれかかり、ただぼんやりと空を眺めていた。
…昨日のことが、まるで遠い昔のことのように感じる。
色んなことがありすぎて、現実味のないことが起こりすぎて、夢を見ていたのではないかとすら思う。
おもむろに手のひらを空に掲げてみた。
掌に陽射しの温かさを感じる。
指の間を通り抜ける風も感じる。
拳をグッと握ってみた。
指先まで感覚がある。
自分の手の温度も感じる。
胸に手を当ててみた。
きちんと脈打つ鼓動を感じる。
…ああ、私はここに生きている。
ここに、きちんと存在している…。
あのとき、炎と共に透けて消えてしまったこの手。
今、ちゃんとここに在る…。
「………」
もう一度、ゆっくりと昨日の一連を思い返す。
みんなのおかげで、こうしてここに居ることができた。
私が違う世界から来たことも伏せられた。
…そして、もうどこかへ飛ばされることもない。
何故か、確信に似た感覚があった。
最初にここへ来たときに着ていた服も、籠のなかに隠していたはずなのに跡形もなく無くなっていた。
…私は、やっと本当に、この世界の来訪者ではなく、ここに生きる命の一つになれた気がした。
そして同時に、自分がここまで多くの人に助けてもらったことに感謝の気持ちでいっぱいだった。
半ば無意識に、また空に手を掲げた。
…透けていない。
何度確認したか分からないけれど、もう飛ばされることはないのだと思ってはいても。
自分の体が消えていく恐怖は相当なもので…ふとしたときに確認せずにはいられな
「うわぁぁぁっ!!」
「!?」
突然の大声に驚くと、廊下を走っていた小松田さんが盛大に転んで文具や紙と一緒にこちらに飛んできた。
ベシャッと廊下に倒れた小松田さんの頭上で紙や筆等が舞い、黒いすずりがビュンッと私の頭をめがけて飛んできて…
「危ないッ!!」
パシッ!!
私の頭に当たる寸前で、土井先生がすずりをキャッチして庇ってくれた。
「大丈夫か!?」
「あ……は、はい…ッ!」
突然現れて助けてくれた土井先生。
いつもながら格好良すぎて、ポカンと頬を染める私。
土井先生は私に怪我がないことを確認すると、小松田さんに「廊下を走るんじゃない!!」と怒りながらすずりを渡した。
小松田さんは「すみませ~ん」と謝りながら足早に去っていく。
「…あ、ありがとうございます……」
「間に合ってよかった…あんなの頭に当たったら大怪我するところだ。」
「あの、土井先生…授業は…?」
「山田先生がマラソンをさせてるよ。食堂のおばちゃんから、たまみがまだお昼御飯を食べてないと聞いて様子を見に来たんだ。」
「さっきまで寝ちゃってました…。」
「そうか…。疲れてるんだ、ゆっくり休むといい。…気分は?」
「まだ眠いです…。土井先生は大丈夫ですか?」
「私は問題ないが………」
土井先生はスッと畳に膝をついてしゃがみ、心配そうな顔で私の目を覗き込んだ。
「たまみ…」
「はい?」
「………大丈夫かい?」
土井先生が私の手に手を重ねた。
「手を見つめて…何か考え込んでいたようだったから……。」
私を心配して気遣う優しい眼差し。
一瞬、心配させまいとごまかそうと思ったけれど、その目に嘘はつけなくて…私は正直に話した。
「手が、透けてないかなって……。あのとき…青い炎に包まれて飛ばされたとき、この手からスーッと消えたんです…」
自分の拳を握ったり開いたりしながら、私は眉をハの字にして微笑んだ。
「…だから…ちゃんと在るかなって…ちょっと見てただけです……。」
「…たまみ…………」
土井先生の大きな両手が、そっと私の手を優しく包み込んだ。
「大丈夫だ。もう、なにも心配しなくていい。…あんなことは二度と起きない。」
大きくて温かい手。
落ち着いて力強い、優しい声音。
根拠などないかもしれないその言葉が、欲しかったその言葉が、胸に染みるように響いた。
緊張をはらみ冷えていた気持ちが温かく凪いでいく。
頷くと、土井先生は優しく微笑んだ。
そしてゆっくり、私の手の甲にそっと口づけた。
「……生涯を『共に』って…約束しただろう?…ずっと一緒だ……。」
「…!」
私を上目遣いに見上げる表情が、格好よすぎて可愛すぎて、一瞬言葉が出なくなった。
『生涯を共に』!!
ぼんやりしていた頭が一気に覚醒した。
そう!
そ、それ!!
やっぱり夢じゃなかった…ッ!!
幻想的過ぎた風景が脳裏に甦り、願望を夢に見たのではとちょっと疑っていたけど…夢じゃなかったぁぁ…!!!
えっ、ちょっ、待っ…あれ、てことはもしかして、もう現時点で私は土井先生の…つ、妻!?
えっ、じゃあ今日から出門票には「土井たまみ」って書…いやいやちょっと待って、先にみんなに報告とご挨拶を…!?
「…たまみ?」
「…ぁ、はいッ!?」
「変な顔してどうした?」
変な顔!?
え、ちょっ、それってどういう…ッ!?
「何を考えているんだ?」
土井先生が私のおでこを人差し指でツンとついた。
「やー!あはは、あの、ちょっと…もしかして妄そ…いえ、夢だったかなとか思ってたので…ホントだったんだなって…!」
「夢じゃないよ。」
ドキドキしすぎてアタフタする私を見て、土井先生がクスリと笑った。
「でも全部、たまみの気持ちが落ち着いてからでいいから……焦らなくても…」
「いえ!いけます!今すぐ土井先生のものにしてください!!」
…ん?
何か言葉を間違えたような!?
土井先生は驚いて目をパチクリさせた後、眉をハの字にして照れながら可笑しそうに笑った。
「あはは、うん、じゃあとりあえず…山田先生とか学園長先生とかきり丸に報告しよう…か。」
「そっ、そうですね!」
一人先走ってしまった気がして恥ずかしくなり、私は笑ってごまかした。
「…楽しみです……!」
「ああ、そうだね。」
優しく微笑み頷く土井先生。
爽やかな風が彼の前髪を柔らかく揺らし、晴れやかな青い空がとても美しく感じられた。