第123話 実
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その後、間もなく朝日が出てきた。
夜が明けてみるとそこは裏裏山の山頂付近だったことがわかった。
しかし、あの幻想的な大木の跡を後日探してみても何も見つからなかった。
あのときのあの場所が…あの瞬間に居た場所が本当に裏裏山だったのか…それすらもはや確かめるすべもない。
とりあえず、私はたまみを連れて下山して忍術学園へと戻ることができた。
報告のために真っ先に学園長先生の庵に向かうと、そこには学園長先生と神妙な顔をした山田先生も座っていた。
「たまみくん…ッ!!?」
「山田先生…!!」
山田先生は勢いよく立ち上がりたまみの両肩を何度も叩いて涙ぐんだ。
「よかった…!!目の前で消えたときにはもう会えないかと…!半助にも何と詫びればと…!!」
「す、すみませ………!」
ポロポロと泣いて謝るたまみの頭を山田先生がガシガシと撫でた。
「半助も、よく無事に戻ったな…!」
「山田先生…」
山田先生が私の肩に手をかけた。
その手の重みに、温かさに、どれほど心配をかけていたのかが伺えた。
泣いて話せそうにない彼女の代わりに、私が事の次第を説明した。
不思議な話ではあったが、学園長先生も山田先生も疑うことなく信じて頷いてくれた。
「そうか、ではたまみちゃんはもうタソガレドキに追われることもなく、今回のように巻物の炎で消えてしまうこともなくなったということじゃな。」
「おそらく。ただ、雑渡の言葉を鵜呑みにするのもどうかと思いますので、引き続き私が傍で警戒しておくつもりです。」
誘拐については油断させておいて…ということも無きにしもあらずだ。
たまみを安心させてはやりたいが、まだしばらくは不用意に一人で出歩くことのないよう一応認識しておいてもらう方がよいだろう。
「そうじゃな。巻物で姿が消えたことを知っているのは六年生だけで、箝口令をひいたから噂が広がることはないじゃろう。タソガレドキの忍者達と隠れて交戦していた先生方も無事じゃったし、万事丸くおさまったな。」
「みんなにもご迷惑をかけてしまって…!本当にすみませんでした……!!」
少し落ち着いたたまみが、学園長先生と山田先生に指をついて頭を下げた。
私も共に、二人に頭を下げる。
「みんなの協力のおかげで、こうして無事に戻ることができました。本当にありがとうございます…。」
すると学園長先生が快活に笑ってお茶を飲んだ。
「水くさいことを言わんでよい。忍術学園の一員をみんなで守るのは当然のことじゃ。」
「学園長先生…!ありがとうございます…!」
たまみはまた涙ぐんで微笑んだ。
忍術学園の一員…。
その響きに私も心温まる気持ちになった。
「それで半助。利吉と石川殿は?」
「えっ、まだ戻ってないですか…?」
そう話した矢先、「失礼します。」という声と同時に利吉くんと石川が戻ってきた。
「利吉さん!石川さん…!」
たまみは慌てて二人に駆け寄った。
「お怪我は…!?」
「大丈夫です。たまみさん…あなたこそ、無事で本当によかった…!」
泣きそうなたまみに利吉くんが安堵したように優しく微笑みかけた。
その空気が気に入らなくてムッとしたとき、石川が私をみてニヤリと笑った。
「そうだ石川!お前よくあんな無茶なまねを…!」
「ははは、俺が本当に裏切ったと思ったか?」
「まさか!そんな奴じゃないことは私がよく知ってる。どうしてあんな自分を囮にするようなことを…!」
「土井、お前本当はあの巻物を燃やしたくなかったんだろう?」
「!」
「だからわざわざ俺の手持ちの偽物とすり替えて、それを盗んだようにみせかけたのさ。そうすれば本物は燃やさなくていい。」
「石川…しかしお前がタソガレドキに追われることになったら…」
「もともと唐には行くつもりだったから、ついでと思ったんだ。まさかそこまで追ってくるほど酔狂な殿様でもあるまい。」
「…そうだったのか……でもまぁ結局、持ち去ったのは偽物だとバレてたみたいだけどね。だから追われる心配もしなくて大丈夫だ。」
「なにぃ!あの暗闇で隻眼の男一人くらいごまかせると思ったんだが…甘かったな。」
「ごまかせていたとしても…!」
「まぁ結果よければ全てよしだろ。なぁ小僧?」
石川が隣の利吉くんに同意を求めると、彼は頷いて答えた。
「経過は色々ありましたが、結果としてタソガレドキから巻物を奪い、たまみさんも無事だったので任務としては完遂でしょう。」
「いや、まぁそうだけど…。しかし利吉くん、打ち合わせもなくよく分かってくれたね。」
「土井先生が信頼している人ですから、何かあるのだと思いました。追いかけるフリをするつもりで走り出したのに、途中から本気の鬼ごっこになって無駄に疲れましたけどね。無駄に。」
「追われると逃げたくなるのは泥棒のさがだ。」
「時と場合を考えてください。」
利吉くんの冷静なツッコミに苦笑すると、たまみが二人の前にきて深々と頭を下げた。
「あの、本当にありがとうございました…。」
私も共に、石川と利吉くんに頭を下げて礼を述べた。
「石川も、利吉くんも…今回は本当に助かったよ…ありがとう。」
「何を今さら。それで巻物はうまく隠せたのか?」
「あ、ああ…なんというか……巻物は消えてしまった…。」
「消えた!?」
「巻物が急に灰になってしまったんだよ。」
「…そうか……。まぁあれだ、火種は消しておくに限る。土井は燃やしたくなさそうだったが、なくなっちまったもんはしょうがない。それで、あの不思議な巻物は何だったんだ?」
「それは……」
どこからどこまで説明しようか言い淀んだとき、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「たまみさんっ!!帰ってきたんですかっ!!?」
食満が勢いよく障子をあけ、六年生達が心配そうな顔で一斉に部屋に入ってきた。
「お怪我は!?やけどは?!みせてください!」
「えっ、ちょっ…!?」
「こら伊作、無理矢理脱がせるな!」
「一体何が起きたのですか!?」
「えっと、その…!」
「実は月の姫で、いつか帰るという噂は本当だったのですか?!」
「ち、違っ…!」
いつものワイワイとした空気。
騒いでいるうちに先生方まで集まってきて、たまみはお礼を述べ挨拶して回っていた。
「…ここまで、長い道のりだったな……」
タソガレドキの巻物の存在を知ってから今日まで。
色んな可能性を考えて思い悩んで……時間をかけて手を回してやっとここまで……長かった……。
賑やかな部屋の空気。
敵地潜入から帰還まで研ぎ澄ましていた忍としての感覚が、徐々に落ち着いてきた。
やっと平和な日常に帰ってきたのだと実感がわいてきた。
思わず大きく息を吐いて壁にもたれかかる。
言葉にはしなかったが、これは大きな賭けだった。
巻物の予想不可能な動き、タソガレドキの動向、友人や仲間まで巻き込んで…忍術学園全体まで巻き込んで、誰かを失ってしまうかもしれぬ恐怖、たまみ失ってしまうかもしれぬ恐怖、私自身が生きて帰れぬ可能性……。
自分で思っていたよりも緊張していたのだと、いまここにきて気づいた。
「半助。」
山田先生が私の肩に手をおいて、父のような優しい眼差しで微笑んだ。
「よかったな。」
その一言に、いままでの様々な出来事が思い起こされ胸が熱くなった。
「…はい。」
言葉にならずそれだけ返すと、山田先生はフッと笑った。
「さ、これからだな。」
「え?」
……そうだ、全てはこれからだ。
山田先生のその笑みの意味を察し、私は曖昧に頭をかいて苦笑したのだった。
夜が明けてみるとそこは裏裏山の山頂付近だったことがわかった。
しかし、あの幻想的な大木の跡を後日探してみても何も見つからなかった。
あのときのあの場所が…あの瞬間に居た場所が本当に裏裏山だったのか…それすらもはや確かめるすべもない。
とりあえず、私はたまみを連れて下山して忍術学園へと戻ることができた。
報告のために真っ先に学園長先生の庵に向かうと、そこには学園長先生と神妙な顔をした山田先生も座っていた。
「たまみくん…ッ!!?」
「山田先生…!!」
山田先生は勢いよく立ち上がりたまみの両肩を何度も叩いて涙ぐんだ。
「よかった…!!目の前で消えたときにはもう会えないかと…!半助にも何と詫びればと…!!」
「す、すみませ………!」
ポロポロと泣いて謝るたまみの頭を山田先生がガシガシと撫でた。
「半助も、よく無事に戻ったな…!」
「山田先生…」
山田先生が私の肩に手をかけた。
その手の重みに、温かさに、どれほど心配をかけていたのかが伺えた。
泣いて話せそうにない彼女の代わりに、私が事の次第を説明した。
不思議な話ではあったが、学園長先生も山田先生も疑うことなく信じて頷いてくれた。
「そうか、ではたまみちゃんはもうタソガレドキに追われることもなく、今回のように巻物の炎で消えてしまうこともなくなったということじゃな。」
「おそらく。ただ、雑渡の言葉を鵜呑みにするのもどうかと思いますので、引き続き私が傍で警戒しておくつもりです。」
誘拐については油断させておいて…ということも無きにしもあらずだ。
たまみを安心させてはやりたいが、まだしばらくは不用意に一人で出歩くことのないよう一応認識しておいてもらう方がよいだろう。
「そうじゃな。巻物で姿が消えたことを知っているのは六年生だけで、箝口令をひいたから噂が広がることはないじゃろう。タソガレドキの忍者達と隠れて交戦していた先生方も無事じゃったし、万事丸くおさまったな。」
「みんなにもご迷惑をかけてしまって…!本当にすみませんでした……!!」
少し落ち着いたたまみが、学園長先生と山田先生に指をついて頭を下げた。
私も共に、二人に頭を下げる。
「みんなの協力のおかげで、こうして無事に戻ることができました。本当にありがとうございます…。」
すると学園長先生が快活に笑ってお茶を飲んだ。
「水くさいことを言わんでよい。忍術学園の一員をみんなで守るのは当然のことじゃ。」
「学園長先生…!ありがとうございます…!」
たまみはまた涙ぐんで微笑んだ。
忍術学園の一員…。
その響きに私も心温まる気持ちになった。
「それで半助。利吉と石川殿は?」
「えっ、まだ戻ってないですか…?」
そう話した矢先、「失礼します。」という声と同時に利吉くんと石川が戻ってきた。
「利吉さん!石川さん…!」
たまみは慌てて二人に駆け寄った。
「お怪我は…!?」
「大丈夫です。たまみさん…あなたこそ、無事で本当によかった…!」
泣きそうなたまみに利吉くんが安堵したように優しく微笑みかけた。
その空気が気に入らなくてムッとしたとき、石川が私をみてニヤリと笑った。
「そうだ石川!お前よくあんな無茶なまねを…!」
「ははは、俺が本当に裏切ったと思ったか?」
「まさか!そんな奴じゃないことは私がよく知ってる。どうしてあんな自分を囮にするようなことを…!」
「土井、お前本当はあの巻物を燃やしたくなかったんだろう?」
「!」
「だからわざわざ俺の手持ちの偽物とすり替えて、それを盗んだようにみせかけたのさ。そうすれば本物は燃やさなくていい。」
「石川…しかしお前がタソガレドキに追われることになったら…」
「もともと唐には行くつもりだったから、ついでと思ったんだ。まさかそこまで追ってくるほど酔狂な殿様でもあるまい。」
「…そうだったのか……でもまぁ結局、持ち去ったのは偽物だとバレてたみたいだけどね。だから追われる心配もしなくて大丈夫だ。」
「なにぃ!あの暗闇で隻眼の男一人くらいごまかせると思ったんだが…甘かったな。」
「ごまかせていたとしても…!」
「まぁ結果よければ全てよしだろ。なぁ小僧?」
石川が隣の利吉くんに同意を求めると、彼は頷いて答えた。
「経過は色々ありましたが、結果としてタソガレドキから巻物を奪い、たまみさんも無事だったので任務としては完遂でしょう。」
「いや、まぁそうだけど…。しかし利吉くん、打ち合わせもなくよく分かってくれたね。」
「土井先生が信頼している人ですから、何かあるのだと思いました。追いかけるフリをするつもりで走り出したのに、途中から本気の鬼ごっこになって無駄に疲れましたけどね。無駄に。」
「追われると逃げたくなるのは泥棒のさがだ。」
「時と場合を考えてください。」
利吉くんの冷静なツッコミに苦笑すると、たまみが二人の前にきて深々と頭を下げた。
「あの、本当にありがとうございました…。」
私も共に、石川と利吉くんに頭を下げて礼を述べた。
「石川も、利吉くんも…今回は本当に助かったよ…ありがとう。」
「何を今さら。それで巻物はうまく隠せたのか?」
「あ、ああ…なんというか……巻物は消えてしまった…。」
「消えた!?」
「巻物が急に灰になってしまったんだよ。」
「…そうか……。まぁあれだ、火種は消しておくに限る。土井は燃やしたくなさそうだったが、なくなっちまったもんはしょうがない。それで、あの不思議な巻物は何だったんだ?」
「それは……」
どこからどこまで説明しようか言い淀んだとき、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「たまみさんっ!!帰ってきたんですかっ!!?」
食満が勢いよく障子をあけ、六年生達が心配そうな顔で一斉に部屋に入ってきた。
「お怪我は!?やけどは?!みせてください!」
「えっ、ちょっ…!?」
「こら伊作、無理矢理脱がせるな!」
「一体何が起きたのですか!?」
「えっと、その…!」
「実は月の姫で、いつか帰るという噂は本当だったのですか?!」
「ち、違っ…!」
いつものワイワイとした空気。
騒いでいるうちに先生方まで集まってきて、たまみはお礼を述べ挨拶して回っていた。
「…ここまで、長い道のりだったな……」
タソガレドキの巻物の存在を知ってから今日まで。
色んな可能性を考えて思い悩んで……時間をかけて手を回してやっとここまで……長かった……。
賑やかな部屋の空気。
敵地潜入から帰還まで研ぎ澄ましていた忍としての感覚が、徐々に落ち着いてきた。
やっと平和な日常に帰ってきたのだと実感がわいてきた。
思わず大きく息を吐いて壁にもたれかかる。
言葉にはしなかったが、これは大きな賭けだった。
巻物の予想不可能な動き、タソガレドキの動向、友人や仲間まで巻き込んで…忍術学園全体まで巻き込んで、誰かを失ってしまうかもしれぬ恐怖、たまみ失ってしまうかもしれぬ恐怖、私自身が生きて帰れぬ可能性……。
自分で思っていたよりも緊張していたのだと、いまここにきて気づいた。
「半助。」
山田先生が私の肩に手をおいて、父のような優しい眼差しで微笑んだ。
「よかったな。」
その一言に、いままでの様々な出来事が思い起こされ胸が熱くなった。
「…はい。」
言葉にならずそれだけ返すと、山田先生はフッと笑った。
「さ、これからだな。」
「え?」
……そうだ、全てはこれからだ。
山田先生のその笑みの意味を察し、私は曖昧に頭をかいて苦笑したのだった。